76 アルバイト大作戦!!
清潔感を感じる、薄い肌色のような木目調の壁……
天井から下げられた、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのように感じさせるランタンの灯り……
俺たちがこれから働くカフェの中は、雰囲気だけで満足してしまいそうなおしゃれな空間だった。
雰囲気としては、ストボに似ている気がする。
並んでいた客層が若い人中心だったのもなんとなく納得できる。今度笹森さんと来よう。そうしよう。
「基本的には、さっき言った仕事をしてくれたらいいからね。何かわからないところとかあったら、遠慮なくおばさんに訊いてね〜」
そんな俺の確かな決意をよそに、パートリーダーのおばさんは優しげな笑みを浮かべながら俺たちに今日の仕事の説明をしてくれた。
「はい! よろしくお願いします!!」
「よろしくお願いします!!」
俺たちが声を張り上げてそう言うと、リーダーおばさんは、その朗らかな顔をさらに綻ばせた。
「今日は一日頑張りましょうね!」
なんだかこの人は、おしゃれなカフェというよりも、地元のスーパーで常連さんと仲良さげに話す話好きなおばさんって感じだ。
でもおしゃれなお姉さんとかよりだったらリーダーおばさんの方がよっぽど話しやすいから正直助かる。
「「はい!!」」
俺たちは声を揃えてもう一度、大きく返事をした。
◆
開店してから数十分経った頃。
ガチャガチャと忙しない音が絶え間なく聞こえてくるキッチンで俺たちは仕事をしていた。
「……よしっ! お皿洗い終わり!」
隣で皿洗いをしていた明里が満足げにそう言って、額の汗を拭う。
「おー。早いな」
まだ汚れた皿が数枚、俺の前に積まれている。明里も同じくらいの枚数の皿洗いを抱えていたはずなんだけど……
「まぁねー。最近、家でもお皿洗うこと多いからさ」
「そうなのか?」
皿に水道水を流してやりながら、明里を横目に問いかける。
ひたすら同じ作業をするのも飽きてくるからな。少しくらい話しながらやったほうが寧ろ効率が上がるとも言える……はずだ。
「うん。美味しい料理作れるようになりたいなって」
一仕事終えた明里は気持ちよさそうに腕を頭の上に伸ばしている。
そして満足した様子で、今度は俺の前に重ねられた皿を一枚手に取って洗剤をかけ出した。
「おっ、サンキュー」
そのことに礼を言いつつ、俺も自分の仕事をこなそうと次の皿を手に取ると、明里がおもむろに口を開いた。
「いつでも雄二に美味しく食べてもらえるようにしておきたいし……あっ」
仕事に集中しようとしたのだが……なんか今、気になることが聞こえたぞ。明里も洗剤を片手に固まっているし、なんだか様子がおかしい。
「ん? それって……この前言ってた料理作ってくれるっていう……」
「そそそ、そんなことないよ!? いやそうなんだけどね!? でも違うよ!?」
「お、おう。そうか……」
ひどく慌てた様子で、洗剤をぶんぶんと振り回す明里の姿を目に、俺はそう頷くしかなかった。
そんな俺の様子を見てか見ないでか、明里は少し考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。
「いや……でも……できれば、美味しく食べて欲しい……かも」
しばらく視線を左右に動かし、そして俺の顔を覗き込むように視線を斜め上に向けながら照れ臭そうにそう言った明里。
言葉こそ途切れ途切れだが、明里のはっきりとした気持ちが伝わってくる。
「そうか……そうだな。じゃあ、楽しみにしとくよ」
だからだろうか。そんなありきたりな答えしか返すことができなかった。
それでも、まるですごく恥ずかしいことを口走ってしまったかのように、耳が熱くなっていくのを感じる。
「雄二……耳真っ赤だよ?」
「そ、そうか? さっきから結構動いてるからな」
それは分かっていたことだが、明里の言葉に照れてると思われるのもなんだか恥ずかしい……というか自分だって顔赤いじゃないかとつっこみたい。
そんな表情を誤魔化すように皿洗いを続ける明里を横目に、そう思った。
でもそれを指摘してこの話を続けると、今度は墓穴を掘るような気がしたから口には出さないが。
「人手が足りないので、誰か接客に行ってくれませんかー?」
明里との会話から仕事に戻って俺が皿に洗剤をかけたところで、キッチンの外から店員さんがそう声をあげた。
「すいません、お客さんが思ったより入ってしまって……どなたか手の空いてる方は手伝ってくれると助かります!!」
それぞれ仕事をしているキッチンスタッフの人が誰も名乗り上げないのをみて、店員さんは声を張り上げる。
「あ、じゃあ……私、行きます」
そんな様子を見兼ねてか、俺の隣で洗い終えた皿を重ねていた明里が口を開いた。
「いいのか?」
今回のバイトでは、キッチンでの仕事が主な内容だった。
それに、俺たちはバイトなんてしたことがないから、いきなり接客は荷が重い。
そう思って声をかけたのだが……
「うん。手が空いてるの、私だけみたいだし……」
たしかに、他の人は忙しなく仕事をしていて、なかなか手が空きそうにない。
「秋山さん、今日初めてだし無理しなくていいからね? 大丈夫?」
近くで仕事をしていたリーダーおばさんが心配そうに明里に声をかける。
その声音からは、やっぱり人の良さが伝わってくる。
「はい。ちょうど仕事も終えたところなので」
「そう? ごめんね〜。食べ物運ぶだけでいいと思うから……頑張ってきて!!」
力強くそう言ってリーダーおばさんは明里の肩をビシッと叩いた。結構いい音が鳴ったな……
「あはは……頑張ります」
思ったより強い威力だったんだろうな……
苦笑いを浮かべながら店員さんの元へと歩き出す明里を見て、俺も思わず苦笑いを浮かべる。
って、俺も自分の仕事しないと。この調子だと更に仕事が増えそうだ。
手に取った皿に洗剤を勢いよくかけながら、俺は仕事に気合いを入れる。
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