56 問
「なんか飲み物買ってくるね」
「あっ、はい。分かりました」
昨日の回想から現実という名の幸せ空間に戻った俺は少しインターバルを挟もうと席を立つ。このままでは俺の心は持ちそうにない。
◆
笹森さんが……かわいすぎる……!! 笹森さんの手でパタパタされてるTシャツになりたい……!!(切実)
ガチャコンッ
俺は決して届かぬであろう願いを天に向け、自販機で買った桃のジュースといちごのジュースを手に取る。
さて、まだ気持ちは全く落ち着かないが、笹森さんに早く会いた……笹森さんをあまり待たせるのもアレなので、図書館の中に戻りたい。
はぁ……俺、今日無事に家まで帰れるかな……
◆
「……」
誘っちゃった……私、先輩を……
勉強に集中しようとしてるけど、なんだか変な感じだな。私から先輩を遊びに……今回は勉強だけど……誘うなんて、今までなかった気がする。あれ? ってことは、今までは先輩が私を誘ってくれてたってこと……?
「〜〜っ!!」
そう考えると、途端に恥ずかしくなってくる! え!? いっつも私、なんであんな平然としてたの? いや、そうでもない……? って、そんなことはどうでもよくて!!
「私、なんか変だ……どうして先輩のこと……」
こんなに気にしてるんだろう……
「お待たせー」
「ひゃっ!?」
先輩のことを考えていたら横からいきなり先輩の声がして、思わず声が漏れた。それに、ちょっとだけ肩が跳ねた……
「あっ、ごめん! そんなに大声でもなかったんだけど何か考え事でもしてた?」
「あっ、いや……なんでもないです……大丈夫です」
先輩のことを考えてました、なんて言えるわけない!
私はこう答えるのが精一杯だった。まだ少し肩が震えてるし……
「そう? ならいいんだけど……あっ、これ笹森さんの分ね」
そう言って先輩は私に一本の缶ジュースを手渡してくれた。
これは……
「いちごのジュース……」
先輩が私にくれたのは、私の好きないちごがベースのジュースだった。
「笹森さん、いちご好きでしょ?」
私がいちご好きなの、覚えてくれてるんだ……
「ありがとうございます……」
こうやってさりげなく気を使ってくれるとこは好……いや!! そんなことないから!! ちょっと嬉しかっただけだから!!
「よかった。あっ、なんかわかんないとこあったら聞いてね? ただし国語と日本史のみ」
「ふふっ、そうですね。先輩、それ以外は教えてくれませんもんね?」
ついからかってしまった……先輩は多分親切心で言ってくれてるんだと思うけど……私の悪い癖だ。
「いや、それ以外は俺も苦手なんだって!」
「ほとんど全部じゃないですか?」
あっ、また言っちゃった。
「えー……」
先輩は不服そうだけど、こんなふうに遠慮なく話せる年上の人なんて先輩くらいだ。明里さんは女の子だし、すごく話しやすいけど……男の人では先輩くらい。
初めて会った時は、いきなり話しかけられて怖い人なのかな? なんて思ったけど。あれから結構長い間先輩と一緒に過ごしたんだなぁ……
私はそんなことを考えながら、心なしかしょんぼりしてる様子の先輩に声をかける。
「先輩っ! ここ、教えてくれますか?」
私はさっきから解こうとしている現代文の問題を先輩に見せる。集中できてないのもあるけど、集中できてても難しい気がする……
「もちろん! どこどこ!?」
あからさまに喜んでるなぁ、先輩。そんな様子を見て私は少し笑ってしまう。
「ここです」
「え〜っと……」
『A子の心情が大きく変わっていった理由を五十五文字以内で述べよ』
先輩はしばらく考える素振りを見せ、説明を始めた。きっとこれからも、こうやって一緒に勉強できるんだろうな。それをどこか楽しみにしている自分がいる。なんだか変な感じだ。
こうして、私の高校生活最初の夏休みは幕を開けた。
なんとか初の三話投稿をクリアできました……
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