#2 旅立ち
一応これで少年時代は終わります
「え?俺が学校に?」
「ああ」
いきなり父親と母親に呼び出されたかと思えば突然言われた言葉。それは俺を近くにある大きな街の学校に入学させるということだった。
学校といっても、基本的な読み書きや計算は小さいことから本を読んだりして身に着けていることは両親は知っていたので、冒険者になったりするための学校や、さらに知識を磨くための学校だったりの入学だ。街に行かせる動機の一つとして例に挙げたわけだ。
「お前はここ2,3年で成長した。村のみんなもあれだけ役立たずだといっていたのに今ではお前が狩ってくる動物を楽しみにしている子供もいるくらいだ。親としては非常に嬉しいが、このまま息子の才能をこの村で終わらせるわけにはいかないと思ってな。密かに計画していた」
「アル、突然言われて混乱するでしょうけど、私たちはあなたに自由に生きてほしいの。来週15の誕生日でしょ?これでやっと成人として認められるし、いい機会だなってお父さんと話していたのよ」
俺が鍛えていた裏で両親がこんなに俺のことを評してくれているとは思っていなかったので、思わず感極まって涙を流してしまう。
この世界では一般的に成人と認められる年齢は15だ。これを超えると大抵は親元を離れて一人で暮らす。そして結婚相手や定住先を見つけてそこで一生を過ごすのが基本だ。
そもそも近くにある大きな街だが、一番近いだけでここから馬車でも1週間はかかる距離にある。うちの村では基本村で自給自足の生活をしているためお金など稼ぐ機会はほとんどない。だがそれでも俺のために一年ほど前から内緒でお金を貯めていたそうだ。最近ようやく送りだすための資金がたまったので相談してきたというわけだ。
「どうだ?俺たちはお前の可能性にかけてみた。街には色々なものがあるだろう。成人したついでに親元を離れてたくさんのことを学んだらどうだ」
「わかったよ。街に行くよ」
「そうか!俺はてっきりお前が断るんじゃないかと思って冷や冷やしていたぞ」
「あなた、だから言ったじゃないですか。この子はきっと私たちでも想像つかないような大きな夢を持っているって」
まあ夢がないわけではないが、それを語ったところで理解できないだろうから言わない。ただ、街に行けるのはもっと知識を積んで強くなる可能性が高まるので嬉しかった。
「そういえば、ソフィアはどこにいるの?」
「あー…それがだな」
口ごもる父親。どうやら俺に言う前に相談しているところをソフィアに聞かれたらしく、ショックで部屋に閉じこもっているらしい。
一年ほど前、魔物が何匹か村に迷い込んできたことがあった。幸い衛兵が素早く処理したので被害はゼロだった。だが、ゴブリンの最後の一匹は衛兵に殺される前、たまたま村の中を散歩していたソフィアを見つけて、せめてもの犠牲にと襲い掛かったのだ。
そこを助けたのが俺。矢をゴブリンに当て、一瞬怯ませる。そして怯んだすきにソフィアを抱えて退散。そのゴブリンは駆け付けた衛兵に倒された。
俺が魔法やエリスに頼んでで瞬殺してもよかったのだが、さすがにバレるわけにはいかないのでこの手段を取ったのだが、妹が命の危機に瀕していたのに自分の正体がばれるのを避けるあまり最善ではない行動をとったことに対して俺は後悔していた。
だがそんな時にソフィアが感謝を告げ、俺は少し気が楽になった。その後からソフィアは俺に絶大な尊敬を抱き、今まで以上に俺のことを「お兄様」呼びするようになった。家庭内で白馬の王子様とお姫様状態が成立してしまったのである。以降ソフィアは俺にべったりだった。
だから俺が街に行くと聞いてしまったときは悲しかったのだろう。ソフィアは俺と二つ年が離れているので少なくてもあと二年はこの村にいるしかない。
「わかった。俺が話してくるよ」
「すまんな。どうもソフィアはお前のことになると言う事を聞かんくてな」
ソフィアを説得しに部屋に向かう。ドアをコンコンとノックする。
「誰ですか?」
「俺だ」
「お兄様!?」
俺だとわかったとたんドアを勢いよく開け、抱き着いてくる。ソフィアはこの村でも随一の美人だ。まだ育ちざかりなので美人というよりかわいいの方だが、大人になれば求婚をしてくる貴族などはわんさかいるだろう。なので早いところ俺にべったりなのはやめたほうがいいのだ。
「お兄様…本当に街へ行かれるのですか?」
涙目になりながら上目遣いで俺に尋ねてくる。俺の妹でなければ恋に落ちそうなほどかわいらしい。まあ兄としてもこういう妹はかわいいと思うが、かわいいのベクトルが違う。
「ああ、そうだ。来週俺の誕生日が終わり次第街に向かう予定だ」
「やはり行かれるのですね…。お兄様のことです。私が止めてもきっといかれるのでしょう。ですが、一つだけお約束してください」
「なんだ?」
「あと二年。二年待てば私も成人です。成人になればお兄様と同じく街へ行けます。その時は、従者でも構いません。私をそばにおいてください。それまでに戦えるようにしますので!」
俺の服の袖をギュッと掴み、力強く宣言する。別に兄妹内での結婚は認められていないわけではない。だがそれでも自分を結婚相手ではなく従者としてと言ったのは、ソフィアが俺とは釣り合わないと判断したためだろう。
ソフィアは昔からあまり自分に自信を持てない子だった。最近ようやく自信を持ち始めたのだが、それでも俺と結婚するほど自分を高く評価することはできないのだろう。
「わかった。約束しよう。ただ、強くなるんなら手を抜くなよ?幸い俺が読んでた本ならここに置いていくつもりだ。それでも読みながら鍛えるといい。手段や職業はなんでもいい。俺は妹だろうが容赦はしないぞ」
「わかっています。きっとお兄様が驚くほど強くなって見せます」
ほう、言うではないかこの妹。俺がこの数年でどれほどの死線を潜り抜けて強くなったのか知らないくせに。まあ、すべてエリスがいたからできただけで、あいつがいないと俺はたぶん一生出来損ないとして村から見放されて野垂れ死にしていただろうが。
俺が持っていた本は魔法関連の本が多いが、剣術や槍術など色々な武芸の本もある。強くなることに関しては俺の本を読むのがかなり効率のいい近道になるだろう。仮に魔法の才能を持っていたとしても俺とは得意な魔法の属性が違うだろうから被りはしないはずだ。そもそも魔法使いの人口が少ないので魔法が使える段階でソフィアをそばに置くつもりではあるが。
こうして半ば逆プロポーズのようなものをソフィアから受けた俺は、半分冗談で受け流しつつ誕生日の日までエリスとともにおそらくしばらくはこなくなるであろう森の散策をしていた。
なんとか街に行く前にこの森の制覇を終えた俺とエリスだが、驚いたのはこの森に森のボスらしき魔物がいたことだ。その魔物は森の最奥の洞くつで寝ていた巨大な蛇だった。
俺たちを見つけるや否や毒のブレスを吐いて来たり、長い尻尾で薙ぎ払いをしてきたり、さらに鱗もとても固く、エリスもあまりダメージを入れられずかなり苦戦をしていた。しかも、蛇は基本熱があるものを優先で襲うため、熱のないエリスよりも俺にヘイトが向くため、俺は回避ばかりで中々攻勢に出られなかった。
なんとかしてエリスがヘイトを稼いだりしつつ、最後は魔力の半分を持ってかれる切り札ともいえる爆発魔法を蛇の体内に放つことでようやく倒せた。
蛇がいた洞くつはかなりたくさんのアイテムが置いてあり、俺はそれを持ち帰ることにした。街で生活するための軍資金にはなるだろう。
その中でも一番興味を引いたのは、魔法の袋と呼ばれるものだった。俺は本でしか読んだことがなかったので現物を見るのは初めてだ。その袋は見た目は普通の袋だが、中身に収納できる量はその人の魔力量によるらしく、大体どんなに魔力が低くてもとんでもない量を入れられるらしい。実際山のようにあった金銀財宝のすべてをしまうことができた。しかもなんとなく収納量の上限が分かるのだが、これだけいれても今入れたのかな?と不思議になるぐらい残りの収納量がある。
食材や魔物の素材も入れても袋の効果で袋内の時が止まっているらしく次出したときは入れた時と同じ状態で出るみたいだ。便利すぎる。
わざわざボスを倒す必要はなかったのだが、なぜ倒したのかというと。俺がいなくなった後の森は一つ食物連鎖が崩れるからだ。今までは俺とエリスが魔物を狩ったりしていて数を調整していたのだが、これからはそうは行かないため今のうちにボスを狩って、少しでも森の中に生息する強い魔物を減らそうと思ったのだ。
森だろうが、洞くつだろうが、この世界に無数にあるダンジョンもしくは迷宮などでもそうだが、一般的にはそのエリアのボスを倒せばある程度魔物の増殖を減らせるらしい。完全にはいなくはならないがそれでも雲泥の差というのを本で読んだ。
だからボスを狩ったのだが…こんな強い蛇が村に来ていたら本気で討伐隊を組まなければ勝てないレベルじゃないだろうか…。
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そんなこんなで月日は経ち、ようやく15になり、家族だけでなく村の人に祝われた俺はついに家を出る。みんな総出で見送りに来てくれた。ソフィアも来ていたが、ソフィアは最後までずっと母親の元で泣いていた。そんなソフィアに苦笑いしながらも俺は新たな冒険を求めてこの村から一番近い街、「商業都市マウリル」へと向かうのだった。
これからは青年期のお話です。アルのこの時点での実力ですが、世界を数えてもトップ100に入るぐらいには強くなっています。周りの人もアル自身も気づいていないですが。
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