68 ビーチバレー
廣瀬優佳様の名前を西川と書いてしまっていたので、修正しました。混乱させるようなことをしてしまって本当に申し訳ないです。
廣瀬、すまん……!! あっ、廣瀬様……!!
日差しの一番強くなる、昼の十二時を少し過ぎた頃。そんな中、俺たちの勝負は始まろうとしていた。
「じゃあ、いきますよ?」
笹森さんは真剣な声色でそう言うと、手に持ったボールを力強く俺たちのコートに投げ込んだ。
「よしっ、明里!」
ボールが浜辺の砂に触れるその前に、俺は手を伸ばしてまた空高く打ち上げる。
打ち上がったボールは明里の視線の向こう。両手を額の前に合わせ、ボールの落ちるタイミングに合わせる。
「えいっ!」
明里が綺麗にトスしたボールは、再び俺の頭上へと空高く打ち上がった。
――決める。――
そう謎めいた義務感の生まれた俺は、ザッという気持ちのいい砂の擦れる音と共に空を舞う。
その瞬間、相手コートがすごく鮮明に見えたような気がした。
笹森さんの、ボールの行方を追う綺麗な瞳……
廣瀬の、両手を前に出し、すぐに動けるよう構える真剣な姿……
そして……
シュルシュルとぎこちない回転をして俺の目の前に上がってきた白い球体。
その全てを視界に捉え、俺は渾身の一撃を放つ。
「おらぁっ!!」
そしてビーチバレーという和やかな遊びに似合わぬ、いかつい怒声と共にその球体は、動く。
笹森さんと西川の間。砂だけが広がるその空間へと、吸い込まれるように……
廣瀬が手を伸ばして滑り込むが、間に合わない。ボールは廣瀬の指先をかすめて、バスンッという気持ちのいい音を立てた。
「よしっ!」
「やったぁ! すごい雄二!!」
俺はパチパチと手を叩く明里の元へと走り、ハイタッチをする。
めっちゃ気持ちいい……バレーってこんなに楽しいものなのか?
自分でも驚くほどに華麗なアタックを決めた俺は、なんだかさっきの大学生ペアの気持ちが分かったような気がした。
「くっそぉ〜、安達さん、やりますね〜」
そう言って悔しそうな表情を浮かべる廣瀬だが、なんだか楽しそうにも見える。俺という強敵に出会って戦闘民族としての本能が騒いでるのか?
「まさか先輩にあんなアタックができたなんて……」
「ちょっと待って笹森さんどういうことかな?」
珍しいものでも見つけたかのように驚きをあらわにする笹森さんを見て、俺はそう聞かずにはいられなかった。
まさか……いつの間にか俺の印象は、優しくて賢くてカッコいい先輩から、できそこないの先輩気取りに代わっていたっていうのか!?
「冗談ですよ」
しかし俺のそんな思いとは裏腹に、笹森さんは楽しそうにそう訂正してきた。
「笹森さん……」
俺は笹森さんのクスクスと笑う様子を見てがっくりと頭を下げる。
はぁ……まったく、あんな風に言われたらなんでも許したくなる。かわいいとは罪なのか……それともそれを許してしまう俺が罪深いのか……
「じゃあ、サーブしてもいいですか〜?」
そんな俺たちの様子をネットの向こうから見ていた廣瀬が、ボールを片手にそう声をかける。
「あぁ、いいぞ。悪かったな、中断しちゃって」
「いえいえ。スポーツは楽しくするものですから。……だから私も本気でやりますね」
「そうか。ありがとう……えっ?」
廣瀬の言葉に何か引っかかるとこがあった気がして顔を上げると、そこには西川ではなく、ギャルルルッという唸りをあげるボールが。
そして廣瀬が放ったであろうボールは、そのままの軌道で俺の耳をかすめる。それに気づいた時には、ボスっという音と共に砂埃が俺の後ろであがった。
「……」
「……」
スピード……威力……その全てが衝撃的すぎて、俺と明里は呆然と立ち尽くすしかなかった。
俺たちが、その衝撃の生まれた方向を眺めていると、見かねた廣瀬が口を開いた。
廣瀬の口から出たのは、説明とは程遠い、とても短いものだった。しかし同時に、俺たちを納得させるには十分すぎるものでもあった。
「私、バレー部なんですよ」
そう言ってニカッと笑う廣瀬を見て、俺は後悔した。きっと明里も同じ思いだろうが。
……なんで賭けなんかしようと思ったんだろう……
それはもちろん、笹森さんへの愛ゆえだ。しかしそれは全て俺たちが勝ったらの話、負けた時のことなんて正直ほとんど考えていなかった。
今、この瞬間までは……
「じゃあ、次明里さん達のサーブですよ」
そう言って廣瀬はより一層、楽しそうな笑みを浮かべた。
スポ根漫画のような熱いシーンが描けてたらいいなーと思います。
もちろん、ラブコメ的な表現もこれから頑張っていきたいですとも。




