75 邪な心
「はぁ……はぁ……!! 間に合った……!!」
間一髪。家から飛び出た俺は自転車という自由の翼を授かった。
すげぇな……もうこんなに混んでんのか……
俺は駐輪場に置いた自転車に鍵をかけながら、店の前にできた長蛇の列を眺める。
いや、他人事じゃねぇけどな……少なくともこの人たちが全員店を出るまでは働かないといけないだろうし……
更にこれからも人が増えるだろうことを考えて少し憂鬱な気持ちになる。
まぁ、これくらい人がいないとわざわざバイトなんて募集しないか……
今日来たのは最近できた若者を中心に人気を集めているカフェだ。
繁忙期に入ることが予想されることから、バイトの募集をかけていたところを見つけて今回応募したわけだ。
まぁ、これも花火大会のため……!! 笹森さんと雰囲気抜群の花火を楽しむため……!!
「……っし!!」
俺は気合いを入れ直し、入口へと足を向ける。
「ん?」
すると先程より更に数人増えた列の向こうから、かなりのスピードで走ってくる自転車の姿が。
そして、それにまたがる一人の少女にはどこか見覚えが……
「ぎ、ぎりぎりセーフ……!!」
俺がその姿を眺めていると、少女は息を切らしながら駐輪場へと滑り込んだ。
「いや、アウトだろ。スピード違反で」
「え!? 自転車にそんなのあるの!? ……って……」
俺が思わずそう突っ込むと、少女は驚いた声を上げ、勢いよく俺の方を振り向いた。
普通なら初対面でいきなりこんなこと言わないのだが……俺がついこんなことを口走ってしまったのもしょうがない。
「雄二!?」
だってその相手は俺のよく知る人物、明里だったのだから。
「もしかして……明里も今日バイトなのか?」
驚いた声をあげる明里に、まずはこれだろという質問をする。
「あっ、うん。……ってことは雄二も?」
「まぁな。ちょっと前から金がなくてな……」
主に優也のせいで。あの時、ドリンクバーにポテト、結局普通のセットメニューまで奢らされたのだ。
しかもこれといっていい案が飛び出たわけでもない。飛び出たのは会計を見た時の俺の目だけだ。
ファミレスとはいっても、男子高校生二人分ともなればなかなかの額になる。いや、なった。
「あはは……分かる……分かるよ……」
「そ、そうか……?」
言葉の終わりに行くほど声が小さくなっていく明里を見てたら、なんだか俺まで自信のない声が出てしまった。
そうして出来た一瞬の沈黙を切り裂くように明里がハッとしたような声をあげた。
「……って!! もう時間ない!!」
「!! そうだった!! 急ぐぞ!!」
つい話込んじまった……このままだとまじで遅刻だ。
俺たちは話を一旦やめ、小走りに店の入り口へと向かった。
◆
「えっ! ほんと!?」
『はい! 最近できたお店みたいで、バイト結構募集してたんですよ!! 夏休みは繁忙期入るみたいで!』
みんなで海に行った日から数日。昼からベットでごろごろするという、至福のひと時を過ごしていた私に一つの電話がかかってきた。
そしてその内容は、私をベットから引き剥がすには十分なものだった。
「ありがとう!! 優佳ちゃん!! 助かったよぉ……」
『あははっ、そんな悲しい声出さなくても……私だってバイトしなきゃでしたし、一緒に頑張りましょう!!』
前にショッピングで散財しちゃった時に、優佳ちゃんが言っていたアルバイトの話……それが今、私の元にも届いたのだ!!
流石に、夏休み始まったばかりでこれだと心もとないから、今回は頑張って働かないと!!
……それに、もしかしたらまた雄二とどこかに行くことがあるかも知れないし……!!
「うん! そうだね!!」
なんてことを考えてると、優佳ちゃんに答える言葉にも自然と力がこもる。
『あっ、あとシフトなんですけど』
「うん」
シフト……ここはちゃんと聞かないと。
いや、さっきからちゃんと聞いてるけどね? ただ、このまま雄二のことを考えちゃうと頭に入ってこなさそうだから……
そう思い、一旦雄二のことを考えるのをやめる。
意識しないとやめられない自分が怖いよ……
『七日の、九時から八時間です。ちなみに時給は千円』
「千円!?」
あれだけシフトのことをちゃんと聞こうと思っていたのに、つい時給の方に反応してしまった。
『あはは! やっぱりそこに食いつきますか〜』
そりゃそうだよ。だってこの辺でそんな時給高いとこなんてそうそうない。大体八百円から、高くても九百円。
『八時間で、八〇〇〇円!! すごくないですか!?』
「すごいすごい!!」
これには共感するしかない!! 高校生でそれだけお金があればなんだってできるよ!! ……いや、それはちょっと言い過ぎだけど、少なくとも当分は困らない。それこそ夏休みの間くらいは。
それからも私たちはアルバイトの話だったり、服の話だったり、他愛のない話を続けた。
◆
……で、今に至るわけだけど……
まさか雄二もおんなじアルバイトだったなんて……こんなに早く再開できるとは思わなかった。
これから二人で働くと思うと、嬉しすぎて頬が緩みそうになる。
息を切らしながら走っているせいでなんとか堪えられてるけど……
それに、雄二は私の前を走っているからにやけても見えない……はず。
邪な心を原動力に、私は速度を上げていく。
久々の連日投稿です!! 後は次の展開を考えるだけ!! よし!!
『本日のおねだりタイム』
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