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超積極的ラブコメを展開しようと思う  作者: おんたけ
プロローグ
49/144

49 照らされた心


 ――先輩は、ずるい――





「笹森さん」


 こんなとこに誰だろう? 


 私を呼ぶ声がして振り向くと、その相手が誰なのかはすぐに分かった。


「……先輩」


 でも、返事をしたはずの私の声は思いの外暗くなってしまった。やっぱり、さっきのことが頭から離れられないでいた。

 

「まだ障害物競走まで時間あるからさ、ちょっと涼もうと思って」


「そうなんですね……私も、そんな感じです」


 だから私は、適当に相槌を打つ。クラスメイトでもない先輩にまで気を遣わせるわけにはいかないから。


「さっきのリレー、見てたよ」


 私の隣に座った先輩は、何かを話し始めた。


 ……といっても、リレーの話題が出た時点で私にとってはいい話ではないけれど。

 

「そうですか……先輩も見ていてくれたのに、先輩は頑張ってたのに……私は……!!」


 その話題を出されると、さっきの自分のしたことが思い出される。


 先輩は、急な代役でも最後までやり抜いた。クラスの期待に応えることができていた。だから私も頑張ろうと思った。できると思った。なのに……!! 私は何もできなかった。


「バトンを落として……」


 先輩は話を続ける。


「それが原因で一位だったクラスが三位になった……」


 その事実を淡々と話し続ける。


「それはもちろん、残念なことだと思う」


「そう……ですよね」


 やっぱり、誰の目から見ても明らかだ。あの場面が大きく勝敗を分けたことは……


「私がバトンを落とさなければ、勝てたはずなのに……」


 そして、私がそれを悪い方向に向かわせてしまったことも……


「でも、笹森さんはクラスのために何もできなかったのかな?」


 先輩は、今度は語りかけるようにそう尋ねてきた。


「……」


 多分、そうなんだと思う。もし私が何かできていたなら、この結果はきっと変わっていた。


「俺は、そうは思わないよ」


 でも先輩は、私のそんな考えを真っ向から否定してきた。


「ありがとうございます……先輩は優しいですね……クラスのみんなも、みんなそう声をかけてくれるんです」


 それはきっと、先輩が優しいからだと思う。クラスのみんなと同じように。先輩は割といつも私のことを見ていてくれるから……年上だからかな? 先輩は意外と面倒見がいい。


 そんなことを考えていたせいか、私はつい自分の気持ちを話していた。


「……私がバトンを落としたせいで三位になっちゃって、やっぱりその事実は変わらないわけで……そう思うと、みんなの優しさを受け入れられない自分がいて……」


 負けたことはもちろん悔しいし、それが自分のせいとなれば余計に悔しい。でもそれ以上に、みんなの優しさが辛かった。


 私は何にもできなかったのに……


 毎日走ったことも、意味なく終わってしまったのに……


「……」


 すると先輩は、何か考えるようなそぶりを見せ、話し始めた。というより、話を再開した感じ。


「俺がさ、見てたのは今日のリレーだけじゃないよ」

 

「……え?」


 リレーだけじゃない……? どういうことだろう?


 先輩の話したいことが見えず、私は話の続きを待つことにした。


「昨日も、一昨日も、ずっと前から見てたよ。笹森さんが今日のために……クラスのために頑張ってるとこ」


 いつになく真剣な声色で話す先輩。その口から流れる声は自然と私の耳に入ってきた。


 その言葉に込められた先輩の想いが、私の心に届いてきた気がした。

 

 毎日、走り続けたこと……


 ちょっとだけ足が速くなったこと……


 いつの間にか、楽しくなっていたこと……


「それは絶対、クラスのみんなに届いてる」


「先輩……」


 私は何もしてなかったんじゃない……頑張ってきたはずだ。


 それを見てくれていた人は、ちゃんといた。


「それからさ……"頑張った時は目一杯褒められればいい"みたいだよ」


 私が何か胸のとっかかりがとれたような気分になっていると、何かを思い出すように、先輩はそう言った。


「……?」


 唐突にそんなことを言う先輩の意図がわからずに戸惑っていると……


「頑張ったね。笹森さん」


 そう言って先輩は笑っている。


 その笑顔が眩しくて。私の暗く閉ざされていた心を照らしてくれた気がして。

 

「えっ……?」


 気がついたら先輩の肩に体を預けていた。


 先輩は、ずるい。


 そんなことを言われたら、嬉しいに決まってる。頬を涙が流れ落ちるのを感じる。


「先輩……ありがとうございます」


 思っていたよりも自然と、その言葉が私の口から漏れていた。


「……」


 先輩は何も言わずにこのままでいてくれる。


 なんだろう……? 心臓がすごい……走る前の緊張とはちょっと違う気がする……


 でも……こうしていると、なんだか安心する。……それに、泣き顔を見られるのは絶対に嫌だ。


 だから私は障害物競走が始まるギリギリまで、涙が収まるその時まで、このままでいた。

 

 自分がかなり恥ずかしいことをしたと気づくのは私の気持ちが落ち着いてきた頃。つまり、このすぐ後だった……

 




 

 

 男の肩は女の子のためにあるのです。



『本日のおねだりタイム』


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