51 ちゃんと……
「ゆ、雄二っ!!」
明里にそう呼ばれた俺は困惑の渦の中にいた。
問い。今はなんの時間か?
答え。午後二時半。……そういうことじゃねぇな。借り物競走の時間だな。しかし普通の借り物競走ではない。あの木浪先輩の考案した"愛と勇気の借り物競走である。
ではそれは一体なんなのか?
答え。異性のタイプを借り物として選ぶことでクリアと認められる競技である。
ではなぜ明里は……
「ちょっ、ちょっと雄二……一緒に来て欲しいんだけど……」
しかし俺の脳内クイズ大会は明里の言葉によって強制終了を余儀なくされた。
明里はこっちにも熱が移りそうな程顔を赤くして俺を見ている。
そりゃそうだよな……先陣を切って俺に声をかけにきたんだから、恥ずかしいに決まってる。俺もかなり恥ずかしいが……。
……というより、田中、斉藤をはじめとする周りの男どもからも熱い視線を向けられてるのも気になる。
こいつらもしかして俺に気があるのか? 今まで女だ女だ言ってたのはブラフだったのか……
……と、いつまでもそんな馬鹿なことを考えてるわけにはいかない。俺の返事を緊張した面持ちで待っている明里に返事をしなければ。
「あ、あぁ、すまん。じゃあ行くか」
ここで黙っていたら負けてしまう。明里が動き出したのを見て他のクラスも続々と好きなタイプの人に声をかけている。まぁ、本当に好きなタイプかは判断がつかないが……
……!! そういうことか……!!
異性に声をかける他クラスの生徒を見て、俺は気づいた。
明里は、誰よりも早く動き、仲のいい男子の一人である俺に声をかけることで、この勝負に勝とうとしているんだ! 別にタイプかどうかなんて判断がつかないからな。
自分の中で答えを出せた俺は、明里に続くようにして駆け足気味にゴールへと向かう。
ゴールには一応審査員がいて、何やら確認をするらしい。
「でも俺でよかったのか?」
「どういうこと?」
そこで俺は新たに疑問に思ったことを訊いてみる。
「いや、俺よりも優也の方が疑われなくて済むんじゃないかと思って。あいつ顔だけはいいから」
そう。審査員の目を誤魔化すには優也は適任だと思ったのだ。あいつなら、審査員も好きなタイプと言われて認めざるを得ないからな。……悔しいが。
明里も同じことを考えたと思ったのだが……
「……いや、だめだよ」
「? なんでだ?」
明里が返した答えは俺の考えを否定するものだった。
「雄二じゃなきゃ、だめだよ」
「そうなのか……?」
よく分からんが、審査員を誤魔化せればいいだけの話。俺だって、優也と並ぶとイマイチに見られがちだが、本来かなり美形なんだ! ……美形なはずなんだ!!
自分はいけてるんだと言い聞かせ、審査員の元へとつi……
「おー、少年! まさか君が選ばれたのか?」
「…………」
なぜアナウンスをしていたはずの木浪先輩がここに? とか、こんな所でなにを? とか、いろんな疑問が浮かんだが、そんなことより"まさか"ってどういうことですかねぇ?
「えっ、雄二知り合いなの?」
「少年は私の気持ちを受け止めようとしてくれたんだ……しかし、それは叶わなかった……」
状況が理解できずにキョトンとしている明里に答えたのは俺ではなく木浪先輩だった。
てかその言い方は語弊を大量生産してるんだが。在庫処分が大変だ。
「先輩の考案した借り物競走に参加したかったけど出れなかったってことだよ。木浪先輩、誤解を生むような言い方しないでくださいよ……」
「そうなんだ? じゃあ私のせいかな……」
「いや、俺がじゃんけんの神様に嫌われてただけだから。それに、なんか別の形で参加しちゃってるし」
責任を感じてか表情を曇らせた明里に俺はそう言って笑う。まさか自分が選ばれる側になるなんて思わなかったからな。
「よし。じゃあそろそろ審査を始めるぞ」
俺たちが話していると、木浪先輩はそう言って引き締めた顔つきになった。一体何が始まるんだ……?
明里も緊張している様子だが、俺も不安だ。だって木浪先輩だもん。なにを言い出すか……
「少年のことが好きだという彼女に質問だ。少年のどんな所がタイプだったんだ?」
……なるほど。本人から直接選んだ理由を聞いて、木浪先輩が納得できたらクリアというわけか。これだと、顔が良いとか性格が良いみたいな抽象的なのは却下されるだろうからな。
「そんなっ……好きとかじゃ……いやでもっ……!!」
当の明里はなんだか狼狽えてるみたいだが……
「どうなんだ? 私が納得できるような答えを頼むぞ」
「えっと……」
木浪先輩は腐っても生徒会なのだろう。真剣な表情で明里の答えを待っている。
明里はしばらく考える素振りを見せた後、それに応えるように口を開いた。
「私は……雄二の……」
◆
私は雄二のどこが好きなのか? そんなこと、考えるまでもないよ。ずっと、ずっと前から決まってる。そう、私たちがこの高校に入学する前から……
私は……
「絶対に見捨てないで最後まで寄り添ってくれる……そんな雄二が、私は好き」
言えた。ちゃんと、言えた。
◆
さっきまでの緊張した顔は見る影もなく、とても気持ちのいい笑顔を俺に向け、明里はそう言った。
「……」
これは借り物競走、だよな……?
明里の言葉はどこか真剣みを帯びていて、借り物競走をクリアするために誤魔化しで言ったようには感じられなかった。
でも……面と向かって好きだなんて言われると、なんだか変な気分になる。しかも明里に言われるなんて……
勝つために俺を選んだわけじゃないのか……?
「ふむ……見捨てない、か……いいだろう。二人ともクリアだ!」
考えたいことは山ほどあったが、審査を待っている他の選手も結構並んでいたため、俺たちは移動する。
ともあれ、木浪先輩のゴーサインをもらった俺たちは見事に一位で障害物競走を終えることに成功した。
でも……明里の言ったことはどういうことなんだ……?
俺は、さっきの明里の表情、声、言葉、その全てが頭に残ったままだった。
やっと運動会も一区切りですね……長かったぁ。
連載開始からもう五十話を突破することができました。この作品をここまで見てくれた方、少しでも面白いと感じてくれたらマジで嬉しいです。これからも応援お願いしまっす!!




