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作者: 江夏鈴

 今日は両親の葬式だった。私が殺したのだ。

 私は、毎日毎日私と弟に暴力を振るう両親が大嫌いだった。幼い頃は、いい子にしていればきっと優しくしてくれる、愛してくれると信じていた。しかし物心ついた今、私がどんなにいい子にしていても、愛してなどくれないことに気が付いてしまった。まだこのことに気が付かずに必死にいい子でいようとする弟が可哀想だった。この弟のためにも絶対に両親を殺さなければいけない。そう思ったのだ。

 ある日、家にいて暴力を受けないように、弟と一緒に図書館に行った時のことだった。いつものように弟は児童書コーナーに、私は何を読むわけでもなくぶらぶらと館内を歩いていた。すると、いつもは来ない図書館の奥のほうに来てしまった。一度も見たことがない本棚には難しそうな本が並んでいた。その中になぜか目を引かれる本があった。今思うと、私が目を引かれたのは本に呼ばれたのだと思う。私はその本を手に取り、開いた。その瞬間、辺りが闇に包まれ、目の前には、この世のものとは思えない生き物が宙に浮いてこちらを見ていた。眼光は鋭く、大きな口には牙がある。耳はとがっていて、頭には角が二本生えている。そして、背中には黒い翼があり、先がとがった尻尾が生えていた。その姿は、小さい頃に見た悪魔の絵にそっくりだった。逃げようと思っても足が動かない。目をそらそうとしてもそらすことができなかった。

「俺は悪魔だ。お前が封印を解いてくれたので外に出られた。お礼に何か叶えたい願いはあるか?」

 なるほど、やはり目の前のこの生き物は悪魔らしい。

「なんでも叶えてくれるの?」

「ああ、なんでも叶えてやろう。」

 悪魔はなんでも願いを叶えてくれるといった。私が願うことはただ一つだった。

「私と弟を苦しめる両親を殺して。」

 悪魔は、まさか子供の私からそんな物騒な願いが出てくるとは思っていなかったようで、少し驚いたあと、目を細め、ニヤリと笑った。

「悪魔に両親殺しを願うとはなかなか肝が据わっている。俺が怖くはないのか。」

 私には今目の前にいる悪魔よりも、両親の方が何倍も怖かった。悪魔よりも悪魔らしいと思った。

「怖くない。お願い。両親を殺して。」

「…いいだろう。その願い叶えよう。」

 悪魔は、とても愉快そうに笑って消えていった。いつのまにか図書館に戻っていた私は、再びあの本を探したが、もう見つけることはできなかった。

 もしかすると全ては夢だったのではないか。そんなことを思いながら帰った私は、先程起こったことはやはり夢ではなかったのだ、と思い知ることになる。図書館から帰ってきた私たちを出迎えたのは、警察のおじさんだった。両親が強盗に殺されたのだという。しかし、強盗にしては金品があまり盗まれていないので不思議だ、とおじさんは言っていた。私は、あの悪魔が願いを叶えてくれたのだと確信した。願い通り両親を殺してくれたのだと喜んだ。―しかし、それで終わりではなかった。

 どうやら私は、悪魔に気に入られてしまったらしい。現に今も、私の隣でふよふよと浮いている。「俺のおかげ」と言わんばかりのドヤ顔でこちらを見てくる悪魔に、弟に気づかれないよう手を上げ、目線で「ありがとう」と伝える。悪魔は人間の姿になれるらしく、青年の姿になると、私の隣に降り立った。


 この悪魔を「お父さん」と呼び始めるのは、これからずっと後の話だ。

これも一年前に書いたものです。

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