38 自販機少女
「ふふふ〜ん、ふふっ、ふっふふふ〜」
六月も終わりに近づいた水曜日の昼下がり。
俺は笹森さんがくれた腕時計を眺めていた。鼻歌を教室中に響かせながら。
まぁ、みんなあちこち移動して友達同士話に夢中になってるから聞こえてないと思うが。
しかし一人、確実に聞こえているであろう人物が俺の前にいる。
「お前……良い加減にしろよ……」
優也が心底気持ち悪いと言った様子で声をかけてきた。
「べっつに〜。それよりこれ、誰からもらったか知ってるか?」
だが俺は全く気にしない。なぜなら今日も俺の心は燦々と輝いているからだ。
この輝きを暗い表情の優也にも分けてあげようと思い、俺は腕時計を指差して問いかける。
答えれるかな〜? ちょっと難しいかな〜?
「……それ今週なってから二十回は聞いたんだけど。しかも訊いてないのに」
優也が何か言っているが、俺はこの問題の答えを教えてやる。なぜなら話したいから。
「実はこれ……笹森さんからもらったんだよ」
ここだけの話、と優也の耳元で俺は囁く。
「だからキモいっつーの!」
何が気に食わなかったのか優也に両手で突き放された俺は強制的に着席させられた。
何をそんなに怒っているんだろうか?
俺が疑問に思っていると、これまた心底めんどくさそうに優也は口を開く。
「ちょっと自販機で飲み物でも買ってきたらどうだ? うん。そうした方がいいぞ」
「は? なんでだよ」
「そうすればいいことあるぞ。例えば奏ちゃんに告白されるとか」
「よし行ってくる」
深く考えることはせず、というかそんな間も無く俺は正しい決断を下し、体育館外にある自販機へと超特急で向かった。廊下は走っちゃいけません。
◆
到着。
普通なら五分かかる道のりも、その気になった俺にかかれば五十秒。我ながら驚きの速度だ。
俺が息を整えていると、自販機の前にポニーテールのような馬のしっぽ……じゃなくて、馬のしっぽのようなポニーテールの髪を揺らしながら歩いてくる一人の女の子が見えた。
急に走ったのもあってなかなか息が整わず、俺はしばらく女の子が飲み物を買う光景を眺めていたのだが……
「…………」
ガチャン……ガチャン……と軽快な音を鳴らしながらドリンクが自販機の取り出し口へと落ちてくる。
「…………」
取り出し口にドリンクが溜まったら取り出し、そしてまたガチャン……ガチャン……という音が鳴る。
おいおい……一体何個買うつもりだ? もう十本近く買ってるんじゃないのか?
さすがにおかしいと思い、俺は自販機少女に恐る恐る声をかけてみることにした。
「あの……」
「ひゃっ!? ななな、なんだ!?」
そんなに大きな声で話しかけたわけではないのだが、自販機少女はまるで耳元で銃声が聞こえたかのような驚き方をしている。
それを聞いた俺も声こそ上げなかったものの、かなり驚いたのだが。
「……飲み物、誰かにあげるんですか?」
さすがにこの量を一人で飲むことはないだろうと思い、そう尋ねてみる。
「あげるっていうか、買っていくだけだ。代金はもらってるからな」
「こんなにいっぱい?」
「あぁ。私は生徒会だからな。役員のみんなに持ってくんだよ。……私がじゃんけん弱いせいで……」
そこまで話した自販機少女は悔しそうに顔を歪めた。
「じゃんけん?」
俺は自販機少女のそんな様子が気になり、訊いてみる。
「今は忙しい時期だからな……誰か一人に絞って飲み物買わせるんだ。で、それをじゃんけんで決めるってわけ」
「なるほど……それで弱いから毎回パシられると……」
あっ、やべぇ。つい言葉を選ばずに口を開いてしまった。
俺は自販機少女の方を恐る恐る見るが……
「…………」
もう手遅れだったらしく、怒りに頬を震わせながら俺を睨んでいる。無言なのがより怖さを強調しているな。
いや、そんな冷静に分析してる場合じゃない。
「あっ、いや……よかったら飲み物運ぶの手伝いますよ。この量一人で運ぶのは大変なので……」
「な、なに!? いいのか!?」
「……あっ、はい」
さっきまでの怒った様子から一変。自販機少女は嬉しそうにそう確認してきた。
今回は正解みたいだな。なんとか機嫌を損なわずにすみそうだ。
◆
それからやっぱり十本くらいある飲み物を自販機少女こと木浪穂乃花先輩と二人で分けて生徒会室に運んでいた。
なんで"先輩"なのかというと、実はこの人三年生だったのだ。つまり俺の先輩。
「いや〜、ありがとう少年! 助かるよ!」
「少年って……さっき自己紹介したじゃないですか」
俺は豪快に笑う木浪先輩にそうツッコむが、本人は気にした様子はなく、更に笑いを加速させているように見える。
なんかマイペースだな、この人。
「ところで少年、私も忙しいのには変わらないというのに自販機まで行かせるのは酷いと思わないか?」
「はぁ……まぁ、そうですね」
そういえば生徒会って言ってたもんな。もしかしてなんかの役員なのか? 会長とか書記みたいな。
「何かの役員なんですか?」
そう思い、俺は木浪先輩に訊いてみた。
「いや? なんもしてない。なんでだ?」
しかし返ってきた答えは俺の予想に反していた。
さらに質問で返されたので、俺は思ったことを伝えてみる。
「いや、忙しいって言ってたので……」
「あぁー! なるほど。そういうことか」
すると木浪先輩は納得したように声を上げた。
「今は運動会まであまり時間がないからな。決めなきゃいけないことがいろいろあるんだよ」
そういやそうか。別に役員でなくとも生徒会の一員なら忙しいはずだ。
俺がそんなことを考えていると、木浪先輩はさらに話を続けた。それも自慢げに鼻を鳴らしながら。
「去年は私の意見を通らせてダンボール戦車やったんだぞ」
「…………」
この人が元凶か……しかも通らせたって……
「盛り上がってだろ!?」
意気揚々と聞いてくる木浪先輩。
なんかこの人があれ考えたのって納得だな。発想力ありそう。
「まぁ、そうですね」
「なんだ煮え切らないな」
俺の反応は不服だったようで、木浪先輩は頬を膨らませている。
「まぁ、今年はもっと面白いのにするから期待していてくれ!」
「……ちなみになんです?」
俺は不安八割期待二割で訊いてみる。
「借り物競走……しかしただの借り物競走ではない。借りるものは必ずタイプの異性でなくてはならない! その名も"愛と勇気の借り物競走"だ!! 参加した者の愛と勇気が試される!!」
二割も期待したことを後悔した……
なんだよ異性って……笹森さんが誰かに借りられたらどうするんだ。
「どうした? 流石に驚いたか?」
「……驚きました」
木浪先輩の発想力に。それを押し通す行動力に。
「はっはっは! そうだろう!? もちろん今回も障害物競走の中に入ってるからな! 楽しみにしていてくれ!」
今度は満足気な表情で笑う木浪先輩。
「おっ、ここまででいいぞ」
すると俺たちはもう生徒会室の前まで来ていた。
ずいぶん話し込んでいたのかあっという間だったな。
「はい。じゃあお願いします」
そう言って俺は手に持っていた飲み物を木浪先輩の持っている飲み物の山に乗せる。
「いや〜、本当に助かったよ。またな、少年!」
そう言って生徒会室のドアを開けようとし……たけど両手が塞がっているので開けられない木浪先輩を尻目に俺は教室に戻った。
まぁ、他の生徒会の人が「何やってるんだ」と言いながらドアを開ける音が聞こえてたから大丈夫だろう。
運動会……作者は運動神経が機能していなかったみたいで活躍した記憶がありませんなぁ。なんでだろう?
『本日のおねだりタイム』
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執筆レベルが覚醒すると読者も喜ぶ……
完璧じゃないか!?(いろいろ言いましたが評価をしてくれると嬉しいということです、はい。)




