Aパート
人は希望というまだ曖昧な形を抱き、進んでいく。
「違う」
人は勝手に進んでいくのである。
あのような発想は、止まっている人間がすることだ。
「レゼンくんだけに任せていいの?粉雪」
「意識取り戻したし、あんだけ馬鹿デカイ声出して、元気なら大丈夫よ」
「古野さんでもなんとか命繋げて、レゼンくんの力で寿命を先延ばした。でも、まさかあーいう子だったとは、想定してなかった」
「野花。妖人というのは、人間的に欠けた者が成り得る才能とされているのよ。自殺願望の持ち主という哀れ100%の救済処置と思っていなさい。むしろ、戦場に出られる分。本望だったり?」
「車の中だけにしなさいよ、そーいう発言。盗聴器でも仕掛けられてたら、これから先大変だよ」
レゼンより先に寝てしまったが、同じ病室に粉雪もいた。あんだけ騒げば気付く。
分かった以上、一旦。病院を離れて、"本部"に戻る。
とはいえ、そこは因心界を指してはいない。
「因心界の本部からの使いが来るのも、今日の午後からでしょうね。それまでに病院に戻ればいいわ」
「分かったわ」
常にヒーローをやっているわけではない。先に紹介されたとおり、網本粉雪には因心界以外の場所と繋がりがある。
それどころでもないか。
キーーーッ
超高層タワーの1階に構える、巨大な団体。
野花が車のドアを開け、粉雪が降りれば
ガチャッ
「お帰りなさいませ、網本党首」
「出迎えありがと、南空さん」
その本部で執事というか、正当なる秘書のお出迎えである。
粉雪とは対照的な、老賢人のような厳格さしか感じさせない人間、南空茜風さん。
「またあとで来るからね」
「お願いね。野花」
ここは政治団体の1つ、"革新党"の総本部である。
網本粉雪が党首を務めており、彼女達の支持する母体は国に存在する大企業の多くである。
「"妖人"のご活動が頻繁なご様子ですが……」
「キッスの指令が鬱陶しくてね。ま、あっちじゃあいつがナンバー1だから、しょうがないけど」
「我々のお務めに支障が出る恐れが」
「ないない。休まないわ。車の中で十分イメトレもしたし」
これまで遡れば、妖人やジャネモンといった怪物は、噂や都市伝説ほどに済んでいた。
だが、今はその数が増え始め、人にも認知されることとなる。多少の情報操作に協力してきた革新党であるが、それももう限界と言えよう。
元々、その気もなかった。
「妖人という正義が私達。キャスティーノ団をはじめとする外れ者を悪と演じさせている」
「ご党首自ら。素晴らしいご活躍でございました」
「おほほほほ、みんなのヒーローとなってテンションあがった事ですわよ~」
「申し訳ございませんが、お嬢様キャラとしてはブレブレ過ぎなので、そこは謹んで頂きたいです。網本党首」
「堅気するわね。そこが素晴らしいけど、南空さん」
ヒーローだけでは生きてはいけないし、こーいう意味でも生きてはいない。
二束の草鞋をなんなくこなして、世界の平和に貢献する網本粉雪。1つの日常であった。
◇ ◇
「うむ……うむ……」
『やっぱり無理そうだな』
「そうだな。しかし、粉雪のおかげで緩やかに移行している」
因心界本部では、涙キッスが数多くの雑事をこなしていた。組織の統括を務めていても、中身は雑用と変わらないような形だ。情報操作や敵分析、スカウト、組織運営、などなど。
彼女の妖精であるイスケはその手伝いはできないが、言葉を交わしあう事はできた。
「粉雪の奴は凄いな。私にはできん」
『無理してやる事でもないだろう。キッスはそーいう家系に生まれたんだ。あの女はそーやって望んでいた。そこに差がある』
「成りたくもない事を成らなきゃいけないのはストレスなんだよな」
今、因心界は世界的なヒーロー組織のような立ち位置になろうとしている。
各地で報告されているジャネモンや悪質な妖人を倒せる、数少ない信頼できる組織として。メディアの力や単純なお金、最新の技術。こちらと革新党の力があって、辛うじて存在を事実化されている。
が、それももう遅くなる。
「異常なペースで妖精達が人間界に降りている。このままでは人間社会と妖精社会の秩序がさらに乱れる。原因を突き止める必要があるわけだが……」
『キッスは立場上、その現場にいけない。かといって、粉雪に任せるには不安要素が多すぎる。彼女の組織はもう因心界というデカイ光に、堂々と隠れられる影。いずれはとって替わるかもしれない』
「それも時代の流れだ。妖精にはない社会かもしれないが、人間は代わり行くものだ。私の根本たる正義は、"常識と名乗る正義"だ。粉雪はその範疇と私情の答えを出しているが、立場上、彼女を100%の信用はしていない」
因心界には涙キッス、網本粉雪と同等な強さを誇る、白岩印というもう1人の人物もいるが
「白岩は単純な強さのみが取り柄の子だ。彼女に原因を突き止めてもらうというのは不可能。人間側にこの異常を突き止める役目を持つ者がいない。悔しいが……」
『そこでサザン様を頼って、レゼンが送られたというシナリオ。すぐに会う必要は?』
「ない。私からすぐに動けば、原因の動きが変わる可能性がある。因心界と関わりがある者の仕業である、その勘がお互いに言っているからな。使いの者を私の妹にしたのも、そーいうことだ」
もうすぐ、その使いは表原とレゼンに出会う。
焦らず、地道に行こう。
◇ ◇
病院内で知らされる、唐突の余命はとても受け入れがたく、
「1ヶ月で死ぬってどーいう事ですか!?」
当然の返し言葉であり、あり得ない言葉で返される。それも冷やかすようにだ。
「自殺したかった人が何を言っているのかな?」
「うっ……」
これが事実になってしまうとは、なんとも奇妙な現実と直視する人間がいたものだ。表原麻縫。
「どーやって死のうか、教えようか。まず、もらす」
「ふざけないでください!!」
「冗談だ。まず、ゲロを吐いた並に目が回される」
「ふざっ」
「度を越えた運動による筋肉、骨、血管の疲労と損傷。次にトラックに撥ねられたほどの衝撃が体を襲い、これで行動不能のダメージを負う」
「っ…………」
「そして、トドメに殴られ、蹴られて……」
「痛いことが伝わりましたーーーー!!死体蹴りもされるんですね!」
死にたかったであるが、具体的な死に方を言われると困るものだ。
これから来る痛みを教えてもらい、
「どーやって乗り越えればいいんですか!?嫌です!そんな死に方!上品に楽に死にたい!人権を尊重した死に方を求めます!」
「人権名乗るなら、生きていけ。分かったか?まー、乗り越えるならよ」
なんつー、我侭。しかし、これまでとは違って、前を向いていこうとする意気込みを感じられる。
単純にこれを乗り切るため、レゼンが送ったのは
「強くなれ」
「えっ………」
「殴られても、蹴られても。たとえ、トラックに撥ねられても生きていられる肉体を宿せばいい」
襲ってくる痛みに耐えれる体を作る。なんと単純なことか
「そんな人間がいるんですか!?」
「生身である必要はないさ。せめて、妖人としてなら受けられる肉体と精神なら乗り越えられる。だが、お前の肉体の貧弱さと精神的弱さ。俺という大天才がいながらも、マイナスにいるお前がこいつを耐え切れるとしたら……良くて、30%」
「わりと高い。なーんだ、レゼンに任せたら乗り越えられるんだ。30%なんて可能性。超天才のレゼンが頑張れば、あとの70%は補えそうだねー」
「俺にその気がなかったら、1%という確率もねぇぞ。苦しんで、死ぬがいい」
「はい、ごめんなさい!頑張ります!!なので、強く。できれば優しく、甘く、できないでしょうか!!」
それがお前次第というものだ。
「細かい事は小出しにして話すが、お前の体は古野さんのおかげで形づくられていて、その心臓及び内臓器官は俺の助力もあって動いている」
さらっとすげー事を言われた。
「手早く言えば、人間の姿と妖人の姿を半分半分にして命を繋いでいる。どっちの肉体も強くするには、妖人として戦い続けた後、きっちり休むことだ。これを1ヶ月続ける」
「……1ヶ月休めば」
「死ぬ」
表原は聞きたくないような感じで、両手の人差し指を回し、俯きながら
「毎日?努力するの……?」
「学校と思え。そいつが、命の獲り合いと思えばいい。体育の授業しかないけどな」
「体育は好きじゃないんですけど……」
「お前ってさ、なんでもかんでも好きじゃねぇで否定するタイプだろ。やらない奴、出来ない奴の典型的な特徴だ」
ぷくぷくと頬を膨らませるも、いちお。くだらない事を確認する。
「自殺はもうしませんので。ゲームや漫画、スマホは有りでしょうか。何が楽しくて強くならなきゃいけないのか、分かりません」
「それくらいは許可するが、規制はするぞ」
「睡眠は8時間、スマホ12時間、食事などに1時間ってのはどーです?」
「現代っ子の理想スケジュールか。スマホの中身が、漫画とゲーム、動画とか入れてるだろうが」
表原はまだ中学生だ。だだっ子として吼える。
レゼンの言葉は確かに時代の流れと共に古臭くはあるんだろうが、
「遊びたい~~~。漫画やゲームとかしてたい~~」
「お前のような奴は、普段の有り難味が希薄なっていくのだろうな。遊びとは、普段をちゃんとして成しえる行動と褒美だぞ」
分かりやすく、どれだけの事か。
「スマホってのは充電が必要だろう。そいつと契約するためにどれだけの金が掛かっているか分かるか?通信料も含め。漫画観たいなら、金だって出すだろう?気が読める場所と時間も必要になる。このバランスよ」
「メチャクチャな契約を迫っているのは、あなた達と変わらないでしょう」
「そこには触れるな。ただな、妖人でもなく変わりない人間と同じ。彼等は働いて金を手にして、その生活を築いているんだ。収入のない学生であり、直接的に金を振り込んでいる事もないお前等だからそう言えるが。永遠と遊んでいたいと思い、続けていく事になんの価値もない。やがて作業になる」
「む、難しい事を言いますね」
「買ったゲームは何も知らないからこそ、楽しいだろう?やりこみ要素は娯楽にとって大事だが、やらなきゃいけない要素ってのはダメだぞ。作り手はそんな風に、遊び手には求めていない」
自ら天才と称しながら、馬鹿にも分かりやすく伝えるレゼンの中身はとても優しかったろう。
「自信もねぇ、勇気もねぇ。勝手な事だが、お前はそんな連中よりも下にいるんだぞ」
「……もーっ、分かったよ、分かった!強くなる!やる!どーするの!!」
まず、やってみようから始めようか。
そこから判断が十分にある期間。
「お手軽簡単なコースでなら、化け物退治だな」
「モンスターハンターですか?3DSしか持っていないので、やったことないです」
「そのソフトは3DSにもあるから。この世の中全てはモンスターハンターなんだよ。装備という環境整備の大切さ、自らのテクニックを高めなければいけない操作技術、敵を分析し判断、対応するという柔軟な頭脳と反応、敵を倒して得られる物を確かに知る事が必要だな」
「そーいう分析的なツッコミではなく。お前等、狩人じゃないやろ~って。言って欲しいです」
「俺としては、化け物と戦うのですかって、反応して欲しかったんだが」
コンビとしてやっていけるか、少々不安になる。
お笑いコンビじゃないから大丈夫かな?
「お前はまだ直接出会ってねぇだろうし。伝えるなら、その時か……因心界の使いを待ってからにするさ。化け物退治は化け物退治だが、探すってのが手間だ。今は動くにも大変だろう?リハビリから行こう」