141 ちゃんと分かってるからよ
なっ……!? 私じゃダメですかって……笹森さんが俺のことを……!?
待ってくれ。一切整理がつかない。解決策どころか、余計に頭がこんがらがる。
「……すぐには、決められませんか?」
「……っ!」
笹森さん……少し前から変わったなと思っていたけど、今日ほど積極的な時はなかった。
もう俺には逃げ道がないってことか。
優也にも言われた。困難な道だと。
それでも構わないと進み続けているようでいて、俺は何も進んでいなかった。
それを今、変えないでどうするってんだ?
「……俺が前から好きなのは、笹森さんだよ。ずっと一緒にいたいし、何度付き合うことを夢見たか分からない」
「ふぇっ!? そ、そうでしゅ……そうですか」
あ、なんか今、いつもの笹森さんを感じた。
「だから、今すぐ返事をしたい。けど――」
「け、けど……?」
また笹森さんを不安がらせてしまっている。
男なら、好きな人にそんな思いをさせたくはないが、今返事をするのは、笹森さんをもっとおざなりに扱っているようで絶対に嫌だ。
「俺が心から、笹森さんだけを好きだと思えるまで、待って欲しい……!! ごめん。本当に。こんなしょうもない男で、本当に……!!」
こうやって頭を下げても、全く気が収まらない。
夢見ていた、かっこいい自分なんてのはいない。好きな人に、まともな姿一つ見せることもできないのが本当に情けない。
「顔をあげてください。……でも、待つのは嫌です。もう十分待ちましたから」
だよな……他に好きな人がいるから、気持ちを整理するまで待って欲しいとか……そんなこと言われたら、愛想も尽きるってもんだ。
「ただ黙って待っているのは嫌です。私が、先輩を、私だけしか見えないくらいに夢中にさせてやるんです!」
「……っ!!」
な、なんて……? てか、顔近っ……!!
俺の両頬をがっちり掴んで顔を近づける笹森さんに、なす術なんてあるわけもない。
「だから、後少しだけ待ってあげます」
そして得意げに笑う顔を見せられたら、顔を上げることすらできなくなった。
情けないぜ……簡単に悩殺されるなんてな。
◆
「自分から言っておいてなんだけどさ、付き合うとかそう言うのは、もう少し待って欲しいんだ」
1日を買い出しに費やした夕暮れの帰り道。
明里はそう言って切り出した。
「……雄二のことだろ?」
優也は、分かっている、と明里に顔を向けた。
「……うん。私が雄二の気持ちを振り回したんだから、ちゃんと最後まで見届けてからにしたいの」
「それは俺も同感だ。俺のわがままもあったからな」
「わがまま?」
明里にそう訊かれ、しまった! と言った表情を浮かべてしまった。
「あ〜……いや別に、たいしたことじゃねぇよ」
ごまかすが、一度見せてしまった表情を、明里は見逃していない。
それが分かっているからか、優也は今一度明里に顔を向け直す。
「……いやさ、俺はお前のことが好きなんだけど」
「う、うん……ありがと……」
夕焼けに照らされた明里の頬は、それだけじゃないくらいに赤みを帯びていた。
「お前にも、俺だけを好きでいて欲しいなって思っただけだ」
「〜〜っ!! や、やっぱりそれくらいで……!!」
もう恥ずかしさ爆発5秒前ってくらいだ。優也の持てない分の荷物をいくつか持っているせいで、顔を隠すことができないのが何より辛そうだが。
「だから、明里には雄二への思いを断ち切ってほしかったんだよ。それで、雄二の気持ちを後押ししたってわけだ」
「……そうだったんだ。私も、雄二の気持ちには気づいてたよ」
「……あぁ」
「でもその上で、私は雄二との可能性を捨てた。自分を誤魔化すのはもう、辞めたかったから」
これが明里の本心なのだろう。雄二を好きなら、その好意に気がついた時点で間違いなく動いていた。
「……だから、さ。……そんなに心配しなくても、私は優也だけしか見てない……っていうか……!! そ、その……!!」
「恥ずかしいなら言うなよ……ちゃんと分かってるからよ」
優也は人にあまり見せることのない、柔らかな笑みを明里に見せる。
全てを断ち切り、進むことのできた2人は、親友のサポートに回る。




