135 前を向くということ
「……」
久々に、思い出したな……受験の時のこと。
雄二の家からの帰り道。料理勝負の終わり際に思い出していたあの日に思いを寄せる。
日中から料理を始めたから、外はまだ明るいんだけど……
「……なんか、疲れちゃったなぁ」
料理を頑張ったからって言うのももちろんあるんだけど、総評の時が1番きたかなぁ……心に。
でもそれと同時に、心地いい気持ちが僅かにあるのも確か。
それはきっと、自分の本当の気持ちに気づくことができたからだと思う。
……いや正確には、逃げていた想いと向き合うことができた。
雄二を好きな想い……それは、ずっと私の中にあった。本当にずっとずっと……1人の時はいつも雄二のことを考えてしまうくらいに。
どうやったら好きになってもらえるか。どうやったら振り向いたもらえるのか。考えて考えて、告白だってした。
でも……それと同じように、私のことを好きだと言ってくれる人も現れた。
一緒にいたいって、デ……デートなんかもしたいって……
「……」
それでも、その想いを断ってきた。私には他に好きな人がいるから。ずっとずっと好きな人がいるから。
それを、理由にしていた。私を好きだって言ってくれる気持ちに向き合わないための逃げ道を作っていた。
それはきっと、自分を裏切ることで。優也の思いを踏み躙ることで。……雄二にだって、失礼なこと。
「……いい加減、前を向かないといけないんだよね……」
私が逃げていたことから、今度こそ目を背けないで。向き合って。それで、歩いていく。
そして何より……
自分の気持ちから逃げちゃダメだ。
薄々感じていた想いは、日を増すごとに存在感を増していった。
そして今日、それは確信に変わった。
私の好きな人は……もう明らかなはずだ。
「雄二……」
心のどこかで、「好き」だっていう気持ちが変わっていった。
受験のとき、初めて雄二と会って。
入学した時は、同じクラスになれて。
どれもこれも、本当に嬉しくって。それこそ、今でも思い出すくらいに。
……でもそれも、これで終わりにしよう。
それが、私の決心で、雄二への感謝。
私たちが、前に進むために必要なこと。
「あ、あれ……? おかしい……な……」
眩しすぎたからかな? なんか、視界が……揺らいで……きちゃった……
見上げた空は、ゆらゆらと揺れていた。
別に、振られたわけじゃないのに。いや、雄二には奏ちゃんがいるんだから、間接的にはそうなのかもしれないけど……だったら告白した時に……なんで今更……!!
「あぁ……そういうことか……」
――失恋って、自分から可能性を捨てた時も、感じる事は同じなんだ――
濡れた瞳を擦り、私はまた歩き出す。
この思いには、普通の失恋と違うこともきっとある。
それはきっと、後ろ髪を引くものがないこと。
堂々と、前を向けることだ。




