74 誰にも知られない
中学二年の夏。多くの同級生の声で溢れる教室の中、窓際後ろの席に俺は座っている。
「あはは〜っ、それ面白そう!!」
「でしょ〜? 今度いこーよ!!」
「じゃあ今日の放課後行っちゃわない?」
「それ!! 行こう行こう!!」
俺の席から少し視線を斜め方向にずらすと、そこには楽しげに談笑する女子の姿が。
そしてその中の一人に、俺は今日も目を奪われる。
「みんなのおすすめだからね〜。期待しちゃおうかな!!」
控えめに口を開けて笑うその姿に。
どこか品の良さを感じる彼女の一つ一つの仕草に。
今日も俺は夢中だった。
かわいいなぁ……ほんと。
「はぁ……」
そして今日も、思わずため息をつく。
その横顔を、遠目に見ることしかできないことが悔しくて。
その笑顔が、自分に向けられたものでないことが悲しくて。
その綺麗な声を、近くで聴けない自分が情けなくて。
――今日も、俺は見てるだけ――
……いつからだろうか。彼女を好きになったのは。
二年生になってクラス替えをした日。その日、初めて俺は彼女を見つけた。同じ教室にいる、クラスで一番かわいい女子。
思春期真っ盛りの男子が、彼女を見て好きになるのは当然なことだと思う。それくらい、彼女は一際目立っていた。
男子たちの間ではすぐに話題になったし、中には声をかけようとする奴もいた。
……だから、これは時間の問題だったんだ。
◆
「え〜? そうなの? 私も観たいなっ!」
「今度お前も来いよ。家にあるから一緒に観ようぜ」
「行く行く!」
雪がぽつぽつと降る季節になった。
彼女は、クラスの男子と付き合い始めた。
「じゃあ今度の週末とか」
「分かった! その日は空けとくね!!」
今日も、彼女は彼氏となった男と楽しげに話している。今度観る映画の話をしてるみたいだ。「楽しみにしてるね!!」そう言って彼女は笑顔を向ける。
今日も、俺はその姿を見ることしかできない。
その笑顔は、もう俺のものにはできない。
その声を近くで聴けるのは、俺じゃない。これから聴くことも、もうできない。
今日も、俺はその現実と向き合うしかない。
――誰にも知られない、俺の失恋だった――
◆
「……」
くっそ……朝から嫌な夢を見たな……
夢は覚えてないことがほとんどだって聞いたことあるんだけど。なのにどうして、こんな夢に限って覚えてるんだ。
……笹森さんと出会ってからはこんな夢見てなかったんだけどな。もしかしたら、それこそ忘れてただけなのかも知れない。
まだ覚醒しない頭でそんなことを愚痴りながら、俺はベットで体だけ動かして枕元のスマホを手に取る。
確認した時刻は……
「……八時半!?」
学校があったら間違いなく遅刻だ。というか既に遅刻してる時間だ。
しかし今は夏休み。そんなことを気にする必要はないのだが……
「やべぇやべぇ……!! バイト間に合わねぇ……!!」
今日は普段の夏休みとは違う。
気づいたら財布が寂しいことになっていた俺は、夏休みに単発でできるバイトを探したのだ。花火大会までにお金が何にもないのはまずいしな。
……って、そんなことは今はよくて。
俺はそう思い返すと、急いでベットから出て、顔を洗いに洗面台へと向かう。
急いでいるとはいえ、流石に最低限の身だしなみはしていかないと迷惑になるかも知れないしな。
……それに、いつ笹森さんと顔を合わせてもいいようにはしておかないといけないし。
俺はそう考えることではやる気持ちを抑え、転ばないよう気をつけながら階段を駆け降りた。
とうとうです……とうとう!!
この作品の総合評価が100ptを超えました!! 面白い、続き読みたい!! そう思ってこの作品を追ってくれている読者がこんなにもいるんだ、と作者は感動の涙に溺れています。
さらに!! さらに!!
この作品のpvが、10000pvを超えました!!
これはもう、10000回見られた小説ということです。そういうことです。すごいです。凄すぎて小説書いてるとは思えないほど語彙力が低下してます。
というわけで、これを励みに次なる目標に向けて頑張っていくので、引き続き応援してくれると嬉しいです!! ではまた次回!!




