53 突入!!
運動会が終わって二日が経った金曜日。金曜日といえば、いつでもご機嫌なものだが、今日はいつもとは少し違う。なんたって明日から……
「お前らー、明日から俺に会えなくて寂しいからって非行に走ったりするなよ。じゃあ、解散ー」
と、松中先生の冗談か本気かいまいち判断のつきにくい声によって俺たちは夏休みへと突入する。そう、夏休みへと!!
さて……夏休みといえば、友達と海に行ったり、彼女と遊んだり……そんなことを想像するかもしれない。俺もできるなら笹森さんとどこかへ出かけたい。
しかし! しかしだ!! 片思い中の俺は笹森さんから誘われるのを待っていてはダメなのだ。自分から誘わなければ!
というわけで今後の作戦を考える。
直球で一緒に遊びたいと言うか……? それとも遠回しに……いや、今更そんなことをしてもなぁ。やはりここは……
「雄二!」
「ん?」
まさか笹森さんが俺に会うために階段を駆け降りてここまできてくれたのか!?
俺が期待に胸を膨らませながら呼ばれた方を振り向くと……
「明里。どうしたんだ?」
例の如く俺の淡い期待は溶けて無くなった。汚れが取れて綺麗になった俺の視界にはどこか緊張した様子の明里が、座っている俺の顔を見下ろしていた。
「あっ、えっとね……」
明里と二人で話すのは久々だな……
運動会以来、二人で話すと言うことはできていない。というか俺から声をかけるのがなんか気まずいんだよな……やっぱり、意識してしまう。勘違いしそうになってしまう。男とはそういうものなのだ。
俺がそんなことを思いながら明里の言葉を待った。すると明里はゆっくりと口を開く。
「海、行かない?」
ふむ。海……か。そうか、海か。つまり笹森さんの水着姿が拝めるというわけだな? それならあまり警戒されずに笹森さんを誘うことができる。って、なんかその言い方だと俺の不審者オーラが隠しきれてないように感じるな。まぁ、ともあれ断る理由はない。
「いんじゃないか? じゃあ、後で笹森さんと的場でも誘っとくか」
俺は努めて自然にそう答える。不審者オーラを撒き散らさないように気をつけながら。
「うん。それもいいんだけどさ……」
しかし明里の方は俺のそんな態度に似合わず、なんか違う、と言った様子で次の言葉を紡ごうとしている。
なんだろう? やっぱり俺の態度がおかしかったか? そういえば、前にも下心が隠しきれずに溢れてしまったことがあったような……
「二人で、どうかな?」
「えっ……」
両の手を体の前で絡ませながら唖然として俺を見下ろしている明里。俺は一瞬、言葉の意味が分からず呆然と明里の顔を見上げるばかりだ。
しかし、それがどういう意味なのかは予期せぬ周囲の変化によって気付かされた。
「ゆ〜じっ! 今日一緒に帰ろうぜ? な?」
「雄二はどこ行きたい? とりあえず墓石は見ておいた方がいいかな?」
「お前ら電車通学だろ……」
"モテない俺たち"会員No.001こと田中とNo.002こと斉藤の溢れ出る負のオーラによって……。会話の内容こそ平和そうなものの、その裏に立てられた俺を始末する算段を見逃すことはない。ついて行ったら最後、俺の夏休みは病院という別荘で過ごすことになるだろう。
「そ、その。どうかな? 雄二……」
「えっ、と……」
あいつらよりも強大な難題が俺の前にそびえ立っているんだった。
明里と二人で海に……今まで二人だけでどこかに行くなんて話になったことはなかったが……運動会の時といい、最近の明里は変わった気がする。なんていうか、いちいち仕草が可愛い……
でも、二人でか。笹森さんを好きだと言っておきながら、他の女子と二人で出かけるのはどうなんだ? 笹森さんは俺を軽い奴、それこそ笹森さんの思っているようなチャラチャラリア充だと思うんじゃないか? 俺の中ではいろんな考えが浮かんでは消える。
「やっぱり私と二人じゃ嫌かな……?」
「いや……そんなことはないが……」
そんな悲しそうな顔をされたら断れないだろ……どうしても笹森さんに目を奪われがちになるが、明里だって大切な友人だ。俺の勝手な気持ちで断るのは友人にあるまじき行為だよな……
「……よし。じゃあ行くか、海」
「ほんと!? じゃあ、詳しい日時はあとで連絡するから!」
俺がそう答えると、明里は嬉しそうにそう伝え、自分の席へと小走りに戻って行った。
あんな嬉しそうな顔をされると、断らなくてよかったな、と思ってしまう。笹森さんとのことは後でゆっくり考えよう。何も行動を起こさなければ夏休みなんてただ笹森さんの顔を見れないだけの拷問になっちまうからな。
今はそれよりも……
「なぁ? 世の中には"罪"ってものがあるのは知っているか?」
「そしてその罪を犯したものにはそれ相応の"罰"が待っていることも……」
この憎悪に満ちた処刑人どもをどう誤魔化すか、だな。明里にはああ答えたものの、これでは二人で出かける前に俺の体がもたなくなる。
「田中」
「あぁ? 遺言なら聞かねぇぞ」
「俺を始末したらお前たちのことを明里はどう思う? きっと、自分のせいだと嘆くだろう……」
「ぐっ……秋山さんを悲しませるのは俺とて不本意だが……」
「そうだろう? それから斉藤」
田中との話は終わったとばかりに俺は斉藤へと視線を移す。
「あん? 俺は仮に秋山さんを悲しませることになったとしても、お前を殺す。後のことは後で考えるからな」
「俺が明里と出かけることによって、他の女子との繋がりができる……そしてそれは俺と繋がりのあるお前らとも繋がりができる……ということにならないか?」
「なっ……!? お前は既にそこまで考えているというのか……!?」
斎藤の背後には波に打たれる崖の様子を鮮明に見ることができた。俺は物分かりの良い友人を持ったなぁ。
よし! 平和で安全な夏休み突入!!
でもさっきからずっと俺の境遇を笑っている優也のことは許さない、と優也の顔を見ながら俺は心に誓った。
お久しぶりでございます。作者はちゃんと生きてます! というわけで夏休みです。作者の頭はいつでも夏休みですので、楽しく書いていこうと思います! ではまた次回!




