137 やるぞぉぉぉぉーーーー!!
9月も終盤に差し掛かり、暑さも少し和らいできた。
料理勝負から1週間が経ったが、俺はなかなか動き出せずにいた。
ったく……積極的になるとか言ってたのが情けなく思えてくるな……
休み明けの月曜ということもあってか、そんなネガティブな感情しか出てこない。もう放課後だってのに。
……が、いつまでもこうしているわけにはいかない。動かないと始まらないのはよく分かってる。
「……よし」
意を決して、教室を出ようと立ち上がった明里の元へと足を向ける。
「ん? 雄二? どうしたの?」
俺が声をかける前に、その存在に気付いた明里は不思議そうに首を傾げる。
「す、水族館! この前新しくできたのあるだろ? よければ週末にでもどうかなって――」
先週から今日の放課後になるまで何度も考えていた言葉を口にした時。
「ご、ごめん! その日はちょっと用事があって……」
俺の言葉を遮るように、明里はパンッと手を合わせて申し訳なさそうにそう言った。
「あ、あ〜……そうか。じゃあまぁ、また今度でも……」
まじか……まさか断られるとは……って、なんか前にもこんなこと思ったけな……
誤魔化すように"今度"なんてのを期待してる俺が、どうしようもなく惨めに思えてきた。
「……ちなみに用事って……?」
詮索するような事じゃないし、そんな場面でもないことは分かっているはずなのに、気がついたらそう口にしていた。
くそっ……!! これ以上自分を嫌いにさせないでくれよ……!!
そう願うが、一度口にした言葉は消えない。
「あ、えっと……」
ほら。明里がこうやって困るのは分かりきっていたのに。それなのに、こんなくだらないことを……
「この前、文化祭の買い出し担当決めたよね? その時、私が担当になったから……」
そういやそうだったな。
結局、文化祭の出し物はたこ焼きに決まったから、タコやら粉やらの材料を買いに行く担当を決めたんだ。
そしてその担当が、責任感皆無の男どもじゃ話にならないからと、女子を代表した明里になったんだった。
「それで、週末は買い出しに行こうと思ってて」
「だよな。悪い。変なこと聞いちまって」
一言謝って、足早に教室を後にする。これ以上ここにいて、余計なことを話すわけにはいかない。
◆
「……はぁ……こりゃ確かに簡単じゃねぇ……」
学校の玄関で、俺はいつだか優也に言われたことを思い出していた。
"2人の人を好きになって、その気持ちの整理をするってのは簡単じゃねぇない"
これはどうやら事実みたいだ。1人なら、一途でよかった。あっちこっちに目を向ける必要はなかった。
だが……それをしないと先に進めないと思っているのだって、紛れもない俺の本心だ。
暗くなっていく気持ちを振り払い、帰路に着こうかと思った時。
「あれ? 先輩、まだ帰ってなかったんですか?」
聞き覚えのある……というか、今まさに悩んでいたもう1人の声が聞こえてきた。
「笹森さん」
「せっかくだし、一緒に帰りませんか?」
断る理由なんてあるわけがないだろうよ。
俺は二つ返事で了承し、今度こそ帰路に着く。当初の予定とはいい意味で異なり、隣には笹森さんがいるが。
◆
「……ところで先輩、今度の週末は空いてますか?」
学校が見えなくなるまで歩いてきた頃。笹森さんは、徐にそう切り出した。
「週末は……うん、空いてるよ」
正確には、空いてしまった、だけど。
ん? てかこの質問は……
「じゃあ、どこか行きませんか? その……2人で」
さっきまで前を向いて歩いていた笹森さんも、今だけはうつむき気味だ。
いやてか待て。どこか行く? 2人で? それは俺と笹森さんとってことだよな?
これは……
「お供させていただきます……!!」
笹森さんからのお誘い……!? そんなの……行くしねぇだろ……!?
「ちょっ、ちょっと先輩! そんな深々と頭なんて下げて……!! 目立ちますから! みんなこっち向いてますから! 〜〜っ!! 先輩ってばぁ〜!!」
悩んでるんだったら、明里も笹森さんも全力になればいいじゃねぇか……!!
やるぜ、俺は。必ず乗り越えてみせる。そして、その先にある高校生カップルという名の幸せを掴み取る……!!
「やるぞぉぉぉぉーーーー!!」
「先輩!? お願いですから落ち着いてください!!」
空に高々と上げた腕を無理やり下され、笹森さんから嬉しい説教を受けたのは今から数秒後のことだった。




