Bパート
「うおーーっ!何をするんだ、ナギ!カホ!離せ!」
ドタバタとした会議が終わってすぐ、紙袋に詰まった見合いアルバムを持っているメグを取り押さえて帰ろうとしていたのは、ナギとカホ。それにホッとしている娘のキッス。
まだまだ親としての立場を見せている、
「娘の好きにさせろよ」
「っていうか、人の娘になにしてんの!」
人としての感情を持ってして、メグを捕まえながら話すのだが。
「見合い写真を見てもらっていないぞ!!」
「まー、その時期は近いが……。お前のせいでもあるぞ」
「とりあえず、出ましょうね」
涙一族3名でエレベーターに乗り込む。また妙な瞬間移動を使わせないため、ナギとカホはガッチリと捕えておく。密室となったところでナギの方から、
「涙一族は、ルミルミの暴走を止めること。力を尽くすためだ」
「妖精がここまでのモノになったのには、私達の一族のミスから」
ナギとカホが協力者として数を入れているのに対し、メグが率いる涙一族については別扱い。
彼女達とは思想感が違っている。
特にこの涙メグに関しては、警戒すべき危険人物。
国家、妖精。共々。涙一族をよく思われない理由のある、男。
「知った事ではない。相変わらず、お前達の頭とは相容れないな」
同じ血が流れ、同じ学び舎にいたとは思えない。
「お前達"が"異端だよ」
ガーーーーッ
エレベーターが開いたとき、急にいなくなったせいでか。大勢の涙一族の信者にしては、人形のような正気の抜けた人間達が待ち構えていた。
メグの使用人と、車の運転手が彼等を人間達を率いるように、メグを出迎える。
「メグ様。すぐにいなくなっては、こちらも心配いたします……」
大銛満。
涙メグの信者であり、妖人。32歳の男性運転手。マスクを付け、手袋をし、帽子をとったらツルッツルのさっぱりした頭をしている。
妖精は拡声器の妖精、ヴォイ。
「キモイと言われた回数、たぶん7回でしょうか?」
矢萩香
涙メグの信者であり、こちらも妖人。17歳の成り立て世話人。小柄な和装メイド姿であり、左目と右目の瞳の形と色が異なった人物。主人に対しても、この場で平然と貶されている事を確認させる。
妖精はセーターの妖精、チアー。
その2人の後ろには100人以上は超えている人間達が、無言のまま待っていた。
「今日のところはここで引き下がろうか。挨拶だけだ」
メグはナギとカホの手を振り解き、大銛と矢萩が左右に分かれると同時に、待っている人達も左右に避けて、安全安心の道の上を歩いていく。続くように大銛と矢萩が、メグの後ろについていくように動く。非常に綺麗な行進は、機械的な動作としか思えない。
「ナギとカホ。サザンがいなくなった時、お前達は力を失ったんだ。時間と共に栄光など、腐る。現実を見るべきだ。どーやって、あのルミルミとシットリと戦うつもりだ?」
「…………ふんっ」
「嫌な人」
理想や目的をホザくのは自由であるが、今のナギとカホにはそれを叶える力を失っている。栄光を後ろで輝かせての目暗ましでしかないと、未だに力と組織を温存しているメグは今を見ている。夢や理想を持ちつつも、そのリアルと向き合い続けている。
本気と冗談を組み合わせて、意味を掴ませない。
「メグ様、どれだけキモイと言われたんです?」
「4回くらいじゃないかな?」
涙キッスの力は涙一族の多くが望んでいたモノ。長い年月、長く遺伝子を繋げてきたところで、ようやく自分の代になって現れた。問題は当の本人とその両親が反発よりも、幻滅させる興味のねぇ素振り。ならば寄越せ、ならば作れと声を荒げるが。あんな怪物を人として扱う方がイカレていると皆思うもの。
メグが執拗に変質的に、涙キッスに迫る理由であった。
◇ ◇
「…………いつも、ああなのか?」
まったく。どこの組織も会議というのは、ムダなもんだなって思えるやり取りだった。
録路がここに来て、ようやく喋ったことはその事だった。
「そうだな。ゆる~くやっているよ」
キッスが録路を連れて来た場所は、申告対応や情報収集を主にやっている部屋である。オペレーターや事務員など、10名ほどで毎日の対応をしている。
録路を連れて来た理由は、
「お前に任せたいのは、ここの対応を頼む」
情報収集とその精査。及び対応など……。
「めんどくせぇー」
「ヒイロが引き受けていた任務の1つなんだよ」
「ちっ……」
体もまだ満足に動かない状態。それでもやれる仕事なり、任務というのはあるものだ。自分がやってきた事をこーして対応することになるとは思っちゃいなかったが。
「暇潰しにやってやらぁ」
「助かる」
「ただ、ポテチは食わせてもらうぞ」
いちお、SAF協会だけじゃなく。
不正な妖精や悪さをするフリーの妖人のチェックもある。
連絡を受けたら細かい事情を把握し、本部の人間に向かわせたり。住民の話しを聞くなりのこと。組織を円滑に回す器を持つ録路に頼みたかった。
とはいえ、
「1つ、聞いて良いか?」
「いいぞ」
「それでもなぜ、俺をこんなところまで入れさせた?」
実力を買っておいて、こんな作業なんざ。
妖人でもない奴にやらせておいた方がいい。特別でもない人間にできることだ。
キッスの回答は、実力だけではなく。
「ヒイロと白岩に、お前の事を頼まれたところもある」
「…………お前、いい加減過ぎるだろ」
「よく言われるよ。だけど、そんな平和が私の因心界だ」
◇ ◇
そいつは小さな天使だった。
背中に持つ純白なる両翼が激しく動いて、空を舞った。
「えひゃぁ」
人の顔と体の作りを持ちながらも、異形の行動となんらかの異形の一部があれば、人間ではない。
高速道路を走る車を追い抜く速度で飛行をする。
気伸びしながら、気持ちよく飛び回っているところを
「なんだありゃあ!」
「天使!?」
目撃者が騒ぐのも無理のないこと。
そいつは空中散歩を楽しんだ後、上空に留まり、人間共を見下ろした。
「んーーーっ」
街を1つ、2つ、3つ。目で見ただけで、
「弱い邪念が17かな。じゃあ、生まれちゃえ!ジャネモン!」
アタリがあればいいやって思う程度の邪念の怪物化。
上空という場所からアイテムも使わずの生成手段と、少し見ただけで遠くまで感じ取れる感覚器官。人間界にいる妖精で最強と称される妖精、ルミルミには。戦いにおいての最強という言葉は似合わない。
しかし、全ての能力が極限に達していることだろう。
「じゃね~~~~!」
「じゃねも~~~ん!」
離れた街の3箇所で、一気に17体のジャネモンが生成される。その形を見て
「ちぇー、アタリがないやぁ…………」
ガックシな表情になる、ルミルミであったが。
次の瞬間。
「おぎゃーーーーーーーーーっっっ!!!」
駄々っ子を感じさせる耳障りな鳴き声がより強力となり、耳から体内へ衝撃を与える爆音波。
生物が内側から破壊され、耐震性の低い建物も亀裂が入って、半壊する。そして、ルミルミ自ら生み出したジャネモンもこれによって、消滅されていく。
「うがあああぁぁぁっ」
「ああああぁぁっ!?」
ルミルミの鳴き声を聞いた者達が卒倒し、全ての行動を止められた。あまりの衝撃に心臓に弱い者達は死んでしまうほど。
そして、この鳴き声に不快を覚えて溢れてくる邪念の霧。出たわ出たわと、濃厚な邪念。泣きじゃくるのを止めて、邪念を一口するルミルミ。
「うみゃい。これなら"新種"のジャネモンができるだろうね。……うーん、ちょっと眠くなってきちゃったよぉ……」
ルミルミ。
その妖精の能力。
"モンスターマスター"と呼ばれる能力。
主に生命が持つ精神エネルギーを媒介として、様々な怪物を生み出せる能力。
正直なところ、ルミルミ本人にも可能性が高すぎて全てを知り尽くせていない能力であり、汎用性や応用力といったレベルではない。無限の可能性を秘めた、始祖の力。
この能力のさらなる可能性を見出し、今はシットリ達に自分を経由しなくとも、ジャネモンが作れるアイテムを配って、その種類を調査していた。
「じゃねも~~~~ん!!」
赤子の鳴き声の苛立ちによって生まれたジャネモンの形は、黒塗りのされた巨人の女性の姿になっていく。
「うるさいうるさいいぃぃぃっ!!鳴き声うるさいいぃぃっ!!」
人々の声にストレスを感じ、自分以外の音を奪い去る能力を持つ。
「音は消えてぇぇっ!!」
ピイイイィィィィッ
ジャネモンを中心に球体の結界が展開されていく。
瓦礫が崩れている音も、人間達の声も、通信機器の類いの音もまた消える。
ミュートの空間。
大混乱の騒動音はなく、連絡手段の多くを断たれた。
その無音の世界での暴徒は、空間を作り上げた者達に有利に働く。因心界の到着が20分以上も遅れ、着いた時には街の形ではなく、廃墟も同然になっていた。だが、これ以上。このジャネモンを野放しにすればさらなる被害になるだろう。見方によっては好都合か。
音を断たれたことで、伝わっている状況が不鮮明なところがあった。
因心界が派遣した妖人は、"十妖"の1人だけにした。強いという事と能力が分かっても、全容が見えて来ない。慎重さと柔軟さ、情報を届けられ、そして、大胆にやれる奴。
適任者は当然。
「ジャ、ジャネモンと戦うのって、久しぶりな気がする」
「丁度いい。新生、"マジカニートゥ"の力を試すには良い相手だぜ!」
表原麻縫とレゼン!
「ここより少し先に進むと、音が消えるんだな。結界が張られている」
2人は無音の結界の直前で止まり、巨大な人型のジャネモンを視界に入れた。どうやらジャネモンは生体に反応して、攻撃を繰り出しているようだ。わずかに生きている者達に、その巨体から繰り出される拳でトドメを刺すという残酷さ。
大事なところは
「中に入ったら話はできない。確認するが、3タッチな!」
無音空間を作りながら、その中で巨大な人型のジャネモンが暴れている。人間に対して、強い殺意を抱いて動いているため、自分達が空間に入れば即襲われる事だろう。
それでだ。
「あれほどのジャネモンが、どうやって現れたかの情報がない。ヤバくなったら速攻で逃げるぞ」
「うん!」
「でも、俺としては!新生、マジカニートゥを試したい!強気でいくぞ」
「その新生とやらのお話。あたしには何もしてくれないよね?」
「お楽しみってのは、そーいうもんだ!」
自分が寿命を乗り越える苦労をしている時に、なにやらやっていたというレゼン。ホントに自分のことを心配してくれていたのかと、表原はまだ疑っている。
しかし、レゼンはいつもの調子に
ボオォォンッ
「まぁ、楽しんでくれ」
大型ドライバーに変身。これから表原の髪のところにぶっ刺さって、彼女を思いっきり回し、ゲロを吐かせるくらいの負荷をかけて、マジカニートゥに変身するんだろう。
本人もしょうがないかと、溜め息ばかり。
だが、今回。
ガヂィンッ
「え?」
いつもと違う。
普段なら頭に……と思って、上にいるレゼンの方に視線を向ける表原。
彼女の周囲に立方体のカラフルな空間が発現されていく。その空間の天井はレゼンが変身した、ドライバーの形に添って穴が作られ、ピッタリとレゼンが突き刺さる。
「おぉぉっ!?」
レゼンが回転を始めると、空間の天井部分が回っていくのだが。その中にいる表原にも変化が始まる。空間が捻じられながら、表原の頭以外の体から虹色の光を発現させていく姿は、今までの乱暴な変身とはまるで違う。
ポォォンッ
光が消えていくところから、変身の姿が現れる。
緑色の髪が伸びながら、先端は巻くようにウェーブがかけられていく。髪が描いたハートマークを守るよう、色んなドライバーの紋章が刻まれた黄色の王冠がはめ込まれる。
上着は半袖ジャケットのようなものになり、薄いエメラルドのような色を放ち、胸部分をこれまたハートマーク……中央が黒色というハートがボタンの役目にもなっている。胸部分が、本人も少し驚くくらい膨らんでいる。
パァァァンッ
体にピッタリとフィットする、空色のミニワンピース。その下には短いながらフワフワなスカート。背中で結ばれる大きな緑色のリボンは5つの結び目を垂らす。
意外と露出しているところが多いが、清潔さを意識するように白い手袋が付けられ、水色の長ブーツには後ろに、カラフルに光るダイヤの形状をしたアクセサリーが付けられている。
ヒュンヒュン
そのダイヤがブーツのみならず、リボンの付近や両肩、胸部分に取り付けられているが、いくつかが震えるような小刻みで動いている。
「わ~……」
あっけにとられた面のまま。彼女を囲っていた空間が鏡のような性質を出し、今の表原麻縫の姿を本人にもしっかりと理解させる。
以前とはまるで違う変身方法に、新コスチュームの頑張り感。
大人の美しさとは違うが、誰にでも想像できる、綺麗で爽やかな感じの自分がいる。こんな自分になれるんだという、意味も含めて、
「これ、あたしなの!?」
良い意味で信じられない。
"数年ほど成長している自分の体型"とも言える姿。
パリイィィンッ
変身に使っていた空間は消え、鏡の反射で見返せなくなり。改めて、表原は身体を触りながら、確かめる。
「ホントにあたし……?」
何度も何度も、驚いていて。ふいに両目から涙が零れ始めた。
「お、おいおい」
それにレゼンが心配するのも、無理はない。いや、レゼン本人は
「大丈夫か?お、俺なりに……頑張ってみたんだが……気分悪くねぇか?」
表原の体を気遣っている。だが、表原の次の一言は分かっていても、分かることにはできなかった事。涙を流しながら、彼女が言ったのは
「こーいうのだよ!レゼン!!凄いじゃん!!」
喜びの涙。賞賛。
レゼンをとっ捕まえて、抱きしめ
「やればできんじゃん!超可愛いよぉっ!!これ、ホントにあたしなの!?あんた、デザインしたの!?レゼンってホントに天才じゃない!!」
「いででで」
「可愛いコスチュームだし!色合いもあたしに合ってるし!それになんか、体も大人っぽくなってるし!」
「そ、そりゃあ。変身効果もあるからな……。第二段階の能力も解放したついでに、格好も整えてやっただけだ!」
そんな力なんて、どーでもいいように
「ありがとーー!レゼン!!ホントにっ、ありがと!」
表原は何度も何度も、お礼を言っていた。それが物凄く心に響いて
「レゼンの事だから、どーでもいいとかお前が悪いとか……酷い事ばかり言うと思ってた。そーいう奴だと思ってたけど」
「…………本当はそーだよ。もー、いいだろ。この感動はよ」
自分の悪いところをこうして、見直せたんだとレゼン自身は感じ取れた。
自分もそーいう風に言われたかったんだろう。
少しは、もう少しはね。良きパートナーってな。
パァンッパンッ
「ふっし!」
嬉し泣きはここまでにし、表原はスイッチとばかりに両の頬を叩いて気合を入れる。
この可愛い新コスチューム、汚れるのは今の涙と戦いだけでいい。
特に
「もう吐かない!ゲロも弱音もね!!」
すっごく嬉しい気分って、こーいう事なんだって顔。
「レゼンが見直して、あたしがそのままじゃいけないよ!」
「………」
違うな。凄く変わっている事に、お前自身がまだあまり気づけてないだけだ。
俺よりもお前は成長してるのさ。
だから、お前に言う。
「それはお前だけだよ」
「うん!酷い言い方!相変わらず!」
今、この一瞬で一番に、最高に、喜んでいるのは
「『あたしだけかいっ!マジカニートゥ!』」
意味の叫びと共に。第二段階の完成形、マジカニートゥが誕生!
同時にマジカニートゥに新たに装着されていた、菱形のアクセサリーがいくつか飛び出し、マジカニートゥの周りを回転しながら動いている。生物のような感じには見えない。
ヒュンヒュン
機械的に旋回している。
「これは、……なに?」
「今までは本気になった事に優位になれる道具を生み出す能力だったが、……次の段階は"本気になった空間"が能力になる」
「空間?」
「ダイヤのそれは、空間を生み出す基点になるものだ」
今ここで説明すると、長ったらしいから。どシンプルに
「本気になれ。そうすりゃ、発動する」
「その制約は同じなんだね。ま、それくらいはいいけど」
少し楽しみな表情。臆することなく、ジャネモンの無音空間に入って、前進していく。
足も、声も、息も、……音が抜けるという奇妙な空間。
大きなジャネモンを視界に捉えると共に、あちらさんもマジカニートゥの気配を察知して、顔をこちらに向けた。
音を奪い去る能力でどう戦うというんだ?
ドスンッドスンッと音がしているんだろう。大きな足を動かして、ジャネモンはやってくる。明らかに体格と能力がミスマッチ。視界に、臭いに、気配にと……感知する術が1つ失っても、困りはしない。
意識強くして、逃さなきゃいい。
ジャネモンが攻撃を開始しようと、体を捻り始める。なんだ?デカイ上に、パワー重視?まるで、こっちにもっと集中しろってか?
知性の欠片もないんじゃないかと、疑いはしたが。胡散臭さもする。
「!!」
マジカニートゥが刹那に感じたのは小さい犬のチワワみてぇな生物。背後から迫ってきたところで急襲される事無く、奴の突進を半身の姿勢でガードした。
勘、経験。そこからもう1つ、違和感。
あの大きなジャネモンが
"こっちに真っ先に気付いた理由"
それが、そいつ等。
「……………」
索敵と奇襲を兼ねる何かがある。無数の小さな犬ジャネモン達が、マジカニートゥ達から隠れつつ。驚かして、じわじわと攻めてくる算段。
一瞬で見切ったマジカニートゥの成長は大したもの。そして、本体となるジャネモンの振り被った拳からの巨大攻撃も、当たる事無く回避し、距離をとった。
数に加えて、大型のジャネモンもいる。
レゼンが2度、マジカニートゥの肩を叩いた。
分かったら引けばいい。正体が判れば、退いていい仕事。あとはこちらの被害なく、抑え込むだけだが。マジカニートゥとレゼンはまだまだやる気。あくまで、試している。
マジカニートゥの本気って奴。
「………………」
言葉で通じ合えないこの場でも、不利と思われるこの場でも。本気に揺ぎ無し。自分がいかに自分を出し切れるか、そこに他人の力も怪物の力も関係はない。
マジカニートゥの周囲で旋回していた、あの菱形のアクセサリーが本気に反応し、高速で四方八方に放たれた。ジャネモンに向かっておらず、自由奔放に動いている。
伝えられないが感じてくれている。
今までと違い、発動するまでにタイムラグがある。飛んだ8つの菱形のアクセサリーはある地点にて、止まり。そこから虹色の光を放ち始めた。
しかし、目の眩むような光じゃない。優しくて、世界が綺麗になっていくような。目覚めた時に見る朝日。希望を持って起きるようなもの。
「………………」
空間を形成するまでに1分か2分。空間の形も様々で、今回は無形状態。いずれの形も相当な広さを持っており、この空間から脱出するのは困難。
発動が完了すりゃあ、本気が伝わる空間になる。
どんな本気だ?敵を倒す本気か、情報を伝えるための本気か。
空間の形成が整う。
瞬間、空から降り注いできたのは
ボタタタタタタタタ
「わわわわわわわわわわわわわわ」
「わわわわわわわわわわわわわわ」
「わわわわわわわわわわわわわわ」
無音空間を別の空間に上書きし、音が生まれる。しかし、音の正体である声は
「わわわわわわわわわわわわわわ」
「わわわわわわわわわわわわわわ」
土砂降りの雨のように、叫びながらマジカニートゥ達が降って来るという異様な空間!!
「じゃね~~~~~~!?」
「ええええぇぇ~~~!?」
「どーいう本気出してんだ、テメェーーーー!!?」
全員が驚くほどの本気空間。本気に具体的なイメージを入れてなかったが、倒せる能力かつ逃げ切れる能力の両方を叶えるための能力が、これ。
自分の分身を大量に作り出す、物量攻撃。
「わわわわわわわわわわわわわわ」
「わわわわわわわわわわわわわわ」
叫びまくってる自分が沢山。その声にはこのジャネモンが嫌がる魔法もかけられていたんだろう。時間が経てば経つほど、効いて来る。
さらに叫んでいる自分とはいえ、外見そっくりさん。隠密で索敵する相手には索敵できないタイプの能力。攻撃にも、逃げにも、通じる。
ただし、本人もビックリする空間であるため、撒き沿いを喰らう。
「わわわわわわわわわわわわわわ」
「あ、あたしが叫んでるーーー!!めっちゃ怖いーー!」
トラウマになりそうな光景。
「なによ、この空間!!怖すぎるんですけど!あたしが沢山いるんですけど!」
「お、お前の本気って事なんだよ!見ろ!ジャネモンも弱ってきてる!」
「あたしも怖くて、泣きそうだよ!」
せっかく、新コスチュームと新たな能力の初披露だというのに
「カッコつかないよぉぉーー!」
「それでも、もらした最初の時よりマシだろ」
相変わらずという結果。レゼンはそれでもって言葉をつけて、成長したって事を暗に伝えていたが。叫んだ後、なんか暗い顔をしながら俯くマジカニートゥ。
「……………」
「え?もしかして、……」
わわわわわわわ…………




