Bパート
「ただいま~」
そう表原が声を出して、帰って来た場所は……
「表原。ここ病院だけど……」
「でもやっぱり、私はここが良いと思うんだよ。ルルちゃん」
いつも使っている病室であった。
そして、同じ病室を使うことになったルルが出迎え。彼女から表原へ疑問が投じられる。
「っていうか、帰りが早いじゃん。今日の夜って言ってなかった?昼だよ」
「お父さんと揉めて、出て来ました。一日泊まったからいいでしょ。母さんには説明もしたし」
ぷんぷんした表情でベットの上に座りこむ。
なんなんだって顔で、ルルは表原ではなく、付き添いで行っていたレゼンに顔を向けた。
「あー。その……まぁ、予想以上に重たい家庭だった」
「そ、そうなんですか」
会うべきだ。話すべきだ。そう言っていた張本人。人が嫌がるわけに興味はあるし。それを克服するべきものでもあり、手助けするべきこと。だが、それが上手くいかねぇから苦労するんだよっていう厳しい現実。
表原が家庭を嫌っていながら、家庭的な事を難なくこなせている理由も分かる。
どうして、人は生活に少しの不便を感じただけで文句を言ってしまうのか。
それくらい納得の行く答えを見せてもらった。
ルルも家が名家である。家庭の事情というのには敏感な反応を示す。自分も今、別の意味で因心界の本部には戻りたくない。あの涙メグが嫌いなのだ。幼い頃から彼には強く言われていた。自分の生まれは、あのメグのせいでもあり、それに満たせなかった自分もどこかにいる。
「ロゾーと浦安は?」
「相変わらずというか、意地の張る子って奴ですよ。手の掛かる子ですねぇ~」
「あー……そうか」
大変な奴と契約してしまったなって、兄として思うレゼン。
そんな浦安の相手をしているのが、ロゾーともう一人。野花桜であった。
「あなたの身を案じて、私達が保護してますから」
「……それでも嫌だね。出て行ってくれ。身を案じるなんて言い方」
妖人となったが、得られた力を自分本位に使いたい浦安。因心界のために使って欲しいという、因心界側の都合なんて知った事ではない。それに、粉雪のせいで痛い目にもあった。
「とてもあんた達の味方になれないな」
その言葉は誰にでも言っている事だろう。
話し合いに持ち込むのは無理そうだ。
「でも、浦安。1人じゃ危ないよ!」
「知らない!俺は嫌なんだ!お前も……!力だけあればいい」
「そんな~」
契約者としてコミュニケーションを図るロゾー。助けた人間にこんな言われようは思いもしなかった。それでも折れるわけにいかない。彼が死んでしまったら、ロゾーも死ぬのだ。
「因心界も、ジャネモンとかいうのにも、関わらない生き方をする!俺は俺が決めるんだ!」
カッコイイ事を言っているが、ようは面倒ごとは引き受けないという思いが見えてくる。
どーしてそうなのか。
「ロゾー!妖人化というのをさせろ!」
「えっと……」
ロゾーの目は浦安から野花の方へ。怪我人とはいえ、妖人化すれば脅威。野花からしたら余計にだ。絶対に納得しない限りは、力を与えるべきではない。
「ダメよ」
「!なんであんた達が俺の行動を決めるんだ!」
「教育とか指導の一環よ。あなたは少し身体が大きい子鴨に過ぎない。もっとも、ロゾーちゃんがいるからそうなっているだけ」
キツイ態度にキツイ返し。大人の余裕を見せつつ、反論というのをさせない。
そんなやり取りをかれこれ3日も続けて
「…………分かったよ」
浦安の方から折れてきた。だが、そこから使ってくる言葉は癖のあるもの。
「一緒に行動はしてやる。だけど、お前等の言葉は聞いても指示は聞かない!」
「……うん。いいわよ。それで」
因心界を敵に回すというのが、どれだけヤバイ事か。浦安にはその規模を知らず、ロゾーの力だけを固執したもの。どうとでもなりそうな考えはあるんだろう。
「じゃあ、私が監視と護衛役の責任者をしてるし。その補佐にルルちゃんと表原ちゃんがいる。ハーレム設定いい?」
「……ふん、好きにしろ」
「あら、そーいうのはまだ分からない」
別に思ったところがないわけじゃないが。この因心界の雰囲気を良くは思っていない浦安。
まだ会って数日の人間が、今までを語るわけもない。長い時間は必要。
現時点でも、野花が怪我をしている浦安の面倒を見てるように、その近くではルルと表原がいる。その3人の情報を知れる位置に飛島が待機しているところ。
「監視の任務なんて、超楽ですよぉぉぉぉっ」
そんな言葉を吐きながら感涙し、スマホで漫画を読みまくる表原。野花からは浦安と一緒に居れば何をしててもいいという。レゼンが頭の上に乗っかって、浦安とロゾーを見てくれるから。表原は有意義に娯楽タイム。
「ふへへへへ」
初任給&家族からの餞別もあり、表原は今。楽しむ事で我を忘れる楽しさに浸る。
なんて……なんて……
「ダメな奴だ」
浦安も言うほどの表原の怠け癖。ここんところ忙しく、命が掛かっていた事を知らない浦安からしたら、当然の言葉と思う。ただただ生きていても楽しくはない。そうだな。
「表原は充電中だよ」
パートナー勤めて、呼吸が分かってきた。毎日に本気を出す継続力も重要だが、表原の場合は爆発力のある本気。今は好きにさせれば前者も習慣的になれるだろうって、レゼンは思う。
それはそれとして
「ロゾーは俺の妹だ。浦安或って言ったな」
「なんだよ」
「もし、妹のロゾーになんかあれば……俺はお前を許さねぇ」
因心界にいてくれなきゃ困る。それはあくまで組織として。個人的な気持ちで言えば、
「どう動こうが、ロゾーが良いなら俺はお前のやり方を許す。その逆なら、俺は表原と一緒にお前を倒す。それが兄としての責任だ」
レゼンの言葉。異種な存在も含めて、浦安がどう捉えたか。
「ふんっ」
面倒なことで。興味ねぇことで。
監視下に置かれた状況の中、浦安達は眠りにつく。
◇ ◇
ザッザッザッザッ
国内最大の駅。"東京駅"。
一日50万人以上の人間が行き交う駅である。約30種の電車が各地を走っては、この駅に停まって人々の移動を担っていた。
通勤ラッシュの苦労。仕事に向かうストレス。人々の種類は電車以上もあって、
「邪念がいっぱ~い」
『今はそんなのを探さなくていい』
ジャネモンの召喚チャンスではあるものの、人間として紛れているのはアイーガと、箒という本体のままでいるダイソンであった。
『俺の適合者を探してくれ』
「そんなこと言ってもねぇ。テキトーじゃダメって言うダイソンがなぁ」
『当たり前だろ。録路へのリベンジを果たすには、まず人間から選びたい』
「厳選厨め……」
録路の敗北。ルミルミによって、体を戻してもらったが適合者がおらず、力不足の状態。人混みの多いこの駅で適合者を探していた。
人間達が築いている社会の歯車、その中心部の一つと言えるこの主要な駅を、なぜにSAF協会が狙わなかったか。標的が因心界や涙一族、革新党と言った組織と呼べるところにあるのが1つ。革新党を中心とした情報操作、隠蔽により、SAF協会という存在があまり認知されていないという事もあり、それに乗っかっている点も1つ。
ここは当たり前だが、人間の世界だ。
数と知識、怪物になってしまう邪念を持つ人間達を大勢に相手どれば、SAF協会と言えど塵も同然。もっとも、人間達がSAF協会というそこそこある結束力とは違い、人間達に結束力というのは少なく、同士討ちなどの反発を利用できることもある。
「おっと」
アイーガとダイソンが発見したのは、涙一族が囲っている妖人だ。
他にも革新党の中枢と関わりを持つ者も……。
因心界が世間を守っている評判もあるが、それは市民からすれば一番距離が近いからだ。革新党も涙一族にもそれぞれの防衛圏があり、任務を全うしている。
大雑把に分別して言えば。
因心界は、市民を守るための組織。
革新党は、社会を守るための組織。
涙一族は、組織を守るための組織。
こんな人間の主要拠点を早々に攻撃しないのは、因心界はおらずとも、革新党と涙一族の2つの組織が防衛を強化している。それを同時に相手取り、長期戦をやるにはかなりの時間をかける事と戦力の増強は必須。
それよりもジャネモンを活かして、ゲリラ活動で人間社会を周りから苦しめる方が理には叶っていて、革新党も涙一族も動き辛い。
弱者を助けるほど、ムダな事はないからだ。
因心界という組織は、互いの組織の見たくないところ、弱いところをカバーしている。
互いに頂点が居座り、コントロールしている。
「うーん…………」
ダイソンが人間を厳選するのにも、理由がある。強さや録路へのリベンジだけでなく。
シットリにはなんらかの戦略で因心界も、涙一族も、革新党も、倒す方法がある。
それがルミルミがこれまでやっている行いの1つなのだろうが、それよりも先に彼等の牙が届く。彼の秘密主義というか、確かな統率力にはそれなりの大きな手があり、そこには自分の復活以上の事が求められている。
「適合しただけで納得いかないなんて……」
『アイーガの技能は優秀で器用だからな。俺のはそうはいかん』
「ほ、褒めてくれるなんて……あたし、泣きそう」
『……アイーガは自信を持っていいぞ。俺は褒めて周りを伸ばすタイプ。シットリは叱りつつ、自分が悪役になって伸ばすタイプだ』
綺麗好きな性格がいい。そして、周囲に嫌気が差しているような邪念。
此処野とは似ていて、同族を嫌悪するオーラが欲しい。
『通勤時間帯では、俺の求める奴には出会えそうもないな』
「終電まで待つの~?」
『ああ、因心界達その他もいる中で、上手く隠れてくれ』
この2名のやり取りが午前8時頃。
そこから30分後、広い駅の中ではあるが、異質な部下を引き連れている者達。
「ラフォトナ様、本当に因心界とまだくっつくので?」
「五月蝿いなー。お前達を"解放"するためだ。今は僕についてきてくれ」
ブルーマウンテン星団。蒼山が率いる組織だ。
その統括である蒼山は、何か思うところがまだありながら……。因心界の本部に居られない状況をなんとかするべく、元いたアジトに戻ろうとしていた。そこでの独立を部下達は望んだが、蒼山は決して首を縦に振らなかった。
蒼山と部下達の意識が違うのは、時代の差を感じさせるもの。見た目からしても、一回りは離れてそうな年齢の差。
「統括!」
「ええーい!」
イライラしている蒼山の顔。
統括の権限として、
「今は僕の指示に従え!!今、僕もみんなといるべきかどうか。真剣に悩んでいるんだよ!」
そして、個人の主張として。
「僕が……」
あー、ここから変態声明を上げるのですね、分かりますと。
流れがそう感じさせるが、濃厚な邪は
「キッスや粉雪の水着や下着なんかで満足できるかよぉっ!!下着盗撮写真でこの性欲を抑え続けろって!同人で我慢しろって!絵で我慢しろって!!願望を吐き続けて、現実見続けろってか!!それでいいのか、蒼山ラナ!!」
自分が自分へ叫ぶ。人が行き交うこの場所で、目をやってしまうような自己主張。それに部下達はなんの恥ずかしい挙動の1つも見せず。やはり、自分達が見て、育てたこの人物を信じた。
「ふーっ……」
激しい性格が出たのは、久しぶりだ。怒りが声だけで留まっただけ、少しは大人になったんだろう。まだ、蒼山ラナとして理性を保って、それなりの考えで因心界の動向を探る。元々、彼が所属しているのはこの部下達のためと、涙キッスへの忠誠のみで。それ以外に興味はないと思ってはいた。
ただ、時間はそう思わせなかったんだろう。
「ふーーっ……」
ブルブルと、胸が震え始めた。
自分から話すことは珍しいんだが
『蒼山、溜まってるねぇ。でも、今はダメだよ。我慢しなきゃ……』
「……分かってる。分かっている。フォト」
「では、戻りましょうか」
「統括にとっては、久しぶりだもんな」
今、その気持ちをここで爆発させようものなら。ついて行くまで。
この男を偶然拾い、育て上げ。我々が残すべきモノになっていく。
どれだけクズな行いをしてきた中で、失った数々の中で残った小さな1つを大切にする。
ブルーマウンテン星団は、行く。
真の姿、形に戻るため。
◇ ◇
"東京駅"
入り組んで複雑な構造を持つ戦場。
駅内、電車内、何層もある地下空間、高層ビル。
人の往来は盛んな場所であり、その中でも国で最も……と、付ける事は間違いないだろう。
人間の拠点と言っていい場所に狙いをつける目。
別の高層ビルの一室からの視線は、興味から実行の目に変わっている。
「んんー……ここはいいねぇ。人がいっぱい」
「どんな目をしてるんですか。10数キロはまだ離れてますよ」
「やっぱり人が集まってるところで、殺戮したいじゃん?邪念を募りたいじゃん」
「……人の心の力は、私共のエネルギーになるわけですが。それを利用して怪物を産んでいる。やはりここで止めたらどうです?」
「ダーメッ!イヤッ!」
ルミルミとヒイロ。
あんなところでジャネモンを出す。それくらいはまだいいが、ルミルミは思いっきり怪物を出現させる気なのだ。それが世界を滅ぼすための第一段階なんだろうと、推察。
「……ルミルミ姉さん。改まって言います。俺は、サザン様からあなたを止める戦力として、人間界に降りてきた」
「サザンの名前を出さないでくれない」
「人間を嫌うシットリは、俺と対立する理由もあるけれど。あなたはそうでないでしょ?だって、あなたは因心界の初代メンバーなんですから。人間と妖精が共存する世界を作ろうとしたじゃないですか」
「それがなに?時と出会いで、考えなんて変わるもの」
「そうでしょうね。でも、あなたも俺も歩んできた中で大切なモノを見て来たでしょう?それを壊すあなたに何が残るんです?」
「……妖精が残る。そうして欲しいと、あの子は最後に願っていたのよ」
決意を強めさせてしまうだけになってしまうか。
「人間の屑共が……屑がよぉっ……」
あの時。戻らなければ、自分のパートナーを失わなかった。
あんな卑劣な事をする存在を守ってきた事が、許せなかった。疑わなかった自分が悔しく。残した言葉のまま。
「地球は妖精の国とする」
ルミルミ。
東京駅へ、潜入!!
人間を滅ぼすための第一段階の作戦、スタート。
実はシットリの作戦を無視して始めてる。
「やれやれ。容易でないのは分かっているでしょう?革新党も、涙一族の勢力も守っている東京駅です。キッスやナギ、メグが来る可能性も高い。もちろん、粉雪も」
「望むところ」
「……シットリの作戦は知らないが、ルミルミ姉さん。あなたの個人行動であいつが苦労してるのが分かる」
「五月蝿いな。シットリは付き合ってくれるの!」
「今日は俺が守らせてもらう。あくまで陽動なら文句ないだろ」
因心界の戦力ダウンによって、確かに手薄なところも出てきたが。一度、奥まで行ったら引き返すのは難しい。片道切符になるだろう。こうして補助するべきか悩むが、シットリに代わってルミルミを守るため。微力ながら手伝いをするヒイロであった。




