73 もしかしたら
人生十七回目の誕生日から二日。今日で訪れるのは六回目となる図書館の中。
クーラーがごぉごぉと音を立て、周りのテーブルからは本のページをめくる音がリズム良く聞こえてくる。
昼時に図書館に訪れる人はあまりいなく、本を読んだり新聞を広げているのは比較的高齢の人たちだ。
「えっ、先輩この前誕生日だったんですか?」
「あれ? 言ってなかったけ……?」
そんな空間で、今日も俺の隣には笹森さんがいる。なんたる幸せ。
「言ってませんよ! 知ってたら何かあげたのに……なんで教えてくれないんですか!」
「ご、ごめん……つい……」
しかし今は、俺が笹森さんに謝るシチュエーションとなっている。これはこれで悪くないが。
この前の海の話から、俺の誕生日のことを話したのだ。
まさかこんなに怒られるとは思わなかったな……こんなに一緒にいて誕生日教えてなかった俺が悪いんだけど……
いや待てよ。それより……
俺は今の状況に隠された真珠の煌めきに気づく。
……むくれてる笹森さんもかわいい……
「……」
……なんて言ったらもっと怒られるだろうけど……
隣で頬を膨らませている後輩の姿を見て、ついそんなことを考えてしまうのはもう仕方ないな。きっと無意識だろうが。お互い。
「まったく……来年は、一緒にお祝いしますからね?」
「……ありがと」
〜〜っ!! かわいすぎるっ!!
顔は机を覗き込むように、でもその目は俺の方を見上げていて。
そんな表情でこんなことを言われたら、心臓だけがどっかに走って行きそうだ。
「あっ、ところで先輩」
「ん?」
顔を上げてこちらを見てくる笹森さんに呼応するように俺も笹森さんを見る。
と言っても、さっきからチラチラと横見に見てたのだが……今度は堂々と笹森さんの目を見れる。
正直このまま笹森さんの上目遣いを見るのは心が持ちそうになかったから助かる。
◆
「あれって……先輩から明里さんを誘ったんですか?」
汗が額を流れ落ちそうになるのを感じながら、私は先輩に問いかける。
一昨日、出多浜で先輩たちに会ってから、ずっと気になっていたこと。
だからだと思う。変に緊張しているのが自分でも分かる。いつもはこんなことないのに……
「え? あれ、って……この前の海のこと?」
「はい。ちょっと気になったので……」
明里さんも先輩も、私にとっては距離の近い人たちだ。そんな人たちのことを気になってしまうのは、自然なことなはず。
そう思うことにして、私は再度先輩に確認をする。
「どう……ですか?」
「……明里から誘ってもらったよ。たまには二人で遊ぶのもいいんじゃないかー、って」
先輩は、少し照れ臭そうにそう答えてくれる。
「明里さんから……そうだったんですね……」
なんだろう……先輩がいろんなところで二人きりで遊びに誘うような軽い人じゃないことが分かったはずなのに……それは、きっと良いことなのに。
なのになんで、こんなに胸が曇るような感覚に陥るんだろう……
本当は、先輩から答えを聞くことで晴れるはずだったのに。
それで、納得するはずだったのに。
「……」
……いや、本当は分かってる。なんで納得できないのか。納得するにはどう考えるべきなのか。
「先輩たちって、高校になってから知り合ったんですよね?」
「そうだけど……」
不思議そうに沈黙を作る先輩に、私は冗談を飛ばすようにして口を開く。
「……仲、良いですね。なんか、幼馴染みたいです」
「ははっ、たしかにそうかもなー。高校に入ってからは優也と三人でいることが多かったし」
明るくそう話す先輩を横目に、私は考える。
もしかしたら明里さんは、先輩のことを好きなのかもしれない、と。
考えてみたら図書館にはほとんど行ったことないですね。多分六回も行ったことないです笑
『本日のおねだりタイム』
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