Aパート
ルミルミの出現。
東京駅、超警戒避難体制。
ブロロロロロ
そこからは避難する車達とは逆に向かう車。
後部座席で寝転び、クッキーを食べているのは網本粉雪。
「まったく……」
「あの。そーいう怠けた姿をしないでくれません?」
一方で、運転しているのは白岩印だった。
「そろそろ東京駅に。具体的にはみんなが逃げているところにですね」
「分かってる分かってる」
そう言いながら、袋を車の下に捨ててしまうクソぶり。掃除が困るだろうと、白岩は言いたげであった。
因心界専用の車であり、それは救急車やパトカーと同じく、優先的に道を空けさせてくれる。
「!見えて来た。戦闘ですよ」
「え~~、めんどくさぁ~」
胸を揉みながら、出たくないという顔をする粉雪。
車は目的のところまで着き、降りる2人。
ガチャッ
野花が突破口を開き、数人生き残った妖人達が先頭を走って、避難に迅速を尽くしていたわけだが。それでも後方からジャネモンの追撃は来ていた。
そんな絶体絶命の時、正面に現れたのは因心界。
白岩印と網本粉雪。
「粉雪様!!それに、白岩も!!」
「助かった!!」
まだ、因心界の内部はゴタついていて情報は確定ではなかった。それに
「あーぁ。じゃ、やろうか」
「そうですね」
粉雪も、白岩も何か様子がオカシイ。そんな違和感を感じると、足は止まりだす。何かオカシイ。
「……待て、白岩は因心界を抜けたはず……」
「なんで粉雪様と一緒に……」
バレるだろうって分かっているし、目的は足止め。そして、完全なる封鎖。
「ジャネモン。あいつ等をやりなさい」
「残念でした~~~」
現れた粉雪も白岩も、仲良く2人でスマホからジャネモンを召喚し始めた。野花が開けた突破口も、こうして塞がれてしまう。
「じゃね~~~」
「な、なんで粉雪様と白岩が……ジャネモンを出してるんだーー!?」
「どーいう事だーー!?」
ジャネモン達に取り囲まれ、逃げている者達は一気に蹂躙されていく。その様子をのほほんとした表情で見つつ、襲われる住民達を無視して東京へと歩いて向かう……。
「あーもー、疲れたー」
「まだ10mも歩いてないですよ!!」
「幻術解いちゃうね」
パァァァァッ
粉雪と白岩の姿が徐々に解かれ、現れたその姿は寝手食太郎と、その妖精であるアセアセ。
「おんぶして」
「嫌ですよ!恥ずかしい!!」
仕方なしに手を引っ張って、東京へと向かうアセアセと寝手。
「シットリってば~。人使い荒いねー」
「いや、寝手のやる気のなさが問題ですよ!!それにシットリ先輩より、ルミルミ様のご勝手が問題でしょ!?」
「それ一理あるかも……」
ルミルミを心配し、シットリがすぐに2人に面倒を見るよう通達した。
「で?シットリは何をしてるの?ルミルミ様、東京駅に現れて暴れてるのに……すぐに向かってもいいじゃないか。なんで僕達に行かせるんだい?」
「知りませんよ!野暮用って言っておられました!」
ルミルミが危険な目に合っているのに、それを部下や仲間に押し付ける辺り。やはり、シットリもルミルミの実力を疑っていない。
「……ふーん」
「なんですか、寝手!その顔は!」
「いや、別に……やっぱり、シットリがいるといいねぇーって」
「本人いないですけど!?」
シットリの事だ。あのキレ者がこんな時、一目散に駆けつけないのには本当の野暮用なんだろう。色々とやっている妖精だ。なにを企んでいるか、分かった時が楽しみだ。
「ところでアセアセ。なんで白岩に化けたの?」
「え?そりゃあ!ヒイロ様がSAF協会に来たのですよ!まだお会いできてませんけど!!白岩の姿になってれば、抱きつかれたりしないかと……っ!!」
"聖剣伝説Ⅱ"の大ファンであるアセアセ。両頬を抑えて、妄想が止まらねぇポーズ。そこになんら嫌な気持ちもなく
「猫臭いアセアセに抱きつくわけないじゃん。分かるでしょ、さすがに……」
「がぁっ!?ちょっとーーー!!寝手ーーー!あんただってなんで粉雪に化けたの!?」
「とりあえず、お手ごろな胸揉みたいから。キッスに化けるのはなんかあいつに悪いかなと……って言っても、幻術だから無いものはないよ」
「にゃーーー!イカ臭い上になんの恥じらいもねぇとこ、腹が立つーーー!!」
寝手食太郎とアセアセ。東京駅に到着。
因心界、革新党、涙一族達の対応よりも早く、SAF協会がその戦力を固めて現実世界にSAF協会の拠点を作り始める。
とはいえ、
「じゃあ行こうよ、アセアセ」
「やる気でねぇとか言ってたの、あんたじゃん!」
急にアセアセを引っ張って、進む寝手。
「ルミルミちゃんが負けるわけないけどさ。もしがあれば、ここで解散かもよ」
「ええええぇぇ!それ困ります!!ヒイロ様にまだお会いしてませんから!!」
◇ ◇
東京駅前の広場……というより車やバスが行き交うターミナルでの戦場。
ジャネモン共も大人しく見守るほど、両者の実力はズバ抜けていた。
「じゃあ、礼に尽くしてあげる」
SAF協会の統括、ルミルミ。
対するは
「ひー、あひぃっ……」
『妖人化しろよ、ルミルミ』
エクセレントチェリー+セーシ。
10数mの間合いながら、剣の届く範囲内。尻上がりに調子を上げていくルミルミに、さらに力を出してみろと。煽り、仕掛けない。
その余裕をぶっ潰してやると、ルミルミが赤ちゃんの妖精とは思えないほど気味悪く微笑んだ。
妖人化には人間が必要だ。しかし、ルミルミに今。"その人間がいない"。
だが、あまり困らない理由がある。
それはルミルミの妖人化としてのタイプが、飛島とラクロのペア。ピュアシルバーと似通っているタイプの妖人化であるからだ。
シュピィンッ
ルミルミの下から青色の魔法陣が現れ、背後には誰かの人影らしきものが映る。
それが彼女の元パートナーの幻影だろう。
「『金色に輝く月の輪』」
発動と同時にルミルミの体は金色に、魔法陣からは暗闇の煙が立ち込める。ルミルミが放つ光は強く、暗闇でも輝いている。
「『ブライトエンジェル』」
ルミルミが妖人化のために放った光が、魔法陣の暗闇を消し去って完了!
キラーーーーンッ
幼い赤子の天使が一気に急成長を遂げ、少女ぐらいの大きさに成長。それでもエクセレントチェリーとは身長差がまだあるが……。剣を持てる体格にはなり、それに合わせた格好になる。
「さぁー、決めようか。セーシ先輩」
余裕綽々な笑み。
「あなた仕込の剣術で倒してあげる」
ルミルミの余裕とは裏腹に、エクセレントチェリーが気にしているのはその周囲だった。妖人化までさせて、ルミルミに力を引き出させた……というわけではなく
「ヴァーカ……」
『お前がな』
周りへの安全が確証されたからだ。
全力で戦える準備が整ったのは、ルミルミの方でもあり、エクセレントチェリーの方。
「波浪剣」
剣の一振りを波立たせ、斬撃の衝撃を飛ばし、
「うおぉっ」
ガギイイィィィッ
当然奥行きにも衝撃があり、さながら津波の攻撃。だが、受け止めたルミルミはやや後ろに下がる程度。その後ろでは
ガゴオオォォォッ
ジャネモンと建物を波で抉り取った跡を残す。
ビリビリと来る緊張にようやくその自覚を始めるルミルミに、エクセレントチェリーは対照的な表情で詰め寄っている。楽しい、快楽。それらは分かるが、違っている。
バヂイイィィッッ
剣と剣のぶつかり合いだが、その強度はセーシが上回っており、ルミルミが握る剣を欠けさせた。
「っ……作り物でセーシ先輩を止めれるけど、……」
『俺を止めるだと?俺が誰だか言ってみろよ』
「あはは、元最強」
剣を交えた距離で、エクセレントチェリーは上へ跳んだ。押され気味のルミルミが追いかけずにいたが、それは地上にドンと構える間もできず、思考中に繰り出された神速の攻撃であったから。
「落雷刃!!」
ドゴオオオォォォッ
どシンプルに、超高速で上空から頭上に突き刺す剣技。
ジャンプして上から剣で突く。このターン消費が確定しているような、ノロ過ぎる攻撃も。エクセレントチェリーの戦闘力ならば、連撃の1つにはさんでしまう。
完全な防御はできず、左肩に傷を負うルミルミ。反応がやや遅れている。
バギイイィィッ
テメェの土俵で戦う。ルミルミが必死な顔でエクセレントチェリーに反撃を繰り出すも、その動きを簡単に見抜かれ、止められる。
そして、
「液状斬」
ルミルミの握っていた剣が欠けていたところを、さらに高速で斬りつける。その剣術は刃物で斬った跡を生むのではなく、滑らかな表現を完全に表したもの。
ドロォッ
「うっそ……」
鋼鉄を液状化させるほどの剣術。ルミルミの剣をまず、破壊してみせたエクセレントチェリー。
『ルミルミ、本気になるかは勝手だが』
「!」
『俺は本気を出すぞ』
妖精の国、史上最強と呼ばれる妖精、セーシ。その実力は疑うべくもないもの!
◇ ◇
ボオオォォォォ
遥か昔の、妖精の国。
そこには世界中を燃え上がらせる炎が灯っていた。
「もう止めてくれ、セーシ」
旧友の言葉を待っていたかのように、剣は向けられる。
「ふふふ、ようやく戦う気になったな。俺はお前の強さを認めている。だから、俺とどっちが上か。勝負しようぜ」
「その戦いのためにこの世界を滅ぼす気か」
「お前が俺との戦いを拒否したからだ。それにこっちの方がいいだろう?お前も、俺を仲間と思わずに強さを向ける」
「…………ああ、そうだな」
セーシ。史上最大の戦闘狂として、妖精の国で恐れられたのは。彼が一度、たった一頭の力で妖精の国を滅亡に追い込んだからだ。
その滅亡を阻止した仲間は、
ズパアァァッ
「っ!テメェっ……どーいうつもりだ!!なぜ今、力を抜いた!」
「…………分かっているからだ……だが、まだ見ぬ未来はある。その強さは壁になる」
「……………」
「お前の戦いはまだ終わらない、はずだから……」
セーシの刃に切り裂かれ死んでいった。だが、その死はセーシを止めるには最良であり、彼を死なせないための緩みでもあった。
無論、全力の敬意で応え、それでこそセーシが受けたからだ。
殺すことは決めていたが、もっともっと。強さの限界って奴を越えたかった。が、その戦闘を経緯に考えを始めたセーシ。彼が辿り着いた結論は、罪を償う理由も込めて、封印されることだった。
もし、この自分を封印から解くものがいれば、きっとセーシが望む強さの高みに行けるだろう。
今の時代に自分は、心の中で絶望していたんだろう。
そうして、妖精の国で眠りについた……。
伝説と語り継がれ、眠りについた剣を解放しに行く者が現れる。それは完全に
「伝説の剣だって(笑)そんなもんあるのかねー」
「止めた方がいいよ、ルミルミ姉さん」
「そうだよ。ルミルミ。先生達が近づくなって言っていたじゃないか」
「怖気づいてんのー?ヒイロくんに、サザンもー。男のくせに」
「危険なもの危険だろう」
ノリノリの悪ガキ軍団の手によって、目覚める事となる。
ともあれ、優秀な妖精達3名。現実から見ても、そー言われる妖精3名は自分の実力を疑うことなく、セーシが封印された土地に踏み込んだ。
危険な怪物達が巣食う場所でも、ルミルミ達は難なく撃破し、進んでしまう。あれよあれよと進んで、辿り着いた聖剣の眠る地。
「ホントに聖剣が刺さってる。伝承の通りだ」
「でも、サビちゃってるね。仕方ないか」
「抜いてみよっか!もしかして、襲い掛かったりして!」
「うわぁっ!もうルミルミ止せ!」
「大丈夫大丈夫。どーせ、ちょっと強い程度でしょ。私達って無敵じゃん!」
なまじ強かったルミルミは、そこらへんの怪物に毛が生えた程度だと慢心しており、セーシの封印を解いたのだった。
「…………俺を起こしたのは、お前等か」
「聖剣が喋った!これが妖精、セーシ!凄いパワーを感じる……!」
「わー!面白ーい!ねぇねぇ、あたしの剣にならない!?」
「る、ルミルミ!失礼だろう!この方が聖剣、セーシさんなんだぞ!伝承の通りだ!」
確かに強いが、セーシが思っていた相手と全然違った。近所にいそうなガキ共が、この封印を解きに来た。メチャクチャ強い怪物共が巣食う山に封印してもらったのに、いつの間にか平和になってしまったのかと思ったが……。
「……ほう、減らず口を叩くだけの実力はあるようだな。クソガキ共」
ガキにしては、確かに優秀な力がある。この山を昇れるだけの資格は確かにあるとみた。
「果たして、お前等に俺を振るう権利があるか。試させてもらう。特に口が生意気な奴は覚悟しとけ」
「ふーん!やってみろっての!」
「ええええぇぇぇっ」
「ルミルミ姉さん、相手のオーラがヤバイですけど!」
セーシ VS ルミルミ + サザン + ヒイロ。
現実でやったらとんでもねぇバトル。
ルミルミ達がガキの頃ではあったが、
「ぎゃああぁぁぁっ!ごめんなさい!生意気な口をして、すみません!」
「い、命だけはとらないでください!」
「参りました……」
肩慣らしにもならず、3人をボロボロのギタギタにしてしまうセーシ。世界を滅亡に追いこんだ妖精が、そこらへんの子供妖精に負けるわけもない。
「分かったならいい」
とはいえ、子供レベルに自分の封印が解かれる辺り。殺すには惜しい存在であり、自分もこの封印で寂しさの辛さを感じた。
勝利者の権限的なもので
「ヒイロと言ったな。お前、俺を持ってけ」
「え!?」
「それとサザン、ルミルミ。お前等、特別に。俺がビッチリ鍛えて、強くしてやる。才能だけ見ても十分お前等も高い」
「えええぇーーーー!?」
「よーし!あんた以上に強くなって、リベンジしてやるわ!」
自分がヒイロの剣になり、サザンやルミルミといった存在の師となる事を告げた。今の妖精の国は昔よりも成長しているが、まだまだ自分がやるべき戦いにはない事は感じた。そんな戦いを前に、出会った妖精達と交流を深めるセーシ。
自分の強さがなんのためにあるか。
ただ無闇に振り翳すこと、その強さを更生に引き継いでもらうこと、取り返すため、護るため。色々とあることだろう。
"時代に託す、相応しい強さ"
"そうして、立ちはだかれ"
セーシは封印の中でかつての仲間殺しを思い、待ち続けていて、まだその思いのままにいる。




