32 変化
「……というわけだ。それで僕は奏ちゃんを自分のものにできればみんな認めてくれると思った……」
自分が振られたのは笹森さんが自分を認めてなかったから……
いじめを受けてもただ耐えるだけ……
母親は自分の努力を認めてくれない……
だから笹森さんを自分のものにして自分を認めさせる……
的場が話しているのを俺は静かに聞いていた。
だがもう限界だ。
「ふざけんなよ……」
「あ? なんだって?」
「ふざけんなっつってんだよ!! さっきから勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!!」
「勝手だと……?」
「勝手だろうが!! 何で自分はこんななんだ? 誰も認めてくれない? ふざけんなっ!!」
「お前に……お前に何が分かるってんだよ!! 誰も見てくれなかった……。誰も助けてくれなかった……。誰も……奏ちゃんだって、僕のことなんて認めてくれない!!」
的場はもうブランコには座っていない。俺もただ立っているのではない。
二人でお互いを掴み合っていた。俺たちは胸ぐらを掴んだ手を離さない。
その手に込められた力からは思いの強さが感じられる。それは俺も同様だ。
「だから、勝手に決めつけんじゃねぇ!!」
「違う!! 実際そうだった……奏ちゃんは僕のことを見向きもせず、クラスの奴らは僕をいじめ、お母さんは僕の頑張っていたことを認めてくれない!!」
「それが勝手なんだよ! 笹森さんは……笹森さんはお前のことをちゃんと見ていた!!」
「だから何でお前がわかんだよ!? お前こそ勝手なこと言ってんじゃねぇ!!」
「直接聞いた!! 俺は笹森さんからお前の話を聞いたんだよ」
「!!」
ようやく口を閉じ驚きの表情を浮かべている的場に俺は続ける。
「笹森さんはなぁ……お前のことを知らなすぎるって言っていた……お前のことを知らないから、お前と付き合ったら傷つけるんじゃないかって……今でもそのことを気にしてた……!!」
「そんなわけ……」
「お前は、笹森さんに聞いたのか? 何で自分とは付き合えないのか、何で自分じゃダメなのか」
「……」
「一度の失敗で投げやりになって……適当な理由つけて逃げてんじゃねぇ!!」
「だから僕は……!!」
「お前のは強引なだけだ!! そんなことをしても相手を傷つけるだけだろうが!! 本当に好きなら……手放したくないなら……積極的に攻めるんだよ!! 他の奴に取られないように、自分が諦めるのを認めてしまわないように……!!」
「……!!」
「それから、いじめられたのはお前のせいじゃないだろう!? そいつらがクソだっただけだ!! そんなことも分からなかったのか!?」
「でも……誰も……助けてくれなかったっ……!!」
「お前は誰かに助けを求めたのか? 他人を頼ろうとしたのか?」
「いや……」
「だったら助けを求めるべきだろう!! 世界中全部がお前の敵だとでも思ったのか!?」
そんなことはあり得ない。きっと、いや絶対に力になってくれる人はいた。でもこいつはそれを見逃してきたんだ。だからこんな……
「僕は……僕はどうしたらよかったんだ……!!」
「……そんなことは自分で考えろ」
俺の胸ぐらを掴んでいた手を頭に乗せ、項垂れる的場。
俺は突き放すようにそう口にする。
だが……見捨てるのは正解ではない。俺はそう思う。
全く……笹森さんを襲おうとした奴に俺は何をしてんだか……
そして俺はもう一つお節介を焼く。
「ただ……お前は一人じゃないってことだ」
「……一人じゃ……ない……?」
「お前のことをちゃんと考えてくれる人はいたはずだ。笹森さんのようにな」
「奏ちゃん……なのに僕は……!!」
そう。それなのにこいつは無理矢理笹森さんに迫るような真似をした。
してしまったことはどうにもならない。笹森さんはこれからもあの時のことを苦しく思うかもしれない。
だが、これからのことは変えられる。
「だったらお前のしなけりゃいけないことは何か。今のお前なら分かるんじゃないか?」
「……!! 僕……奏ちゃんに会わなきゃ……会って謝らないと……」
どうやらこいつは分かってくれたみたいだ。
変わらない人なんていない。
きっかけさえあれば良い方向にも悪い方向にも人は変われる。
こいつは一度悪い方向に変わってしまったが……今回は良い方向に変わってくれたみたいだな。
◆
ピンポーン
「あっ、奏ー、ちょっと出てくれる?」
「はーい」
料理中で手の離せないお母さんの代わりに私が玄関の扉を開けると、そこには……
「……えっ? 的場君……」
息を切らした的場君がいた。どうして私の家に……? どうしよう……お母さんを呼んだ方が……
私が思い悩んでいると、的場君は何かを決意したようにゆっくりと、でもはっきりと声をあげた。
「奏ちゃん……僕の今までの態度、思い違いを謝りたいんだ」
「……え?」
的場君は急にどうしたんだろう……?
困惑している私をよそに的場君は話を続けた。
「僕は勝手に思い違いをしていた。奏ちゃんは僕のことなんて全然どうでもよくて……だから僕を振ったんだって」
「……」
この前までの的場君とは様子が違う。なにか大切なことを話そうとしているように見えた。
そう感じた私は玄関のドアをゆっくりと閉め、的場君の言葉を待つ。
「でもそれは違うんだって……奏ちゃんは僕のことをちゃんと考えて……その上で自分も傷つく決断をしてくれたんだって……気づいたんだ。いや……気付かされた、かな」
真剣な表情を崩さないまま的場君の話は続く。
「それなのに僕は……奏ちゃんに酷いことをした……僕が勝手に決めつけて……奏ちゃんのせいにして……」
そして的場君は私の目を一瞬だけ、でもしっかりと、見つめる。
「僕のしたことは許されないこと……でも、しっかりこれだけは言わないといけないと思えた。奏ちゃん……本当に、本当にごめん!!!!」
「…………」
これが、的場君……? 昨日とは全然違う。
ヘラヘラした感じもない。
どこか他人を見下したような態度でもない。
一年前の、一生懸命だった的場君の面影を感じた。
これは的場君の本心なんだと思った。
「的場君……もう、頭あげてよ」
的場君は随分長いこと頭を下げていたように感じる。
私がそう声をかけたことで的場君はようやく頭を上げてくれた。
「ありがとう」
なんだろう。的場君が、本当の的場君が戻ってきたように感じるからかな? 自然と笑みが溢れてしまう。
「奏ちゃん……?」
私がそんな様子だからだと思うけど、的場君もちょっと困惑した表情だ。
「昨日はすごい怖かったけど……今日の的場君は、怖くないよ。なんか……中学生に戻った感じ」
「それって僕が子供のままってことじゃ……?」
「そんなことないよ」
私にとっては良いことだ。昨日的場君と話して、随分変わったと思った。なにがあったんだろうって。
でも今私の前にいる的場君は昔のままだ。今の的場君となら、前みたいに話すこともできるのかな。
それから私たちは少しの間会話をした。
中学時代少ししか話さなかったけど、一緒に実行委員をしていたあの時と同じように。
◆
あいつはちゃんと謝れてるだろうか。
的場を送り出した後、俺は一人公園でブランコに揺られていた。
まあ、あの様子なら大丈夫だろう。笹森さんの家なら里美さんと龍之介さんもいるはずだからな。万に一つもない。
俺はそう思い直し、家に向かおうと公園を出る。
今日はかなり時間使っちまったからな……雑用を押し付けられただけでなく、柄にもなく的場に説教じみたこともしてしまった。
「あれ? 雄二?」
俺がそんなことを考えながらぼーっとしていたからだろうか、声をかけられるまで気づかなかった。
「明里……?」
俺に声をかけてきたのは明里だった。
「やっぱり雄二だ」
見るとまだ制服を着ているから家に帰ってから出かけてるようではないが……
「さっき奏ちゃんを送ってきて、今帰ってるところなんだ」
俺のそんな様子を感じ取ったのか、明里が説明してくれた。
でもそうなら俺が笹森さんのことを頼んだからこんな遅くなってるんだよな……
もうすっかり暗くなってしまっている。女子高生が一人で帰るのは少々危険だ。
「そうか。じゃあ家まで送ってくよ」
「え!?」
俺は明里を家まで送っていくことにし、二人で歩き出した。
最初キモく、よりキモくをモットーに書いた的場ですが、どうやら改心してくれそうです。作者も嬉しいです。(どの口がゆうてんねん!)
一人ボケ一人ツッコミが終わったところで今日のおねだりに入りたいと思います。
『本日のおねだりタイム』
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