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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第22話『決戦!因心界VSキャスティーノ団!その1!』
62/267

Dパート

「外出するよ」


晴れた日にこんな事を言う。

それは他の人なら普通であるが、こいつだけは例外だと思える事。相方はそう思っている。

珍しくイイ顔をする。ずーっとこうだといいのにって、もったいなさそうな目を向ける。そんなことを一切、察する事無く、自分の欲求のみ求めて進む奴。



「行こうか、アセアセ」

「動くのですね。家でゴロゴロしているより有意義なので良かったです、寝手」

「ああ。蒼山が……いや、……"ラフォトナ"が動くようだからね。僕達も出番というわけだよ」



SAF協会。

今回の因心界VSキャスティーノ団との戦場に顔を向けることはないと。シットリは皆に通達していたが、ここでよもや。思わぬ存在が個人行動をとる。

シットリもそんな身勝手をするとは思えなかった。


「でも、シットリ先輩は行かなくていいって……」

「戦場から離れてればいいでしょ」

「そーいう問題じゃ……でも、間に合いますか?もう戦ってるみたいですけど」

「アセアセが怒られればいいし、僕が間に合えばそれでいいじゃないか」

「私だけ不幸な目に合ってますよ」


自宅から出ると同時に、五月蝿い音が近づいてくる。

空からだ。アセアセが見上げて心配する。



ブロロロロロロ



「?救命ヘリコプターが、……何か事件でしょうか」

「行こう!さっき呼んだ。梯子降りてきたら、乗り込もう」

「えええぇぇっ!もしかして、勝手に能力を使ったんですか!?ダメですよ!そんな勝手!あなたの能力はシットリ先輩が認めているものなんですから!」

「つべこべ言わない。君が怒られればいいって言ったじゃん。さぁ、乗った乗った」



煽られる形でアセアセが乗り込んでいく。そして、寝手が続く。


「アセアセさぁ。下着もうちょっと、エロいの穿いてよ。地味」

「こらーー!覗かなーい!まったく!」

「それと妖人化しようね。救命できた彼等が気付いちゃうかもしれないから、出力をあげなきゃさ」

「分かりましたが、スカートの中を覗かないでください。あなたという人は……あたしは妖精ですよ。メイドの姿をした」

「本体は猫でしょ?」

「はいはい」



寝手食太郎とその妖精、アセアセの2名が戦地に無断で向かう。

どんな能力かは不明だが、呼び出したこの救命ヘリは何事もなく彼等を、因心界とキャスティーノ団の戦場へ向かわせる。


蒼山との謎の因縁を持つ、この寝手食太郎。掴みどころは難しい。



◇      ◇



一方、因心界の対策本部側も慌しい。

北野川は妖人やその他構成員を数十人連れて、白岩が制圧した地点へと向かい。蒼山もまた、自分の部下を率いて表原の助けに向かう。

今回は蒼山達側の視点を見てみよう。



ブロロロロロロ



こんな戦地に堂々と、可愛い女の子の痛車があり。その車に機材を詰め込んで乗り込む蒼山達。

因心界からしても、彼が幹部につけるのは謎でしかない。

気弱、変態、下着泥棒、盗撮魔。

いくら涙キッスの、お気に入りとか噂されている男であっても、許されるべき存在ではないと思う。

そんな彼にも直属の部下がおり、部下は蒼山のことをこう呼ぶのだ。


「"統括とうかつ"、我々もやりますか」


部下はなんと、蒼山よりも年上。中年の男性達といった印象だ。

そんな連中がこんな年下を慕うという光景はかなり異質。

女の子に囲まれたいんだけどねって、という願望は意外となさそうに、信頼の目を置く蒼山。


「……今はいい。とにかく、向かおう。表原ちゃんに死なれたら、新作が困るからね!」

「了解っす!」

「出番ですねぇ!」


彼もまた、因心界とは対立していた時期があった組織の一員であり、そのトップに君臨していた男。

つまり北野川と似たような形で因心界に下った。

因心界に買収された組織。


"ブルーマウンテン星団"


その統括、蒼山ラナ。


「事情は分からないが、紫、緑、黄緑、水色。この4つの糸の光を見つけて、追いかける。そこに敵がいるって話しらしい」


部下は全員、妖人。

その上で性格は蒼山に似た存在である。それもそのはず。蒼山を教祖として、祭り上げて、彼を育てた部下達なのだから。彼等との絆はまるで家族でもあり、友達でもあり、仲間でもあり、同志でもある。

単独ではあまり考えないが、本当の部下達と組んでいると考えるらしい。


「今、衛星からの情報で。およそ3キロ先に似た色を放つ光線を確認しました!」

「バラけているとなると近そうなところからいきますか?」

「できれば、女性にしようよ。何人かいるでしょ?」


蒼山からの彼らしい発言。


「もちろん!我々ブルーマウンテン星団は、変わらずです。この中だと、緑と黄緑が女性を指してますね。あと、オレンジも」


その言葉を聞いて、ニヤリ。


「んじゃあ、全員。頂いちゃいましょ。な?」

「ふふふふふ」

「さすが」



"ブルーマウンテン星団"の連中は蒼山を含めて、非戦闘員である。

それ故に直接戦闘よりも超強力なサポートが得意。


「ショートカット」


ゴゴゴゴゴゴゴ



蒼山はスカートラインに妖人化し、即座にこの痛車を宙に浮かしてしまう。

空飛ぶ自動車というズル過ぎる移動。また車の方も改造が施されており、スカートラインの転送能力を組み合わせて強力になるよう改造されている。

部下達全員は強力な妖人のための兵器を生み出す事に特化していた。

車が宙を自由に動きながら、車の後部座席側のドアが開き、そこから重そうなバズーカ砲のようなものを抱えて出てきた、蒼山。


ガシャアァァッ


「遠・中距離型スタンガン。良い物を作るじゃないか」

「これを喰らったら、数秒は体の自由を奪われます」

「可愛い子を攫うのには最適なものを作りましたぜ、統括」


やっている事は完全にアカンのそれであるが。

ブルーマウンテン星団はそーいう組織だった。

今は大人しめの活動であるが、一昔前はバリバリの犯罪組織。あっち系のR_18を担当。

エンジェル・デービズとは異なり、同志達以外とは群れない、無頼の組織で闇の夜を支配したとも言われている凶悪集団。

組織名があまり有名ではないのは、それほど完璧な○○○組織であり、戦って勝つというやり方ではなく。そもそも戦わず立ち回るという周到さ。臆病で狡猾、凶悪という、正義を翻弄させる存在。


幻とも言われる組織であるため、その真意やメンバーを知っているのは、涙一族の数名と網本粉雪のみ。

多くの組織や人間は、その名も知らず、そのメンバーも知らず。

彼等の凶悪な完璧な犯罪に巻き込まれていた。




バヂイイィィッ



製造された兵器の全ては、蒼山ラナORスカートラインにしか使えないようセキュリティがされている。

それ故に彼の手に馴染むよう作られ、一種のチーム戦で襲い掛かる。

力量を見誤ることも致し方ないほど、個人と集団とでの戦闘力の差が出る。

この変態野郎と罵られようと、幹部には幹部に相応しい力量を兼ね備えているのは確か。


今は垢の抜けたエッチを満喫したい、少年を装っているようだったが。

それは違うって本当の仲間達は知っている。


「きゃああぁぁっ!」


ぶっ放された電撃が逃げていた標的の女の1人に直撃し、その場に倒す。

スカートライン達が彼女に近づき、スカートラインは降り立って手を差し伸べる。

だが、その雰囲気はいずれも異なるもの。


「GET~~~、ようこそ。ブルーマウンテン星団へ。君の調教をする、"ラフォトナ"という者だ。後ろは私の部下だ」

「……っ…………」


本性はそのDNAもそうであるが、周りが彼を支えた環境にもある。

野望を失ったのではなく、その果てに生涯現役というものを掲げる。王が王で居続ける運命と等しく思う。それが怪物なのだ。



「ここは私達しかいない。助けは来ない。服従し、従順となるようにね」


ここからはキッス曰く。


"ブルーマウンテン星団の組織力は、因心界の3強の1人に匹敵するほどの脅威"


ただ1人だけの幹部にしているのは、危険過ぎる思想に等しいほどの実力。特別な事が無い限りは、分断させるべき強さを持つ。

蒼山ラナの本性。

自ら、"ラフォトナ"と名乗るその人格はあまりにも強烈で凶悪。

そして、そんな彼を囲っている部下達も汚れきった、どクズで下種過ぎる妖人集団。



◇      ◇




ダメ、追いつかない。


「はぁ、はぁ……」


マジカニートゥの消耗があまりに激しすぎる。

強力な能力を手にしたが、身体能力への負荷も含めて、今のマジカニートゥでは荷が重すぎる能力。

かといって、これがなければ敵を追従できない。

他人の思考を読むというのはメチャクチャな負荷。それも複数人も同時に発動する。



「マジカニートゥ……」

「ご、ごめん……頭から来る疲労で……」


光を遮っても、能力は永続的に発動している。対象者がいないだけの、いわゆるエラーでの発動ミス。

だからこそ、相方であるレゼンがなんとかしなければならない。どんどん離されている事よりも、表原を回復させるため。



"憑き詩"の能力はサポートの中でも、相当な力だ。それを発現できるだけでもマジカニートゥの力はあるが……、本体のスペックが維持するほどには、まだついて来れていない!

それでもお前がここまで必死に頑張っている事は伝わる。必死に頑張って、できない自分とぶつかっている事を堪えて続けている。見守るだけじゃダメだろうが、俺!!



それでも、どうするべきか。

冷静さを欠かされる。

蒼山に連絡を入れるべきか。それは……ダメだ。あっちの様子は分からないし、この任務。遂行できなかったという事は、マジカニートゥの自信にも繋がる!

なんとかしてやるって、支えてやるんだ。


そんな心の中を覗かれていたら嫌だと思っていた。

だが、それよりもこれを投げ出す方が互いに嫌だった。

レゼンが熟考し導いた答えは狂気のそれでしかなかった。


「マジカニートゥ。お前、痛いの平気か?走れるよな?」

「な、何を言ってんの?嫌な予感しかない」

「"憑き詩"の解除はできねぇ。だが、出力を抑える術も博打をしなきゃできない。分かるか?」

「…………え?何する気……」



そこから1分としない時間だ。



「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」



マジカニートゥの、恐怖に蝕まれた悲痛な叫びが起きた。

そして、マジカニートゥのターゲットであるレイクレイクこと、権田飴子。


「な、なによ。今の悲鳴……」


変な光線は今も自分を追いかけてきている。それが敵が仕掛けたなんらかの攻撃だと判断し、これが消えるまでとにかくガムシャラに逃げている。

今はまだ何も異変がなく、正体を探る事が二の次なのは分かっている。


そして、あの戦場を振り返ってみると……。ライダーズルーンがアジトに張っていた電撃の膜が消えていた事に気付く。まだ、野花達も戦場を去っていない。とすれば



「ま、負けたのね。頭鴉……」



男の挑戦。仲間の夢。それを笑ってやることなんて、するべきことなのに。難しい事だと察する。あれほど近い存在だった。まだ忘れるのには時間も足りない。

先決は逃げ延びることだ。

戦場エリアから離れ、市街地までやってきた。まだ妖人化を解除せず、車を奪ってでの逃走をしないのは足がつく可能性を考慮するのと、この追いかけて離してくれない光線の正体だ。こいつがあってはどこに逃げても意味がないと想像しているのだ。


その正体は、幸運にも自分を追いかけている。

奴を始末できれば追跡の手立ては失い、確実な逃亡ができる。



トプンッ



「問題は私の能力。瞬間移動に対応されるかどうかだけど、クイレはどう思う?」


ゴポポポポポポ


「うぷっ」


なんか表原と共通するような感じ。口を手で抑えて、体内に住んじゃっている奇妙な妖精と会話する。この子、胃の中にいて溶けないのだろうか?そして、私はなんで普通でいられるんだろうか。考えていない事にする。


『対応されると思うな』

「やっぱり」


権田飴子の妖精は、金魚の妖精である。

契約すると同時に飴子の体内、主に胃の中で生活する。飴子が食べた物を栄養として生きている。


「二度目は難しいよね」


手の内を一度だけ晒さなければいけなかった状況だった。

そのための位置を探知する能力を付加されたんだろう。迂闊に使えば対応されるのは目に見えているし、まだ録路達が戦っていると信じれば、マジカニートゥだけでも始末したい。

人混みや車の行き来がある、路上でのやり合いなら勝てる可能性がある。


まだその瞬間移動の手の内は、絶対に見せられないし使えない。



「ああああああああああああああああああ」


そんな中。


「4分くらいだよね!?4分くらいだよね!?」

「ああ!!一時的な処置だ!!急いで倒して、古野さんとサングのところへ行く!!相手を秒殺するんだぞ!!」


信じられないほどの猛スピードで追いかけてくる存在がいる。


「麻酔されてるんですよね!?ねっ!?」

「ああ!痛みがぶり返す前に仕留めろ!」

「あんたの発想はいつもキチガイだよーーー!!あああぁぁぁっ」


マジカニートゥの感覚は自分がゾンビであると、言っている。

"憑き詩"は非常に強力な能力であるが、あまりにも出力が大きすぎて持続時間のなさや消耗の激しさ。もっともっと、コンパクトで良かったのだ。

あの時、あまりにもやらなきゃいけない事が多く、それ全てに対応した本気を発動してしまった。



「そこは反省点だがな」



しかし、とんでもねぇ能力を生み出すだけの想像力。

あった時は夢とか希望を描きたくなさそうなガキが、今はそーいう事を求めて飢えている。でなきゃ、マジカニートゥはこれほど強大な能力を生み出さない。

な?

もうすぐ分かって来てるだろ。お前次第だ。表原麻縫。


次のステージに行く。




「ちょっ!?なになに!?凄い勢いで向かってくる!」

『なんで今まで追ってこなかった?』


レイクレイクも、その妖精。クイレも驚いている。それほど、猛烈な勢いでマジカニートゥが間合いを詰めて来ているのだ。

緩急をつけたものとは違う。なんらかの理由で追えなかったとしたら、



「ま、まさか」


あたし以外、ばらけて逃げたみんなはやられたっての!?

だから、私を追いかけて来てるの!?


戦闘経験の差が追撃を可能としており、偶然も重なってレイクレイクの足の動きを止められた事も大きい。頑張った者にも、必ずそれ相応に平等なる偶然は落ちてくる物だ。

マジカニートゥが今、どんな状態で追いかけてきているのか分からない。加えて、自分が繋がれているオレンジ色の糸の光。それと結ばれていた者が近づいている。


「……やってやるわ。たぶん、あいつのはず」


この時の思考。

万が一、マジカニートゥが集団を引き連れて追ってきている。そーいう可能性を考慮すれば、負け筋である。

迎え撃つ、隠れても無駄だと判断していた。

だが、そう単純にあらず。人がおり、自分の能力を活かせる場所に誘いこむ。


「いらっしゃいませ」


選んだ場所はファーストフード店。ハンバーガー屋である。

今はあまり混雑していないが、自分の能力を活かせる液体はいくらでもある。



ドドドドドドド



「あそこだ!あの店の中にいる!」

「分かってるよぉぉっ!あと3分!!」


時間のないマジカニートゥとレゼンにとって、スーパー最短で向かう。ガラス越しにいる事など関係なく


「しゃああぁっ、おらああぁあっ!!」


勇ましい掛け声と共にマジカニートゥは店のガラスを蹴り壊し、のんきにミルクカフェとハンバーガーセットを楽しんでそうなレイクレイクの横を襲う。

その瞬間、


トプンッ



「!!」


レイクレイクの体が液体のようになって、一瞬にしてミルクカフェに入っていく。マジカニートゥの徒手よりも速い!この能力はイムスティニアの能力と似通っている。

だが、瞬間移動の類いをレゼン達は見ていることで、中身は別物。

"憑き詩"は反応している。もがく魚が食い刺さってる針のように、別のお客が頼んでいた飲み物の方に光が繋がれる。


ガチャァッ


「いきなり危ないじゃん」


レイクレイクが現れ、さらに構えてマジカニートゥに向けていたのは銃!

瞬間移動に銃というシンプルな組み合わせで厄介過ぎること。おまけにマジカニートゥよりもこの手の小回りが向いている。

マジカニートゥとレゼンは、ばらける形で銃弾を避ける。


パァンッパァンッ



「うあぁっ!?」

「あんた1人くらい!この能力と銃があれば余裕よ!」


装填できる弾は全部で12発。今、2発撃ったから。残り10発でなんとかしなきゃね!

少しチョコマカと動く奴だけど、鉛球をぶち込めば止まる。


「……っ……行くよ!時間はない!」


マジカニートゥは銃を恐れず、レイクレイクへと向かった。銃の軌道なんて分かりもしないが、レイクレイクの両手首の、直線上に自分が立たないことを意識して高速で縦横無尽に店内を動いた。机に乗っている皿やら、拭きタオル、その他小物も関係なしに、踏んでもいいくらいに予想し辛い動きで攪乱しつつの接近を試みている。

後先もクソもなく、身体能力の全快を尽くしてだ。

高速に動かれて的を絞れない。だが、撃ち続けるのに間違いはない。

今のマジカニートゥに飛び道具はない。銃の有効射程を維持したまま、抑えれば倒せる。



パァンッパァンッ



「お、お客様達ーー!店内ではお静かにーーー!」



従業員や使っているお客様達も悲鳴や文句を挙げる。妖人の高速移動と銃撃戦に巻き込まれたら、テーブルの↓に入って頭を守るように丸くなる。怪我人だって出したくない以上、マジカニートゥはテーブルの上で始めて、走り回る。

銃があるんじゃ、近づけない。だが、スピードはこっちに分がある。



"装填のタイミングで間を詰める。"



銃器に詳しい奴なんてそういない。中学生だもの。むしろ、レイクレイクの方がオカシイと言える。何発で装填を行なう動作をする?一瞬でも遅れて間を詰めてしまえば、射殺される。

無論、それをレイクレイクが危機に思っている。

マジカニートゥを近づけないための威嚇射撃は必須だが、装填の隙ができるのも確か。間合いをしっかりと計りつつ、



トプンッ



「!!」


液体から液体への瞬間移動で追い詰めていく。この予備動作がかなり速く、おまけに連続性もある。

だが、距離はそんなに遠くまではいけないし、液体がないとダメなようだ。


パァンッパァンッ



「!!」


奇襲的な連続攻撃をギリギリでかわし続けるマジカニートゥ。その時、レイクレイクは銃を下に降ろし始め、左手は後ろポケットへ回そうとした。

もしかするとのチャンス。


銃弾の装填チャンス。



「っ!」


マジカニートゥはテーブルをぶち壊してまで踏み蹴って、レイクレイクへの無謀な接近を試みる。だが、焦らせて直線状に走ってくることへの罠。銃弾はまだ残っている!

フェイントを織り交ぜ、銃弾の軌道上を走ってくるマジカニートゥにぶちこめる……。その刹那に銃の照準をずらしてくる、不意を突いた左からの小動物の襲来。



トーーーンッ


「悪ぃな、考えを読んでる」

「!………!?」



レゼンが先回りしなきゃありえない位置で、レイクレイクの銃撃を妨害し、マジカニートゥへの攻撃を無力化する。その一瞬でマジカニートゥは拳の射程に入り!


「やあああぁぁっ!!」


ドゴオオォォォッッ


レイクレイクを殴り飛ばした!

…………だが、その拳のほとんどは


「あーー!!怖い怖い怖い!レゼン!ゆ、ゆ、ゆ、指の大半を切り落さないでよ!!怖いんだけどぉぉっ!」

「わ、分かった分かった!と、とにかく。そんなに耐久力のねぇ相手で良かった。お前の攻撃で一発だった」

「わーーー!こんな能力、超ヤダーー!」

「何を言ってやがる!お前と俺が意志疎通できて、相手の行動まで察知できた!その能力がなきゃ絶対勝てなかったぜ!」

「いやーーーー!指を切り落す覚悟なんか、絶対いやーーー!もうっ、いやーーー!」

「サングが必ずくっつけてくれっから!そーだろ!」


"憑き詩"の消耗をより減らすため、不必要な指を切り落してしまうという、えげつなさすぎる作戦。

指のない拳で人を殴って大丈夫なのだろうか?麻酔みたいなのが効いているからって、使っていいのか、ホント!


「あーーっ、お母さーん!ホントに怖いよーー!指がないだけでも、怖いよーー!」

「泣くな泣くな!助かるから!早くいけば、助かるから!あ、すんません。お店の方!ここで気絶している女の子を救急車呼んで、病院に連れてかせて」


といいつも。あと1分ぐらいしか、痛みの誤魔化しは効かない。

絶対にヤバイ。勝利しても敗北になってしまう。



「うーーっ、うーーーっ」


おまけにマジカニートゥも勝利の余韻で、しばしの間。体が思うように動かない。疲労に恐怖と色々なものが襲い掛かっていた。そして、リミットが来る。


「あ、マジカニートゥ……」


痛みを誤魔化す、レゼンの治癒術の効果が消える。

あまりの激痛に叫び、死を選んでしまうだろう。そして、そんな時間が来ることも、マジカニートゥは覚悟シテ全てを流し切っていた。



……………



「………………」

「………………」



これが。死。なのか……。


「……あれ?痛くない……」

「???お、おい。マジカニートゥ。俺の施した治癒術は10秒前に消えたぞ。なんで平然としてんだ?」



両手の指、合計8本を切り落している光景は誰が見てもヤバ過ぎる光景。

やった張本人も被害者も、周りの存在もマジカニートゥの悲惨な手の形の方を心配するものだ。だが、まったく痛みがないのだ。そして、血も流れてこない。



「ど、どーなってんの?私の能力?」


マジカニートゥがここ一番で死にたくないと願ったからか?だが、次の能力の発動まで20分以上ある。その線はない。レゼンもまた


「そんなわけあるか、なんでお前普通に生きてんだよ」

「いやいやいや!指を切り落したレゼンに言われたくない!」


何も"感じて"いないことが違和感でしかなかった。

そんな状況で現れたのは、まるで教会の神父様とかそーいう神々しさを纏った姿の要人と、使用人的なメイド。


「これは意外な縁。表原ちゃんだよね?あぁ、マジカニートゥか」

「"スリープハンド"教主様が今、あなたの指を少々いじくりました」


なんでこんな時に現れるんだと、驚愕でしかなかったマジカニートゥとレゼン。

SAF協会の


「寝手食太郎!!それと、隣はどこかでお会いした気がしますけど!」

「っ……なんで、SAF協会が」


こんな状態で連戦なんて想定していない。だが、意外な言葉が寝手こと、"スリープハンド"は答えた。


「今日は君に用事があるわけじゃない。今、君が倒した女性に用事があるんだ」

「は?」

「へ?」


どーいう関係?

そう思った2人であったが、アセアセは少々恥ずかしながら、答える。なんで私が言うんだって顔で。


「寝手は……おっと、"スリープハンド"様のご性癖なのですが。敗北した女性を陵辱するプレイが、お好きなのです。ですので、ここで負けた権田飴子を回収しに来たのです」

「そーいう事。君が負けてたら、君を回収してたけど」


なんだそりゃ。


「気持ち悪い」


女性として、変質的な男性の考えをどストレートで、捻じ伏せる一般的な暴言。

しかし、そんなことを意に介さず。

マジカニートゥが勝ったとはいえ、その酷い両手の怪我。勝者と讃えるように


「ちょっと両手を貸して」

「近づかないでください」

「抵抗しても無駄だよ。完璧に誤魔化してあげる」


無理矢理、"スリープハンド"に両手を握られる。

なんでそんな言葉がくっつくのか、分からないが。ともかく、それができるということは


「はい!これで、君は両手の傷の痛みを気にしないよ。でも、完璧な治療をしないと物理的に死んじゃうから、1時間以内に接合してもらうと適切だろうね」

「え、えええぇっ」


な、なにこの人!?どーいう能力!?


「あ、そうだ!僕達、ここに救命ヘリで来てるから、君達乗って病院まで行くといいね」

「な、なんなんだお前!俺達がお前の言う事を信じると思うのか?」

「僕は君達を助ける用事はないよ。飴子ちゃんを陵辱する過程で、君達がいると邪魔だから病院で待機していた方が……」



そんな相手の思惑がよく分からないところに、場を大きく掻き乱す連中の到着。

裏の顔を潜めて、かっこよく助けにやってきた感じに!


「マジカニートゥ!君の勝利下着を撮りに来たよ!!」

「余計に疲れる人が助けにきたーーー!あんた、帰れ!!」

「…………ああ、やっぱり会えたね」


蒼山ラナこと、スカートラインの登場であった。本人は戦いが終わっていると判断して、勝利インタビューをしに行く感じにカメラの妖精、フォトを握って登場。だが、そこで出会った存在に表情が変わった。


「!!」

「久しぶり」

「あ」


そ、そういえば……。寝手食太郎は蒼山ラナと因縁がある事を思い出すマジカニートゥとレゼン。

まさかこんな形で唐突に出会うなんて、……。


「……"スリープハンド"じゃないか」

「"ラフォトナ"、相変わらず。女の子を虐めているようだね」


同じ臭いがする。体臭を含めて……。マジカニートゥとレゼンはそそくさと2人から距離をとる。あわよくば逃げ出したいところ。

だが、両者共に妙な雰囲気を発していたのもあった。特に蒼山からは違うオーラを感じる。


「そうか、お前。本名は寝手食太郎って言うのか。どーりで私に因縁があるって言われても、誰も思い浮かばないんだよな」


嘘つけ!!あんた、世界中の女性陣から嫌われてるでしょうが!!


「君に因縁をつけるのは、僕くらいしかいないだろう。君の性癖はあまりにも下品だ。僕のように自然の摂理の正しさを持っている理想の方が好ましい」


お前も同等な嘘ついてんじゃねぇよ!!



バチバチと睨み合う両者であり、特に蒼山を知っている表原達からすれば、本人のこの感じは異常とも言える。

ある意味で言えば、キャラ変状態である。

それはあくまで雰囲気だけ、友達というか同志と喋るかのような感じで


「昔からさ、強い正義を持った女がさ~。一度敵に囚われて、恥ずかしい姿に悶え苦しんで、溺れ堕ちていく姿に勃起するのが当然な反応だと思ってるんだよ」

「だから、結局さ。その正義を打ち砕くのって、理不尽な力がそこにあるわけさ。負けたという重さを身に染み込ませる時の征服感が、もっとも"そそる"じゃないか」


お前等言っている事、ほとんど同じじゃねぇか。


「負けたか弱い女を陵辱するなんつー、軟弱で喜ぶお前達の理念は嫌いだ」

「できもしない妄想と夢で、得られるわけもない征服感に囚われている君達とは相容れないな」


女性からしたら、全員。あんた等の考え方が理解できないんだけど……。


ここから一戦やるのか。

今の蒼山の雰囲気は非常に、これまで見て来た彼とはまったく違う。見た事もないオーラが出ていると、表原は感じる。あのギャグとエロで、馬鹿でしかない彼の姿は一体どこに……。

だが、双方の戦いは本人達が語っている通り、生臭い戦いをメインにしている。降りる形で寝手の方から認める。


「マジカニートゥは負傷している。僕と今、戦うメリットもあるまい。飴子ちゃんはもらうよ。君も他の女の子捕まえてたんでしょ?監禁も好きだもんね」

「お互い様だろうが」


なにこの、超危険犯罪の匂い。蒼山達の事を見る目が大きく変わる。


「"スリープハンド"、よく憶えておけ。僕はお前達と違う」

「ん?」


逃げ帰ろうとする寝手に、蒼山は熱く宣言する。

それは因縁を感じさせる熱量で、


「○奴隷は強い女でやるほど、燃えてくるんだよ!!僕が因心界の幹部でいるのは、涙キッス様と粉雪さんの被写体をこの目でじーーーっくり、仲間として四六時中観察するためなんだ!!まだできてないけど!敵として、見ようなんざこれっぽちもない!怖いしね!」

「ふ、ふふふふふ。いいねぇいいねぇ。僕も君達が知らないところで、裸の姿や生声を聴くのがとてもとても好きなんだよ。毎日、女の子が知らないところで観察してあげるのが好き!こっちもまだ、完璧とは言わないんだけどね」



……気持ち悪い……こいつ等、ホントにキモイ。



ただの馴れ合いだけでこの場は済んだが。蒼山の意外な性格と、とても容認できない目的を知った表原とレゼン。彼等がホントにぶつかり合った時、とても真っ当な戦いにはならないだろう。


挿絵(By みてみん)

次回予告:



頭鴉:かーっ、嘘だろぉ……。

録路:頭鴉。お前は相手が悪すぎたな。

頭鴉:あんだけ頑張って得られた力なんだぞ!なんだよ、あの白岩!!強すぎだろ!

飴子:大人しーく、雷で金儲けすりゃあ良かったのに……。

頭鴉:勝てると思うじゃねぇか!

沼川:かなり追い込んでましたよ。好敵手いて輝く時もありますから。

録路:ああ。白岩をあそこまで追い込めるから、俺と同レベルぐらいにはあんだろ。

頭鴉:録路に負けてるのは納得いかねぇーんだよ!!次回っ!

飴子:『決戦!因心界VSキャスティーノ団!その2!』



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