20 漢が決して抗うことのできない"力"
あんな顔で言われたらなあ……
奏ちゃんと一緒に温泉を満喫した私は更衣室でさっきのことを思い出していた。
奏ちゃんが雄二のことをどう思っているのか、気になって聞いてみたけど……奏ちゃんはすごく嬉しそうに雄二と出会った時の話をしていた。
奏ちゃんは好きとも嫌いとも言わなかったけど、少なくとも嫌いではないのがあの反応から伝わってきた。
……私も気合い入れないとっ! 奏ちゃんが雄二を好きになってしまってからでは手遅れだ。
「明里さん?」
「え?」
呼ばれた声がして振り向くと、少し心配そうな表情を浮かべた奏ちゃんが私を見ていた。
「浴衣、着ないんですか?」
「あっ……」
……忘れてた。考えるのに夢中で下着姿のままだ。
そりゃ奏ちゃんも心配するよ……
隣で下着姿のまま固まってる女の子がいたら……
「ご、ごめんっ、ちょっとのぼせちゃったかも……」
まさか奏ちゃんの雄二への気持ちについて考えてたとも言えないから、咄嗟に嘘をつく。
「大丈夫ですか? ちょっと涼んだほうが……」
奏ちゃんはそう言ってさっきよりも一層心配そうな表情を浮かべている。
「夕飯の時間に間に合わなくなっちゃうし、大丈夫!」
うぅ……本当にごめん奏ちゃん……
奏ちゃんの心配そうにしている顔を見ていると、心配させるような嘘をついてしまったことが本当に申し訳なく思えてくる。
「そうですか? 無理はしないでくださいね?」
「うん、ホント大丈夫だから! ありがとね!」
私はそう取り繕って浴衣を羽織った。
◆
俺たちが温泉を出てから十分くらい待っただろうか、優也と談笑していると、女湯ののれんをくぐって浴衣姿の笹森さんたちが顔を出した。
「ごめん、結構待った?」
「……雄二、感想は?」
「やはり風呂上がりという、いつもは見ることのできない姿は新鮮だ。
まだ少し乾ききっていない髪がまた最高であり、シンプルなデザインながら感動を覚える浴衣という服には畏敬の念すら覚えるな」
優也に感想を求められ、俺は今の感情を赤裸々に話したのだが……
「先輩……感想が気持ち悪いです……」
笹森さんから訝しむような視線をいただいてしまった。
「いや、俺らもゆっくり浸かってきたからそんなでもないぞ」
「何普通に会話戻してるんですか」
「このまま笹森さんの罵倒を受けると色んな意味で心が壊れそうだから」
「なんですか、それ……」
「じゃあみんな揃ったし、食堂行こーぜ」
という優也の提案から、ようやく俺たちは動き出した。
「だな。時間的にもちょうど良いんじゃないか?」
夕飯は七時から食堂で食べられるようになる。
今が六時五十分だから、着く頃にはちょうどいいだろう。
「夕飯もつくなんて豪華ですよね」
「松中先生に感謝しないと!」
「いや待て、俺が部活創立失敗したおかげだろ?」
「それもそうだなー?」
ガハハと大きく口を開けて優也が笑い出すと、みんな一斉に笑い出した。
「たしかにっ!」
「先輩の行動力のおかげですねっ!」
「だろー?」
◆
その後も他愛もない話をしながら、俺たちは食堂へと向かった。
「ここに座るか」
食堂の中は宿泊客が席に着いて、すでに食べ始めている人もいた。
「わ〜! こんなにメニューあるんですね?」
席に着いてメニューに目を通した笹森さんが歓喜の声を上げている。
「そうだね。なんか居酒屋みたい」
俺が手に取ったメニュー表からは、唐揚げや枝豆など、酒のつまみになりそうなものから、定食やドリンクなど、かなり豊富なラインナップが見てとれた。
「俺は、さばの味噌煮定食にしようかな」
「えっ、中西先輩渋いですね、なんか意外です」
優也がそう口にすると、笹森さんは意外そうな表情を浮かべて優也につっこんでいた。
「はっはっはっ、まあな? 結構こういうのが好きなんだよ」
いつもヘラヘラしてるからなかなかイメージできないが、こいつ和食とか結構質素なの好きなんだよな。
◆
それから俺たちは各々食べたい料理を注文し、待つこと数分で料理が運ばれてきた。
「おっ、うまいな」
俺の注文したしょうが焼き定食は、脂身も少なく、肉も柔らかいため、とても食べやすい。
「あっ!」
俺がしょうが焼きを味わっていると、向かいに座っている笹森さんが声を上げた。
笹森さんが声を上げるのとほぼ同時に、カランカランッ、と音が鳴った。
どうやら箸を落としてしまったようだ。拾ってあげたいが、ここからだと手の届かないところにある。
俺が箸を拾いに行けずにいると、笹森さんは席を立ち、しゃがんでいた。そう、箸を取るために……
……だが!!
それよりもなによりも、俺は笹森さんがしゃがんだ時に浴衣がほどけて見えてしまった胸元に釘付けになってしまった。
かなり、大きい……!! 有無を言わせぬ圧倒的な説得力、「私はここにいる!」とでも言いたげなその存在感……!!
漢が決して抗うことのできない力を俺は目の当たりにしてしまった。
しかも、その胸を包み、肩にかかる黒いレースには見覚えがある。
これは……
「俺が選んだキャミソール!」
俺が高々に声を上げると、というか、声に出してしまうと、
「……先輩、どこ見てんですかぁ……!!」
箸を拾い終えた笹森さんが泣きそうな顔でこちらを見ている。なんか若干唇も震えている。
これはまずいな。流石に笹森さんの下着! とは言えない。
「……可愛いキャミソールが目に入ってしまったもので」
ちょっと言葉を変えたけど、同じ意味だな、これ。
「〜〜〜〜っっ!! なんで見てんですかぁ!!」
"殺される"俺がそう肌で感じたのは、笹森さんから強烈なビンタをもらった後のことだった。
漢には決して抗えないものがある……
それがおっぱい。
漢の目は常におっぱいに引きつけられるもの。
その引力に抗うことは決して許されない。
……というありがたい教えを雄二に教えてもらう話でした!
作者の趣味嗜好は一切関係ありますん。
ここからが作者の思いです。そう、いつものやつです。
『本日のおねだりタイム』
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