21 笑顔が一番
「いてて……」
横になると頬が擦れてさらに痛いな……
「大丈夫かー?」
隣のベットで横になっている優也が、スマホの画面を覗きながらそう声をかけてくる。
……あまり心配そうではないが。
あの後俺は笹森さんにビンタされたわけだが……
俺はちゃんと"ごめんなさい"をして、なんとか解放してもらうことができた。
「他のお客さんもいるから! 奏ちゃん落ち着いて!」
と明里がなだめてくれたおかげだな。
まあ、そんなこんなでなんとか部屋まで戻ってきたわけだ。
「結構な勢いで叩かれてたからなー」
そう言って優也はケラケラと笑っている。
「だが悔いはない。死の恐怖を感じたが、初めて笹森さんに触れてもらえたからな」
「ホントたくましいな……」
でも、笹森さんを怒らせてしまったこともまた事実。後でちゃんと許してもらえるように頑張ろう。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
いつもは十一〜十二時頃に寝るから、今日はいつもよりかなり早めの睡眠だ。
だが、朝から準備だなんだで忙しかったからか、気づいたら寝ていた。といっても寝ているから気づくも何もないが。
◆
日付が変わって六月四日。俺たちが旅館をチェックアウトして、家に帰る日だ。
チュンチュンッという小鳥のさえずりが聞こえるわけでもなく、俺はふと目が覚めた。
う〜ん……今何時だ?
そう思い、俺は枕元のスマホを手に取る。電源を入れて表示された時刻は五時二分。
まじか……こんなに早く起きちまった。チェックアウトまでかなり時間あるぞ?
たしか朝食は七時にならないと食べに行けなかった気がする。朝食を済ませてからチェックアウトして電車に乗り、昼前には家に帰るという予定だ。
んー……どうしよう。優也もまだ寝てるし……
流石に、早く起きすぎたから遊ぼー! と言って起こすわけにもいかない。というか起こしてもすることがない。
しゃーない。朝風呂でも入るか。
俺がこんなに早く起きるのも珍しい。
二度寝するのもなんだか勿体無い気がしたので、俺はそう思い立ち、温泉に行く準備を始めた。
◆
優也を起こさないよう、ゆっくりと部屋のドアを閉め、外に出る。
めちゃくちゃ静かだな……爺さん婆さんなんかは早起きしているものかと思ったが……
俺の予想に反し、俺以外の時が止まっているのではないかと錯覚するほど、外には音が無かった。
なんかちょっと不気味だな……
かまくらの暗い感じが苦手なように、俺は結構怖いのが苦手だったりする。
でも笹森さんに何かあった時のために克服しないと!
俺はそんな決意を固め、廊下を通って、温泉へと向かった。
やっぱ誰もいねぇな。
更衣室の中も人っ子一人居ない。
でもこういうのはなんか解放感があっていいかもしれない。
それに温泉は人がいない方がゆっくりできるしな。
折角だから貸切の温泉を堪能しよう。
◆
と、いうわけで俺は貸切風呂を満喫して、のれんをくぐって外に出た……
「あっ」
「あっ」
……ところで、廊下のベンチに座ってコーヒー牛乳を飲んでる笹森さんを発見してしまった。
「笹森さん……も温泉に?」
「あっ、はい……なんか朝早くに目が覚めちゃったので」
笹森さんの方が先に温泉に入ってたから俺と合わなかったのかな?
「俺もなんだよね。昨日早く寝過ぎたのかも」
俺はそう言って笑うが、笹森さんはどこかぎこちない笑顔を返してくる。
「俺もなんか飲もうかな」
そう言って俺は正面にある自販機でコーヒー牛乳を一本買って笹森さんの隣に座った。
「もしかして……昨日のこと気にしてる?」
笹森さんは昨日俺にビンタしたことを気にしてるのかもしれない。そう思った俺は笹森さんに尋ねてみた。
「まぁ……」
「なかなか強烈な一撃だったもんね」
俺は冗談混じりに笑う。
「すいません……先輩なのに、強く叩いてしまって……」
……が、笹森さんはやはりビンタを気にしているらしく、申し訳なさそうに話す。
これは正攻法で慰めても無理そうだなぁ。
「はあ……全く……」
「……やっぱり怒ってますか……?」
怒るわけがない。だって……
「そもそも俺が笹森さんの下着見たのが悪いんだし」
「でも……」
「まあ、俺が選んだキャミソール着てくれてて嬉しかったけど」
「……」
「あのビンタもむしろご褒美なのでは……?」
「……先輩、実は喜んでますか?」
「あっ、ばれた?」
たとえビンタされたとして、あれを喜ばない奴はいないだろう。世の中そういうふうにできてる。
「それに、あ、あの下着は、別に先輩が選んだわけでは……」
「まあ、気の利いた感想全然言えなかったからね」
「……可愛いって言ってくれたじゃないですか」
「え?」
「……なんでもありませんよ」
声が小さくて聞こえなかった。……わけがない!! 俺はそんな難聴鈍感男にはならんぞ。
「あれぐらいで喜んでもらえるならいつでも言うよ」
「〜〜〜〜っっ! 聞こえてるじゃないですか! やっぱりもっとビンタしとんくんでした!」
「ははっ、やっといつもの笹森さんに戻った」
「どういうことですか……」
やっぱり好きな人が落ち込んでる姿なんて見たくない。それが自分のせいだというなら尚更だ。
「笹森さんは元気な方が笹森さんらしいからさ」
「だからどういう……」
笹森さんは困惑した様子だが、最後まで言い終わる前に、俺は自分の思いを伝えた。
「その方がかわいいってことだよ」
落ち込んでる姿よりも元気な姿が見たい。当然の思いだ。
「はぁ……まったく……」
笹森さんは仄かに顔を赤く染め、呆れたようにそう一息ついたかと思うと、
「先輩も、先輩らしいですねっ?」
そう言って満面の笑みを浮かべた。
やっぱり笑顔の方が似合うな、笹森さん。
これからも笹森さんのいろんな顔を見たいと思うけど、やっぱりこの笑顔が一番好きなんだろうとも思う。
◆
その後も俺たちは他愛もない話をして笑い合った。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻ろうか。朝食食べないと」
もう時刻は七時に近づいていた。そろそろ優也たちを起こした方がいいだろう。
「そうですね。あっ、先輩」
「ん?」
「また、来ましょうよ。温泉」
笹森さんは少しうつむき気味にそんな提案をしてきた。それは、俺も願ったりな提案だ。
「もちろん!」
こうして、俺たちの温泉旅行は幕を閉じた。
正確には、部屋に戻って優也を叩き起こし、みんなで朝食を食べてから電車で帰ったのだが、電車では早起きしたせいか寝てしまったし、特に語ることもないだろう。
数えてみたら、温泉旅行始まってからもう六話も経つんですね……
作者的には約一週間。なんか自分まで温泉旅行に行った気分で楽しみながらかけました笑。
『本日のおねだりタイム』
ブックマークの登録と、下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価をしてくれるとこの作品にポイントを入れることができます!
ポイントが入ると布団の上でバク宙するぐらい喜びます! できませんが!
ランキングに載ろうものならぶっ倒れます。これはできる!
ということで、作者のお願いを聞いて次回まで待っててくれるとうれしいです! ではまた次回!




