69 プレゼント
廣瀬優佳様の名前を西川と書いてしまっていたので、修正しました。混乱させるようなことをしてしまって本当に申し訳ないです。
廣瀬、すまん……!! あっ、廣瀬様……!!
あれからもゲームは滞りなく進み、ゲームを終えた俺たちはというと……
「はぁ……はぁ……つ、疲れた……」
「も、もう無理……!!」
浜辺往復三周の刑を真っ当にこなしていた。
経験者である廣瀬の容赦ない動き……勝負事に熱い笹森さんのやる気に満ちたプレー……俺の恋心だけではいささか無理があったようだ。
瞬く間に点を重ねられ、気が付いたら二人で飛び跳ねながらハイタッチをしている笹森さんと廣瀬の姿を見ることになっていた。それはそれで嬉しかったけど。
ともあれ、俺たちは今ようやくそのお勤めを完了することができたのだ。
浜辺に座り込んだ俺たちはもう疲労困憊だ。息を整えるので精一杯。
「はい、終了で〜す。頑張りましたね、二人とも」
「……」
「……」
そんな俺たちの様子を見て、こんなにも楽しそうにできる廣瀬にはいつかこの借りを返してやろうと思う。自己責任という言葉は俺の辞書にはない。
まぁ、それでもバレーの後すぐに走らせない程度の人の心は持ち合わせていたようだ。
俺は頭を後ろに倒して、もうすっかり赤く染まった空を見上げる。
「ん?」
しかし、俺の視界には、夕日だけでなく、なんだか花のようなものまで映り込んだ。
このカラフルな彩りのある花びらには見覚えが……
「ちょっ、ちょっと先輩。なんで黙って見つめてるんですか……恥ずかしいんですけど」
「あぁ!! 笹森さんの水着!!」
「えっ、なんですか急に!」
頭を傾けるだけじゃよく見えないと思い、疲れた体に鞭を打ってなんとか体の向きを変える。
そして俺の正面には、驚いたのかほんのり顔を赤らめる笹森さんの姿が。鞭打った甲斐あったぜ。
「いや、笹森さんの水着かわいいなって」
「な、なんでそんな時間差あるんですか……全然心の準備もできてないのに……」
時間差……? あっ! そういえば笹森さんの水着に対する感想を言っていなかった!! 俺としたことが、見るだけで満足していたというのか……!!
俺がそんな悔しさを胸に何も言えずにいると、笹森さんはうつむき気味に小さく口を開けた。
「でも……ありがとうございます」
そう言った笹森さんは、上目加減に俺の顔を覗き込む。何か俺の反応を窺っているように見えるその表情は、夕日に照らされているせいか紅潮しているように見えた。
「いや、そんな大したことじゃ……」
「わ、私! なんか飲み物買ってきますね!!」
俺が言葉を紡ぎ終える前に、笹森さんは慌てたようにそう切り出した。
「先輩は何がいいですか?」
「あっ、じゃあスポーツドリンクで」
「明里さんは?」
「私もスポーツドリンクでいいよ」
笹森さんの口ぶりからして、俺たちの分も買ってきてくれるようだ。
後輩に買いに行かせるのには少し気がひけるが、せっかくこう言ってくれてるのに無下にするのも失礼だろう。それに、もう立ち上がるだけの体力が残っているかも疑問だ。いや、もう残ってない。確信だわ。
「笹森さん、ありがとう」
「奏ちゃん、ありがとっ!」
俺たちがそう声をかけた時には、笹森さんは自販機へと走り出していた。
そんなに急がなくていいんだけど……まぁ、今言っても聞こえないか。
「あっ、待って私も行く〜!」
笹森さんの跡を追うように、廣瀬も夕陽の向こうへと走り出した。
二人の背が見えなくなると、浜辺には俺と明里だけが座ることになる。周りには帰り支度をしている他の人もまだ結構いるが、二人がいなくなると俺と明里だけが取り残されたような静けさが残る。
「ふぅ……まぁ疲れたけど楽しかったなー」
「そ、そうだね……まさか奏ちゃんたちも来てるとは思わなかったけど……」
そんな静けさを誤魔化すように俺は明里に話しかける。
「ははっ、たしかになー。俺もびっくりした」
「もう少し二人でいてもよかったんだけど……あっ」
「えっ?」
思わず振り向いてしまった。一瞬、どこか残念そうに見えた明里の表情は、俺が見つめるとすぐに慌てたような表情へと変えた。
「い、いや、あの……奏ちゃんたちと遊ぶのもすごく楽しかったんだけど! ……せっかく二人で来たから、もうちょっと二人きりでもよかったかなー、なんて……」
「そ、そうか……ありがとな」
俺と一緒にいることを嬉しく思ってくれる人がいる……そのことが、どうにも嬉しかった。そんなことを思ったら、自然とそんな言葉が口から出た。
「う、うん……どういたしまして……」
明里が照れ臭そうにそう言うと、俺たちの間にはまた静寂が訪れる。
「でも……少しは、プレゼントになったかな?」
そんな静寂を切り裂くように、明里は俺に笑いかける。夕陽に照らされたその笑顔は、いつもに増して眩しい。
「ん? プレゼント?」
プレゼント……なんのことだ? 俺、なんか良いことしたっけ?
考え込んで下を向いていた俺は、明里の次の一言によって顔を上げることになる。
「だって今日、雄二の誕生日でしょ?」
誕生日……? ……誕生日!!
ハッとして明里の目を見据える。
「今日、俺の誕生日……」
「あははっ、そうだよ? さっきからそう言ってるじゃん」
柔和な笑みを浮かべ、そう口にする明里に、俺は確信にも近い質問をする。
「もしかして、プレゼントって……?」
「何かあげようとも思ったんだけど……雄二の誕生日には私も一緒にいたくてさ」
「安くてごめんね?」と言って、明里はまた照れ臭そうに笑う。
「いや、そんなことない」
俺は自然とそう言い切ることができた。たしかに金銭的なことで言うと、あまり費用はかかっていないかもしれない。でも俺は……
「今日は、明里と来れたおかげで楽しかったからな。今までにない誕生日だった」
俺の次の言葉を待っていた明里に、そう笑いかける。
「まぁ正直、今の今まで今日が自分誕生日だってこと忘れてたからな。サプライズも込みってことだな」
「あははっ! なにそれ? ……でも、喜んでくれたんならよかったかな?」
冗談混じりに言った俺の言葉に、明里は耐えきれないと言ったように吹き出した。
さっきまでの静寂は、もうとっくに身を潜めていた。今の俺たちには、和やかないつも通りの時間がゆっくりと過ぎている。
物ではなく、記憶に残る誕生日プレゼント。こんなのもらったのは初めてだ。それもまさか明里にもらえるなんてな……友達なんだから、不自然ではないのだが……
「わざわざ俺のためだけに時間を作ってくれたんだもんな……まじでありがとう」
「いいよー。……それに、私も今日は雄二と海に来れて楽しかったしさ」
「自分へのご褒美でもあるし!」と言って笑う明里の姿を見て、きっとこの笑顔も記憶に残るプレゼントの一つになるんだろうな、なんてことを思った。
しかし……"俺と来れて楽しかった"……か。やっぱり、女子にこんなことを言われると舞い上がりそうになる。もしかして……なんてことを考えちまう。これは男の性だろうな。
最近は、情景描写を自然に入れられるように工夫しようと奮闘してます。うまくできてるかは不安ですが……
もっと、こうした方がいい! なんてことがあれば、評価や感想などで教えてくれると嬉しいです。作者のレベル上げには、読者の皆さんの意見が必要ですので笑




