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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第24話『決着と新章!最凶の妖精、ルミルミ登場!』
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Aパート

報告。


因心界VSキャスティーノ団。


因心界は"十妖"の1人、佐鯨貫太郎の戦死を始め、妖人は28名の死者を因心界側は出した。

一方でキャスティーノ団の戦死者は9割以上。

録路空梧の捕縛、権田飴子など3名の行方不明者を除き、全員が死亡。

抗争なだけあり、勝者と敗者だけでなく死者を出し合った。だが、これは明らかに因心界側の勝利であり、録路空梧達の敗北であり、白岩印と太田ヒイロの勝ち逃げであった。



「随分とやられちゃったわね」



突入の第二陣、第三陣。北野川が指揮をとっていた部隊。

白岩の援護と戦闘不能となったキャスティーノ団の者達を回収しに来た彼女達を襲った、廃車が連なったジャネモン。キャスティーノ団の隠し球かと思えるほど、かなりの強敵であったと同時に戦闘方法がかなり特殊に練られていた。




プシュ~~~~~~



「じゃねぇ~~~」



どす黒い排気ガスは異臭と異音で、浴びせた者の動きを一時的に緩慢にさせていた。視界をも奪い、その中の様子を探れる者などまずいない。おまけにジャネモン本体がボディプレスのような、鋼鉄の突進アタックをところ構わず、かましていく。

暴れるだけの怪物にやや知性を感じさせる戦闘方法。そのわけを辿れば、



「このジャネモンを出した奴が近くにいる」



強いのもそうであるが、何より厄介なのが時間を稼いでるかのような立ち回り。召喚者の意図がそう込めて、このジャネモンを放っている。

録路か、近藤か、……。

対峙している北野川には敵側の予想であり、その先の秘密を見抜こうとは思わなかった。至極、当たり前。



ドポォォッ



「近藤くん、君は嬉しいくらい強かったよ」


因心界が大勢で入ってくるタイミングで、都合良く現れる時間稼ぎ。

白岩は意図して、そのジャネモンを解き放ったのは当然だった。

因心界もキャスティーノ団も確認がとれない間に。キャスティーノ団の妖人達から妖精の力を奪い取り、自分とヒイロのリスクの中和をはかった。

そして、北野川達とジャネモンが戦っている最中にも、因心界の妖人を秘密裏に葬り、妖精の力を奪い取っていた。



「……………」



白岩が北野川をやらなかったのは、できなかったからだ。

彼女だけは。生き残るためにやるなんて事。白岩にはできなかった。

その後、ジャネモンが崩れかけるところを感じ、今度は録路を回収するために地下へ……。

そして、粉雪と一触即発。

命を賭ける戦いを覚悟していたが、ヒイロとキッスの裏取引によって難を逃れる。

現在、因心界の本部に白岩印はいる。



◇      ◇



白岩とヒイロの処罰の件はキッスと粉雪しか、まだ知らない。

"十妖"全員に情報がいっていないほど、白岩とヒイロの動きは良かったと言えるが。



「黒幕は捕まったんだろうな」

「え?」

「雰囲気でだがな」


レゼンを始め、野花、飛島。勘の良い連中は気付き始めた。粉雪のピリピリした雰囲気での勝利宣言と撤退指令がそれを感じさせていた。

確定ではないから想像の域ではあるが、そーいう事なんだろうと思う。

表原がその事情を知るのは、実はまだちょっと先だったりする。


「な、治りますよね!?な、なんであたしばっか、こんなに欠損するんですか!?」

「大丈夫!大丈夫!私とサングを信じてくれ」


今は負傷を含め、様々な状況が表原本人を襲い、この戦場の様子など感じ取れないでいた。古野とサングによって、速やかな治療がなされる。

両手の指の大半を斬りおとす妖精がいる事に少々、ドン引きをしている古野とサングであったが。それよりも表原の負傷を一時的にだが痛みを緩和させた、寝手の能力にも関心を寄せていた。


「改めて、不思議な力で助かってる」


なんの能力かが分からない。自分のように接合させる能力ではないし、治癒するものでもない。

こんな使い手に目をかけられる人間がいるとはね。

おっと、表原ちゃんを絶対に救わないと。彼女がそう思っているから、今も生きられるんだから。大人がしっかりとしなきゃ。



古野と表原、レゼンとサング。4名の頑張りが続く。

表原の寿命期限も、もうすぐ……。

そして、先ほど。寝手という存在を確認し、特に一番。こいつは顔色をマジにしていた。



「……………あいつ等……あんな奴等と手を組んだのか」


蒼山ラナだ。

普段どころか、呼吸し続けている変態であると周囲から認識されている男が。寝手と話しを交えた後から、顔つきがかなり男らしく、不気味なオーラを発していた。抗争から戻る最中も、本部に戻ってからも。彼がこうして、なんらかの理由で顔つきと沈黙した態度を固めていたのには相当なものがあると、周囲には分かる。


「蒼山」


そんな顔つきを自分と重ねるのは飛島だった。彼の場合、狂犬の怒りを撒き散らしそうである。それと性質は同じだろう。因縁のある相手だって事。

蒼山は"立ち入り禁止"の掛札をつけて、自分の個室に入っていった。何か考えている事もあるんだろうが、それは飛島も同じ。

次の相手は間違いなく、SAF協会だ。飛島の因縁の相手は、かつて妖人を含めて3000人以上も消し去ったダイソンである。


コンコンッ


「…………蒼山、入るぞ」


作戦や状況によっては、共闘もあるかもしれない。

いちお、この時の勝利の祝杯と労いもこめて。蒼山の個室にお邪魔し、腹を割って話を聞いてやろうと思っていた。なんだかんだで蒼山と話しをする人なんて、因心界の"十妖"の中では飛島くらいだ。


『あっ、いやぁ~、んんっ。ラフォトナ様ぁぁっ』

「ふへへへ……」


暗い部屋の中にいた蒼山は、大画面で二次元のAVを再生し、ムフフな笑みをしながら鑑賞し、○○○を曝け出し、ティッシュを沢山撒き散らしているイカ臭い空間に……。


「なにしてるんだ、テメェーーーー!!」


真剣な顔をして部屋に篭ったかと思えば、1人○○○ーをしている事にキレながら制裁をする飛島だった。さっきまでの雰囲気はどこに消えたんだと、いつもの蒼山に対して繰り出す制裁。


「いったーー!?ひ、飛島!勝手に入らないでよ!○○○ー中なんだよ!掛札してたんじゃん!」

「五月蝿いな!お前、さっきからあんな顔しているから!少し気を回して、話を聞いてやろうと思ったのに!なんだよ!部屋に戻って即、AV見てんじゃねぇよ!」

「これ自作……じゃなくて、共同製作したもの!」

「あ?まぁ、どーでもいい!」


母親のように大画面の電源を消し、まぁこんなふざけた状態でもいいから。蒼山が抱えてそうな相手について、飛島は自分から聞いてやった。

なにしろ、相手は蒼山を強くライバル視している。こちらは蒼山しか相手を知らない。そして、なんだかんだでこの蒼山と似た不気味な強さ。


「寝手食太郎とか言っていたな。スリープハンド?とか言うのか?……いずれ、SAF協会とやり合うのは分かっている。お前以外、あいつを知らん。少し話せ」

「………僕もあいつの事をあんまり詳しいわけじゃないけど」


あくまで蒼山の基準であるが、向こうからの因縁があるだけに。分かっている事もある。

そういえば、事情を知っているキッスを除いて。ここには、本当の自分自身を知ってくれる相手がいなかった。話す気もなかったが、


「元、同人仲間……。ほら、エロ漫画描いてるって言ったでしょ?ネットで知り合って、一時期は共に交流をしていた」

「その仲間か」

「スリープハンドってのは、ペンネームだけど。あいつなりの区別だ。スイッチを入れるための」


少し飛島の顔から背けたのは、やっぱりあいつの事を知っている限りで話すのは良いが。本性である自分のことを打ち明けると、恥ずかしさと軽く見られちまうことを気付いて。口を結ぶように話を抑えていった。

どうしても、自分のことが……。


「スリープハンドは憎たらしい天才だよ」


それでいいでしょ、そんな言葉で誤魔化せるわけない。飛島だから。


「変態VS天才の対決か?」

「あの、スリープハンドの方が性癖おかしいから」

「ホントにお前、スリープハンドの能力を知らないのか?隠すことなのか?笑ってやるし、殴ってやるぞ」


彼の妖精である、アセアセも現場にいた事。そいつは佐鯨達からの追跡を振り切った妖精。表原の怪我を謎の力で治療(?)しているところ。あのシットリを言葉で止めるほど。彼がSAF協会でも異例過ぎる存在であるのは分かる。

蒼山は能力の事も知っているが、


「口から聞いたわけではないよ」


その全てを知っているわけじゃないから、参考程度に留めないとハメられる能力。


「スリープハンドは人の感覚を操作するそうだ」

「感覚の操作か」

「どのレベルまでかは分からないし、その条件も知らないけれど」


強さが単純な力ではない。変則的な能力に長けているからこそ、汎用性の高さもある。

佐鯨から逃げ果せた事も、表原の傷を一時的ながら和らげたのにも、納得はできる能力。もちろん、それだけと決め付けていいもんじゃない。蒼山は悟っているんだろう。


「そいつは厄介だな」


ラクロが誤って臭いを検知するかもしれない。自信に不安を注ぎ込んでくる能力は、飛島にとっては天敵だろうか。


「だからそいつは、お前になら任せられるな」

「!……勝手に戦う駒扱いにしないでくれ」


勝手なプレッシャーをかけるな。単独の蒼山ではどうにもできないが、おそらく組織同士の戦いになるだろうとはこの時から感じていた。

戦う気はやはり湧いてこないが、"なんであれ"折るわけにはいかないプライドに似た魂がある。こーいう男にもだ。少しは成長したなって、飛島は関心した表情を見せて蒼山に伝えた。


「私はダイソンを殺しに行く。家族の仇だ」

「!!」


自分もそうだが、飛島もそうだったって。思い返す。ああ、飛島もそーいうヤバイ目をするんだった。……しかし、その内で飛島はどーして蒼山に言ったのか。分からないが、今では仲間だと思えるんだろうな。


「……だから、死ぬな。蒼山。みんな、死なないでくれ」


できるのなら、本当にみんながいる間に決着をつけたい。自分が戻ってきた時、いつものみんながいる事を望んでいた。飛島の目が怒りに血走っていた状態から、普通に戻った時。わずかだが、悲しみの涙が零れた。

正直に飛島も蒼山も、予想などできなかった事はあった。一緒に戦うと思っていただけにだ。

そして、その2人よりも強い悲しみと怒りに満ちた女がいる。



◇      ◇



「冗談は止めてよ」


本当なら軽く流す程度にしているほどの、死に対しての感覚。自分もその道に行っているところからも、縁はあると割り切れることもあったが。

仲間より少し先の関係を求めたばかりのこと、佐鯨の遺体を見た時にその場で俯き泣いていた北野川。掌を握って、立てよって。倒れて死んでいる佐鯨に、足も声も出そうとした。



「っ…………このっ……」


計画なんてもんもなかっただけに、これからを楽しもうと思っていたのに。


「運んで」

「はい」


佐鯨の遺体を優しくシートで包んで、ここよりも安心できる場所に連れて行かせる北野川。そんなことで頭が、それと同じくらいの悪い報せを理解できなかった。

因心界に屈して、その中について。屈辱だったけれども、仲間やそれ以上の奴には出会えて。まぁ、憎しみってのが薄れていったことに心身は良くなった。


『北野川、落ち着くにゃ』


髪をぐしゃぐしゃと潰すように掻き乱し、久しく出した禍々しい悲しいオーラにカミィが声をあげた。結果だけ見れば、佐鯨が弱かったでおしまいと決め付けていそうな、軽い頭がそうもいかない。憎悪が増して


「録路のデブを始末してくる」


キャスティーノ団は潰れてしまった。佐鯨を奪った矛先をどこに向けるべきかは、倒した相手に向く。録路の意識はないそうだが、生きているという報告は聞いている。

なにもかも暴いて、生きる価値なしの豚にしてやる。


『今じゃ無理にゃ。あいつに意識がなきゃ、効かんにゃ!』

「分かってるわよ。分かってる!」


それでも意識戻した瞬間に、ぶっ殺してやるっ。


「佐鯨を、……」


復讐の顔を出していた北野川に、意外にもというか。命令されているからか、彼女を止めたのは


「粉雪様が撤退の指示を出しております」

「ああぁ?なによ、クソ爺!!」


南空茜風であった。粉雪から撤退の指示を受け、暴走を許さないために北野川の元へ向かったところ。録路の生存も聞けば、一番に暴れそうなのが北野川だと粉雪は分かっていた。そして、白岩のことを伝えないように抑えろとの指示。


「録路がどこにいるか、知ってんでしょ!?あんた、突入してたでしょ!」

「申し訳ないですが。ここは退くしかありませんよ」

「吐かせるわよ、カミィ!!」


妖人化し、ヤケクソに南空への攻撃を開始しようとする北野川。南空は懸命といった表情などなく、無関係のなさを強調するような言葉を出す。


「遅かれ早かれ、あなたと録路は対面できるでしょう。今は彼がいなくなった事を悲しむのに、感情を優先すべきですよ」

「ああ!?」

「佐鯨の顔を見られるのも、数日までです。あの死んだ顔には、決して卑怯な事で死んだ色は見えなかった」


死んだは死んだが。佐鯨として、生きてきて死んだという顔であり、傷でもあった。戦う目的で活動していた男の顔だというのを、男である南空に伝わった。復讐心などあろうはずがないし、求めもしないだろう。


「互いにぶつかり合って死んだ男を、あなたは気にかけていたんじゃないかな?」

「うっさいわね!粉雪の何か知らないけれど!」


言葉で止まる奴じゃない。力ずくでいこうとした相手に、南空もそれに応える。妖人化の暇などまったく与えず、北野川の首を左手で正確に押し付けて持ち上げる様。


「ぐっっ!!このっ……」

「私に敗れるのなら、録路を倒すことなどあなたには無理だ」

「っ…………」


北野川を降ろし、南空は力で強引に抑え込んだとこの場で見せつけた。こんな負け方を佐鯨はしていないと、分からせてもいる。


「妖人化したところで結果は変わらない。君は今、受け入れるべき現実と向き合うのだな」


北野川の感情は復讐心の先へ、ひとまず向かった。

両膝が折れて地面について。泣いている自分が今の自分がとるべきものだった。めっちゃ悲しんで、めっちゃ苦しんで、それから。今と同じ気持ちの答えならそうするまで。

戦いが無事に終わり、佐鯨が死んだんだから泣いてあげるべきなのだろう。


「うっ……くぅぅ」


堪えた顔も、直情的なもので抑え込んでいたに過ぎない。


北野川は動くことはできたが、ほぼ1日中、泣き疲れきってしまった。またその夜、自分を信頼していた者に、声もかけられずに去られるという悲しい事実もあった。

彼女のメンタルは、自分の能力と同じくらいにボロボロにされる。最悪の一日となる。


◇      ◇



車やバスなどでの団体移動。

その中でガムをいくつも口に放り込んで、怒りを噛み食うようにする人がいた。

ご機嫌の帰還ではない、粉雪だ。


「どーいうつもりかしらねぇ……」


因心界の者達の多くがキャスティーノ団のアジトから帰還した。

外で出迎えてくれたのはキッスとヒイロの2名。二人共、横に並んで待っていたが、どちらも顔を合わせていいもんじゃない表情。勝利を感じさせない。

それは先頭でみんなを引き連れて帰ってきた、粉雪と白岩も同じだった。


「ただいま」

「おかえり」


嫌な事がお互いに分かる挨拶だった。そんな挨拶をした後すぐに、キッスは粉雪を。ヒイロは白岩を。呼ぶようにして合流。ヒイロと白岩が本部の中へ入り、キッスはその様子を見ながら粉雪を立場で抑え付けた。

引き連れていた部下達も大半が本部に入っていくのに、キッスと粉雪は外で待機状態。家に帰ったりする人を見送って、さらに人がいなくなるまで外で待ち。粉雪は確認した。



「なんのつもりよ?」

「録路は車の中か?」

「あー、野花と南空が警護して牢屋行きにするところよ。で、なんのつもり?」


正直に、まだ納得ができていない粉雪。もうそれは決まりましたって、行動をしているキッス。

録路の処遇はまだどーでもいい。

白岩とヒイロの事だ。お互いに今ここで、戦いそうな雰囲気になったところで。キッスから思わぬ提案をされる。


「温泉に入って話そうじゃないか」

「…………は?」

「夜まで待ってくれ、粉雪」


待てるわけもない粉雪は、大事な事だけ確認させてもらう。その中で問題は


「白岩とヒイロを見逃してどーするつもり?」

「いずれ、あの2人がどうするか決めればいい。私と粉雪を相手にするか。それとも、私達とは違ったやり方で戦うかだ」


2人でこれから話し合うという結論をヒイロは出した。それを受け入れて、キッスは追放するまでの時間を用意した。

答えを出す時間は、長い方がいい。その答えが出ない間は因心界と戦う事はないだろう。


「今度はヒイロが中心になる組織ができるかもな」

「……そうなったら、因心界から離脱する妖人もいるわよ。そうなるのなら私が殺しにいく」


ヒイロ単独ならば、あり得る可能性ではあるが。それはないって、粉雪も可能性にはあった。なにせ白岩がそれを素直に受け入れるわけではないし、彼女達の心は純粋な悪とは言えないものだった。自分達の罪を分かっていながら、超え過ぎるラインを自ら飛び越えるとは思えない。

キャスティーノ団が人間達の欲を刺激するような、ひゃっはーな世紀末雰囲気の悪ガキ共を集め、そのまとめ役に安定している録路を据えていたのも、突発的な小競り合いは起こせど、戦争などにはしたくなかったのが人選から現われている。

妖人になるきっかけも、運命のように奇跡的なもの。単独でその力を行使する事も珍しいことじゃない。危惧としている事に


「キャスティーノ団は、見えない悪を拾う役割を担っていた組織とも言える」


因心界と対になる組織を作り、裏で操り。多くの人を苦しまれた事実もあるが、2人がいるからこそ抑えていたところもある。無理矢理な解釈でもあるが……。


「"ブルーマウンテン星団"の話しもあっただろう」

「古い話ね。蒼山の馬鹿がやっていた組織か」


凶悪さだけが目立つ組織は、巨大な正義と対となり向き合う事ができる。

しかし、悪の恐ろしさは紛れもない無知と平穏に紛れたところにあるものだ。

蒼山の本性である、"ラフォトナ"を知っているキッスは、そいつの恐ろしさも理解している。そーいう組織は発見するところから困難なもの。おまけに戦う気もないからだ。


「表面化させるのに一役買っていた」

「無理な解釈ねぇ。ただの言いがかりとも言えるし」


確かにって言葉は1割ほどにして。まだある問題については


「残りは温泉に入ってる時に聞くわ」

「悪いな。まだ、確定してない事が色々あるからな」


逃がす罪も、そのリスクも過大だらけだ。もちろん、キッスは出会ってなくても、北野川を始めとした妖人達のメンタル部分もケアしてやらねばならない。



◇      ◇



一方でヒイロと白岩の2人。


「こ、これからどうする?ヒイロ」


不安を感じている声だった。今の自分達にとっては、いつもここで過ごし暮らしていた場所がいるわけにはいかない危険地帯になった。

キッスはともかく。網本粉雪という女を知る限り、あの凶暴さが不意に来てもおかしくはない。無論、信頼するところも仲間であったから分かるし。あの人物が酷く嫌っているのが、仲間の裏切りである事も知ってる。


「ひとまず、荷物を纏めて。夜の間にここから出よう」

「うん。でも、どこに?」

「……今日は印のお宅に上がろうかな。ご両親に話すかどうかもそこで考えよう。これからもね」

「それはいいけど、あんまり長く居れないよ」


安心できる場所を失った。


「できる限り、妖精の力をとっちゃったから。少しは長くヒイロの傍に居られるよ」

「辛いことを言わなくていいよ」


これから任務で別れる事もなく、一緒に居られることが嬉しくもあるが。悲しくもある。こうした形で長く居られた場所を失うのは、白岩にとっては辛かった。色んな出会いがあったし、仲間共出会えて。


「……ひっ……ぅ……」

「……北野川には声をかけるべきだぞ、印。俺に騙されたと言っていい」


自分がこうして、離れ離れになる理由も知っていて。でも、だって。難しい天秤掛けられてても、一番を選び取っている自分は


「会える顔も、言葉もないよ。だって、あたし……北野川の大切な人まで、奪う原因でもあるし。騙していたわけだし……ずっと、」

「お前と北野川は仲間だよ。これからも!」


会って欲しいと思ったヒイロ。良ければ、自分もそこで彼女には謝りたい。二人で北野川を説得し、因心界に引き入れたわけだし。こうして別れるなんてどちらも思わなかったこと。

今の気持ちをゴメンね、と済ませるわけに行かないから。白岩は涙を堪えられず、首を横に振った。北野川が佐鯨のことで酷く心を痛めているのに。何を信じればいいか分からないような事まで、伝えられない。分かることだ。それが仲間だからこそ、最良もある。


「ダメだよ。会えないよ、会うわけにいかない。まだ……ダメだよ」


どうするか、分からない。ただ、白岩が願っていることは


「北野川は因心界にいてくれなきゃ……もし、あたし達のような。酷い嘘吐きにさ、なっちゃったらさ。悲しいよぉ……まだまだいっぱい遊びたいよ」


殺される事も覚悟してるし、共に過ごすこともあるかもれない。だけど、それは自分達の犯している罪を考えれば、できるわけが無い。北野川も特別な仲間であるが、因心界そのものにも特別な想いがある。ヒイロの気持ちも汲み取って、これ以上の迷惑なんてかけられない。

北野川がどう決断するかが分からないのに、会えるわけがなかった。まだ、仲間として想いたいから別れるという苦渋の判断。


「ヒイロと2人で逃げようよ。今はどこまでもね」


思っている別れに涙はあったけど、こんな別れは考えた事も無かった。今度会う時は、敵として会うかもしれない。


「……印、今日はひとまずやり過ごすが。俺には」

「分かってるよ、ヒイロ。私、アホっ子だけど、ヒイロの気持ちがよく分かるから行こうよ」

「すまない。きっと、お前を苦しめると思うのに」


向かうところがないと言ったが、安心して考える場所なら一つだけあると、ヒイロの心の中にはあった。それを言わずとも、察する印もこれから別れる覚悟と同じくらいの気持ちでいる。


つまり。


因心界と戦う覚悟はできている。



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