#3 冒険者学校に行こう
ここでやっとヒロインになりそうな人物が登場しますが、めちゃめちゃテンプレです
マウリルはギルバート王国の中でも王都に次ぐ面積を人口を誇る都市だ。人口は約5万人ほどだっただろうか。商業都市、とある通り商業がとても盛んにおこなわれている街で、大抵の品はここで手に入る。王都からもさほど離れているわけではないので交通量も多い。
中でも冒険者ギルドやその冒険者を育てるための冒険者学校は有名で、ここから数多くの英雄が生まれているらしい。
「なるほどねぇ…冒険者学校か。ありだな」
特に大ごともなくマウリルについた俺は、近くにあった街紹介のパンフレットを読みながら当面の目標を探していた。
その中でも目に付いたのはやはり冒険者学校。その名の通り冒険者を育てるための学校で、戦闘訓練から魔物への対処法、そのほかにもある程度の一般教養も教わるらしい。家から通う生徒もいるが、学校には寮もあるのでそこで寝泊まりをすることもできる。
そこまでできるのなら入らない理由はない。早速俺は冒険者学校に入学の手続きをしに行くことにした。
「やっぱ広いな」
小さな村しか見てこなかった俺にとってこれほど大きい街は初めてなので何回か迷子になった。パンフレットに地図が記載されていたおかげで何とか冒険者学校の前までたどり着くことができた。しばらくの間は迷わないようにするのが目標だな。
さて、肝心のエリスさんですが、村を出てからはずっと俺の影の中で待機してもらっています。俺の影の中はものすごく居心地がいいようで、しかも俺の見ている景色や情報が反映されるようで楽しいという感情が伝わってきますね。今のところはわざわざ呼ぶ理由もないのでしばらく退屈させてしまうかと思っていましたが、安心ですね。
いやー、エリスさん怒らせるとマジ怖いからなー
というゴマすりは置いておいて、ここに来る前にお金を手に入れようと商店に行ったのだが、そこで森のボスの蛇を倒したときの素材を買い取ってもらったりとかしてもらった。何やら店主はめちゃくちゃ驚きながら鑑定したりしていたが、どうやらあの蛇が持っていた財宝は珍しいものばかりだったらしい。
あまり知らなかったが、この国だけでなく全世界で通貨の単位は統一らしく、国や大陸によってデザインは違うものの、同じ価値として使えるようだ。
通貨単位は最小が銅貨、それから大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨と10枚刻みで価値が上がるようだ。
俺が商店で鑑定してもらった財宝は全体のほんの一握りほどなのだが、それでも結果的には白金貨20枚ほどで売れた。大体この街の平民の年収が大金貨5枚ほどなので、どれほど大きな金額かはすぐわかる。さすがに全部白金貨でもらうと普通の買い物ができなくなるので他の硬貨に両替してもらったりした。
というわけで序盤から大金持ちになったのだが、正直ほしいものはほとんどないため、売るだけ売ったらあとは買わずにまっすぐ冒険者学校に来たのだ。服とか欲しかったが、まだ相場などが分からない段階でさすがに買うわけにはいかなかった。
「ここに入学したいのだが」
「冒険者学校への入学ですね。かしこまりました。今の時期でしたら新入生として入学できますのでそれでもよろしいですか?」
どうやら時期によって新入生か、その年の学年に編入という形になるらしい。今の時期はちょうど入学シーズンということで運がよかったみたいだ。
入学するには必要最低限の筆記試験と、実技試験をこなさなければならないらしく、試験は明日にはできるらしいので入学試験料だけ払ってまた明日来てほしいとのこと。
特に急ぐ必要もないため、今日は金だけ払って素直に帰った。一応受かったら寮に泊まりたいという意見を了承されたので受かれば生活は安定するだろう。
ひとまず今日のところはやることが特にないので、適当に宿を取り、外で食べ歩きでもすることにした。この街は飲食業も盛んで、飲食店が並ぶ区画に行けば露店などもたくさんある。
「うんま!なんだこれ!今まで食べたことないな」
しばらく歩き回っていろんな露店で食べ物を食べたが、どれも村の食事にはない味や食感で俺を飽きさせることはなかった。村では固い黒パンと動物の肉、それに薄い塩味のスープしか出なかった。俺はそれが普通だったので特に不満もなかったが、たまに母親が言っていた「街の料理はアルが知らないような料理ばかりできっと食べたらほっぺたが落ちちゃうわよ」という言葉はまんざらでもなかったらしい。
今食べている料理は、鳥の肉を串にさし、炭で焼いた「ヤキトリ」というそのまんまのネーミングの料理だったが一番気に入っている。それも高くはなく、お金はこの料理をどれだけ買ってもまだばらまけるほどあるので、思わずたくさん食べてしまった。小さな村から出てきた人が街で急に太ってしまったという話はあるあるなので、俺も気を付けなければいけない。
おなかは膨れたので宿に帰って寝ようかと思ったが、まだ日が暮れ始めたばかりで人の賑わいも増してきたため、もう少しだけ街を観光することにした。…本音はもう少し食べたかった。
街は夜になるにつれ賑わいが増す。理由としては一日働いた人が酒場で一杯やるため…というのと、普通に街には夜になると灯される街灯にそって散歩する人が多いためだ。俺としては少し騒がしい酒場も、料理を食べ歩いている街の人も、すべてが初めての体験で新鮮で楽しかった。
このまま楽しいだけで今日を終えられたのならよかったのだが…神様はどうやら意地悪らしい。
□ □ □ □ □
もう日も暮れ、まだ飲食街は酒場を中心に騒がしいが、割と満喫した俺は宿に帰ることにした。俺の泊まる宿は飲食街から離れているため、この付近は夜になっても静かだ。その静かさも飲食街同じ街の中だというギャップを感じれてよかった。
本でも読んだが、静かで暗い場所には大抵犯罪がらみのことが起きるらしい。俺はまさか、と思いながら宿に向かっていたのだが、俺の宿付近の路地裏で何やら揉め事の声が聞こえたのだ。今まさに犯罪云々の話を思い出していたので、つい興味本位で様子を見に行ってしまった。
「おい!どうしてくれるんだよ!服が汚れちまったじゃねえかよ!弁償してくれるのか!?ああん!?」
「先ほどから済まないと言っている。弁償ならしよう。いくらだ」
「ああ!?それが人に謝る態度か!?…ぐへへ、弁償なら金じゃなく、お前らの体で払ってもらおうか?」
どうやら大男に女性二人が絡まれているらしく、弁償をしろとのこと。話の内容的に大男が酒を飲みながら歩いていたところに女性のうちの一人がぶつかったらしいのだが、どうも両方の辻褄が合わない。大男がわざとぶつかってきたらしい。どっちを信じるでもないが、酒を飲んでいる以上冷静な判断はできないだろうから、ここは女性側の方に味方をしたほうがよさそうだ。
女性側は一人が前に出て、後ろの女性をかばうような立ち位置だ。先ほどから前にいる女性しか話していないあたり、後ろの女性は気が強くはないタイプらしい。
前にいる女性は黒髪で長い髪を後ろでポニーテールにし、鎧を着て剣を携えている。どうやら戦士のようだ。いや騎士に近いだろうか。後ろのほうは青い髪の毛でショート、服装からして職業は魔法使いだろうか。濃い青色のローブのようなものを着ている。
「体でだと!?何を言っているんだ!」
「ああ?払えねえってのか?こっちは訴えてもいいんだぞ!」
「くっ…」
「もういいよ、カミラ。ぶつかったのは私だし」
「だめだオリビア。こいつは酔っているんだ。相手にしないほうが賢明だ」
「で、でも…」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!さっさと体出せや!」
待ちきれなくなったのか男が酒の入った瓶をカミラと呼ばれる騎士の女性に投げつける。彼女はそれを剣で斬るが、その間に間を詰めた大男に首をつかまれてしまう。
「かはっ!」
「どうした、もう終わりか?さっさと体を出せばいいのによぉ!なあお嬢ちゃん?」
「わかりました!私の体なら自由にしていいですから今すぐカミラを離しなさい!」
「けっ、わかってんじゃねえか」
そういうと大男は手を放し、カミラはそのまま地面に落ちる。カミラはオリビアを助けようと体を動かそうとするが、体に酸素が回っていなく上手く力が入らないようだ。
そしてそのまま大男がオリビアに触ろうとした時、オリビアが俺に気が付いた。
「あ…」
「あ?なんだお前は!」
「いや…なんだ。別に覗き見していたわけではないんだ。どのタイミングで出ていったらいいかわからなくてな。出るのが遅れた。すまない」
ずっと見ていたが、助けに飛び出すタイミングを逃してしまったので、どうしようかと迷っていた俺に、大男が助け舟を出してくれた。
「てめえ!この女の仲間か!?」
「いや違うが、酒を飲んだ程度で女の襲うなんて情けない」
「なんだとこら!」
男は俺の挑発に引っ掛かり、俺に殴りかかってくる。それを俺は特に気にしないかのように避ける。酒に酔っているだけの人間の拳なんか、あの予測できない森の蛇の薙ぎ払いのほうがよっぽど避けるのが難しい。
「えーっと、オリビア…だったか?」
「あ、は、はい!」
「この状況で俺はどうすればいい?お前達を助ければいいのか?」
田舎者過ぎてどこまでが正当防衛のラインかわからないので迂闊に俺は手が出せずにいた。それを見ているオリビアはどこか放心している様子だったが、俺が助けを求めるか聞いてきたところで素に戻ったらしい。
「は、はい!助けてください!」
「りょーかい」
「ちょこまかと避けやがって、反撃して来いよ!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて…ふん!」
ずっと避けてばかりで攻撃を当てられずにいた大男が俺に攻撃して来いと許可をくれたので、遠慮なく一撃ぶち込むことにした。魔法を使うのはよくないし、というかこの程度の人間に魔法を使えばどの威力の魔法でも一瞬で死ぬからな。あまり魔法の手加減は得意ではない。
というわけで、大振りを殴って隙のできた腹に思いっきりアッパーをかます。すると男は吹っ飛んでいき、横にあった箱を壊しながら落ちてきた。死んではいないだろうが、どこかしこは折れてるだろう。
結構大きな音が鳴ったので、周りの住人が気付き始めたようだ。さすがにたくさんの人に囲まれるのは嫌だと思ったので、いまだに動けないカミラを担ぎ、オリビアを連れてひとまず俺の部屋に逃げ込んだ。
読んでいただきありがとうございます。
大男戦ですが、エリスとの相乗効果で基本的な身体能力も上がっているので、アルは魔法メインですが、ゴリラのような力を持っています。
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