Aパート
ヒュ~~~
バァッ
その青年は、5階建ての建物から飛び降りた。
学校では学業イマイチ、運動イマイチ、容姿イマイチ……趣味、不明。友達、0。
周囲にいる人からの印象は、"真面目な奴"と模範的な答えを返しており。彼の特徴と呼べるものを認識したものは、家族ですらいない。
みんながやっている事をやっていると言えば、聞こえはいいが。流行に乗ったり、夢を持っているような、個人としての生き方は本人にもない。
ようは分からない。
ドガアアァァッ
そんな彼が自殺をした。何故か?意図はなんだ?
遺書もなく、命を閉じようとした理由。
後に彼はこう言ったのだ。
「飽きた」
広いだの、丸いだの、地球だの。
世界には何十億人という人がいて、何百カ国もあって、一つの国に何千の地域があろうとも……。
彼には分かりきっている。世界の全てを知り尽くしているとも思える頭脳だ。
こんな場所に生まれてしまったのが、不幸とも思える。
故に、なぜ凡庸である肉体で生まれてしまったのだろうか、教科書やモニタで記される文字や動画で世界を知った風なばかりがいるところに生まれたのだろうか。
彼は全能であるべきものを望んでおり、それではなかったと18年間生き抜いて、そうなれない真実を悟った。
金も、地位も、夢も、そんなものなど。この人間には意味のないもの。
絶望の闇に包まれた世界に生まれてしまったと……、地に血を流して。この体をリセットする。
光はないと思っていたところに……。青白い光が彼の体を包んだ。
『世界を変える契約をしませんか?』
天使か悪魔か。……いると思うか?
傷付いた体はいつの間にかなくなり、発光した世界に自分の体が置かれていた。
自分の顔を心配そうに触りながら、声をかけてくる。
『私と契約して、世界を変えませんか?私の名はロゾー、妖精です』
女の天使なら頭に輪っかでもついてそうだ。悪魔なら角と蝙蝠みたいな翼だろうか。
妖精と名乗るも両耳の尖り具合、八重歯。エルフみたいな感じだが、尻尾の先端はライトのような青白い光り輝く仕掛けがつけられていた。
「世界を変える?」
『あなたの力に、私の力を合わせれば。世界を変える力が生まれます。この世界を変えませんか』
死の世界はそーいうものなのか?
起き上がる動作を、完了した後。驚きのような顔をして、ロゾーに確認した。
「なにを変える?なんで、俺の気持ちが分かる?」
『光に照らせば、真実という影が証明されるものです』
「世界に絶望しているぞ。地球は何にもない世界だ」
『世界を変える事は、希望ではありませんか?言葉を変えれば、作り上げていきましょう……ですかね?』
……ふん、面白い。
そんな感情を鼻息で吹いたほど、短くて
「契約してやるよ」
妖精、ロゾーとの契約に至る。
『お名前は?』
「浦安或」
妖精の国から人間界に降り立ったロゾーと、契約を結んだ青年。浦安或。
この彼とこの妖精が。
因心界VSSAF協会の、長い抗争を生み出すきっかけとなった。
ドンッ
「なんだこりゃ?」
『私との契約書です』
浦安の手元に置かれたのは、分厚い紙資料と化している契約書。ロゾーはボールペンを浦安に渡しながら、書類の詳細を語る。
『契約者のお名前、住所、家族構成の記入。それから私と契約する上での注意事項が20ページ分。万が一、契約者の怪我を保障するための保険加入……あと、私の経歴も添えました』
「多っっ!?」
『サインだけで結構ですよ』
欲しかったアプリをダウンロードし、起動するくらい無警戒で構わないと。ロゾーは自分が安心だって伝えたつもりでの契約書である。
どうやら、どの妖人もこんな契約書を書かせるらしい。
どいつもこいつも不審者過ぎるセールスマン方式では、良い評価をされないだろう。
「もっとこう見直すべきものがあると思うぞ。……そうだな。例えば。不思議な力を持ったブレスレッドを拾うとか、爺さんの宝物庫からでてきた仮面とか」
『シチュは大事ですが、気付かれていない時間というのは大変なものですよ。分からぬ運命に都合を合わせても、変わらないことは多々あります』
物語やシチュエーションの都合ではなく、妖精の都合でこんなやりとりとなっている。
積極的なアプローチが大事。人と当たる数をこなせば、成功の機会は必ずあるものだ。
「とはいえ、なにかおかしいような」
『……そうでしょうか?ネットや書店で、気になるグッズや広告があるけれど。いやいやいや。あーいうのは良くないって。雑念払って、逆に足早に歩を進めて去る男性の方とかいるでしょ?』
「その言い方は止めろや。別に女も同じだろうが」
宣伝が過多していること、大袈裟過ぎるものもある。
ただ、自分のために良き者であり続けるのはよくないところ。待っていてもダメなのは、ご理解していただきたい。他人の多くは他人に対して、無関心なのだから。
契約をするものの、関心を寄せない。人として大きく欠落しているのをあげれば、コミュニケーションといった能力だろうか。浦安の持っている妖人としての資質は、紛れも無く、世界からはぶられた人間を救済するための処置。
"生物の運命"
【曰く、人はバランスを保つ。誰しも、誤差に過ぎぬほどの才の中和】
様々な分野を平均して得意としているわけでもなく、興味も持たないため特筆すべき能力もない。世界にいるそんな男に、妖人としての力はより多く与えられる。
あまり詳しく、その運命の仕組みを知る者はいない。世界がその運命を知っている者は……
「世界を希望に変える……か」
『私にその力はあります。そして、浦安。あなたにも目覚めるのです』
「興味は無い」
そう言葉をしつつ、
「地球というのは、それほど仕方のない世界なのか」
『では、変えていきましょう!これから出会う、仲間達と一緒に』
手を差し伸べて、しばしロゾーが主導する形で彼をもう一度、地球の世界に戻してあげた。
◇ ◇
「大丈夫か!?」
「人がビルから落ちてきたぞ」
現在、地球。
天から飛び降り、大地にうつ伏せで転がっている浦安。ザワザワと人々が駆け寄り、救急車、警察がこれからやって来る。
人一人が死んでしまっている光景。
そんなところに
シュピイィィッ
草木が生えてくるように緩やかな地面の変動。地中から現れたのは、スタンドライト4点だった。
パァッ
4つそれぞれ、白色と黒色。赤色と水色。光を放って浦安を照らし、妖人化させていく。照射されている箇所から変身されていく。
金ぴかなアームとマスク。七角形のエンブレムが刻まれた胸部。
上半身部分は男性用の西洋の鎧の様相となっており、下半身からはまた別の姿になっていく。鎧の中から足の下まで繋がる長い黒のローブ。しかも、なぜかフード付き。
厚底ブーツのデザインも可愛らしい。
なのだが、
魔法騎士とでも、名付けるコスチューム。なんか上半身のパーツが違和感でしかない。
「だって、聖剣伝説Ⅱのファンなんですもん!」
ロゾー曰く。鎧装備となっているのは、その影響らしい。
元々は魔法使いのようなコスチュームであったが、人間界に降りる前に新調した。
「あなたにその"名"を授けるよ!名は、"グランレイ・プルーフ"。荘厳な光の証明という名だよ!」
怪我を全回復させられ、立ち上がった浦安。
勢いのまま、ロゾーが
「さぁ、"意味"を!浦安、叫びなさい!」
「長い」
………………。
不意に、失礼に、発した言葉。それに
「それになんだこの。衣装は……。どっちつかずじゃないか」
「そ、そうかな。あたし、自信あったんだけど」
なんだこのテンション。
ロゾーはとてつもない実力を秘めていそうな、浦安に接触をし。契約までしたのだが……。
まさかのダメ出しにショックを受ける。
「名前って叫ぶ必要あんの?」
「うん!意味も添えて、名前を叫ぶと能力が使えるようになるよ!」
「……その前に名前を変えてもいいか?」
「えええぇぇっ!?」
そんなこと言われたのは初めて
「ちょっ、タンマ!」
ロゾーは急いで妖人化マニュアルを取り出し、このような対応にはどうすればいいか。
契約をしてしまうと、力を使い切らなきゃ契約は破棄できない。
つまりは戦士の名前も変えられない。
名前は降りる際に決めている事。というか、お互いの力を干渉し合うという呪文の基礎になる。
「き、聞くけど。浦安!ど、どんな名前にする気?」
「考えてないけど、長いのは嫌だなって」
そんな理由で改名!?
そして、たぶん。そんなことはできない。前例ないし。
「ご、ごめんね。それはできないの。契約の段階で決まってるから!」
「じゃあ契約前に言ってよ」
「いちお、契約書には大きくはないけど載ってるから!」
「小さいんだよ」
うーーーむ。
掴みどころが難しい。妖人の資質が高い者ほど、人としての能力があまり良くないとは、サザン様の教えにあった。まぁ、能力を解放すればきっと素直になると思う。
「と、ともかく!ホラ!人も集まってるし、また別の機会でもいいから!さ!」
「……………」
生き返ってみて、不思議な存在と出会う。それに驚きがないわけでもないが、すぐに飽きた。
小さいロゾーが浦安の足を引っ張ろうとするから、仕方なく浦安も歩いたんだが……。
「なんだかな」
「わ、私の能力って!凄いんだから!ビックリさせるからね!」
浦安或とロゾーの出会い。
その出会いは、いかんせんギクシャクしたものであった。
「っていうか、ここが地球かー……ファーストフードとか行きたいなぁ」
「金はない」
「えー……」
"聖剣伝説Ⅱ"や、サザンの話し、妖人になるための勉強会もあって、そこそこに地球の知識がロゾー。ちょいと失礼と、浦安の肩まで駆け上がって座る。
そこから見る人間達の生活に興味はあった。とはいえ、
「休めるところ入ったら、もう一回話そ!細かいこと伝えたいし!」
「面倒」
「えええぇぇっ。せっかく、契約したのに……」
「というか、これ。どうやって着替えるんだ」
早くも脱ぎたい意志を出す浦安。
面倒ごとはお断りという顔。彼にとっては、生き延びて服が代わった程度にしか思えないのだろう。面倒くさい妖精が肩に乗っている事もだ。
「じゃあ早く"意味"を決めよう!まだ、完全な妖人化に至ってないの!ダウンロードも、アップデートもまだってね!」
「ふーん」
ロゾーは急きつつも、慎重さも見せる。
得体の知れない人間性。本人に自覚こそないが、これが自覚した時。きっととんでもないと思う。"生物の運命"ってのは本当なんだなぁっと、脳裏の片隅に置いている。
「一度決めたら、変えられないから!カッコイイのにしなよ!後悔しちゃうよ!」
えいえいおーーーって、腕を振って、浦安をその気にさせるロゾー。
「……うーーーん」
本人としては、なんか。あまりにロゾーの名前が派手だと思っていた。誇張し過ぎている。"グランレイ・プルーフ"という名に合う意味。
普段から思っている言葉では、イマイチだろう。意味とは言っているが、呪文のようなものと考えて出たのは、
「『この世の全てを明かす者』とか」
「!カッコイイじゃん!やるじゃーん!」
なんだなんだ。ちゃんとしてれば、できるんじゃないかって。ちょっと安心するロゾー。
そして、その意味と名前が揃ったことで
「ん?」
「ダウンロードとアップデートが本格的になるから!」
言葉足らずではあったが、どうあろうと変わらない。契約されても、まだ実行の途中。確認のためのOKボタンをクリックした程度であると、ロゾーは思っていた。しかし、当の浦安にとっては悲劇的なもの。
表原のマジカニートゥも最初はそうだったし、みんながそうだった。
バババッ
変身した時につけられた、ローブのフードからニョキニョキと生えて来るのは照明スタンド。どうやらこの照明スタンドがロゾーの体の一部らしい。
そして、言葉通りの頭上から七色に光り輝いて
「おおおおぉぉぉぉぉっ!?」
「本格的に"グランレイ・プルーフ"になれるからね!ちょーっと、時間掛かって体に負担あるけど、害はないと思うよ!」
"グランレイ・プルーフ"になる。
◇ ◇
「ロゾーが降り立ったそうだ」
因心界はサザンを経由に、すぐにロゾーがこの地球に降り立った情報を掴み取った。
事前にそのチーム編成を済ませており、
「粉雪、野花、表原ちゃん。そーいうわけだ」
涙キッスより通達され、3人でロゾーの捜索に出る。野花が車を運転し、後部座席には表原と粉雪が並んで座る。久しぶりの面子である。
そのことに
「久々に粉雪さん達と一緒ですね」
「でも、数週間ぶりなんだけど」
死闘続きで印象に残ることばかり。粉雪と表原とでは、時間感覚が違うのだろう。
捜索というだけあり、なにより
「ロゾーは絶対に!絶対に!俺のそばに居てもらう!」
「まったくもー」
レゼンの気合は十分だった。なにせ、自分の妹。SAF協会に行かれては困るし、死なれたらもっと許せない。まだ修行をしていろって思っていた。心配で心配で
「早くマジカニートゥになるぞ!」
「ダーメ!」
早く会いたいものだった。
しかし、表原の個人的な拒否と粉雪の意見でできないものだった。
「本気になるのは、抑える奴を抑えてから」
レゼンの心配は分かる。無事に妖人化ができるかどうか、適合者とは上手くやれるかどうか。妖精としての心配ばかり。しかしながら、革新党のネットワークと人間達の情報網があれば、
「妖人になったら、少しの間。破壊活動なり、その能力を試すことがある。その力を抑えてあげるのが、表原ちゃんの役目」
表原と粉雪の出会いもそうである。大まかであるが、ロゾーが召喚される位置はサザンが教えてくれている。特別な事例以外は、そんな事はしない。
妖精達にも多少の自由があるし、サザンの言葉も正確とは良い難いもの。
「確実な発見ができるんだよな!?」
「念入りの心配ね。そのへん大丈夫よ。ただ」
それよりもヤバイ事は分かっている。レゼンの時とは違い、今回のロゾーの召喚は誰が見ても分かるように、戦力補充。こんな隙のある補充を黙って見ているほど、SAF協会は甘くない。
2度目も粉雪が選ばれているのはそれだけの任務であり、危険も孕んでいる。おまけに
「最近になって、ルミルミも出てきた。向こうも動き出したわけ」
色んな意味で行動が読めない怪物も姿を現した。また行方を眩ましており、いつやってくるものか読めない。表原には色んな場面での対応を求めたい。粉雪が絶対に成功するという確信があるまで、マジカニートゥは温存。
「ともかく、現場まで向かいましょ。野花」
「そうね」
ブロロロロロロ
外からでは見えない車内ではあったが、発している気と呼ばれるものは隠し切れない。
危険ではあったが、因心界の本部を見張ってその芽を潰そうと、作戦を立てていたSAF協会。
因心界の動向を監視しているビルの一室にて
「シットリ。粉雪と野花が動いた」
「…………ホントにそうか?」
疑っているのも当然と、シットリはその行動を報告したヒイロに告げた。用心深さもあるし、まだ本部にキッスがいることも警戒している。
それでもヒイロはこの動きに確信がある。
「言っただろ。俺と白岩、佐鯨が抜けたんだ。戦力補充は必ずある」
「粉雪と野花が囮で、キッスが回収というパターンもあるんじゃないか?このままじゃ、革新党の勢力が強まるかもしれない」
「そうかもしれないな。だが、涙一族の面々が本部に入っている。ま、キッスはあまりに乗り気じゃないだろうな。苦肉というか……」
粉雪と野花がいないというなら、今の内に本部に突っ込んでも面白いが。まだ準備の段階。勢力図が大きく変わってきたからこそ、把握の大切さは分かる。
新戦力の補充なんか、早々させるわけもない。
「俺が粉雪を止める」
「……でしゃばれって、言ったか?ヒイロ」
「止めるだけだ。倒す気はない」
白岩を欠いての戦闘能力では、ヒイロの勝ち目は薄い。しかしながら、不殺でいくハンデとは違い、戦いを長引かせることに関してなら別である。
「信じられない奴を信じるのは勇気がいるだろ?」
軽い仕事とは違う。命を賭けて、命と釣り合う戦いではない。
ヒイロが仕掛けるのはあくまで命懸けの妨害。その時間差でシットリの判断に任せるというもの。粉雪の足止めとなれば、ダイソンぐらいしかできないだろう。そのダイソンも今は人間を捜している状況。
数の計算と、心の計算をし。シットリは
「じゃあ、生きて帰ってこい」
「分かっている」
ヒイロがSAF協会にいるという立場から、粉雪達との衝突は避けられなかった。




