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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第23話『決戦!因心界VSキャスティーノ団!その2!』
63/267

Aパート

ゴゴゴゴゴゴゴゴ



「揺れがヤバイわね」


北野川は妖人を数十名、引き連れ。キャスティーノ団のアジトへの突入を行なった。

ライダーズルーンが敗れ、死亡し。覆っていた電撃の結界が破れ、正面からの突入ができるようになった。だが、粉塵と揺れが激しく、建物内部への侵入はまだ早く。周辺の様子、安全を確保してからの進行となった。


「………地下からか。ともかく、みんな!白岩を捜しなさい!あの子の無事も確認しなきゃいけないから!」


野花の作戦では、正面を荒らしつくした白岩がそのまま地上に居座り、北野川との合流を待ちつつ、敵を逃さない。裏から逃げる連中を、粉雪、南空、佐鯨の3名で追い込んで倒すというもの。

1階より上を完全に支配すれば、因心界の勝利に間違いはない。

激しい戦闘であったが、その全てが敵の妖人達や構成員達と言っていい有様。白岩の、レンジラヴゥのとてつもない戦闘能力が物語る。まだ、隠れてやり過ごそうとしている連中もいるだろうが、それを刈り取るのが北野川の役目。



「隠れている人ーー!」

「無駄よーーー!」



エコーが掛かったボイスを戦場に広げ、その声を聴いた者達の秘密。位置情報に関しては正確に抜き取っていく。……だが、そんなことをしても


「反応がほぼないわね」

「レンジラヴゥがやっちゃっているんだと思うなぁー」


レンジラヴゥの圧倒的無双があったという事実しか分からない。

だが、そんな無双をひっくり返すかのように現れた怪物は



ガシャアァァンッ


「じゃね~~~~~~」



ジャネモン。廃棄自動車が重なって生み出された怪物が、彼女達の前に立ちはだかった。


「デ、デカイ!それに両足と両手は車ボディっ!硬そうだ!」

「落ち着け!キャスティーノ団の悪足掻きだ!」

「レンジラヴゥはどこにいるか分からないが、この人数を相手に勝てると思うな!」


戦力もそこそこに揃えての突入だった。負ける要素はないが、些か手強そうなジャネモンだ。多少の犠牲は仕方なしと見て、落ち着いてやる。

だが、北野川は妙な違和感を感じた。


「…………なんでこんなのがここにいんのよ?」


周囲にジャネモンを出せるような邪念はなかった。となると、色んなところでかき集め濃縮された邪念で産まれた怪物か。なんでそれが、今になって出てくるわけ?


「まぁ、いいわよ」

「じゃね~~~!」


この戦いが終わってから考える事にする。


プシューーーーー


視界と臭い、喉を阻害する、凶悪な排気ガスを撒き散らし、怯んだ相手に


「じゃねーーー!!」


車のエンジンを活かした凶悪タックルで襲い掛かる。



◇      ◇




カチッカチッ…………



今から13年前。

因心界ではとある存在を欲していた。


「無事に涙キッスが因心界を継ぐことになり、彼女もそれができる歳になりました」


涙キッスは紛れも無く怪物だった。

妖精、サザンのパートナーである両親から生まれたその子は、赤子の内に因心界に所属し、幹部の地位と実力を手にしていた。

今やもう少ない因心界の初代メンバーの1人。

その子もついに13歳になり、自分の志を育め、見つめられるようになった。

戦場において、彼女の強さは揺ぎ無いし、未だに底の見えない怪物。家族すらもキッスの本当の実力は分かっていない。

それでも絶対ではないために



「あなたがようやくその地位から降りるというのなら、後継をまた作らねばなりません。とはいえ、キッス様の年齢はまだ13歳。とても子を産むようなお年でもなく、殿方の相手もいない現状、指揮もまだまだ未熟」



この頃の因心界の権力は涙一族がほとんど握っていた。

革新党を始めとした色んな勢力が傘下につくが、この当時は殺伐としており関係はギクシャクといったところ。

涙一族もまた、"本家"と"分家"での対立が起こっており、身内同士の小競り合いや政争を起こしていた。

当時の因心界のトップにして、キッスの父親は伝える。


「そーいう話ならルルがいる。まだ3歳だけどな」

「あの子は我が一族の出来損ないです。分かるでしょう?あの子は何一つ、両親であるあなた方の力を受け継がず、この世に生を受けた存在。とてもとても……涙一族の世を任せるには無理な子だ」


人の娘に対して、とてつもない暴言を吐かれる。それに激怒するのが親というものではあるが、その激怒が正しいかどうかがこの世の先を左右する。

父親は怒りを堪えて黙った。

現在こそは、涙キッスが因心界と涙一族の両方でトップに座っているが。

当時はキッスとルルの父親が因心界を、涙一族は別の存在が率いていた。妬みのような部分もある。彼にはなんとしても、こちらに優位な存在を因心界に送り込みたかった。

だが、当然。息の掛かった存在や血の繋がりを許すつもりはなかった。それが大事な娘の1人、ルルを貶した存在への抵抗。


両者、協議の末。

出された結論は互いも知らぬ、妖人を教育しあうというもの。

これによって両陣営は多くの人材を育て、その過程で死に行くことも珍しくなかった。


特に、涙一族側が選んだ妖人達は凄まじく禍々しい存在と化しており、革新党の存在によってその真実が暴かれ、以後は因心界との繋がりがそこまで強くはなくなった。

無論、因心界側もキッスのバックアップとなれる人材、教育を行なう事を続けており、その人物は知らずとも、トップであるキッスは知っている。

自分にはない意志を持っており、それが羨ましくもあり、任せられる未来の背中。



「私は佐鯨貫太郎を勧めるよ」



妖人としての強さ、心にある不屈の情熱。さらにまだ成長の兆しを見せる、若き男。

自分がその座から降りる時、彼ならば世界の平和を守る、正義の男となっているだろう。

汚れた一族の血縁も絶たれ、人と妖精はまた新しい文化と時代を生む。


それが歴史の流れ。

自然に任されたこと。


◇      ◇



その想い。そこまで積み上げられた、知らない骸を背負い。

正義に燃え上がる男。


「俺はー」


佐鯨貫太郎は録路空梧と激突する。


「こまけぇー事は聞かねぇ。お前の後ろになにがいるか、知るつもりはない。1分後には口を閉じて、拳を握れ!」


キャスティーノ団アジト、地下2階。

倒れている者達が多い中で、立っているのは男が2人の大広間。

自動車整備を行なっていたところであるが、今は整理されてほとんど空っぽといった空間だ。どんなバトルをするのも絶好の場所だ。


「目の前にいる悪を俺が潰す。俺はそれだけだ!」


熱い。

妖人化するまでもなく、感じるこの男からの熱さ。

真っ直ぐな奴。信じた者を疑わない、ウザさ。録路はどう答えるか?


「俺はお前が嫌いだ。テメェ、"自警"って言葉知ってるか?」


確かに佐鯨の思想は、正義なのだろう。

だが、それは時代や人によって変わるものだ。佐鯨のそれを正義と言えるものもいる。それを違うという。


「自分で護る力もねぇ奴を疑うこともしねぇ、お前の正義の心なんざ悪も同然なんだよ。俺達よりもだ」

「はっ、俺は目の前にしか向かねぇよ」

「話しにならねぇな」

「分かってんだろ」



ノッている。2人の闘志は、これまで感じた事のないほど強い。

それを支える互いの妖精達は応える。

バーニは電子レンジ。マルカはオーブントースター。それぞれを中にいれ。熱くしてやり、同時に完了する。



チーーーーーンッ



「『勇気よ熱く燃え上がれ、ブレイブマイハート』」

「『このナックルカシーに食えねぇもんはねぇ!』」



飛び出す、両者。そして、声を送る妖精達。


『いけーーーー!ブレイブマイハート!!』

『頑張って!ナックルカシー!!』


右と右。踏み込んだ勢いも互角。思考も同じく、互いの武器を潰し合う拳の繰り出し。重なり合うのは必然であり、踏み込んでいて踏ん張る足元に亀裂が走るほどの衝撃。



ドゴオオオォォォォッ



『うわああぁっ』

『ひいいぃぃっ』


バーニも、マルカも。ぶつかり生じた衝撃波によって、吹っ飛ばされる。だが、女と男は吹っ飛ばない。

生身であれば、はるか先の壁にめり込んでもおかしくない威力。そんな強打を


「おおおおぉぉぉっ!!」

「らああぁぁっ!」


互いが繰り出し、ぶつけ合う!!

ブレイブマイハートが一撃をお見舞いすれば、ナックルカシーがすかさず一撃を返す。互いが肉弾戦を得意としている事から、この激しすぎる戦いは簡単に想像がつく。



バヂイイィィッ



「ぐうぅっ!!」


ブレイブマイハートの攻撃は拳と熱を同時に叩きこんできやがる!

ガードしても熱の追加攻撃は早々防げない。



ドゴオオォォッ



「ぐはぁっ!」


ナックルカシーっ……。こいつ、あたしより純粋なパワーがある!

一撃がクソ重いし、ガードの上からでも響いてくる。



「はあああぁぁっ!!」

「おらああぁぁっ!!」


純粋たる闘争。決闘というに言葉現すには良い戦い。

ブレイブマイハートの前蹴りと、ナックルカシーのヤクザキックが再びぶつかる。激しく吹っ飛びながら、その飛距離に差が出ていた。


「ぐおおぉっ」

「くぅっ!」


一手。

将棋や囲碁、チェスといった盤上遊戯ばんじょうゆうぎにおいて、そこから知れる情報は計り知れないものだ。ナックルカシーが純粋なパワーで上回り、今の相打ちで押し勝ったこと。そこから得られた情報も大きい。


高熱を発するといっても、体の部位によってやはり異なる。意識のいっていない部分に熱は回りきれない。

特に足と拳の差はかなり温度差があるみてぇだな。



踏み止まってからの考察からの動作は、野生的な反射も含めて隙がない。あの体でブレイブマイハートの膝を狙った攻撃をかます。そうはさせまいとブレイブマイハートも勇ましく、狙われている足で応戦!

だが、この脚の馬力の差は大きいようだ。やや苦悶の顔を出すのはブレイブマイハートの方。


「ぐうぅっ!」


脚の動きを封じる作戦か。機動力が低下すれば、その豪打をモロにもらっちゃう。まだ、スピードが落ちない内に畳み込み。狙いが分かっているなら、カウンターをとれる。



ドゴオオォォッ



今度はナックルカシーがモロにもらう。あまりにも執拗に狙い過ぎており、逆に飛び膝蹴りを頬にぶち込まれた。さらにブレイブマイハートは続けて、横に一回転しながら、掌低を鎖骨に叩き込む。

パワーと戦略では若干劣るも、テクニックとスピードで巻き返す。


「ちっ!」


狙い過ぎたか。

思った以上に機転もできて、素早い。


「ふーっ!」


これで倒れないのか。

地面に倒す攻撃だったが、ナックルカシーの奴。メチャクチャ足腰が強ぇ。耐久力も以前とは段違いだ。


バギイイィィッッ


やったらやり返す。どちらも退かず、打撃重視の格闘戦。

純粋な体格差ではナックルカシーが上回るが、この手の戦いの経験と技量、パワーですら遜色なく張り合っているブレイブマイハートもかなりのもの。


『ど、どっちが上なんだ!?』

『お、押してるよね!ナックルカシー!』


見守る者達からでも分からないほど、ほぼほぼ均衡している戦力のぶつかり合い。

全力全霊の応酬。戦闘フィールドの利点すらにも目を向けない、純粋な力比べに誰もが情熱を込める。その熱量に痺れることなく、休むことなく可動する肉体。


ベギイィィッ


互角の打撃音が続いていたが、力量のわずかな差が出てくる音も分かる。

より、その体でぶつかってきた者達には分かる。


「ぐっ」

「はぁーっ!」


本当にわずかであるが、ブレイブマイハートがパワー負けをする。技術云々を跳ね除けるヘヴィ級の打撃が、体の中に与えた影響は大きい。このまま不意やラッキーなどない状況で格闘戦を続ければ、ブレイブマイハートの不利は確実。


「ぐぅっ!」


だが、熱の攻撃が確実にナックルカシーの皮膚を焼き焦がしていく。パワーこそ、ブレイブマイハートを上回っていても、1つの1つの攻防に使っているエネルギーは大きく、スタミナの消費も大きい。加えて、熱に当てられて、汗も想像以上に流れ出る。体力が絞りとられる。


勝負をかけるか。

だが、お互いに全力の格闘戦、全力の戦いをしている以上。特別にナックルカシーが慎重であり、佐鯨も必殺技を叩き込むには早いとの判断。その隙、その間違いが命を左右する。見切れるこの序盤では動かない。

ここで打撃戦で優位をとったナックルカシーが、この間合いを嫌うように下がった。何かしてくるという予感に、迎え撃つ体勢のブレイブマイハート。

押されていたという精神的な分析がけんを選んだ。だが、ナックルカシーの能力を見誤る。彼がポケットから取り出した、ブレイブマイハートの熱を直下でも熔けない特注の袋に入ったお菓子。

以前の戦いではここでの隙、誤算が勝敗を分けていた。単純な打撃戦でも、全体的な不利を感じ取っていたナックルカシーは工夫で補った。



「っ!」



ヤバイ!あれ食われたら、回復される!

それだけはさせない!


ブレイブマイハートが単調に突っ込んでいく。その心理を絡みとって、ナックルカシーは大胆にブレイブマイハートの方へ優しく投げてやったのだ。阻止したいブレイブマイハートはこの動きに、お菓子を左手で掴んだ。食われるわけにはいかない。そんな注意が体全体で反応しており、緩急をつけての本命の攻撃。これの対応が疎かになった。



ドゴオオオォォォッ


ブレイブマイハートの左から、右フックを側頭部テンプルに合わせてぶっ飛ばしてやるナックルカシー。

戦略の違いというものを見せつける、立ち回りでブレイブマイハートに大ダメージを与える。

そして、内ポケットから袋に詰められた菓子を取り出す。


「悪いが今日は大量にある」


菓子を食って、これまで喰らったダメージを回復させて、身体能力をより強化する。

これを第1ラウンドだとしたら、ナックルカシーの優勢。



「おーうっ、立てよ。死んだふりする演技力はねぇだろ」

「………効くなぁ。この一撃、他の奴等なら即死してた。急所はマズイねぇ」



身体能力を五分五分とすれば、回復能力のある相手に優位だろうか。

ブレイブマイハートの心の炎はさらに燃え上がっている、体の不利を見せない強気ぶり。そーいう意地っ張りはしてくると判断できていた。

ナックルカシーからは焦って戦う必要はない。回復のない奴はじっくりと戦うのが定石。


だが、追い詰められて本領を発揮したり、巻き返せる切り札というのがあっても不思議ではない。



◇      ◇



ブレイブマイハートはゆっくりと体を起こしていく。



シュ~~


「!!」


その動きよりも早く立ちのぼるのは、熱気によって生まれたものか。得体の知れない蒸気が、ブレイブマイハートの体が噴き出していく。

別種の能力と判断はしない。派生や応用の類い。ナックルカシーがやや警戒し、腰を落として様子を見る。ブレイブマイハートの瞳は変わらない。気合のノリもボルテージが上がって来たと思えば、予想通り。

嫌な予感がするという、事前に対策をとるナックルカシーが正体掴めぬ気配でいた。

ブレイブマイハートはファイティングポーズをとった。


「ふ~~」


ぶっ倒されることは恥じゃない。最後に立っていられないことが恥になる。

勝つ事、負けない事。

それ以外は全力で向き合う。相手はこうして向き合ってくれている敬意に、応えるべきものがある。


「第2ラウンド」

「っ…………」


手強くなってきた。

気付いてんのか、気付いてねぇのか知らないが……。

これからが本当のこいつとの戦い。

互いに知らない領域になるのか?



ナックルカシーはその心中でいても、強き者として胸を貸したスタンスでいたわけじゃない。わずかでも間合いのある時間が欲しかったからだ。予測不能な攻撃はまず来ないだろうし、来るならむしろ好都合。奴自身が制御できていないと判断しただろう。

ジリジリと互いに間を詰めながら、脚に加わったわずかな力を見切り、ナックルカシーは受けに回った。



バヂイイィィッ



スピードがさらに跳ね上がり、体格差のある自分と並ぶパワー。

薙ぐ横蹴りを受け止めたナックルカシーの反応は良い。普通の奴なら蹴り飛ばされていた。そこから投げに移行するか、締め技にもってくるか。チャンスと思われど、冷静にブレイブマイハートの足を離した。

高熱のカウンターが来るからだ。

相手の身体能力の向上にも落ち着いている。


「らああぁぁっ」


本能だ。

ブレイブマイハートの戦い方に頭脳は少ない。体が勝手に動いていく。一度見切られたところで、手数で押し、力で押し、スピードで翻弄する。知略なんてものはない、運動能力の制圧。


「おおおおぉぉっ」


投げ、締めは苦労する。

ならばと、ナックルカシーも



ベギイィィッ



「打ち合うまでだ!!」

「上等だぁっ!!」


とにかく、くっつく。ナックルカシーが距離をとれば菓子の補給をされる。元々、その戦闘範囲も広大なものじゃない。殴り合いでいい。これでいい。

流血しながらも、この間合いで構わない。



ガツゥゥンッ



互いの額がぶつかり合い、それでも退かず。

ほぼ零距離で向かい合った一瞬。


「おおおおぉぉぉっ!!」


ドゴオォォッ


体が小さいおかげで小回りが利き、ブレイブマイハートがナックルカシーの顎へと強烈な上段蹴りを叩きこんだ!いかにガタイの良いナックルカシーでも、人体の急所は鍛えられちゃいない。両膝が震え、一時の思考停止になる。防御への動きが遅くなるところを、ブレイブマイハートの攻撃は見逃さない。


「ぐぅっ」


剛速球に振り遅れたバットのように、ガードをすり抜け。腹部へ。


「"熱掌ねっしょう"」


クリーンヒットを奪う。2手3手と読んで、ナックルカシーの防御は急がなければならない。

だが、それよりもさらに早く。


「"熱蹴無双翼ねっしゅうむそうよく"」


ブレイブマイハートのヒートしている連続攻撃が上を行った。ナックルカシーの頭上で決める、連続の踏みつける足技。あのシットリにもダメージを与えた技。

両膝に、左手まで床につけるナックルカシー。屈辱の姿であったが、


「おらああぁっ」


振り向き様に殴りかかる。無茶苦茶な体勢でも、襲い掛かって来た。それでもブレイブマイハートを追い払う程度のこと。



「はっ!」

「ふー」


一呼吸が精一杯の間。体を起き上がらせているところに、前蹴りを痛打されて吹っ飛ぶナックルカシー。一気に突き放しに来た運動能力の差。蹴られて吹き出た鼻血を拭い、


「ふぐぁっ」


さらなる追撃をガードしていくが、熱を帯びている拳はガード越しでも響く。


『ろ、録路ぉっ!!』


マルカもこれほどの攻撃を見ても、彼に何もできない。せめて、菓子だけでも補給できれば回復はできるが、その隙を作らせない。防御を続けてされても、突破していく力がブレイブマイハートにはある。



「うおおぉぉっ」



一気に勝負を決めに来た。暴走車のブレーキは壊れたものだ。

ナックルカシーも、とある体のスイッチを押したのだ。



「"荒猛努アラモード"」



"切り札"にもまた、種類がある。

ブレイブマイハートの追い詰められてからの身体強化は、それが条件に絡んでいると推察できる。また本人も、時や場所を選んでいるタイプではないし、直感や本能で動くタイプ。

ナックルカシーの場合。


「ここまでは想定してる」


入念に対策を練り、成功や達成の確率を上げる。

ブレイブマイハートと戦う事を想定していた。一度、手を合わせたことでより、対策はしやすい。

彼に勝つという目的だけをとれば……だ。



バヂュウゥゥッ



スピードに乗って繰り出されたブレイブマイハートの横蹴り。高熱を発する蹴りが、ナックルカシーの左腕に包まれるという異常。

蹴った感触は人ではなく、クリームやホイップのような柔らかいものを蹴っ飛ばしている感じ。


「!!」


モコモコモコモコ


蹴りこんだ箇所がけたり、焦げたりしているが。それよりも早く白く、巨大に膨れ上がっていくナックルカシーの体。そして、外見だけでなく


「冷たっ」

『な、なにをしてるわけ!?』


クールスノーほどではないが、この地下2階の空間の気温が一気に下がるほどの冷気が、白く脹れ上がっていくナックルカシーの体から、吹き出て行く。

白と氷の世界に佇む、怪物。


「テメェっ!これはどーいう能力!?菓子食えば強くなる能力でしょ!!」


外見の変貌は録路空梧という肥満体デブがさらに増大していたと、解釈すれば自然と言える姿。特筆すべきは体に強化だけでなく、変化があるということ。格闘戦メインと思われがちだった。

ナックルカシーの腕、……という部位だったか、もう怪しいほどの巨大なところに突っ込んだ足を



ズポォッ



引き抜いて、景色すらも変わった世界の中に立った、ブレイブマイハート。

ここはナックルカシーの中と考えていいだろう。食われちまったのかって、笑ってしまう。

体のバランスをとって、もうどこに奴の顔があるか分からないが、見上げ。


「………上等」


心から燃え上がっていく。

別に姿はなんだっていい。ともかく、倒す奴。



ブレイブマイハートVSナックルカシー。

お互いに優勢状態をとりあいながら、持っている実力は互角といえるもの。


「第3ラウンド」


命を賭けた死闘。



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