18 入浴
旅館のフロントは、既に浴衣を着て談笑している宿泊客や、温泉に入ろうと、入浴セットを片手に歩いている人が行き来していた。
幸い、フロントに人が並んでいるわけではなかったので、俺たちは早速チェックインを済ませ、今日泊まる部屋を見に行くことにした。
◆
「おー、結構綺麗だなー」
「これが無料とか、改めてすげーな……」
部屋の中にはベットが二つ、ライトを挟んで置いてあり、ソファや小さめの机なんかもある。なかなか小綺麗な印象で、無料で泊まるには申し訳ないくらいだ。
「んじゃ、早速……」
「準備しますかー」
俺たちは、早速温泉に入るための準備を始める。
電車に乗っていただけとはいえ、結構な長旅で疲れたからな。
夕飯が七時からと言うこともあり、先に温泉に入ることにしたのだ。
「ゆ〜ゆ〜! 温泉行こっ!」
俺たちが準備をしていると、ドアを挟んだ部屋の外から明里が俺たちを呼んでいる声が聞こえた。
「おー! 今行くー」
俺はそう返事をし、急いで準備を済ませて優也と二人で部屋を出る。
「もう準備できたの?」
「お風呂セットは一式まとめてましたからね」
そう言って笹森さんは得意げに、スキンケア用品のようなものの入ったバックを見せてきた。
なるほど、それは楽だ。俺もそうゆうの持ってくればよかったかなあ。
「んじゃ、行くか」
「そうだな」
そうして、俺たちは温泉へと移動を開始した。
「私、温泉なんか久々だから楽しみです」
「あ、私もっ。なかなかこんなとこまで来る機会無いもんね?」
「県内だけど、自分たちで来るには遠すぎるからな」
薔薇の湯に行くには、今回のように電車か、車で来るしか無いからな。車だとかなりの時間がかかるため、なかなか来れない。
「あ、そういえば雄二のやつ、女湯のぞくって言ってたよ」
「言ってねぇよ! 何唐突に爆弾投下してんだ!」
ほんとに唐突に優也がそんなことを口走りやがった。
「え〜、雄二キモイよ?」
「先輩……見損ないましたよ」
二人して俺を責めてくる。笹森さんの怪訝そうな視線が痛い。胸に穴が開きそうだ。
「本当に言ってないんだってぇ……」
俺が悲しみをあらわに項垂れると、三人ともケラケラと笑い始めた。
「ふふっ、冗談ですよっ」
「雄二、すぐ真に受けるんだから〜」
「はははっ、本当にのぞいたらだめだぞ?」
「お前らなあ……他の客もいるんだから覗くわけないだろ」
俺は素直にそう言ったつもりだが……
「他のお客さんがいなかったら覗くんですか……」
……少しだけ本音が混ざってしまったようだ。
なんか今度は本当に引かれた気がする。
◆
しかし俺は必死の思いで心を保ち、温泉にたどり着くことができた。
なんかすごい大冒険みたいに言っているが、部屋を出てから三分くらいしか経っていない。
「じゃっ、上がったらここで待っててね」
「ああ」
そう言って女子組は女湯へと入っていった。
多分俺たちの方が早く上がるだろうから、温泉を出たところにあるベンチで待ってなくてはならない。
「じゃあ、俺らも入ろーぜ」
「そうだな」
そうして俺たち男子組は更衣室に向かった。
◆
「いやー、結構長旅だったからな、早く入りてー」
「だなー」
俺たちは旅の疲れを癒すため、手早く服を脱ぎ、温泉へと足を向けた。
「おっ、結構広いな」
「露天風呂もあんじゃん!」
温泉の中はかなり広く、他の客もあまり多くはいないため、余計に解放感がある。
温泉もざっと見た感じでも五〜六種類くらいあるように見える。これに露天風呂もあると言うのだから、大満足だ。
俺たちは体と頭を洗うのもそこそこに、温泉へと飛び込んだ。と言っても、他の客もいるのだから実際に飛び込んだわけではないが。
「は〜〜、極楽ごくらく〜」
「おっさんかよ〜、でもまあ、確かにいい湯だな〜」
俺たちが今入っているのは、足の裏と肩に目がけて勢いよく水が噴射される温泉……いわゆる、泡風呂というやつだ。
電車内でずっと座ってたこともあり、この泡風呂はかなり効く……目をつぶるとそのまま眠ってしまいそうだ。
俺たちはしばらく泡風呂を堪能し、次に向かったのは、オーソドックスな長方形の温泉だ。
これと言った特徴はないが、さっきの泡風呂よりも広いため、開放感がある。
黙って入っていると、時間がすごくゆっくり進んでいるような感覚にとらわれる。
「そろそろ露天風呂も行ってみようぜ」
俺が温泉を堪能していると、優也が声をかけてきた。
あまりの気持ちよさに、優也の存在を忘れかけてたぜ……
「そうだな。のぼせる前に露天風呂も堪能したい」
「ほんとに温泉好きだな〜」と笑う優也の後に続くようにして、俺は露天風呂へと向かった。
露天風呂は、すごく浅い温泉……足湯? みたいなのや、かまくらのようなものまである。
「あのかまくらみたいなの入ってみよーぜ」
かまくらみたいな温泉に興味を引かれた俺は、優也にそう提案する。
「おう」
そう相槌を打った優也と共に、俺はかまくらの中に入る。
「すげー、こんな暗いもんなのか?」
「しかも結構広いぞ?」
かまくらの中は優也の顔が見えないくらい暗かった。
優也は手探りにかまくらの中を歩いて、いや泳いで? いるが、本当に真っ暗で怖すぎるので、俺はかまくらの入り口で一歩も進めずにいる。
「お前もこっちこいよー、なんか椅子みたいなのあるから座れるぞ?」
「そんなのもあんの?」
じゃあ頑張って進んでみようかな。そろそろ目も暗闇に慣れてきたし……
俺が少し進むと、何か足に当たる感触がした。
「おっ、これか?」
そう言って腰を下ろすと、すんなり座ることができた。
なんか密室な感じがしてちょっとテンション上がるな……猫がダンボール好きなの何となく分かる気がする。
「そういやお前、だいぶ奏ちゃんと距離近づいたんじゃね?」
俺が猫のことを考えていると、ふと優也が口を開いた。
「確かになー、こうして一緒に温泉来れるくらいだし……でも距離が縮まったせいか、さっきはからかわれたけどな」
「だろー?」
「まぁ、笹森さんにならからかわれるのもご褒美だけどな」
暗くて見えていないと思うが、俺は今最高のキメ顔でそう答えたつもりだ。
「はっはっ、違いねぇ」
「そういや、お前はどうなんだ? 誰か気になる人とかいないのか?」
俺はふと疑問に思い、優也にそう聞いてみた。
「……俺はまだ、いいかな」
「そうなのか? でも気になる人ができたら教えろよ? 俺も応援してもらってるし」
「ああ、そうだな」
どこか煮え切らない答えだったが、きっと優也にも色々思うことがあるのだろう。
こいつ、顔はいいから昔からよく告白とかされてたみたいだしな。
まぁ、俺と同類なため、今では優也に告白するやつなんて同学年にはいないが……
かまくらを出てからは足湯にも入ったが、寒すぎたのですぐ上がった。もう夏前とはいえ、全裸で外にいるのは流石に寒い。
ともあれ、温泉をたんまり堪能した俺たちは、外で笹森さんたちを待つことにした。
温泉……いいですねぇ
こんなご時世なので、温泉旅行なんてそうそう行けないですから、雄二たちがうらやましいです笑
『本日のおねだりタイム』
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