138 ……やっぱり、似合ってます。……すごく
そわそわ。
「……」
そわそわそわ。
「…………」
これ以上そわそわしても仕方ない、か。
大型ショッピングモール内。その通路に並べられたソファでさっきから忙しなく行っていた貧乏ゆすりを止めて深呼吸をする。
まさか笹森さんがショッピングに誘ってくれるなんて……こんなチャンス、願ったり叶ったりすぎんだろ。
笹森さんに誘われたショッピングの日になったわけで、俺はこうして笹森さんが来るのを今か今かと待ち侘びている。もちろん30分前行動だ。
「あ」
「ん?」
回想に耽る頭に、少し高い声と甘い香りが届く。
「やっぱり先輩じゃないですか」
顔を上げると、どこかほっとしたように微笑む笹森さんの姿が。
「笹森さん! おはよ……ん、やっぱりって?」
まだ昼前だし、まずは朝の挨拶からだな! と思いかけて、さっきの笹森さんの言葉が引っかかった。
「いやだって、私あっちからここまで歩いてる間もずっと下向いてましたよ?」
風がピューピュー吹いている入り口付近を指差しながら、笹森さんはそう口にする。
え、俺そんな下向いてたの? いや確かに、色々考え込んでたけども。
心外だな、と思いつつも思い当たる節もあるわけで。
「あはは、まぁいいです。……行きましょうか!」
俺が記憶を辿っていたからだろう。笹森さんは仕切り直すようにそう言って、俺の手を引くように歩き出した。
え? 手を引く? 手を引く!?
「え、ちょっ、笹森さん……その、手が……」
「あ、あれ!? すいません、つ、つい……」
「……いや、たまにはこういうのも……いいかも」
おっと本音が。いやでも笹森さん、こんなことしてくる感じだったっけ……?
「よかったです……!」と胸を撫で下ろすような仕草を見せる笹森さんを見て、そんなことを思った。もちろん、それを拒もうなどとは思いもしなかったが。
◆
「前に来た時とはなんか雰囲気違って見えるねー」
「そうかもですね。売ってるものも変わってますし……」
こうして2人でいると、やっぱり笹森さんと一緒にいるのは幸せなんだよな……
きょろきょろと小さな顔を動かしながら、スキップしそうなくらい無邪気な笑顔で歩く笹森さんを横目に、改めてそんなことを考える。
「あっ……」
また物思いに耽っていたせいだろうか。俺が何か見落としたのか、笹森さんはハッとしたような声をあげた。
「ん? どうしたの?」
「その時計……」
呟くようにそう口にする笹森さんの視線の先には、俺の左腕があった。
となると……
「あぁ、笹森さんにもらった時計。学校にいるときはもったいなくて付けてないんだけどさ……外出する時は、やっぱりつけたくなるんだよね」
「……やっぱり、似合ってます。……すごく」
「あはは、ありがとう。笹森さんが似合ってるの選んでくれたからね」
素直に褒めるのが気恥ずかしいのか、隣の後輩は頬を赤く染めて俯き出した。
いやかわいい。純粋にかわいい。完膚なきまでにかわいい。
「あ、先輩顔赤いですよ?」
「っっ……!! それは笹森さんが……ん?」
自分のことを棚に上げてクリティカルを繰り出す笹森さんに突っ込もうとした時。
笹森さんの背後。秋物の服を店頭に並べている今時のファッション店。
「明里……?」
そこで楽しげに服を手に取って体の上から重ねている明里に視線を吸い寄せられた。
でも問題なのはそこじゃない。笹森さんと一緒にいながら、俺が視線を奪われる理由は、そこじゃない。
「中西先輩も一緒ですね……?」
ふいに、笹森さんがそう呟いた。
楽しげに服を物色する明里の隣には、同じく笑顔を浮かべる優也の姿があった――




