表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAGICA NEAT  作者: 孤独
第5話『零からスタート!さぁ転げ落ちていけ、表原のリハビリ生活と妖人達の活動期!!』
9/267

Aパート

「過去は知りませんよ」


そーやって自分に都合の悪い事を消去しているおっさんが病院にいた。


「0~25年生きて、その25年間を捨てて、去年からまた人生を始める私のような人もいる」


おっさん……。嘘だろ、おいって。

見た目40代なのに、実は26歳という魔法適正あり得るお年だった。両目が繋がっているお顔だけが、魔法ではなかった。まぁ、人はそれを老けていると、言ってしまうものか。



「薄情かもしれません。しかし、薄情で私も堕ちてきた」



古野明継は語る。


「ですから、懸命に立ち上がる人を私は見守りたいものです」



◇      ◇



全身の痛みが酷く、本来なら療養が正しきこと。彼女、彼の意見は両極端で真っ二つにされるべきものだった。

因心界だけでなく妖精の国からの指令、本体の寿命しかり。


「遠回りも何もない」

「いやいや!レゼンは痛くないから言えるだけでしょ!」


妖精と人間。

本来、主従されるべきは妖精側であるはずなのに、レゼンの方が表原を引っ張る始末。超、超。毒親ってところ。

表原はもう泣きながら立ち上がろうとする。

松葉杖を借りて、ひとまず外に出ようとするところ。


「え?大丈夫なの?」


率直で、まともな事を言う野花。因心界、良識人筆頭。


「いいんじゃない?1ヶ月って短い。眠るにはまだ早い時間で活動すらしていないのなら、動くのは賛成」


網本粉雪は見守る。おそらく、レゼンと似たタイプ。人に厳しく、自分に厳しくできるタイプ。

体を起こし、ようやくベットから引き摺りだす。



「お~~」

「な、なんですかその拍手は……粉雪さんでしたっけ」

「いやぁ、始めの一歩って大事だよ。表原は今、その一歩を踏み出したんだ」

「新天地に来ましたみたいな案内ですね」

「あなたが歩くってそーいう事。レゼンくんもそう思ってらっしゃるんじゃ?」



レゼンはそんな事を思っていない。

いや、お前さんも表原の寿命を削っている1人なんだよな……という目である。粉雪はそこまで理解する気はない。

松葉杖を使って、初めて歩いてみた表原。

そのままの勢いで病室を出る。付き添う形でレゼンが表原に捕まって、後ろから粉雪と野花が見守る。


今、歩くって事に集中している。目の前向いて、集中って事。



"これは辛いよ"、"やだ"、"痛い痛い"



「!……」



後ろめたさという、悪質過ぎる悪口が体をざわつかせる。

何かのトラウマスイッチを踏んで、自傷したい右手は……松葉杖を握っていた。歩く足を支えるための、力にしていた。ギュッて、届かない手で胸を抱いているイメージで



「は、はは……」

「歩けるじゃねぇか」

「こ、こんなにさ。楽しく歩けるって、思うんだね」



大怪我したという確かな事実が、優しく温かな身近な大切さを思い知る。

あらゆる価値は手にした時や成し遂げた時と、その価値に傷や汚れがついた時に知る。



「レゼン。早く言ってよ」

「散々言ってただろ。それでも、お前にしては早い方だ」



人は何かを手に入れるよりも、何かを失った時に気付かされる。そいつの多くが絶望だという言葉に笑わせるものだというが、少なからず、希望を拾ってくる。人は


「私、普通に歩ける?」

「ああ、恵まれてるだろ?」

「よしてよ、ホント」


生きるなら、強くなろうとしなければならない。可能性というものが転がっている奴は、拾っていけばいい。

痛み、失意を、味わって。こんな笑われそうな当然の行いを自分自身の喜びに変換する。

知っていく事で、人に善悪という判断を養って成熟される。


「なんかさ……」

「ん?」

「今日初めて、今日が始まることなんだね」



ちょっと、大人って気持ちになって、声が出ちゃった表原。



「それは遅すぎるぞ」

「やかましいよ。口の悪いお父さんみたいで、嫌いなタイプ。レゼンみたいに成りたくないよ」

「そもそもお前等じゃ俺に成れねぇよ」



超ハードスケジュールのリハビリと、寿命が無くなるまでの時間との勝負。

それは諦めるには納得の行くものだった。元々、そのつもりであろうと。遅かれ早かれの挑戦と、表原の負けイズムが”なぁなぁ”な一歩だけを踏み出した。

何もしたくない、そーいう人はいない。そーいう客観的な自分に対する視点を持つ事ができた表原は、この人生で初めて喜びのある一日を実感知った。



「大したものだねぇ、若いというのは。ねぇ、野花さん、粉雪さん」

「古野さん」

「老けたおっさんのする嫌味かなー?」

「健康や怪我の防止を大切と思うには、あえてそうなった事だと思わないか?」



子供の時代に出会えたものは、強く残りやすい。言葉や音、景色はおぼろげでも、魂に縫い付けてくる心の行動を作り出していく。



「常に頑張ることが正しいわけじゃないんだがね」



古野は1つ、信念の隙間を置く。

なにか分からず、例えば人の言われた事や人についていく事を、頑張るというのは無力になりやすいというものか。そいつに痛い目を思い知ったという印象を、表原の頑張りで蒸し返されているのか。



「自分のため、自分のやりたい事をやる。それに力と知識、強さがいる。私がサラリーマンをやって、責任を問われて、今なお借金抱えても、ただ自分の人権だけは護ってきた。だから、若いというのは死なせたくない命だよ」

「ロリコ~ン」

「これこれ。蒼山くんと一緒にせんで、人権侵害だよ」



何を言いたいのか。古野のおおよそは掴めていた粉雪だからこそ、嘲笑っている。



「頑張ってる子を馬鹿にする性格じゃないよ、古野。私、市民だけじゃなくて人々のヒーローやってるんだから。大切に護ってあげるから」




◇      ◇



【拷問部屋】



因心界の本部に、なんと不気味な部屋があるのだろうか。

そいつは取っ払った方がいい。



「まったく、これはよくないだろう」



因心界にある特別室。北野川が幹部昇進と同時にできたこの部屋を、警護するのは1人の若き男。

いつも中世西洋のアーマーを纏い、後ろに差すは大剣。

佐鯨よりも年上、古野よりも年下という雰囲気。妖人の男達のリーダーとも言える風格もあり、立場も持つ因心界の幹部。



「ヒイロ、警護ご苦労」

「いや、それは暇をしていただけだ。だが、キッスよ。この看板は外したらどうだ?」

「北野川のモチベーション維持のためだ。世に知れ渡ったら、バッシングが酷いだろうな」



青年の名は、太田ヒイロ。腕利きの剣士である。

高い戦闘能力に優秀な指揮能力、事務作業も完璧。スーパー完璧超人。


「レゼンが人間界に降り立ったそうだな」

「話が早いな」

「それは当然だろう。ともかく、ちゃんと引き入れる流れとなっていれば、こちらにとっては追い風だな」

「ああ。もし、キャスティーノ団やSAF協会に流れたとあっては、目も当てられなかった」


味方であるというのが、嬉しい事である。しかし、粉雪から報告を受けている不吉な事がある。


「ヒイロ。レゼンの事でだが、どうにも適合者が厄介らしくてな」

「……なに?人選を間違えたのか?」

「そーいう感じだが、粉雪がしっかりと稽古もつけると言っていた。とはいえ、あの子の事だ。少々、感覚がズレていよう」


……たぶん、あなたも同じ気がすると。

まだ常識的な超人は思い合う。口にはしないけれど。


「加勢する必要はないが、北野川の拷問が終われば、表原麻縫、レゼン、網本粉雪の3名の監視を任ずる。直でも構わないし、遠くからの覗きでも構わない」

「……野花は?」

「本部に呼び戻して、北野川と佐鯨、野花のチーム編成で、キャスティーノ団のアジトの1つを急襲させる。粉雪では目立ち過ぎるし、表原に付きっきりだろう。北野川から佐鯨以外に真っ当な妖人幹部の要望も入った、彼女なら指揮も戦闘も無難にこなせるだろう」

「了解。そーいう建前なわけですね」



ねずみ講のようにキャスティーノ団の構成員をとっ捕まえて、足取りを追う。おそらく、掴んでいる。



「録路空悟は強い。だが、彼以外にも取引先があるやもしれん」

「そこを掴めれば、私達の本当の敵を抑えたという事になるわけか」


そんな真剣な話をしているところに、男の可愛い悲鳴が上がる。



「あっ、あっ、あっ!言う言う!!言うからぁぁっ、言うよぉぉっ。北野川さーーん!!」

「そうそう!言うのよ!言いなさい、韮本く~~ん」


廊下に響き渡るほど。

幹部以上の者達しか周囲にいないから、騒ぎにはならなかったが。


「なにやってんだ、あいつは……」


この組織のちょっとした不完全さに頭を抱える涙キッスであった。

そこに何をやっているのかと、風紀を乱す行為は禁止という感じにやってきた、清純系の人間がこちらに向かって来た。


「なんですの!今の悲鳴は……って、拷問部屋から!?キッス様!太田さん!その中で何をされているのです!?」

「上の通りなんだがな……」

「捕えた敵を今、北野川が拷問しているところだ」

「まったく!風紀の悪いことです!早くこんな部屋、こんな行為!止めるべきです!」

飛島華ひじまはな。お前は真面目過ぎるな。私があまりその気がないというのもあるが」

「粉雪さんのような徹底性、キッス様のような自主性のある事も大事ですけれど。風紀や常識というものが欠けております!まったく!」



◇      ◇



下には男が使うにしては可愛い過ぎる動物柄のトランクス、上にはデカイ文字で『僕の恥ずかしい姿をお見せします』と書かれた、オリジナルクソTシャツ。

男にも、女にも勝負服というのはある。場所に、時に、相応しい服装は当たり前の事だろう。

しかし、北野川が求めることは相手にさせるものだった。


「う~ん、似合うわぁ。韮本くん。可愛い姿」

「っ…………」


椅子に韮本の両手首を縛り付け、服装においても脱走を不可能とさせる状況。【拷問部屋】と銘打っているが、内装はピンク色が目立つ、女が使う監獄といったところか。

完全なる安心を持って、北野川は縛り付けられ椅子に固定されている韮本の横に周る。


「私。年下好きなの」


ほのかな香水は年上、お姉さんと強調するような優しい香り。女性の匂いを強く感じてしまう韮本、これから何が起こるのか足りなすぎる恐怖を感じる。

大胆な告白とともに北野川はその存在をもっと直に伝えるように


「可愛いと、特に好き」


韮本の頬を自分の唾液のついた舌で嘗め回す。


「っ」

「感じるかしら?」


北野川の呼吸を感じ、自分の方が荒げていく。

続いてハムハムと韮本の右耳を口で弄ぶ。韮本の両足を広げて、内股をやらしくまさぐりながら、自慢と思っている形ある胸を韮本の顔に押し付けて、ハッピーにさせてあげる。


「ゆ~っくり、感じていいのよ。ここが、大きくなるまで」



北野川話法には流儀がある。

拷問という一方的な事に対して、


「妖人じゃない人に能力は使わない」


虐めにおいて、自分と対等な条件で虐めを成す。

なんとなく踏み潰す蟻と故意を持って踏み潰す蟻の違い。ちゃんと飲み干した空き缶を分別して捨てるのと、足で潰して路上に捨て置くのと、同じようで違っている事だ。

非難されるべき事を、他者がそう淘汰されるべきと、指摘を間違えた正当たる弱者への虐げ。


弱い奴は好きに虐めたいのだ。あくまで同じカテゴリに入るレベルでいるのなら。



パシャッ



「可愛い顔しちゃって、これネットにアップしてあげるから」


たまらなく、年下の男の悶え苦しんでいる顔が大好きだ。

相手が自分に甘えたい顔が痛烈に快感を刺激してくれる。

北野川の興奮している表情は、恐怖を抱くに十分なレベルであった。



「今度は動画にしましょーね?韮本くん」

「っ……」

「あなたの可愛い声を録音して、その耳にこのヘッドフォン。ずーっとリピートさせてあげる。目でちゃんと自分がなにをされているか、このタブレットで確認して。体が正直に動いて、心で堪えて悶えるの。私にみせるのよ」



恥ずかしくて死にそう。それよりも先に。



「まだ喋らなくていいから。私が楽しみを終えてから、"君の全部"を悶えながら教えてね?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ