ナチュラル・サイコパスパパ裕行
「そりゃまた何で?」
『なんでって事あるか!?』
いきなり非通知で電話を掛けて来て『娘を誘拐した。2000万用意しろ』と言われてもなぁ。
なんて失礼な奴なんだろう。
『警察に連絡したら娘は殺す!』
「しません。警察沙汰なんて世間体が悪いからね」
なんて面倒な人だろうか。連絡するなと言われなくてもしない。
『娘が誘拐された』なんて言ったら大事になりそうで面倒くさい。
花子も花子だ。
何を簡単に誘拐されてるんだ情けない。花子が死んだら面倒くさいぞー。冠婚葬祭は金もかかる。
『話にならん!娘に変わるぞ!』
話にならないのはそちらだよ。知り合いでもないのに急に電話してきて怒るだなんてどんな教育受けてきたんだ?親の顔が見てみたいよ。
『パパ!花子よ!お願い助けて!お金を払って!』
おおこの声は確かに花子だ。それはそれとして。
「こら!簡単に言うな!2000万稼ぐのにどれだけ働かなきゃいけないか分かってるのか!?」
『娘の命とお金どっちが大切なのよ!?』
「……うーん」
『悩まないでよ!信じらんない!』
……娘の命なのかな?世間一般的には。
でもお金だって同じぐらい大切だ。綺麗事は良くない。お金がなくては人は生きてはいけない。ここは父親としてガツンと教育してやらないとな。
「お前は自分で稼いだことが無いからそんな簡単に払えと言えるんだ!悔しかったら自分の携帯料金ぐらいは自分で払ってみろ!」
『……嘘でしょ。あんた人でなしだよ……』
私は優しい。
世間体の為に結婚した妻と世間体の為に嫌々作った娘の為に毎月少なくはない金を払っている。
それなのに私を人でなし扱いか。余程妻の教育が悪いと思える。
「話してられん」
私は電話を切った。
娘が殺されたら妻は泣くだろう。それも面倒くさい。
金を払わず助ける方法があればよいのだが。
ん?金の事を長い目で考えたら娘は死んでも問題ないのか?
私だってまだ現役だ。
もう一度妻を孕ませる事ぐらいまだ出来る。
次は男の子。……そうだ。私は男の子が欲しかったんだよ。
それなのにあいつは女の子なんて産んで……。
ああ腹が立ってきた。
・
私の携帯に動画が届いた。
開いてみると娘がセックスをしていた。
なんだこれ?おっと。また非通知で電話か。
『見たか?』
「ああ」
『払う気になったかい?』
相変わらず会話にならない男だ。なぜ娘のセックスを見せられて金を払う気になると思ってる?
むしろ払ってくれ。
「なぜ?」
『なぜって……娘が犯されてんだぜ?助けたくないのか?』
犯され……?何だこれはレイプか。見ただけじゃ分からないよこんなの。本当は娘もグルなんじゃないか?
だってまんざらでもないあえぎ声だった。
「私は自慢じゃないが15で童貞を捨てていてね。娘は18になった……よな?セックスぐらいするだろ?」
『……死ねよテメェ。次は犯すだけじゃすまねぇ。本当に殺すからな?22時までに金を用意して⚪⚪⚪に来い!本気だからな!』
ガチャ切りされてしまった。
本当に失礼な奴だ。
自慢じゃないってのは建て前で自慢したんだ。
少しはビビれ。本当は25の時に風俗で童貞を捨てたのがバレた訳じゃないよな。あの時は写真と全然違うババアが出てきて大変だったなぁ。
・
と。しみじみしていたらもう0時だ。
花子が朝帰りなんて珍しい事でもないので妻も特に不信がらず寝てしまった。
私は高級ウイスキーを飲みながらウトウトと深夜アニメを見ている。
この時間が一番好きだ。
・
「ん?」
酔って寝てしまったか?寒いなぁ。あれ?何で私は裸なんだろう?おいおい。今は12月だぞ?寒くて死んでしまうよ。
動けない。縛られているのか?何も見えない。目隠しか?
「おーい。誰かいませんか?」
「……いるよ」
この声は花子か?そうだ。
ガチャっと玄関の扉が開く音がしてそちらを向いたら花子がいて……ほうら花子もグルだと思ったら大男二人に襲いかかられて……
「おめぇ。クズだなぁ」
この声は……昼間の無礼男か?
「そうか。君たちのせいか。今すぐ私を解放しなさい。さもなければ警察を呼ぶよ?」
「……自分の時はすぐに警察呼ぼうとするんだね」
「……あのな?おっさん……震えながらでいいから話を聞け……」
・
男達と娘は不思議なシンパシーを感じ、手を組む事になったそうだ。
男達はいわゆる「親ガチャ」を失敗したらしく犯罪者になるしかなかった。
花子も「親ガチャ」の失敗者だと知って男達は花子に情が湧いて……
「……って!何が親ガチャ失敗だ!大当たりだろ!」
「マジで頭わりぃな。こいつ」
「うるさい!頭悪いのはお前だ!見てろよ!金の力でいい弁護士を雇ってお前らを死刑にしてやる!」
「……やっぱり自分の為ならお金を使うんだ……もういいや。ね?殺ろう?」
やろう?やろうってなんだ?何をする?花子?おいおいおい。
「俺たちが全部お前に話したって事はお前を生かすつもりはないって事もわかんねぇか?好きなだけ叫べ。こんな時間のこんな山奥に誰も来ない」
「あひゃっ!?」
痛い!冷たい!こ……氷水か!?こんな季節にこんな……あわわ。なんだこの音?カチカチカチ?私の口から?うう。寒すぎて歯が鳴る。
「うぇーい」
「ふぅえーい」
「おりゃー」
一定のリズムで何度も氷水を浴びせられる。
これは駄目だ。私は死ぬ。
この世には神も仏もいないのか?
愛も金もある人格者の私がなぜ殺されなきゃいけないのだろう?
今頃妻は暖かい布団で寝ているのだろうか?
あのアマぁ!亭主が死ぬぞ!助けに来い!お前にいくら払ったと思ってんだぁ!
「金返せ!」
それが私の最期の言葉だった。




