24 不穏な気配
よし! 早く図書室に行こう。もう先輩も待ってるかもしれないし……
この前先輩と一緒に勉強してから、私は放課後毎日図書室で先輩と一緒に勉強していた。
古典の苦手意識も無くなったし、むしろ面白くなったぐらいだ。
歌のところなんかは特に面白くて、最近はテスト範囲じゃないとこまで勉強しちゃってる。あっ……それはだめかな?
「か・な・で・ちゃぁん」
私が身支度をして廊下に出ると、そう声をかけてくる人が……
「的場君……」
「どこ行くのぉ? って、聞かなくても分かるけどねぇ」
的場航輝君……この学校に進学した、私と同じ中学校出身の男の子。クラスが違うから、話すことはないと思ってたけど……
「また図書室でしょ?」
私が図書室に行ってることを知ってる……? 的場君も図書室にいたってこと?
「的場君も図書室で勉強してるの?」
「さあ? そんなことより、最近いっつも男と一緒にいるよね?」
的場君は私の質問には答えず、重ねて私に問いかけてきた。というより、確認してるような口ぶりだ。
「それって……先輩のこと? いつも一緒に勉強してる……」
「そうそう、先輩〜。馴れ馴れしいんだよな、あいつ」
的場君はさっきまでのヘラヘラした様子から一変して、低く、小さな声で、けれどはっきりとそう言った。
「……別に先輩は馴れ馴れしいわけじゃないよ.私に勉強教えてくれるし」
自分の勉強も大変だって言ってたのに、私のためにわざわざ時間を作ってくれてる先輩のことをそんなふうに言われるのはなんか違う気がする。
「あっ、そ。別にそんなこと聞いてないけどね。それより、そいつと旅行にも行ったみたいだね」
……なんでそんなことを……
「なんで僕がそんなこと知ってると思った?」
「!!」
「奏ちゃんのことだったらなんでも知ってるよ〜。僕の彼女だしね?」
私の考えてることを先読みされたことには驚いたけど、的場君のその後の言葉の方がもっと驚いた。
「……ここでそんな話しないでよ」
「え〜? なんで? 別に良くない?」
「……先輩待たせてるし、もう行くね」
これ以上話していても本当に先輩を待たせるだけだから、私は一方的に話を切り上げて図書室へと向かった。
◆
「そんなにその男が大事か? ……まぁ、別に構わないか。奏は僕のものなんだから」
◆
「先輩っ、すみません、ちょっと遅れちゃって……」
俺が笹森さんがくるのを待ちつつ、図書室で先に勉強を始めていると、笹森さんがそう言って謝ってきた。少し息が切れてるように見える。そんなに急がなくても俺は大丈夫なのに。
「全然大丈夫だよ。時間もいっぱいあるし、焦んなくてもオッケー」
そう言って俺は右手で丸のマークを作る。
「ありがとうございます。……でもなんかそのセリフ、負けフラグみたいですね?」
「……たしかに!」
まだ大丈夫と思った時は大抵ろくなことにならなかった経験がある。というか、そういう経験しかない気すらする。
「ふふっ、そうならないように勉強しますか」
笹森さんはそう言って勉強道具を机に出している。
やっぱりそうだよなぁ。こればっかりはやるしかない。
それから俺たちは、ここ最近毎日やっているように、二人で勉強を始めた。
それぞれ自分の勉強をし、時々笹森さんがわからないところを聞いてきて俺が教えるといった感じだ。
笹森さんに勉強を教えるのにもだいぶ慣れてきた。……笹森さんがこんなに近くにいることには全く慣れないが。
◆
「はぁ〜、終わったぁ!」
「疲れた〜」
その後もテスト勉強を続け、なんとか今日の分のノルマを終わらせることができた。
「このペースなら定期試験もなんとかなりそうだなぁ」
「ふふっ、そうですね。留年して私と同じ学年にならないでくださいよ?」
笹森さんはそう言って笑っている。
俺が一度留年しようかと思ったことは内緒にしておこう。
「ははっ、頑張るよ。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
俺は笹森さんにそう声をかけて、図書室を後にした。
◆
「テストまであと四日ですね」
「そうだね。まだやり切れてない科目もあるけど……中学校の時と違って高校では四、五日に分けてやるからちょっと楽になるかも」
笹森さんとの帰り道。俺たちは会話をしながら帰宅していた。
「たしかにそうですね。科目数は多くなるけど、午前で帰れる分勉強できますもんね」
中学生の時は一日で全部終わらせたから負担が大きかったが、高校では科目が増える分、日数も多くなる。
「そうそう。最悪一夜漬けで」
そのため、"一夜漬け"という秘奥義を使うことができる。一日三科目ならなんとかならんこともない。
「でもちゃんと寝てくださいよ?」
「ははっ、ありがとう」
俺も一夜漬けはなるべくしたくないから家帰ってからもうちょっと勉強するか。
「……先輩のおかげで私も助かってますし、体調には気をつけてくださいね?」
私のせいで風邪ひいたりとかしたらやだし……と笹森さんは呟いている。
「ははっ、大丈夫大丈夫。最近は結構あったかいし」
そろそろ六月も半ばに差し掛かろうかという時期だ。
肌寒かった春に比べてだいぶ気温も上がった。
「それもそうですね」
笹森さんも同じことを感じたのか、軽く笑みを浮かべている。
最近は笹森さんのこんな表情を見ることが増えた気がするなぁ。
やっぱり一緒にいる時間が増えたからかな? とにかく笹森さんの笑顔が見れるのは良いことだ。
「先輩、じゃあまた明日もよろしくお願いします!」
俺がしみじみとそんなことを考えていると、笹森さんは体を翻してそう言った。
「うん、じゃあまた明日」
俺がそう言って別れの挨拶をすると、笹森さんはそのまま角を曲がって自分の帰路へと戻った。
しかし……今日が木曜日だから、笹森さんと一緒に勉強できるのは明日だけかぁ。楽しい時間はあっという間だなぁ。
テスト期間がこんなに名残惜しいと思ったのは初めてだ。まあ、それほど笹森さんと過ごす時間が幸せだということだけど。
「ん?」
俺がそんなことを考えながら何気なく足元を見ると、ストラップのようなものが落ちている。
なんかのアニメのかな? ……そういえば明里がこんな感じのを持っていた気がする。
そういえば、笹森さんと同じアニメの話で盛り上がった、みたいな話を前にしてたな……
俺がそんなことを考えていると、ポツポツと雨が降り出した。
「やべっ」
さっき笹森さんに体調崩さないって言った側からこれだ。流石にずっと雨に打たれていたら体調を崩すかもしれない。
でも……このストラップ、笹森さんのかもな。
俺はそう思い、笹森さんの去った方向を見るが……
「追いかけるか」
すでに笹森さんの姿はなかった。
明日聞いてみても良いかとも思ったが、もし笹森さんがこの雨の中探しに戻ってきたら大変だ。
そう思い、俺は笹森さんの跡を追うことにした。
不穏な気配を漂わせたまま今回は幕引きです。
この先の展開を考えなきゃいけない作者にも何やら不穏な気配が近づいていますが、なんとか踏ん張りたいと思います。
『本日のおねだりタイム』
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