66 ホタテ丼
廣瀬優佳様の名前を西川と書いてしまっていたので、修正しました。混乱させるようなことをしてしまって本当に申し訳ないです。
廣瀬、すまん……!! あっ、廣瀬様……!!
「ホタテめっちゃ柔らかかった……」
「口の中ですぐ解けるような感覚でしたね!」
俺がそう口にすると笹森さんは、満足です! という気持ちを表したような笑顔でそう同意してくれた。
柔らかいホタテに染み込む醤油。素材の味そのままに、シンプルな味付けは俺の舌を唸らせた。
ホタテがこんなに白飯似合うなんて。右手に持った箸はどんぶりと俺の口を高速移動し、すぐに平らげた。
「分かる〜。奏、今度作ってよ〜」
「えっ、笹森さん料理出来んの!? ぜひ俺も参加させて下さい!!」
廣瀬さんの言葉が俺の心の内に秘めたる本能を刺激した。いや、いつも表に出してるか? そんなことはどうでもいい。それより笹森さんの笹森さんによる笹森さん料理が存在するってのか!?
「い、いやちょっとだけですよ。流石にこんなに美味しいのは作れません。……まぁ、機会があれば……」
「作ってくれるの!?」
照れ臭そうにうつむいて水着のスカートのような部分を触っている笹森さんに、俺はつい声を張り上げて聞き返してしまった。
廣瀬さんと明里も少々驚いている様子。だがそれも仕方あるまい。
目の前にニンジンをぶら下げられたらお馬さんは全力で走り出そうとするだろう。今はそれが本当にニンジンかどうかの瀬戸際なのだ。
「いや……まぁ……先輩が食べたいなら……ですけど……」
言葉も途切れ途切れにそう紡ぐ笹森さん。でも、その言葉の一つ一つがしっかりと俺の耳に届いた。
「食べたい!!」
笹森さんは自信なさ気だけど、そんなことはどうでもいい。俺にとっては、笹森さんが作ってくれるっていうのが大事なんだから。そんな思いを込めて俺は声をあげた。
「……そう……ですか」
笹森さんはそう言って、また照れ臭そうにフリルのついた水着を触る。
そう。フリルのついた水着を……
突然笹森さんが現れたことや、ホタテ丼が想像以上に美味しかったこと、笹森さんの手料理が頭の大半を占めていたため、触れられなかったが……笹森さんは今、あられもない姿になっている!!
この姿を他の奴に見せたくないという思いと、もっとみていたいという思いが俺の中でぶつかり合っている。やや後者が優勢のようだ。
昼時で、先程よりも客の数が大幅に増えた店内では、メニュー表よりもこちらに視線を注いでいる男たちが目立つ。
それは美少女の水着姿という最高のコンビネーションを目に焼き付けようとする本能の眼差しか……はたまたそんな美少女に囲まれているただ一人の男への殺意の眼差しか……それは知らない方が良さそうだ。
「……私も、何か作ろっか?」
「え? いいのか?」
隣でおもむろにそう口にした明里に、俺は思わず聞き返す。
明里も料理できたのか……ちょっと興味あるな。笹森さんが料理できると聞いて、何か対抗心みたいなものが生まれたのかな?
「うん。じゃあ……今度、そっち行くかも」
そっちって、つまり……
「俺の家ってことか!?」
「だ、だってそうしないと作れないじゃん……!!」
声を絞り出すように明里はそう言うが、たしかに言われてみればその通りだった。手料理なのだから当然、誰かの家で食べることになる。
考えれば当たり前のことだが、咄嗟のことについ驚きを隠せなかった。
「そりゃそうか……なんか緊張するな。それ」
「わ、私だって……。でも、緊張してくれるんだ……」
入学以来の付き合いとはいえ、女の子が自分の家に来るのはやっぱり想像しただけでも緊張する。
前に笹森さんがお見舞いに来てくれたことはあったが……あの時は具合も良くなかったし、何より突然のことだったから緊張も何もなかった。
「明里さんの料理……」
その笹森さんが噛み締めるようにそう言い、少し考えるように口を閉ざし、そしてまたその口を開いた。
「私も食べてみたいです」
「えっ、でも私、そんな期待されるほどのものを作れるかどうか……」
「いや、でも興味あるんです。せっかくだから、その時は私もお邪魔してもいいですか?」
明里と話していた笹森さんは、確かめるように俺に問いかけてきた。
「あぁ、うん。俺はいいよ」
一人も二人もこの際変わらないしな。変わるのは、幸せが大きく増えること。明里の手料理も楽しみだが、やっぱり笹森さんが俺に料理をしてくれるっていうのはそれだけでもう嬉しい。
「むぅ……しょうがないなぁ」
俺が了承の意を伝えると、明里も観念したように了承してくれた。
「あははっ、安達先輩、モテモテですね〜」
そんな俺たちの様子を見て、廣瀬さんはニヤニヤ楽しそうにしている。
「「そ、そんなんじゃないよ!?」」
傷ついた。簡単には言い表せないけど、簡単に言うと傷ついた。
「おいおい……そんなはっきり否定しなくても……気持ちは分かるけどさぁ……」
そんなわけで、俺の口から出る言葉にも多少の雲がかかる。ノリなのは分かっているが、前と横からモテモテ否定されるとやっぱりちょっとショックだ。
女々しいのか? 俺。でも案外男なんてこんなもんだとも思う。田中や斉藤なら走って店を出てる。
「べ、別に雄二のことは……どっちかっていうとす、好きだよ?」
「あ、いや……別に、先輩のことが嫌いなわけじゃないですよ? むしろ最近は……」
そう言って笹森さんは言葉を詰まらせる。
「最近は?」
「〜〜っ!! なんでもないですよ!!」
俺は笹森さんの次の言葉を促したが、何故だか顔を赤くするほど怒られた。くっ! まだ俺と笹森さんとの距離は遠いってことか……
しかーし!! そんな姿もかわい……そんなことで戸惑っていてはダメだ!! 笹森さんと両思いになれる、その日まで俺は攻めるしかないのだから。
それからは客足が増えてきたため、俺たちもすぐに店を出た。
ぜひ自分も参加させて下さい!! あっ……ダメですよね、はい。知ってました。
『本日のおねだりタイム』
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