Cパート
およそ、40分。
「じゃね~~~~………」
じっくりと弱ったジャネモンはマジカニートゥの力によって、浄化されて消滅した。
多少、分身を何体か倒されたものの。ほとんどマジカニートゥにダメージはなし。
「でも、自分が消えていくのを見るのって、嫌な気分……」
「まー。すぐに慣れるもんさ。今度は違う本気になればいい」
ちょっと心に傷ができたが、表原はこの力を使ってみて
「レゼン、凄いパワーだったね。ちょっと、使うのに慣れが必要かもだけどさ!」
こいつ。前々から思っていたが、"観察力"に優れてやがる。
自分がやった事に関して、かなり把握できている。自己評価に乏しいと思っていたが、その分、自分に厳しい評価を言えるって事か。
「予想つかないけど、本気になったら環境が変わるって感じ。凄く伝わって、色んなことが変わっちゃうんだね」
キラキラした瞳で新たな力に喜んでいる。それはちっと、残酷ではあるのに……。分かっている事にはかなりの情報量を得られるのな。
「それが"本気"って事だ。口だけや行動だけじゃ、終わらないこと」
「…………」
「"環境"そのものを変えるのが、"本気"という結果であり、俺の真の能力でもある。本気(MAGICA)整理(NEAT)。」
レゼンはまた改めたように、表原に伝えた。
契約した時はドタバタしてたし、完全にモノにできなかったが、
「お前の本気は俺に追いついたってわけだ」
誰にもそーいうことはできるんだ。
褒めてくれてると、レゼンの事を嬉しく思った直後の表原に
「ま、鼻ほじっている俺に追いついたくらいだから、浮かれんなよ」
「なぁっ!?それってあたしの本気を馬鹿にしてるんじゃん!」
「ふん!俺は大天才なんだ!早々、凡人以下に追いつける領域に来るわけねぇだろうが!」
「なにを~~~!!」
やっぱりであったが、マジカニートゥの活躍によりこの件はひとまず終了!
新生、マジカニートゥの強さは"十妖"でも上位の能力であった。
◇ ◇
「空を舞う天使……か」
衛星が捉えた写真から、超危険妖精の存在を確認。
『それはルミルミだな』
キッスがその写真を持ちながら、隣に置いた自分の妖精であるイスケに伝えていた。
いよいよ、最後の大トリが姿を現した。こちらも動くべきところ。
だが、
「シットリとダイソンが傍にいないところを見ると、個人行動かもしれない」
ありがたい行動であるが、まだこっちの体制が整っていない時に暴れられるのは困ったものだ。
おそらく、しっちゃかめっちゃかにジャネモンを出しまくって、国中をメチャクチャにするだろう。ただでさえ個人で強い上に、数の暴力もできる。
救いと言えば、馬鹿であるという点。こっちが攻めにくいとかは考えないでくれた方が助かる。
あとはこいつの位置さえ、特定し。シットリやダイソンの邪魔がなければ……。
「あ、そー言えば」
『どうした』
「表原ちゃんの報告で思い出したんだ。彼女に初任給を伝えていなかった。入ったんだよ」
報告を受けたついでに、また表原に連絡を入れる。
『もしもし?どーしたんです、キッス様』
「表原ちゃんに伝え忘れていた。君に初任給が入ったんだ」
『なななな、なんですと』
「もう1ヶ月は経っていたからね(四日前くらいから入っていたけど)」
命を賭けている仕事という感じに受け取っていなかったが、無償で戦うことに意味はない。
なんという社会的。金の話し、電話の向こうの表原は両目を金のマークに光らせる。
「現金と電子マネー、どっちか選べるけど」
『電子マネーで!!あ、でも。半々でお願いします!現金は貯金用、電子マネーは出費用!』
「わかった」
面倒な処理だが、良きとした。
「じゃあ、現金の方で経費や保険を引くよ」
『まー、いいですけど。早く振り込んでください!』
少女からしたら大金。平凡サラリーマンのクソ野郎共が、1年で稼ぐ給与を1ヶ月。それも新入りで貰えるという額だ。
たぶん、驚くことだろう。
ピッ
キッスへの報告、それから給与手当てのお話を受け。表原は
「よーーーしっ!じゃあ、ご飯いこーーー!買い物いこーーー!」
ジャネモンを倒した祝いとして、自分に奮発する。ご飯に関しても
「病院食ばっかりだったし、あま~いあま~いスイーツや、さっぱりとした和食……お刺身とかぁ……ふふふ」
そりゃあたぶん、お前が入院ばっかりしてるからだ。
ってレゼンは思っている。
「通販で欲しいのあったしー」
「……お前なぁ」
ボチボチ落ち着いたところで、レゼンとしては
「いい加減、家に帰ったらどうだ?」
バリイイィィッッ
第一話から、家に帰るというミッションがあったのだが。それが果たされていないまま、寿命の問題などを解決してしまったレゼンと表原。
雷が落ちたみたいに、表原の体が真っ黒になったかと思われる変化。表原が無言のままでも、レゼンは続けて
「居心地が良いからって、ほぼほぼ健康なお前が部屋として使っていい場所じゃねぇぞ」
ど正論。
「うぐぅ……あ、でも待って!確か、私専用の部屋を因心界の本部で用意してくれるってー」
「できるのは1週間後ぐらいだろ?」
「それまで入院させてもらう~」
「ダメだろ」
とりあえず、殺さなくて良かったと思える存在になってくれた表原だからこそ、
「家族に説明するべきもんだろ?」
「……うーん」
命を懸ける戦いに、親に何一つ報せないのは良くない事だ。少し違和感でも伝えるべきものはある。なにより
「母親とは連絡をとってるみたいだが、両親共にお前の姿を見に来てないじゃないか。あのルルちゃんにだって、両親の見舞いがあったらしいのに」
子供を心配しない両親。軽くの話しでしか分からないが、自殺未遂したところらへんから家庭の歪みがあったんだろう。
「待って!レゼン、あたしの家に上がるつもり?」
「妖精って基本、ご両親の挨拶もするんだぞ」
「いや、そーかもしれないけど……その~……!!今日何曜日だっけ?」
「水曜日だが」
恐怖やらが染み付くと、危機を回避しようと頭が働く。レゼンとの仲は悪いが、連携においては意見の同調が多かった。危機への敏感さはご家庭からか。
表原は
「ダメぇぇっ!!絶対ダメぇぇ!!お父さんがいるからダメぇぇっ!!」
「おいおいおい!ダメなのかよ!?」
「そ、それなら!今日の給与でホテルに泊まりますぅぅぅっ!!意地でも会わない!!」
反抗期にしては大袈裟過ぎるリアクションで、拒否。
金を払ってでも会いたくない。とにかく嫌な父親だというのは伝わった。
「……分かった分かった。じゃあ、古野さんに連絡入れて、退院することを伝えろ。1週間くらいホテル暮らしでいいだろ」
「っっ……まぁ、いいか」
宿泊費で消えてしまうんかい。って、表原はガックリの顔をする。
スマホでホテルを探すとき、思い出したのは
「あ、野花さんに相談しよ!一部屋くらい安く貸してくれるかもー!」
外装はともかく、ホテル経営もしている財閥の令嬢。
1週間ほどの宿泊を少しでも安くしたい小賢しさ。早速、ご連絡をし
「たった1部屋!1週間ほど、安く貸していただけませんかーーー!野花さん!」
『空いてる部屋はあると思うけど。あんまり割引しないわよ』
「……え?いいんですか~?あたし、知ってるんですよ」
『!!どーぞ、どーぞ!それくらいなら1週間お使いください!』
悪い顔をして、1週間の寝床と3食を確保する表原。頭の回転の速さより、意地汚さ。恥ずかしいって感情、あんまりないのかもしれない。
だからこそ、気になる。
「お前の両親って。お前から見て、どーいう人なんだ?」
「!」
「それくらい答えてくれ。どーせ、会う事になる」
ホテルの予約は済み。そこへ向かいながら、表原はしょうがなしに答えた。
初めに母親の方から答えてくれた。自分との仲が良いことだから
「優しいよ。お母さん」
「だろうな」
「でもね。凄いけれど、……私に友達ができない原因でもあったから、嫌いじゃなくて、嫌だった」
「?」
その表現がパッと理解できるほど、母親のイメージはできないだろう。誤魔化してもいる気がする。一方で
「お父さんはサイッテー!もっともっと勉強しろってあたしに言うし!家事も全然しないし!お母さんに怒鳴って、暴力振るうし!職場で上手くいかないからって、家族に八つ当たりするし!漫画やオシャレ、友達よりも勉強、進学、出世って……自分は仕事もロクにできないのに!何十年も平社員なんだよ!」
ガキに何が分かるんだよって言いたいが。
「表原。お前、父親似だろ?」
「そんなこと言わないで!ふんっ!」
どの辺にその父親と表原麻縫が似るのか?
やる気がなくて、上手くいかないと周りに当たるところ。本質を見誤るところ。嫌いな奴ほど覚えていること。同族嫌悪に似た感じもすると、その父親との対面をやや楽しみにするが。
「お前の母親がよく分かんねぇな」
「……イメージできないと思うよ」
1週間はホテルで泊まる。まだ、家族と会うつもりのない表原。しかし、やっぱりレゼンの事だけは家族に話すべきだとは思い始めた。そして、中途半端でいるよりもちゃんと……。
どう話すか、どう出会うか。これからもまだまだ考えなきゃいけないこと。
「よーーしっ!」
ひとまず。美味しいご飯を食べ、病院にはなかった豪華な浴場。野花財閥が紹介してくれたホテルを満喫している表原。これで割引、1週間なんて……ずーっとここでいようと思いたい。
そんな時、スマホに着信が入る。
ビイイィィッ
「表原で~す」
『あ、今いいかい?古野だよ』
相手は古野だった。一体なんだろうと、髪をくしでときながら耳を傾けていた。
『初任給入ったから1ヶ月の入院日、治療代。請求していいよね?』
「え。まぁいいですけど……」
『2年契約、毎月、約20万円』
「????」
『手数料込みで、500万円ほど支払う計算でいいよね』
「ええええぇぇぇぇーーーーーー!?」
寿命を乗り越えたら、借金。月額の支払いとなったが、
「そ、そんな額なんですか!?保険入ってましたよ!!聞いてないんですけど!!」
『入院代が高いんだよ。私の治療もあるし』
「ちょっ、ちょっと!まけてくれません!?」
『いやぁ。1カ月も入院して、生を掴み取った人から金はとりたいものですよ』
しばらくは足りない入院費などを返すための活動が続きそうだ。
さらにちなみに
『本部の個人部屋は、毎月10万円相当だよ』
「そんなにするの!?」
『他のサービスが無料に成っている代わりだからね』
色々とタダではなかったようだ。
とはいえ、給与は良いので安いのには違いないが。
◇ ◇
ルミルミが動き始めたという情報を掴んだとき。
バギイィィッッ
因心界の本部にあった道場では、男2人が人間のまま戦っていた。
しかし、両者共に人間と呼べる実力じゃない。
疑われていい身体能力。性質が違えど、双方天才。
「おおおぉっ」
ナギの裏拳を捌きつつ、南空の返し放った顔面への貫手。最小限に首だけを動かして、避け。伸びきった手を掴んで投げに転じる。
ドオオォォッ
無理矢理の体勢で着地したかに思えた南空であったが、掴まれたことを逆に利用して、ナギを投げ返そうと動く。ナギは無理に付き合わず、南空から手を離して回避。
両者、向き合って
「…………ブランクを取り戻したようだな」
「南空の爺さんも、筋骨隆々のままだな。百戦錬磨と同じく衰えてねぇ」
人間という種ではこの2名の強さは光る。
「歳は歳だ。体力はさすがに落ちている」
「それ俺も同じだって」
涙ナギは戦闘の勘を取り戻すため、革新党の南空と組み手を行なっていた。
おっさんと爺の組み手に。
「やっぱり、私がやってもよかったんだけど」
「あんたはダメよ。粉雪」
「網本党首がやることではありませんな」
粉雪は志願するも、カホと南空に却下されてしまう。
粉雪がナギとカホの後輩である関係からか、南空も2人のことは知り合い以上の付き合いがあった。意外と、涙一族である彼に対しては付き合いの良さを見せる南空だった。
組み手に付き合うのもそうだ。
「サザンがいなければ、足手纏いと思っておりました」
「その自覚あったら、娘の頼みを断ったさ」
長い隠居生活を解いてまで、彼が戻ってきた理由。
「やっぱり、ルミルミを放っておくと大変だったな。あいつをちゃんと止めるのが、俺達同僚の責任ってもんだ」
「…………ホントにそれで出てきたわけね」
SAF協会を立ち上げた妖精、ルミルミ。
彼女がトップに座っても纏め上げているのは、ルミルミの弟子であるシットリだ。そして、アイーガもダイソンも、寝手も、此処野までも。ルミルミよりもシットリの器を見て、SAF協会に所属している。
ナギもまた。ルミルミと共に戦っていた経緯があり、彼女の邪悪な価値観を理解している。倒すや殺すという選択肢を使わずに、どうにかしたかったというサザンの気持ちを汲み取っていたが。もうその一線を越えて、まだなんとかなるところで戦いを促した。
「俺とカホが出れば、サザンも来てくれる。お前等だけにルミルミを任せねぇーよ」
キャスティーノ団との抗争による戦力低下。佐鯨を失ったというところも含め。
これ以上、若い力を失いたくはない。ルミルミとシットリ、ダイソンの強さは確実にその危険がある……そしてまだ、底知れない奴等も隠れているだろう。
「でも、ナギ。キッスからは本部の守備を言われてるじゃん。教育とかさ」
「!」
「私達がやる任務なんだから。指示はちゃんと聞いてよね」
「……あー、ま。ならよ。キッスのことを護ってくれよ、粉雪」
「ええ」
次回予告:
表原:レゼンの能力って面倒くさいね。
レゼン:お前いつも言ってるな。
表原:もうちょっと、可愛いくてカッコいい必殺技を使う感じで。子供に分かりやすい感じの。
レゼン:そーいう技になるように本気になればいいじゃん。そーいう空間を作ればきっと
表原:だからそれが面倒なの!なんだろ……期末テスト間近になったから、机の周りを整理しよう。掃除しようって感じなんだもん!!
レゼン:勉強するにはまず環境が必要なんだよ。塾に行くなり、通信教育をやるにも、それをする環境と空間がなければ意味がない!お菓子を食いながら、漫画を読んで、テスト勉強をするか?
表原:うわーーーーん!!聞きたくない!!
レゼン:というわけで次回。俺の妹が人間界に降りて来る。
表原:『ロゾー編!厄介者の浦安と改心中の表原!』
レゼン:嘘をつくな、お前!




