28 お礼
「次、先輩入ってください」
「え? でも……」
「やっぱりタオルで拭くだけじゃダメですよ。今からでも入ってきてください」
ついさっき笹森さんが風呂から上がってきてから、俺は風呂に入るよう説得されていた。
さっきタオルだけでいいって言ってしまった手前入りにくいんだけど……
「そうね。雄二君今日は泊まっていくし、入ってきたほうがいいわね」
「そうですか? じゃあ……」
里美さんの言葉に一瞬納得しかけたが……あっ、里美さんって言うのは龍之介さんに肘打ちをかましてた人。笹森さんの母親。龍之介さんの必死の反対によって名前で呼ぶことになった。
って、そんなことは今はどうでもよくて、今なんか聞き捨てならないことが聞こえてきたぞ。
「ん? 泊まる?」
「そうよ。だってあんな目にあったのに一人で帰るのは危険でしょ? もう外も暗いくなるし」
「……」
言ってることは分かる。分かる、が……本当に泊まっていいのか!? 笹森さんと一つ屋根の下で? こんな幸せなことがあっていいものかと俺の頭が理解するのを拒否している。
「いいんですか?」
俺が恐る恐るそう聞いてみると、
「もちろん。親御さんにはちゃんと連絡しないとダメだけどね?」
「言い訳あるかぁぁ!! 奏もいるんだ……ぐっ!」
里美さんは笑顔で了承してくれた。……龍之介さんについては今更突っ込まないが。
「ありがとうございます。じゃあ、お風呂借りますね」
里美さんにお礼を言って俺は風呂場へと向かう。風呂に入る前に親にLINNをしたが。
◆
……さて。俺は今、笹森さんの家でシャワーを浴びているわけだが……
風呂上がりの笹森さんを二度も見れてしまったぞ!?
まだしっとりと濡れた髪。タオルを首に巻いた色っぽい姿。自宅ならではの少しだらけた感じがまたたまらん。
俺は笹森さんの風呂上がりモードを思い返していた。
さっきは里美さんと龍之介さんもいたからゆっくり考えることはできなかったが、あの姿を俺が見てしまっていいのか!? いいのかぁ!? あんなの、同棲してる彼氏くらいしか見れんぞ。俺幸せすぎ。
しかも、実は笹森さんがシャワーを浴びている間ずっとシャワーの音が聞こえてきてそわそわしていたのだ。
笹森さんがシャワーを浴びている姿を想像してしまいそうだった。……いや実はちょっと想像した。
笹森さんの両親の手前、そんな様子はおくびにも出さなかったが。
◆
俺が幸せを噛み締めながらシャワーを浴びて居間に戻ると、里美さんが夕飯の準備をしていた。
「あら、もう上がったの? 今夕飯作ってるからちょっと待ってね」
「ありがとうございます。夕飯までご馳走になっちゃって……」
俺がそう言って頭を下げると、里美さんは「いいのよ。これくらい。奏を助けてもらったんだから」と笑顔で答えてくれる。
さっきから俺のことを睨み付けてる龍之介さんとは大違いだな。全くこの二人、なんで結婚できたんだ?
俺がかなり失礼なことを考えていると、
「そうだ。奏が雄二君のこと呼んでたわよ。お風呂から上がったら私の部屋に来てくれって。夕飯できるまで時間あるから、行ってきてくれる?」
「そうなんですか?」
笹森さんが俺に用? なんかあったかな? いやそんなことよりも、笹森さんの部屋に行ける……?
その事実を知り、舞い上がった俺は一目散に笹森さんの部屋に向かった。……といっても、里美さんに場所を聞いてからだが。
コンコンッ
俺が部屋のドアをノックすると、
「先輩ですか? どうぞ入ってください」
という返事があったので、人生初の女子の部屋に入る。しかもそれが笹森さんときたもんだ。正直かなり緊張してる。
「すいません。椅子とか準備してなくて……そこのベットにでも座ってください」
「ああ、全然いいよ。気にしないで」
笹森さんの部屋は、本棚とベット、あとは机と椅子が一つずつある、結構すっきりとした印象だ。でもベットの枕元にはぬいぐるみなんかもあって、どこか可愛らしい。多分明里も好きだっていうアニメのだろう。
「それで、何か用があるみたいだけど……」
俺は笹森さんの部屋を見回すのも程々に、呼ばれた理由を聞いた。あんまりジロジロ見られるのも嫌だろうしな。
「はい、実は……」
そう言って笹森さんは話し始めるのかと思いきや……
俺の座っているベットの横に腰掛けてきた。
なんか最近ずっと笹森さんの近くにいるなぁ。 ……ちょっと幸せすぎやしないか?
俺がもはや喜びよりも不安を感じていたら、笹森さんは話の続きを始めた。
「先輩に……お礼がしたいんです」
「…………」
今まで考えていたことなんか全部吹っ飛んでしまった。
笹森さんは俺の目をまっすぐ見てそう言っている。
ベットで二人きり。まさかお礼って……
「何か欲しいものとかありますか?」
「…………」
やはり俺の淡い期待はすぐに溶けて消えた。
「どうですか? あまり高いものはあげれませんが……」
「……じゃあさ、テスト終わったら一緒に映画でも観に行かない?」
しかしそんなことで挫けていてはだめだ。そもそもこういうのは段階を踏まないとな。うん。
俺はそう自分に言い聞かせ、せっかくだからデートに誘おうと思い、笹森さんを誘う。里美さんにも頼まれていたことだし、ちょうどいいだろう。
「映画……ですか? もちろんいいですけど、そんなことでいいんですか?」
「いいんだよ。あんなことがあった後だから、笹森さんの気分転換にもなればいいなって」
「……それだとなんか私のためになってませんか?」
「俺も笹森さんと一緒に観たいからさ」
「……先輩、やっぱりリア充なんですか?」
俺は素直にそう言ったつもりだが、なんか訝しげな視線を隣から感じる。
「えぇ……」
「ふふっ、冗談ですよ。映画、楽しみにしてますね?」
なんだ、からかってただけか……
俺は笹森さんの笑っている横顔を見て安心した。
……でも、初めて会った時に比べてかなり気を許してくれてるみたいだなぁ。初めてお茶しようと誘った時はかなり不振がられたが……
未だに隣で笑っている笹森さんを見て俺はそう思い、自然と笑みがこぼれた。
「あっ、そうだ。先輩」
「ん?」
笑い終えた笹森さんに呼ばれて聞き返すと、
「先輩には、話しておかないといきませんね。的場君のこと……」
笹森さんは何かを思い出いたかのようにゆっくりと俯いてそう言った。
きっと、的場というのはあの男のことだろう。過去に笹森さんのあの男の間に何があったのか、俺も気になっていた。
しかし、笹森さんは辛い思いをしたばかりだと思い、俺から聞くことはしなかったが……
俺がそんなことを考えていると、笹森さんは顔を上げて話し始めた。
お泊まりです。羨ましいです。
この後書きも間も無く三十回を迎えようとしています。……そのため、書くことがなくなってきてしまいました……。
それだけ長くかけてることは幸せですが。
『本日のおねだりタイム』
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作者のおねだりを聞いて次回三十回をお待ちください!!
追記
一話と二話を結合したので、現在ではこの話は二十八話になっています。




