132 ……なんか複雑
「結果発表〜!!」
人気テレビお決まりの口調でそう切り出したのは優也。
結果発表……とうとうこの時が来てしまった。幸せな時間はあっという間に過ぎ、気づけば目の前の皿は味噌汁含め空っぽだった。
「これは悩ましいな……正直どっちも美味かった」
「あぁ、その通りだ。……だが勝負である以上、優劣はつけねぇとな」
複雑そうに腕組みをして首を縦に振る優也に合わせるように、俺も頷きを返す。
「しょ、正直に言ってもらっていいですからね……? その……美味しくなかったら、また頑張って勉強するので……」
「いやいや! 美味しくないわけないよ!! どっちも美味しかったし、もちろん笹森さんの唐揚げも美味しかった!」
不安そうに俯く笹森さんだが、それは全くの杞憂だ。笹森さんの唐揚げは、間違いなく美味かった。
「そうですか……!! よかったぁ……」
ほっとしたように胸を撫で下ろす笹森さん。
「私も……元々が元々なだけに……あんまり……」
言葉尻がどんどん沈んでいく明里の様子を見るに、明里も不安なんだろう。
やっぱり点数をつけられ、優劣が決まるってのは苦しいとこがあるな。しかもそれを決めるのが自分たちだと思うと余計に。
「いやあの唐揚げからこの唐揚げはすげーだろ」
「……なんか複雑」
「はっはっは、それだけ頑張ったのが伝わってきたってことだよ」
優也の憎きイケメンスマイルによって、明里のそんな不安は取り除かれたようだ。
本当はこういう時、何か声をかけたらいいんだろうが……先を越されたか。
「……よし。じゃあ本当に決めるか」
「おう。じゃあ、奏ちゃんから……」
「は、はい!」
緊張の面持ちで、笹森さんは背筋を正す。それと同時に、なんだかこの部屋の空気まで変わったように感じた。
静まり返った室内で、優也と視線を交わす。その直後、優也がゆっくりと口を開いた。
「7点!!」
その声に続くように、俺も声をあげる。
「10点!!」
一瞬の沈黙。その後、笹森さんが最初に口を開いた。
「ということは……?」
「合計で17点……だよね?」
明里と笹森さんは、顔を見合わせながら確認する。
「だな。とりあえず暫定一位だ」
次の明里次第だが、この得点は高い方なんじゃないだろうか。俺も文句なしの満点を付けたわけだし。
「ふぅ……これは結構高得点なのでは……? 明里さんがまだだからなんとも言えないですけど、とりあえず安心……ですかね?」
「ははは、本当は今すぐ感想を言いたいくらいだけど……総表は全部終わってからにしようか。……明里が真っ青だし……」
「あわわわ……17点……17点……高い……高いよぉぉ……」
比喩とかじゃなくて本当に真っ青なんだよな……ここまで来るともはや心配だ。
「あはは……ですね。明里さーん、次行きますよー?」
笹森さんの声で我に帰った様子の明里を視界に収め、次の結果発表をしていく。
「じゃあ、始めるぞー」
そう一呼吸おき、今度は俺から発表していく。
「7点!!」
「10点!!」
「7点と10点……ということは……?」
「明里さんも17点ですよ!!」
まるで自分のことのように、笹森さんは歓喜の声をあげる。
そんな2人のやり取りは、なんかこう……微笑ましい。まさに目の保養。
好きな人と好きな人のやり取りもまたたまらん……って、また変な感情が芽生えそうなのでここら辺でやめておく。……目は離さないが。
「……!! ほんとだ! よかったぁ……!!」
真っ青だった顔を見る影もなく、明里はいつもの明るい笑顔に戻っていた。
「しかし、2人とも同点か……どうしよう?」
「んー……今回はこれでいんじゃねぇの? 俺たち2人とも偏ってるし、決選投票みたいにもできないだろ?」
「そう言えば、見事に票が割れたね。優也は私に満点つけてくれて、雄二は奏ちゃんに満点……まさに互角だったってことかな……?」
明里の言うように、合計点でこそ同点なものの、その中身は真逆だ。それだけ力が拮抗してたと言うことかもしれないが。
「そこら辺は、総評で話すとするか」
こうして、次の話題は得点の総評へと移って行った。




