表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超積極的ラブコメを展開しようと思う  作者: おんたけ
プロローグの後のお話
134/144

134 ……どうでもいいよ……!!


 それは、雪が降り積もる日のことだった。人生で1番緊張していた、あの日。


 うぅ〜〜……とうとうこの日が来てしまった……


 受かる受からない、なんて今更考えても仕方ないことだけど、直線の模試でC判定だったことが脳裏にチラつく。


 そんな暗い過去を思い返しながら、なんとか足を進める。受験会場……わし高までは、まだ結構かかる。

 積もった雪をギュッギュッと踏みしめながら、受かる。……やっぱり受からない? を繰り返し考える。


「はぁ……」


 吐いた息も白く煙をあげる。そういえば、今日の最低気温はマイナスになるっていってたっけ。風も強いし、何もこんな日に受験しなくても……延期とかならないかな?


「なるわけないよね……はぁ……」


 そしてまた、白い息を吐く。


「あ……受験票……」


 通りがかった橋の上で足を止め、カバンに入ってるはずの受験票を確認する。


 といっても、家を出る前も確認したけど……でもやっぱり、こうやって定期的に心配になる。


「……よし。ちゃんと入ってる――」


 カバンの中、クリアファイルにしっかりと入っていることを確認して、念の為にとファイルから取り出してみたとき……


「えっ!? うそうそ!? あっ……」


 その時、私はこの世の終わりを肌で感じた。血の気が引いて、もはや寒いのかどうかも分からない。


 私が手に取った受験票は、強風に流されて降り続く雪の最中に吸い込まれていった。


 どうしよう……どうしようどうしようどうしよう……!!!!


 まさかこんなことになるなんて。受かる受からない、なんて考えていたのがバカみたいだ。そもそも受けれないじゃないか。


「そんな……ことって……っ……!!」


 私が今までやってきたことってなんなんだろう? こんなことになるなら、必死になって勉強する必要もなかった。高校受験なんて、意味なかった。


 ……もう……


「……どうでもいいよ……!!」


 髪に染み込んで溶ける雪が止んだのは、私がしゃがみ込んで呆然と呟いた時だった。


「どうでもよくないだろ」


「……え?」


 顔を上げて見えた()()()は、傘を私の上に持ち上げて私を見下ろしていた。


 降り注ぐ雪の嵐を指差し、その人は言う。


「受験、するんだろ? 探しに行こうぜ」


「……!! は、はい!!」


 その言葉で、私は救われた。どうでも良いと思って、諦めていた人生にまた、光が差し込んだ気がした。


 立ち上がった私は、彼と一緒に雪の中へと身を乗り出していった。





 で、結局受験票が見つかったのはそれから2時間後だったんだよね……


 急いでわし高に向かったけど、もう誰も近くを歩いてなくて。すごい焦ったのを覚えてる。


 でもそれよりも……


「え!? 君も受験生だったの!?」


「そうだよ?」


 彼は、それがどうかしたの? くらいの軽い感じでそう答えた。


「そうだよって……それなのに私に付き合って……それじゃ自分だって……」


 誰もいない廊下を歩きながら、私は悔む。


 これじゃ、私のせいでこの人の人生もおかしくしてしまったようなもの。そんなのは、絶対おかしいよ……!! 私なんかのために……!!


「いや、あんだけ困ってる人いたら助かるでしょ」


「……そういうもの?」


「そういうものだ。……あ、てか職員室ここじゃね」


 彼が指差した通り、私たちの目の前には職員室と書かれたプレートがかけられた大きめの部屋があった。





 職員室に入った時は2人とも雪まみれだったなー。


 ストーブがあったかくて職員室を水浸しにしたのが懐かしい。


「……え? 今日受験してない?」


「親御さんに連絡したと思うんだけど……」


 小太りの中年先生は、困ったように頬をかく。


 職員室で私たちは、呆然と立ち尽くしていた。だって、何を言っているのか分からない。

 受験日は確かに今日なはずだし、2人して同じ日に間違うなんて考えられない。

 

「この天気だしねぇ。交通機関が麻痺しちゃってるから、受験に来れない人が相次いだんだよ」


「…………」


「…………」


 うそ……でしょ……





 あの後はどうやって職員室を出たのかあまり覚えてない。突拍子もなさすぎて。


 だってまさか、私たちが2時間走り回っている間、他の受験生は普通に家にいたなんて思いもよらないよ。


 あの日、覚えていることといえば……


「いやー……まさか延期になってたとはな」


 駅まで歩く帰り道。隣を歩く彼が口を開いた。


「ほんとだよ……私たちの2時間っていったい……」


「あはは……まぁでも、意外と楽しかったけどな。非日常って感じで」


「君、逞しいね……」


「サンキュー」

 

「……お互い、頑張ろうね。受験」


「あぁ。延期でまた勉強しなきゃいけないのは嫌だけど……」


 彼が心底嫌そうにぼやいて、2人して笑い合ったんだ。


 それが、私と……



 雄二との、出会いの日だった。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ