43 待つ。
早朝五時。
「よし! じゃあやってこー!」
そう言って声をあげた明里。
「「「「おー!」」」」
それに賛同するように四つの声があがる。
俺たちは朝早くから公園に集合していた。百夏公園ではなく、普通の小さな公園だ。的場がブランコに乗ってた所。
それぞれの家からも割と近い距離にあることからここを集合場所に選んだ。
そう……
運動会までに笹森さんの足を少しでも早くする、"笹森さん育成計画"を開始するために!!
運動会までの約三週間、俺たちは毎朝学校に行く前に公園の周りを走ることにしたのだ。
三人でそう決めた後、明里と的場にも連絡して五人で走ることになった。
「今日はありがとうございます! みんな走る種目に出ないのに……」
「いいよいいよ! 私も運動不足だったしちょうどよかった!」
「たまには運動しないとな」
「いや僕もリレー出るよ?」
「そうそう。朝から笹森さんと会えるし」
「またそんなこと言って……」
俺が笹森さんに率直な思いを伝えると、笹森さんから呆れたような照れたような視線を向けられた。朝からお腹いっぱいだぜ。
「よし! とりあえず三周で競走しようか。その方が実践向きだろうし」
俺はそう言って走り出した。よし勝つぞ。
「あっ、ちょっ! 待ってよ!」
「ずるいですよ先輩!」
「はっはっはっ! それでも勝ってやるよ!」
「あの……僕もリレー出るんですが……ま、待ってくださいよ〜!」
◆
「はあ……はあ……もう、だめっ……!!」
極度の疲労からか、そう声を漏らす笹森さん。
そんな姿も色っぽいのはさすが笹森さんと言ったところか。本当にお腹いっぱいです。
それに、今日の笹森さんは長袖ジャージにショートパンツという、スポーティな服装だ。
ショートパンツから覗く、軽く伸ばされた脚がまたたまらんのです。
「ひ、久々にこんなに走ったよ……」
「結局雄二には勝てなかったけどな……」
「ずるいんですよ、雄二さんは……僕の話も聞いてくれないし……」
笹森さんに限らず、みんな息も絶え絶えにしゃがみ込んでいた。
「たしかに……初日から……飛ばし……すぎたな……」
そんなふうにみんなを見ていた俺が一番疲れたのだが。
スタートダッシュが決まったことで、なんだか勝てそうだったから途中から夢中で走ったのだ。
はあ……まじで疲れた……これから学校とかまじかよ……笹森さんに会えてなかったら休んでるぞ。
「結局、雄二が一番楽しんでるんじゃない?」
「ははっ、たしかに!」
言われてみれば……
競走で俺が一番夢中になり、笹森さんの今日の服装を嗜み……
あれ? 俺が一番楽しんでる?
「たしかに……」
納得しちゃったよ。
「ふふっ、でもよかったです。迷惑じゃなさそうで……」
笹森さんはそう言って気持ちの良い笑顔を浮かべた。
ただの応援団の俺が一緒に走る、なんて言ったから変に気を使わせてたのかもな……
「最初から迷惑じゃないよ。でも、そう思ってくれたんなら頑張って走った甲斐あったかな」
「それは勝手に夢中になってただけだと思うけどな?」
「ははっ、やっぱりそうですよね?」
「大人気なかったよね〜」
「ふふっ、それはそうですね」
優也のツッコミにみんなで笑い合った。
息が……苦しい……ぜ……
しかし俺はまだ息が整っておらず、危うく三途の川をスイミングするところだったのだが。
それからも俺たちは毎日走り続け、運動会当日の笹森さんの活躍を待つ。
◆
「ふ〜、今日も疲れた〜」
みんなで走り始めてからもう二週間くらいかな?
今日も朝から気持ちの良い汗をかいて帰宅した私は早速お風呂に入る。
朝にお風呂に入るのは最近の私の日課になっていた。
いっぱい動いた後のお風呂はいつもより気持ちいい気がする。
運動会が終わっても、ランニングは続けようかな。
あっ……運動会……そろそろだ。
私はシャワーを浴びながら、来る決戦の日に思いを寄せていた。
……今更になって怖くなってきた。いきなりタイプの異性で雄二を呼んだら、雄二はどんな反応をするんだろう……?
もしかしたら変な人だと思われて距離を置かれるかも……いや、私だっていきなり好きなタイプです! って言われたら戸惑っちゃうし……
あ〜〜っ! どうしよう……考えるほど不安になってくるよ……
そんなマイナスなことばかり考えていると、いつの間にか髪を洗う手が止まってシャワーを顔に当てたままにしていた。
そして思い出す。自分でも不思議なくらい鮮明に。私の胸に残っている言葉を……
◆
「明里さんは……諦めちゃだめだと思います」
「明里さんはすごいきれいだし、積極的にアタックすれば、絶対振り向いてくれますよ!」
◆
……そうだ。心配ばかりして何もしなければ今の関係を変えることはできないんだ。
でも、私が積極的にアタックできれば、変えることができるかもしれない。
その可能性を自分から捨てるなんてことはしたくない。
ライバルの女の子に励まされるなんておかしな話なんだろうけど、奏ちゃんと出会えたから私は変われる。
あの日から、私なりに頑張ってきたつもり。少なくとも、前には進んでいるはず。
……だから、運動会で私の成長を雄二に教えてやる!
私のことを意識せずにはいられなくしてやるんだ!
こんなチャンスはなかなかない。借り物競走を考えた人には感謝しないと。
今の関係を変えるのはやっぱり怖いけど、今のまま終わるのはもっと怖い。
「よし!」
私は決意を固め、その日を待つ。
運動会に向けてのそれぞれの思い。
青春だぁぁ!!
というわけで、今青春真っ盛りの人も、失われた青春を取り戻したい人も、この作品で空気だけでも楽しめてくれたら嬉しいです。
『本日のおねだりタイム』
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