30 登校
「おはよう。雄二君」
俺が居間に向かうと、里美さんが朝食の用意をしていた。泊めてくれた上に朝ご飯まで準備してくれるなんて、里美さんには頭が上がらない。
そんなことを考えながら、俺は挨拶を返す。
「おはようございます」
しかし居間にいるのは里美さんだけで、龍之介さんと笹森さんの姿が見当たらない。龍之介さんは仕事だろうか。
しかしそんな疑問は里美さんの言葉ですぐになくなった。
「まだ奏起きてこないから雄二君、起こしてきてくれる
?」
「行ってきます」
「ふふっ、よろしくね」
里美さんのありがたい提案に即答すると、里美さんはそう言って微笑んでいる。本当に里美さんには頭が上がらない。
そんなことを考えていたら、俺はもう笹森さんの部屋の前まで来ていた。
コンコンッ
「……」
コンコンッ
「…………」
……参ったな。ノックしても返事がない。
かと言って勝手に入ったら怒るよな?
……でも起こさなかったらもっと怒られるよな?
そうだよな?
ってことはもう入るしかないよな? うんそうだ。
俺は自問自答をやめ、意を決して笹森さんの部屋に入る。
「…………」
部屋に入ると笹森さんはベットで横になって寝ていた。とても可愛らしい寝顔をこちらに向けている。とても可愛らしい寝顔をこちらに向けている。大事なことなので二回思った。
……なんかこのまま起こさないでずっと見ていたい。
そんな考えがこの一瞬で幾度となく俺の頭をよぎった。しかし、いつまでもこうしていると里美さんにも悪いと思い、俺は自分の気持ちを押し殺して笹森さんを起こす。
「笹森さん、朝だよ」
「…………」
「笹森さーん」
「ん……う〜ん」
うめき声にも近い声を上げながら笹森さんはもぞもぞと動き、そしてゆっくりと目を開ける。そしてその視線は……
「……先輩?」
当然俺に向けられる。
「おはよう」
「……なんで私の部屋に入ってるんですかぁ!!」
完全に目が覚めたのか、俺が勝手に笹森さんの部屋に入っていることに気がついてしまったようだ。
……と、冷静に分析しているが笹森さんの顔には冷静さのかけらもなく、何か疑うような視線を俺に向けている。
「ご、ごめん。里美さんに起こしてきてくれって頼まれて……ノックしても起きなかったから……」
「……ないですよね」
「え?」
「な、何もしてないですよね!?」
笹森さんは赤面させた顔で俺の返事を待つ。
「もちろん。むしろ笹森さんの寝顔をずっとみていたかったくらいで……」
「見たんですかぁ!!」
「ぐっ!」
笹森さんから温泉旅行ぶりニ度目のビンタをもらい、俺の一日は始まった。
◆
それから俺は部屋を追い出され、笹森さんが降りてくるのを居間で待っていた。
「あらあら、ごめんね雄二君。奏ったら……」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
俺の頬が赤いのを心配して里美さんはそう声をかけてくれるが、本当に問題ない。むしろ笹森さんの寝顔を拝めたことに感謝の気持ちを伝えたいくらいだ。
「おはようございます……」
「あっ、おはよう。さっきは勝手に入ってごめん……」
部屋から降りてきた笹森さんに俺はさっきのことにお礼を……じゃなくて謝罪の言葉を述べました。
「いいですよ、もう。私が起きなかったのが悪いんですし……」
笹森さんはそう言ってちょっと罰が悪そうにしている。
「さっ、朝ご飯食べましょう」
笹森さんがきたことで、里美さんは作った料理をテーブルに並べ出した。
◆
それからは朝食を食べ、笹森さんと二人で学校へと向かう。
昨日あんなことがあったのだから、休んだほうがいいんじゃないかと里美さんに言われたが、テスト前に休んで出題されるところがわからなかったりしたら困るため、登校することにした。
笹森さんも同じことを考えていたみたいで、こうして二人で登校している。
「なんか朝から先輩と一緒に登校するのって変な感じですね……」
「ははっ、最近は下校の機会が多かったしね」
そう……これは下校ではない。登校だ。
二人で同じ時間に登校……これは、ちょっと仲がいいくらいではできない。
なぜなら、なんとなく流れで帰れる下校とは違い、登校するときには場所と時間を決めて誘わなければならないからだ。
そんなことなかなかできないし、了承を得るのも難しい……
それを、今俺はしている。しかも同じ家から……だ。これはもう、同棲してる彼氏と言っても差し支えないだろう……
そんなことを考えながら幸せな登校を堪能していると……
「あっ」
笹森さんが不意に声をあげた。
「あっ」
なんだろうと思って笹森さんの視線の先を見ると、同じく声を上げている見慣れた顔が……
「明里」
驚いたようにこちらを見ていたのは明里だった。
「ゆゆ、雄二!? なんで奏ちゃんと一緒に……?」
そしてさらに戸惑った声を上げている。
そりゃあ、いきなりこの状況を見れば戸惑いもするだろう。
しかし、この状況を説明するとなると、あのことも明里に話さないといけない。
俺がどうしようかと笹森さんに視線を送ると、
「私が話します」
そう言って笹森さんは明里にことの経緯を話し始めた。
◆
「そんなことが……」
笹森さんが話し終えると、明里は驚いた声を上げ、そして笹森さんに視線を移す。
「ひゃっ! あ、明里さん……?」
そしてそのまま笹森さんに抱きついた。
明里の手が笹森さんの華奢な腰へと回る。明里の体が笹森さんの体にくっつき、何か柔らかそうなものが沈み込んでいる……
別に百合が好きとかではない。ではないが……美少女二人のこんな絡みを見せられたらやっぱり何も感じないことはない。
というか視力が0.3は上がった気がする。まじで。
それくらい俺は今、集中して目を凝らしている。
「もう大丈夫なの!?」
「はっ、はい……先輩のおかげで何もされてませんし……」
「そう……よくやった、雄二!」
明里は視線だけを俺に向けてそう言った。
「ははっ、ちょうど笹森さんのこと探してたから……あっ」
そこまで言って俺はようやく思い出した。なぜ笹森さんを探していたのかを。
「笹森さん。そういえば……はい、これ」
俺はずっと制服のポケットに入れっぱなしにしていたキーホルダーを出す。
「これは……」
「笹森さんが落としたのかと思って。それでこれ渡そうと思って笹森さん探してたんだよね。ほんとはすぐ渡そうと思ったんだけど……すっかり忘れてて……」
「……ふふっ」
俺の言葉に何か面白いことがあったのか、笹森さんは堪えられないという様子で笑い声をこぼしている。
特に面白いこと言ったつもりはないが……どうしたんだろう?
「なんか、先輩らしいです。そのためにわざわざ私を探してくれたことも、それなのに今まで忘れてたことも」
……どうやら俺のした事を笑っているみたいだ。
ドジなとこを見せちゃったからかなぁ……気をつけよう……
「でも……ありがとうございます」
さっきまでの笑った顔をさらに綻ばせ、笹森さんはそう言い、俺の手からキーホルダーを受け取った。やっぱりキーホルダーは笹森さんのものだったみたいだな。
「私にもできることあるかもだから、何かあったら相談してね?」
「はい! ありがとうございます、明里さん」
明里が加わったことで一段と賑やかになった俺たちは、三人でそのまま学校へと向かった。
登校だけで一話終わってしまいました……話が進まなくて申し訳ないです。
書きたいことが増えてくるとあっという間に3000文字超えちゃいますね笑
『本日のおねだりタイム』
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