72 作戦かーいぎ!!
「作戦かーいぎ!!」
「うぇーい……」
俺が今回何回目か忘れた作戦会議の開始を宣言すると、そんなやる気のない返事がテーブルを挟んだ正面から返ってきた。
「おいおい……テンションひきぃなぁ」
そんな態度の男、優也に俺は指摘する。
「こんなクソ暑い日に呼び出されたらなぁ?」
本日の最高気温は三十四度。朝の天気予報でそれを聞いた時は俺だって一気にだるくなった。
……しかーし!! 夏休みという特別な期間に笹森さんとの距離を詰めるためには、この会議は必要不可欠なのだ!!
そういうわけで学校で会うわけにもいかないため、こうして近所のファミレスまで足を運んでいるわけだ。
「……ドリンクバーおごり」
とはいえ、優也にはちょうど暑さのピークである昼前に自転車漕いできてもらったからな。仏の俺がこれくらいはしてやろう。
「……よし。手を打とう」
「現金なやつめ」
満足気にそう答えた優也を見て、自然と俺の口角も上がる。
「しかし今日はなんの作戦を考えるってんだ?」
早速ウーロン茶を片手に、優也は疑問を投げかけた。
今日作戦会議を開こうと思ったわけ、それは……
「夏祭り」
「だけじゃ分かんねぇよ」
夏のビッグイベント夏祭り!! これを目の前に何もしない男は失恋中のやつだけだ!! ……俺も失恋なんかしないよな? 大丈夫……だよな?
自分で言っておいて若干不安になりながらも、端的な説明をした。……はずなんだけど、優也はいまいち理解できていない様子で間髪入れずそうつっこんだ。
「行きたい」
「むしろそうじゃなきゃなんでこの話してんのか分かんねぇよ」
「俺、距離、詰めたい」
「カタコトなってんぞ」
優也は呆れたように一息つくと、持っていたコップを口に運んだ。
少しして、空になったコップをコンッと置いて話し出した。
「つまり、奏ちゃんとの距離を詰めるために夏祭りを利用しようってわけか」
「なんだ、分かってんじゃねぇか」
「まぁ、長い付き合いだしなあ。お前とも」
「ははっ、たしかに」
そういえばそうだよな。もう二年目……あれ? そんなに長くなくね?
……いや、過ごした時間の長さよりもその内容が濃いのか。
こいつと出会ってから始まった高校生活は、中学時代とは比べ物にならないくらい忙しない日々だ。明里とも連むようになったし、今年は笹森さんにも出会えた。
「ほんと、忙しないな……」
「ん?」
「いや、なんでもない。……それより、続きするぞ」
この話は終わりとばかりに、俺は真剣な声色を作る。
「夏祭り……正確には、花火大会があるだろ? 八月の中旬に」
「あぁ、あるな」
毎年、この時期になると花火の音が至る所から聞こえてくるものだが、花火大会はその中でも特に規模の大きな祭りだ。
特に、この県内で行われる花火大会は日本全国屈指と言われるほどの盛り上がりを見せる。この県で数少ない、自慢できるイベントだったりする。
「そこに、笹森さんを誘う」
「おう」
「で、二人でいろいろ出店を回って……花火を見る!!」
少しためをつくり、俺は力強くそう口にした。
「は? それだけ?」
……のだが、優也の反応は芳しくなく、マジかよこいつ、という目で俺を見てくる。
マジかよこいつ。俺の完璧な作戦が分からないのか……なら教えてやろう!! この作戦に込められた意味を!!
「そろそろ盛り上がりも最高潮という頃……花火を前に、繋がる手と手……」
俺は笹森さんと手を繋ぎながら、一緒に光る夜空を見上げる姿を想像して、拳を握りこむ。
「どう転んだとしても、距離が縮まるだろう!?」
そして先程同様、そう言い切る。だがその力強さは壁を一枚超えたことだろう。
「まったく……お前らしいというかなんというか……」
「でもそれしかないだろ?」
「ははっ、だな」
そう言うと、優也は気持ちよさそうに笑った。なんだかんだ言ってもこういう時俺の言いたいことを理解してくれるのは素直に嬉しい。
そんなことを思うと、俺も口から息が漏れる。
「よし! そういうことなら、ちょっと考えてみるかー。当日も何かと手伝ってやるよ」
「まじか!! 助かる!!」
一瞬優也が神に見えた。一瞬だけど。だって……
「俺、ポテト食べたい」
「……俺にも少しくれよ」
この状況で優也の提案を断ることはできなかった。
しばらく話し合って、店を出る時には財布が随分と軽くなっていた。来る時は小銭でジャラジャラ言ってたのに……重いなー、なんて思ったからこんなに軽くなったんだろうか……
お祭りに行けば距離が縮まる!! じゃなきゃどうすればいいのか分からん!! という作者の身勝手で花火大会の開催が決まりました。
『本日のおねだりタイム』
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