57 試着室
二人で海、か。
まさか"二人きり"を要求するなんてな……最近は以前よりも攻める気持ちが前に出ている気がする。
二人きりにすると、あいつにその気が無くても何か起きるかもしれない。
……それはだめだ。ちゃんと、終わらせる。始まりはまだ先なのだから。
◆
「わぁ……!! こんなにあるの……!?」
とうとう来てしまった! 水着選抜大会の開始だ!!
所狭しとカラフルな水着が並べられた店内で、私はフンスッと鼻を鳴らすように気合を入れた。……ほんとに鳴らしたわけじゃないからね?
「明里……いつから水着買ってないの?」
私のそんな様子を見て、春美は驚き半分、不安半分の複雑な表情を浮かべている。
「え? ……中学校一年の時以来かな?」
「嘘でしょ……」
春美の呆れ切った顔を見るのが辛いよ……
しょうがないじゃん! 海に行くことなんてなかったし、自分から誘ったのなんて今回が初めてなんだから!!
「ま、まぁ今日可愛いのを買えば当分は買わなくていいしさ」
「そうだけどさぁ……」
春美はまだ納得していない様子だけど、この話題はもうおしまい!!
「どんなのがいいのかな?」
私はそばにあった適当な水着を手に取りながら春美に意見を求めてみる。私一人で決めちゃったら、ちょっと一般の人には高度すぎるものを選んじゃいそうだし。……決して変なのじゃないけどね? ただ普通の人ではついていけないかもなーって。
「う〜ん……やっぱ露出度高いのがいいよねー」
「え?」
私から聞いといてなんだけど、春美は何を言ってるのかな? 思わず聞き返しちゃったよ。
「え? だって……」
「ひゃっ!?」
そう言って春美はなんの躊躇いもなく私の胸に手を伸ばした。
「えっ!? ちょっ……やめてっ……!!」
「あんたの強みを生かさないとだめでしょ? こんな立派なの持ってるんだから」
全然止める気配がない……それになんだか、握る力が強い……春美はあんまり胸大きくないから……って、痛い痛い!
私のそんな気持ちを感じ取ったように春美は激しく揺らしてくる。
「もう! だめだってば! 早く選ぶよ!」
私はやっとの思いで嫉妬のお化けを引き剥がすことに成功した。……あれ? でもなんかこんなこと前にもあったような……?
あっ、温泉旅行の時……
その時は私が奏ちゃんの大きい胸に嫉妬して無理やり揉んだんだっけ。……うん。これは女の子なら仕方がないことだよね。でもとりあえず奏ちゃんには後で何かおごろう。
「はいはい。分かったよー」
春美は一度揉むのを止められたことで飽きたのか、水着を選び始めた。
春美はさっきまでのふざけた様子から真剣な顔へと変え、いろいろな水着を手に取ってはラックに戻している。
なんだかんだ言って、ちゃんと力になってくれるんだよなぁ……やっぱり春美がついてきてくれたのは正解だっ……
「こんなのは?」
「…………」
……やっぱり間違いだったかも。
「どう?」
「だめだよ!?」
どう? じゃないよ! これは流石に……恥ずかしすぎる……
春美が手に取っているのは、胸元を覆う部分があまりにも寂しく、お尻の部分なんてほんとに隠せてるの? ってくらいに面積の小さな白いビキニ。清楚そうな色とは裏腹にハレンチなその水着を私に着ろと言っている!
「えー。これこそ明里の身体をアピールできるでしょ」
「いやいや! こんなの大人の人でもあんまり着ないよ!? 高校生が着てたら変だって!」
大胆水着をラックに戻しながらぶーぶー言ってる春美に私は熱弁する。
これを着るのはなんとしても阻止しなければ! こ、こんなの雄二に見せられないよ……あっ、でもいつかはちょっと大胆なのも見せなきゃいけないのかも……? それはそれで……
「じゃあこれは?」
私が妄想の海にダイブしようとしていたら、戻ってこいという声が聞こえた。
「んー……」
さっきのよりは露出が抑えられてるけど……でもこれってほぼ下着みたい……
春美が手に取っている水色のビキニを見ながら私が答えずに唸っていると、春美が口を開いた。
「悩むってことは欲しいってことだよ?」
なんか納得しそうになるけど、それって欲しくないってことにもなるんじゃ……
「それに、安達君に見てもらいたいんでしょ?」
「雄二に……」
たしかに、せっかくならちゃんと見てもらいたい。控えめなのじゃなくて、可愛い私を見てもらいたい。少しでもそう思ってもらいたくて、今日ここにいるんだから。
「……よし! これにする!!」
私は決断を下した。これしかない。かなり恥ずかしいけど……雄二に見てもらうのは嫌じゃない。むしろちょっと嬉しいかも。これはもう、覚悟を決めるしかない!!
「絶対似合うと思うよ。試着してきたら?」
「うん。じゃあ、ちょっと待ってて」
春美に促され、私は試着室へと入る。
◆
あれ? 結構いけてる……?
鏡に映った水着姿の自分を見て、自然とそんな思いが浮かびあがった。
少し露出は多めだけど、水色という色があまり派手でなく、落ち着きを見せている印象だ。サイズもちょうどいいし、これなら……!!
「春美、どう?」
春美の感想も聞きたいと思い、私は試着室のカーテンを開ける。
「え? 明里さん?」
しかし返ってきた声は春美のものではなく、まだ少し幼さの残る、甘く可愛らしい声。しかも何度も聞いたことのあるこの声は……
「奏ちゃん?」
私は、すぐ隣の試着室から顔を覗かせている奏ちゃんを視界に収めた。
作者は最初の水着も見てみたかっ……なんでもないです。海楽しみだなー。
余談ですが、カクヨムの方でも連載を開始したので、もしカクヨムも見てるという方はそちらもチラ見してくれると嬉しいです。




