27 笹森さん宅にて
「ぜひお邪魔させてください」
「早いですね……さっきまで帰ろうとしてたのに……」
そりゃあ、笹森さんに家に来ない? なんて聞かれたら返答も早くなる。
笹森さんは若干引き気味だが気にしない。
「まあ……いいです。じゃあ、入りましょうか」
そう言って笹森さんは家の前に歩き出し、ドアを開ける。
「ただいまー」
「おう、おかえ……り……」
そう言って玄関に出迎えたのは……
「か、かかかか奏!! なんだ誰だその男は!?」
笹森さんの父親みたいだな。かなり動揺してるようだが……
「あ、どうもお邪魔しま……」
「貴様ぁぁ!! 何をしに来た!」
俺が言い終わる前に笹森さんの父親らしき人は叫び声にも近い大声を上げながら俺に詰め寄ってきた。
……そういえば何しに来たんだろう?
笹森さんに誘われるがままに家に来てしまい、なんのために呼ばれたかは聞いていない。
「えっと……」
「お父さん! この人は学校の先輩で……話すと長くなるけど、先輩に助けてもらったんだよ。それで、せっかくだから家で休んでもらおうと思って」
俺が言い淀んでいると、笹森さんが助け舟を出してくれた。
やっぱりこの人は笹森さんの父親みたいだな。っていうか、笹森さんわざわざそのために俺を家に上げてくれたのか……ありがてぇ。
「助けた……? どういうことだ?」
笹森さんの父親は不思議そうな顔で俺と笹森さんを交互に見つめている。
「どうしたの?」
と、そこでこの騒ぎに驚いた笹森さんの母親らしき人も玄関に出てきた。
「お母さん」
あっ、やっぱりこの人も笹森さんの母親で間違いないみたいだ。
「あら? そちらの方は?」
「あっ、この人は学校の先輩で……」
笹森さんはさっきと同じような説明を始める。
「あら、そうなの? まあ、事情は後で聞くとして……」
そう言って笹森さんの母親は俺たちの姿を一瞥すると、
「二人ともびしょ濡れじゃない。早くお風呂に入りなさい」
そう提案してきた。
そういえば、笹森さんに傘を借りたとはいえ、それまでは土砂降りの中笹森さんを探し回っていたからな……
「ふ、二人でか!?」
笹森さんの母親の言葉に引っかかるとこがあったのか、笹森さんの父親は切羽詰まったように笹森さんの母親に聞いている。
「それもそうねぇ……」
やはり親として男女二人で風呂に入れるわけにはいかないだろう。笹森さんの母親は顎に手を当てて首を捻っている。
「あっ、俺はタオルを貸してもらえれば大丈夫です」
流石に俺も親の前で笹森さんと一緒に風呂に入る勇気はない。そう思い、俺は提案する。
「あらそう? でも……」
「笹森さんのほうが疲れてるし、早めにお風呂に入らせてあげてください」
まだ納得のいっていない様子の笹森さんの母親に俺はそう話をつける。
「そう? ごめんなさいねぇ」
「元からお前なんかうちの風呂に入れる気なんぞないわ」
笹森さんの母親は申し訳なさそうに謝罪してくれたが、この父親は俺のことがどうにも気に食わないらしい。
まあ、この発言の直後、隣にいた笹森さんの母親にびしっ! と頭を引っ叩かれていたので俺は何も言わないが。
「じゃあ奏はお風呂、あなたは……」
「安達雄二です」
「雄二君は居間に来てくれる? 今タオルを用意するから」
「すみません、ありがとうございます」
「先輩っ、すみません、先輩も濡れてるのに私だけ……」
一人だけ風呂に入ることになったのを申し訳なく思ってるのか、そう言って笹森さんはペコリと頭を下げてきた。
「いいんだよ。そもそもここ、笹森さんの家なんだから。ゆっくり入ってきて」
「ありがとうございます!」
そう言って笹森さんはてくてくとお風呂場らしきところに小走りで向かった。
やっぱり笹森さんも早くシャワーを浴びたかったのだろう。
「ありがとう、雄二君。じゃあこっちにきてくれる?」
という笹森さんの母親の案内に従って俺は居間に向かう。
◆
「で? さっきの話はなんなんだ?」
俺が居間に座り、さっき笹森さんの母親から借りたタオルで髪を拭いていると、笹森さんの父親がさっき笹森さんが言ったことの説明を促す。
俺のことを品定めでもするかのようにジロジロ見てくるので話しづらいが……
「実は……」
そうして、さっき笹森さんの身に起こっていたことを伝える。俺も途中からしか見ていなかったため、具体的なことは何もわからないが……
俺が話し合えると、笹森さんの父親は握った拳をふるふると震わせ、
「なんだぁぁぁ!! その男はぁぁぁぁ!!!」
さっき俺に叫んだ声とは比較にならないほど大声で叫んでいる。
思わず両手で耳を押さえてしまったほどだ。
「そんなことがあったのね……。……その男、どうしてくれようかしら……」
笹森さんの父親の横で話を聞いていた母親も、大声こそ上げないものの、その目は怒りに満ちていた。何やら物騒なことも言っている。
「それで、雄二君が奏を助けてくれたのね」
「まあ……もっとすぐ助けられればよかったんですけど……」
笹森さんの怯える顔を、震える肩を思い出して、俺は自然と体に力が入ってしまった。
「ふふっ、奏はいい先輩を持ったわねぇ」
そう言って笹森さんの母親は微笑んでいるが……
「全くだ!! お前が早く助けてれば奏は傷付かずにすんだ……ぐっ!」
この父親は全く微笑む様子はなく、怒りに顔を赤くし、俺のことを責めてくる。
……話終わる前に笹森さんの母親に肘打ちをされて悶えているが。きっと見た目以上に強烈な一撃だったんだろう……
「でもそんなことがあったなら奏も気にしちゃうわよね……」
「やっぱりそうですよね……」
あんなブチギレ変態野郎に無理やり迫られたのだ、トラウマになってもおかしくない。
「雄二君に慰めてもらうしかないわねぇ」
「やっぱりそう……え?」
さっきと同じ返答をしようとして、何かおかしなことを言われた気がした。
「雄二君ならあの娘とも仲良いでしょうし、あの娘のことサポートしてあげて欲しいの」
「もちろんです。俺にできることなら……」
なるほど。そういうことか。それなら出来るだけサポートしてあげたい。
「貴様! やっぱり奏と親しい……ぐっ!」
またこの父親はなにか言いかけていたが、またもや肘打ちをくらって悶絶している。
「じゃあ映画なんかに一緒に行ってあげてくれない? 気分転換にもなるし、あの子もきっと喜ぶ……」
「行きます。行かせてください」
あっ、笹森さんの母親の前だというのに、話終わる前に話に食い込んでしまった。あまりに魅力的な提案だったせいで……
「ふふっ、そう言ってもらえてよかったわ」
幸い、笹森さんの母親は不満そうな表情ではなかったのでよかったが。
「あっ、でも今はテスト期間なのでテストが終わってからでもいいですか?」
「もちろんよ」
「良くない! 良くないぞママ!! こんな何処の馬の骨かもわからん男を奏と二人で映画館に行かせるなんて……ぐっ!」
納得してない様子の笹森さんの父親はそう言って突っ掛かるが……案の定、肘打ちをされた。なんで学習しないかなぁ……まあ、それだけ……
「笹森さんのことが好きなんですね、お父さん」
「…………」
あれ? もっとこう……俺はお前のお父さんじゃねえ!! みたいなこと言うと思ったんだけど……
「今、俺はお前のお父さんじゃねぇ! と言うと思ったか?」
「!!」
なぜ分かる……
「そんな事を言ってしまったら本当にそうなりかねんからな。そんな発見は絶対にしないぞ!! ……でも俺のことは龍之介と呼べ」
「…………」
どうやら父親の名前は龍之介というらしいな……。
「なら私のことはお母さんでもいいわよ?」
「…………」
この夫婦のこの温度差はなんなんだ……?
今回奏ちゃんの出番少なくてごめんなさい!
次回出てくるかもしれないし出てこないかもしれません。
この後書きを書いてる時点ではまだ書いていないので作者も分かりません。どうしよっかなぁ……
『本日のおねだりタイム』
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