54 大丈夫!
よし! うまく誘えた……よね?
「やるじゃん。明里」
雄二が田中君たちと教室を出ていく後ろ姿を眺めてから私が満足げに自分の席に戻ると、春美が小声でそう声をかけてくれた。
「ありがとっ。私、変じゃなかったよね……?」
結構自然に誘えてたはずだから、自分では及第点かなと思う。でもやっぱり、周りの声も聞いてみないと心配だし……
「うん! なんとかして夏を男と過ごしたいって気持ちが伝わってきた!」
「えぇ!? そうなの!?」
うそ!? そんながっついて見えた……? たしかに、二人でっていうのはやりすぎかなとも思ったけど……運動会以来、リミッターの外れた私は制御不能なんだ!!
「あはははっ。冗談だよー」
「もう……春美〜!!」
私をからかって遊んでたな! まったく春美は……
春美の笑い声を聞いた私はそう確信し、そのぷにぷにとした脇腹をつっついてやる。春美は脇弱いから耐えられないはず……
「あははは! ちょっ……もうやめて……!!」
ほら! 私で遊んでた時よりも笑ってる。でもまだやめないぞ。私の気がすむまで春美には犠牲になってもらう。
さっきから雄二と二人で海に行けるなんて考えただけでもう私は限界だった。何度もそのことを考えては現実に戻るっていうのを繰り返していた。こうでもしないと大声で叫ぶくらいのことはしてしまいそうだ。
「くすぐったかったぁ……てか明里、こんなことしてる場合じゃないでしょ!」
私が春美をいじめ終えて満足していると、生気を取り戻した春美は何やらそんなことを言っている。
他に何かすることなんてあったっけ? 雄二を海に誘うこともできたし。雄二と二人で海……あっ、だめだめ! また自分の世界に行ってしまう。次は帰って来れないかも。
「明里……本当に何も考えてないの?」
「え? なんだっけ……?」
あれ? でもなんだかすごい呆れた目を向けられてる気がする……
「海で安達君とは何の服で会う気?」
? 変なことを聞くなぁ、春美は。そんなの、
「水着に決まって……あっ」
言いかけて気がついた。
水着……どうしよう。好きな人に見せるはじめての水着姿……私、そんな可愛いのなんて持ってない……
「春美〜〜。どうしよう……私、可愛くないよぉ……」
もう春美に泣きつくしかなかった。うぅ……さっきまでいじめてたのに、まさか今度は私がこんな立場になるなんて……
「分かった、分かったから! もう! テンパりすぎて日本語おかしいよ」
「だってぇ……」
「海に行く日はまだ決めてないんでしょ? だったらまだ全然間に合うから!」
「そ、そうだよね! まだ大丈夫だよね!!」
幸い、まだ詳しい日時は雄二に伝えてない。まだ間に合う!!
「その言い方はすごい不安だけど……」
でもあれ? 春美がなんだか余計に表情を沈まれたような……?
「はぁ……まぁ、ちゃんと可愛いの探すからさ。頑張ってよ?」
「ホント!? 一緒に探してくれるの!?」
春美はおしゃれだし、ついてきてくれるならまさに百人力だ!
「まぁ、それくらいはするよ。当日は一人で頑張らないとだけどね」
「うぅ……そうだよね。私一人で雄二と話せるかなぁ……」
喜んだのも束の間、今度は当日うまく立ち回れるか不安になってきた……楽しいことばかり想像してたけど、私が頑張らないとうまく行かない可能性もあるんだよ……今度は別の意味で叫びそう。
「気合い入れなさいよ! この前だって上手くいったじゃん! 明里、頑張ってんじゃん!」
私が弱気になっていると、春美が私の肩に力強く手を乗せ、応援の言葉をかけてくれる。
……!! そうだ。私は運動会から今まで以上に積極的になっている……はず! 一歩進んで一歩下がってたら全然前に進まないどころか、そのうち戻るスピードの方が速くなってしまう。
「……うん! ありがとう、春美!」
「よし! そのいきだ!!」
グッ! と親指を立てながらご満悦な様子の春美をまっすぐに見つめながら、私は気合を入れ直す。
……とりあえず、かわいい水着を選ぼう。
水着は全部可愛い。
今日は頑張れれば後二話投稿したいなー、なんて思ってます。……頑張れれば!




