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プロローグ

 

 冬の厳しい寒さが和らいだ、とある春の日。



 青く澄み渡った空には忙しなくツバメが飛び交い、暖かな日差しに誘われて固く閉じていた蕾が綻び始めていた。

 街の子供達は籐のカゴに入れた野花を道に撒き散らしながら、楽しそうにはしゃいでいる。



 そんな麗かな空気の中、正午を告げる荘厳な鐘の音がマルタの街に鳴り響いた。


 街から少し離れた小高い丘の上に建っている、この地の領主の別邸にもその鐘の音は届いており、その音を聞いた屋敷の者達は皆にこやかに微笑みあった。

 今日は領主の屋敷に仕える者が、いや、領民の全てが待ちに待った日だ。


 見目麗しく聡明と名高い次期領主と、"白薔薇の姫君"と謳われる花のような男爵令嬢との婚礼が、正午より執り行われるのだから。



 ―――――



 花嫁の実家である男爵領との境にある、この地の領主の別邸の敷地内には礼拝堂があった。普段はあまり使われない礼拝堂だが、この日ばかりは満員だ。


 新郎新婦の親族はもちろんのこと、家同士の縁を結びたいと願う上級貴族達も、若い二人の門出を祝いに駆け付けたからである。

 次期領主の青年は近年領地の事業拡大に力を入れており、その業績は年々順調に伸び続けていた。それに目を付けない貴族はいないだろう。



 将来が期待される新しい夫婦の誕生に、集まった賓客たちからの祝福溢れる温かい空気が荘厳な礼拝堂を包み込む。

 真っ白な薔薇が溢れんばかりに飾られた空間に薔薇の芳香が漂い、繊細なステンドグラスからは柔らかな光が降り注ぐ。


 時計の針が真っ直ぐと天に向かって重なった時、街から届く鐘の音が礼拝堂の中に鳴り響いた。



 ――リーン ゴーン



 その鐘の音を合図に、後方の扉が大きく開かれる。



 開かれた扉の前で静かに花のように佇むのは、真っ白なウェディングドレスと真っ白なマリアヴェールを纏った花嫁。

 たっぷりと布を使い完璧に計算されたドレープが広がるスカートや髪飾りには、沢山の真っ白な薔薇の生花が飾られている。



 花嫁の伏せた長いまつ毛の間から覗く、ミントグリーンの瞳に映るものは一体何であったか。


 花嫁が一歩足を踏み出せば、後ろに下ろしている艶やかな白銀の髪がさらりと揺れ、参列席に座る貴族達が一様に色めき立つ。


「白薔薇の姫君とは、これはまさに」


 そんな小さなささやき声が、あちらこちらから聞こえてくる。

 その中をしずしずと花嫁は進んで行く。ふわりと羽のように軽やかにヴェールが舞えば、銀糸のような髪もさらりと揺れ動く。



 バージンロードの半ばでふと、花嫁が足を止めた。



 ひとひらの真っ白な花びらが、花嫁の髪飾りから舞い落ちてゆく。まるで一枚の絵画のようなその光景に、集まった者達ははっと息を飲む。

 伏せたまつ毛の間から覗くミントグリーンの瞳は、すぐ横の参列席に向いているが、それに気付けた者はわずかだろう。


 こぼれ落ちた花びらが床に着く前に、花嫁は再び歩み出す。壇上で待つ新郎の元へと向かうために。



 ヴェールをなびかせながら、一歩また一歩と足を進めれば、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた新郎の元へと辿り着く。

 真っ白な婚礼服に身を包んだ新郎が、花嫁に向かって手を差し伸べた。


 新郎の手を取ると花嫁は長いまつ毛を伏せたまま、静かに壇上へと上がっていった。



お読みいただきありがとうございます!こちらは不定期更新予定で少しずつ書けたらなと思っております!

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