59 あの日
お昼前の、まだ他のお客さんもあまりいない頃。
「ん〜〜っ!! おいしいっ!!」
そう声を上げて頬を押さえている春美を横目に、私もサンドイッチを口にする。
あっ、おいしい……
私たちは水着を選んだ後、四人でおいしいと評判のサンドイッチのお店に来ていた。水着のお店と同じく、大型ショッピングモールの中にあるため、そんなに時間をかけずにここまで来れる。
実際食べてみるのは初めてだけど、噂通り……いやそれ以上の美味しさかも……レタスはシャキシャキだし、チーズは口に含むと溶けて甘味が口一杯に広がる。そんなのが一つの食べ物に一緒になって入ってるなんて、ほんとにすごいなぁ。
「ほんとだ! おいしい!!」
「だね! ここのサンドイッチ初めて食べたけど……すごく食べやすい!!」
奏ちゃんと優佳ちゃんも美味しそうにサンドイッチを頬張っている。
「二人は中学校の時から仲良いの?」
せっかく皆んなで食べにきているんだから、何か話をしようと思い、私は二人に話しかける。
「いや、奏とは高校に入ってから話すようになりました」
「そうなんだ?」
なんか昔なじみって感じがしたから、同じ中学校出身なのかとも思ったけど……
「はい。ぼっち決め込んでた奏に私が話しかけてあげたんです」
私がそんなことを考えていたら、優佳ちゃんが真顔でそんなことを口にした。
「ちょっと優佳!? なに変なこと言ってんの!!」
奏ちゃんは優佳ちゃんの言葉に驚きを見せ、詰め寄っている。当の優佳ちゃんは楽しそうに笑ってるけど。……なんか、どこか春美に似てる気がする。
「あの時は奏も一人で座ってて、話しづらい空気出してたなー」
「出してないから!! 話しかけて欲しかったから!! ……あっ……」
絶対言ってから焦ってるでしょ……かわいすぎ。
「へ〜? 奏ちゃん、そんな感じだったんだ〜」
そんなことされたら、私だってからかいたくなっちゃう。これは不可抗力。
「ち、違いますから!! 同じ中学出身の友達が誰もいなかっただけで……別に話しかけて欲しかったとかそんなんじゃ……!!」
そんな二人の様子を見てると、自然と楽しい気持ちになれる。奏ちゃんは半分泣きそうになりながら意を唱えてるけど……焦ってるとこもかわいいなぁ、うん。
でもなんだか、仲がいいのはすごく伝わってくる。私と春美もこんな感じに見えてるのかな? ……いや……春美がふざけてるだけに見えるかな、やっぱり。
初めて春美と話したあの日だって……
◆
うぅ……知らない人ばっかり……大丈夫かな? 私、浮いてないかな……
昨日入学式が終わり、今日からもう授業も始まる。そんな中、私は気軽に話せる友達もいなくて、既にクラスで孤立し始めていた。
そもそも女の子が少ないし、その少ない女の子たちは既に友達同士なのか、仲良さげに会話をしてホームルームが始まるのを待っている。
何もすることがないと、待ってる時間が気まずい。誰に迷惑をかけるでもないのにこんな気持ちになるのはなんだか変な感じがする。
はぁ……自分で選んだことだけど、私これからちゃんと学校来れるかな……? ……いや、別に一人がダメってことはないし、それはそれで自主性が身について、むしろ良いことかも……
私が一人で高校生活を過ごすのも悪くないんじゃないかと思い始めた時。その子は唐突に話しかけてきた。
「大丈夫?」
「……え?」
あまり周りを見ないようにしようと思い、机と向き合っていた私の視界に黒い影が差し込み、ゆっくりと顔を上げる。
え? 私、今話しかけられた? 誰だろう……話したことはないと思うけど……
「えっと……秋山……明里さんだっけ?」
「う、うん。そうだけど……」
その子は、興味深そうに私を見ると、さらにそう問いかけてきた。
「ずっと下向いてるけど、もしかして具合悪い?」
……あっ。私がずっと下向いてたから……どう言う意味の「大丈夫?」かと思ったけど、この子には私が具合悪いように見えたってことだよね……
「あ、いや大丈夫。ちょっと考え事してて……」
「考え事?」
「……私、まだ友達いなくてさ。高校生活ずっと一人なのかな……って」
私がさっきまで考えていたことを正直に話すと、目の前の女の子は何かを堪えるようにして、頬をぷるぷる震わせている。
うそ……私、もうなんか変なこと言っちゃった……? どうしよう……せっかく話しかけてくれたのに……
その様子を見て私が不安に駆られていると……
「あはははっ!! なにそれ!!」
この女の子はもう我慢できない! と言わんばかりにお腹を抱えて笑い出した。
「えっ、いやだって……」
「あはははっ!! 分かったって!!」
「えぇ……ほんとに……?」
なんか怪しいなぁ。本当に分かってくれたのかな……
大きく口を開けて豪快に笑う彼女の姿を見て、自然とそう思った。
◆
「あ〜、笑ったなぁ。まったく、いきなり笑わせないでよ」
ひとしきり笑い終えると、今度は冗談混じりにそんなことを言っている。
「勝手に笑ったんじゃん……」
思わずそうつっこんでしまった。いやむしろつっこんで欲しかったんじゃ……?
「あははっ、たしかに! あんまり変なこと言うから」
「変なことって……」
私は結構真剣に考えてたんだけど……
「だって、友達ができるかどうかなんて分かんないじゃん」
「……」
「分かんないこと考えてもしょうがなくない?」
「……」
分からないことは考えてもしょうがない……
私は彼女の言葉を頭の中で反芻させる。
私は、これからのことばっかり考えてた。どうなるか、そんなの誰にも分からないのに。そんなこと考えても、気持ちが沈み込んでしまうだけだ。今の私がそうだったんだから。
「……ふふっ。なにそれ」
そんなことを考えてたら、私も笑いが堪えられなくなった。
「えー? 今のはおかしくないでしょ」
「あははっ! ごめんごめん。なんか、私って変なこと考えてたんだなーって思ったらさ」
自分なりに目標があってこの学校に来たのに、いつのまにかネガティブなことばかり考えていた。あの人だって、この学校にいるかもしれないのに、こんな気持ちになってる場合じゃないよね。
「なるほど。素直でよろしい」
そう言って彼女はグッと親指を天井に向けている。
私がそんな彼女を見ると、二人して見つめ合う形になってしまった。
「「……ぷっ!!」」
さっき話したばかりなのに、こんな状況になっているのがなんだかおかしくて、吹き出してしまった。でもそれは私だけじゃなく、彼女も同じみたいで、一緒になって笑い出した。
◆
それからもお互い他愛もない話で盛り上がったんだよなぁ……
私が懐かしい思いに浸りながらふと隣を見ると……
「春美……もう食べたの?」
「あっ、うん。美味しくてさぁ」
だからさっきからなにも喋らないで一生懸命食べてたのか……どうりで静かだと思ったよ……いつもの春美ならもっと騒がしいはずなんだから。
はっはっはっ、と笑いながら口にチーズをつけている春美を見て、私は一気に現実に引き戻されたのだった。
今回はガールズトークがメインになってしまいました。俺も会話に入っていいかな? と思った方はブックマークと評価の方よろしくお願いします。作者が許可します。




