Cパート
激しい戦闘ほど、
「早く決着がつくものね」
戦場を見守る野花からして、勝敗云々は決められずとも一番にケリが着くのはレンジラヴゥVSライダーズルーン。全指揮を握っているからこそ、調査隊として送り込んだのは。
「北野川、あなたがレンジラヴゥの応援に行って」
「ムカつかない命令ね」
北野川であった。
彼女が苦戦する相手がいることに驚きがあった。
複数人の妖人達を連れて、雷撃が届かないギリギリの範囲で待機することに。
一方で、
「お、表原ちゃんから連絡ーー!なんか5名ほど外に出てしまったとーー!」
「蒼山。連絡を受け取ったあなたが行きなさい」
「えええーー!?いいですよ!」
表原の応援には蒼山が自分の部下達を率いて向かう。
外の囲う要員は、調査重視にしている事で逃走を許すことは想定にしている。
鼠でもないし、追いかける追い続けるだけでいずれ捕まえられる。
「野花」
この作戦の総責任者は粉雪であるが、現場指揮は野花の役目。そんな彼女に敬意すらないタメ口で確認をとるのは、革新党にいる者達だった。
「我々も逃げた相手を追跡させてもらう」
「ご自由にどうぞ。ただし、変なマネをすれば……分かってるでしょ?」
「なにを疑う?」
「相手の力で電波が今使いづらいから、情報伝達はしっかりしてね」
粉雪が呼んでいた革新党。
凄く重たい空気が現場に流れる。因心界とは違っている組織でもあるため、かってがちょっと違う。
当然ではあるが、野花もまた革新党の一員。それでも今は因心界としての立場でいる。
革新党の者達が少し減ってから、待機要員としている飛島とルルは野花に尋ねた。
「彼等は協力的なんですか?」
「私の指示じゃ動かせない。粉雪と南空さんの指示を第一に動くから」
「け、結構。物騒な人達でしたよ」
「……私も詳しくはないけど、戦える人達よ。蒼山になら危害を加えてもいいし」
あ、根に持ってる……。
「ともかく、私達はあのアジトで負傷している構成員達を捕まえること。レンジラヴゥがキッチリと、強敵を片付けてもらってね」
革新党の動き。
それを気にするなというのは、難しい飛島とルル。
特にルルは涙一族の出である。その一族と革新党は友好的な関係とは言えない事を知っていた。組織としては歪な関係であるが、個人個人のやり取りであれば良好な関係。
「それと飛島。蒼山の事なんだけど」
「あいつも妙なのを連れて行ったな」
普段はやる気がなく、下着ばっかりを追いかけ、女性達の敵でしかない蒼山ラナ。
彼の加入、というか。経歴なんか気持ち悪くて調べたくないのであるが、今日は珍しく彼の部下達も同行している。
「あの人に友達いたんですね」
「あ、うん。まぁ、そーいうのもあるわね……」
ルルの鬼の一言である。
だが、その言葉通り。蒼山の連れというだけでロクな連中ではなさそうだ。
「………………」
蒼山を連れて来たのはキッスだったよね。
北野川とは違った意味で危険人物な上に、あいつは確か……。
任務に関して支障は出ないだろうと、許可は出している。というより、その部下も因心界所属。
背中を任せたくはないが、これは許せること。
「蒼山に任せるわ」
「表原が嫌がらなきゃいいけど」
◇ ◇
レンジラヴゥVSライダーズルーン。
雷を操る能力と推測しているレンジラヴゥ。やってくることの想定は済んでいる。が、
バリィッ
「!?」
なに?力が抜けていく?
姿形には現れないが、体の中に溜めていたエネルギーが抜けていく事を感じ取るレンジラヴゥ。それを口にしないで、動きの中に収めていたものの。ライダーズルーンのやっていた行為であるならば、作戦成功と薄く笑うものだ。
『はははは、どうしたぁ?力が抜けてきたか?』
予想外。
『愛だ恋だで、強くなるんじゃねぇのか……。ほざいてみろよ!!』
ドゴオオォォッッ
ライダーズルーンの突進を無防備でもらい、さらに雷弾の乱射が縦横無尽にぶっ放される。
レンジラヴゥはこの予想外の攻撃に苦しめられる。それよりも出したい力が出て来ない。その正体が気になる。より力を求めるため、ヒイロと連絡がとれる通信アイテムを取り出し使う。
近くにヒイロがいなくても、声のやりとりで力を高めることができる。
「……!?」
特殊な電波。妖精の電波というべきものか、それを妨害している電撃だった。
圏外になる事は一度もなかった。だが、こうして能力で封じられたのは初めてのこと。エネルギーの供給源を絶たれると同じ事である。
「そんなっ」
動揺を隠せず、レンジラヴゥは体を丸めて防御に徹する。ひたすらに、ひたすらに。ライダーズルーンの攻撃を受けることに集中。
『自分の妖精の近くにいるほど強くなる能力!だが、その力は"送受信する手段"となりゃ、供給手段を絶ってやりゃあ意味のねぇ能力になる!!』
「!!」
『1人で戦うと心細いだろ、レンジラヴゥ!!愛なんざ、そんなもんなんだよ!!』
バヂイイィィッ
雷の嵐の中をたった一人の女が、必死に耐える。受ける、受ける。受ける!!
「っ…………」
こんな時、ヒイロがいてくれたら。
絶対に勝てた。
そー思う事はある。だけれど、今彼がいない。こんなところで負けてしまったら、彼と居られない。
声も届けられず、姿も見えない。超不利体面の相手とぶつかっても、忘れることのないところに居る。
「ヒイロはいるから……」
負けたくない。
今、高速で動き回り、自分を撥ね飛ばしてくるライダーズルーンの動きを捕捉することすら止めての守り。
急所を隠して、最小限の回復で急所以外のところを回復させようとしている。
防御優先ならば、外傷よりも体内の回復を急ぐべきだ。
なぜなら、回復する量と持続性に影響が出るからだ。レンジラヴゥが実践でそれを意識したのは初めてであるが、その初めてを守り通せるのには。
ヒイロという存在がいた。
それは今でもすぐここに。
ドゴオオオォォッッ
口と鼻からの出血は久しい。
回復が追いつかないほどのラッシュ攻撃だった。ライダーズルーンの強敵ぶりも伝わってくる。
「ふぅー……」
全身の痛みも酷いが、堪える。
守りに守って見出せた勝機。それは来た。
バヂイィッ………
目に見えて、キャスティーノ団のアジトを覆っていた電撃の量が減っていた。そして、喰らっていく度にラッシュの回転が急激に減ってきた事。
『た、耐えるのか!?テメェ!これでも!!』
「防御してたからね」
ライダーズルーン。最大の欠点は持久力と制御面。超火力と超広範囲、超スピード、超汎用性を持っているからこそ目立ってしまう欠点だ。丸くなり、攻撃を受けるのみになったレンジラヴゥを見ての猛攻は、1つ1つ大きく強く与えただろうが。
「君の能力、無駄な消費が多いんだよ。電気は大切にね!」
最小限の回復のみに力を使った事に対して、派手な結界や雷弾を撃ち過ぎていること。突進にもパワーを入れていた。それと防御していて、もっとも気付けた事。
動きが鈍くなり、ガード一辺倒じゃなくても良くなれば反撃。
愛ある拳の反撃!!
バギイイイィィィッ
『ぐごぉっ』
鉄のフォルムと言えど、何度もレンジラヴゥに突進をしていれば、削れていく耐久性。
そこにマジの気持ちで拳をぶち当てれば、砕けていく。
「さらに耐久性のないバイク!!」
いや、お前の頑丈さがオカシイだけ!!
普通の妖人は何度も死んでるレベルだから!
「力を出し切るのが早すぎるんだよ!そして、もう回復なんかさせない!」
『っっ!!』
徐々にしては、反撃が大きい。レンジラヴゥの底力がやはり上。
それ以上にライダーズルーンがこれまでほざいて来た事を、返されるような戦闘。
こいつさえ倒せば怪しい電波が消え、ヒイロから力をもらえると信じての乾坤一擲へ。
「ヒイロが、あたしをここまで導いてるの!」
『!!』
「人が思ってる事よりもずっと、あたし達は想い続けてるんだから!!」
愛の力ってのはエネルギーだけじゃない。
それを教える戦いに、最後の拳が彼を貫いた。
ドゴオオォォォッ
『ぐああああぁぁぁぁっ』
ライダーズルーン、近藤頭鴉。
レンジラヴゥに敗れて、死亡する。
◇ ◇
「ス、スマホの電波が届かないよ!!これじゃあ、応援を頼めない!」
ライダーズルーンとの戦闘が続いていた時。電波を妨害していた電磁波は周辺に飛び、情報伝達を乱した。
それはタイミングが良く、マジカニートゥが応援を呼ぶ瞬間だった。
レイクレイクはそれに気づかなかったが、逃走するのには好都合でしかなかった。
「あいつは……まぁいい」
逃げる事が優先。頭鴉を助けに行かないのだから、そんなことに気をとられない。
こっちのルートの方が手薄だというのは知っていた。というより、突入してきたのは粉雪と佐鯨、南空の3名のみ。超少数だ。
隣町に入ってしまえばいい。人に紛れて、服を代えて、完全に逃げ切ればいい。
これからどうしようかはその後でいい。
およそ、200mの差。障害物もあって視界には当然、映らない距離。それも複数人の逃亡で、方向もバラバラ。マジカニートゥはここから彼女達を追いかける方法は
「とにかく、"本気"で応援を頼め!!」
「!!」
「だが、俺達の狙いは瞬間移動して来た妖人!それだけは絶対に逃すな!!俺達で倒す!」
レゼンの一喝+作戦は、マジカニートゥの本気に素早くスイッチを入れた。
電波を妨害する現象は別にあるとしても、情報伝達手段も別にある。
とにかく、一秒も無駄にしたくなく。この状況で来て欲しい人材を真っ先に伝えたい。周囲に今の自分の状況を知らせるべきこと。
マジカニートゥは叫んでいた。
この強い想いと共に、初めてのこと。
「あたし!本気になるのよ!!」
どーすりゃいいか、検討もつかない。レゼンの言っている事、多すぎ。処理が追いつかない。
ごめんね、ポンコツで……。
でも、もっともっと。あたしはあたしもまだ知らない本気になれると思うんだ!!
だから!!力を……!
カーーーーーッ
マジカニートゥが叫ぶと同時に呼応し、両手全ての指の第二関節が光り輝く。
「なんだ!?」
「っっ、まぶっ」
その光は指によって様々な色を放って、そこからセンサーのような薄くて細い光となった。
レゼンには左手の親指から放たれた緑の光と紡がれ、残った9本は様々な方向へと飛んでいく。まるで糸のように自由に動いて、何かに向かっていく。
「"憑き詩"」
発現したアイテムの能力は、マジカニートゥにもレゼンにも分からない。
使い方そのものも不明な点が多い。
「……なにか変わった事ないの!?レゼン」
「いや、まったく……」
想像がつかない能力。この状況で有効な能力であるに違いないが、マジカニートゥの指から飛んでいるこのカラフルな光の糸というべきものは、本人を含めてどこに向かっているのか予測できない。
「えーーっと……」
本気を出したがいいが。この勝手が分からんところが、いい感じの代償。
「なんとかなる!!」
「ホントか!!」
「レゼン!解析してっ!」
「俺頼みかいっ!?」
マジカニートゥは能力の解析よりも、レゼンの言っていたレイクレイクのみを追いかけることに専念。だが、彼女がどこへ向かったかが分からない。とにかく、見渡せるところへ。
一方でレゼンはマジカニートゥにある自分の指定席、頭の上に乗って、この能力を推察する。
光の糸は自分を含めて、10本。どこかに向かって飛んでいる。
「!」
光の糸が向かっている方向。
3本は自分達がいた、キャスティーノ団のアジトに入るための方向。
残りの6本の内、1本は因心界の対策本部の方へ!
そして、5本はバラバラであるが、マジカニートゥが追いかける先……。
「そうか」
よく見ると、マジカニートゥの左手の親指は俺と繋がれ。
小指が因心界の方。残りの3本が地下へ。おそらく、粉雪さんと佐鯨、南空の3人に!
左手の光の糸は俺達の共通の仲間に向かっている!そして、右手の光の糸の先は敵だ!
そして、右手の光の糸が一番伸びているのは……。
「右手の薬指の光の糸を追え!!マジカニートゥ!!」
「えっ!?薬指っていきなり言われると、どこの指って言ってるか分からない!!」
「じゃあ、オレンジの糸だよ!このアホウが!!」
一番伸びている=先へ逃げている者。
即ち、レイクレイクのはずだ。
この能力、追跡に特化した能力か!だが、それなら左手はなんのためにある!?
『この能力にはなにか、別のものがあるはずだ』
『酷い事言うなぁー!アホウって事を撤回してやるぅぅ!』
!!?
「え?」
「あ?」
マジカニートゥとレゼンが顔を合わせるほどの、一瞬過ぎる違和感。
声は発していないが、なんだ今の。会話ができていたような気がする。それも心の声で。
驚きはあったが、レゼンは確認がてら。念じるように
『マジカニートゥ、今。俺の心の声が聴こえたのか?』
『えええぇっ!?何コレ!?レゼンの心が聴こえるの!?あたしの心も聴こえるわけ!?』
光の糸で繋がった相手と心で会話ができる。
『えええーーーっ、これじゃあ、レゼンの悪いところを心の中で叫べない!!』
『今、何を思ったこのやろー!!聴こえてるんだぞ!』
『全然、欲しくない能力だよぉぉっ!!こんなの外れてよぉぉっ!!』
他人の心だけを知れるというのなら、相当な力であるが。自分の心も知られてしまうのは、屈辱的なことであった。しかもよりによって、相方。
いろんな意味でうかつな事は考えられない。それだけでストレスだ。
「!!うわああぁぁぅっ!?うるさ~~~い!」
「マジカニートゥ!?」
だが、そんなストレスも突如襲い掛かって来た、頭の処理の負荷が吹っ飛ばした。
走りながらノタウチ回っているという錯覚、幻覚の類いに襲われるマジカニートゥ。
『なにしてんだよ、なにが起きてんだ?』
『五月蝿い五月蝿い!!なになにどーなってるわけぇぇっ!?』
『??……!?……!?』
レゼンはマジカニートゥの瞳の色、急激に上昇する体温から脳の異常を察知し、思考を最小限に冷静でいた。
どんな能力かはおおよその見当でしかない。その見当を持って、
ギュウゥゥッ
レゼンはマジカニートゥの頭から右手に飛び移った。
「……あっ」
「左手も合わせろ!」
「うん!」
なにをしたのか、なにを分かったのか。
マジカニートゥには理解できなかったが、指示をされて左手も右手と重ねるようにする。ちょっと走りづらい。だが、頭に掛かった急激な負荷が一瞬で消えた。
レゼンが何かをしたというのは分かった。それで、問いかけてくるのだ。
「……分かったか?」
「えっと」
「今、何を。俺がしたかってこと。分かったか」
できなかった事、分からなかった事を責めるんじゃない。
分かろうとしない事を責めているんだ。別に外しても、怒りはしないんだろうけど。
いつの間にか心が分からない事で分かった。
相変わらず、レゼンはとーっても嫌な妖精だ。
「この両手から出てる光を、レゼンの体で遮断したんだね」
「そうだ。自動的に対象者へ、糸の光線が届くようだが。この至近距離ではさすがに対応できないようだ」
たぶん、煙とかも通過できないだろう。まぁいい。
「10人分の思考をお前は把握できるんだろうが、同時に思考を受信しちまって頭がオーバーヒートしちまっている」
「毎回思うんだけど、レゼンの能力。面倒なんだけど……」
「うるせぇな!左手はお前の仲間に、右手はお前の敵を示していた。ひとまず、俺は別に心の中を読まなくていいから!この4本の光は解放して、情報のやり取りをしよう。ちょっと服を破れ」
「なんてこと言うの!布切れ買ってくればいいじゃん、5分で済ませるから!」
「お前な~……」
そんな何気ない事だったが、レゼンが一呼吸を置いたのは珍しかった。この時ばかり、何かを考えているか知りたかった。
「……分かったよ。なんて言うと思うか、時間はねぇ!両手から俺が離れたら、頭の負荷がやばいぞ!」
「この体勢じゃ破れないよ!」
「じゃあ、上手く光を遮る形にしろ!俺が服を少し切ってやるから!」
こんなデリカシーのない妖精がいるか!しかし、そんな文句もレゼンが手から離れようとするから、すぐに忘れる。今、そんな事よりも考えるべきことを言われている。やらなきゃ、あの痛みだ。
痛いと分かるから、怖がる。怖がるから、やらない。
「ほっ!」
指の第二関節部分から、発射される光線。両手をグーの形にして親指をしまい、残った指はこすりつけるように互いで重ねる。まーた走りづらい。そして、体の上に昇ってくるレゼンを阻止できない。
どっちがいいか、しょうがなくとった。
「むーっ!」
「左手は小指以外を締める。正直、粉雪さん達が応援に来てくれるとは思えないからな。足を引っ張るかもしれない」
「小指って、因心界の対策本部の方だったね!」
「ああ。右手はひとまず、薬指だけにする。俺達のターゲットのはずだ。他の4人はそっちに任せよう」
おそらく、あの負荷は10人同時じゃないと考えてのこと。能力のそれはまたも戦闘向きじゃない。サシでのやり合いなら有効だが、集団戦では不向き。追いかけるにしても、連絡は急務だし、増員が欲しい。
「ところで誰と連絡が取れたんだ?」
「さぁ」
ま、この位置からじゃ、一番遠いだろう。
それがまたこの案に至ったわけだが。
「野花さんか飛島さんだと思うけど、……!!」
『あーーっ、野花さんはどんな下着を穿いてるんだろうなぁ。粉雪さんのパンチラショット、狙いたかったなぁ。敵にも可愛い子いるし、被写体にしたいなぁ』
「ぎゃーーーーーーー!!」
「???ど、どうした!?」
『なんだーーーー!?表原ちゃんの悲鳴ーー!?なになに、僕はあーいう子はあまり好きじゃないけど、動物の下着を穿いた姿は可愛いと思ってたのに。幻聴が聴こえるって、これは恋の予感!!赤い糸で結ばれてる的な!?いやぁ、僕はキッス様が一番なんだけどなぁ。残念、君は56番目くらいの候補。胸が成長してからまた挑戦してよ!』
「おえええぇっ!!うわぁっ、最悪!!うわぁっ!なんでぇぇっ!?こんな変態男のクズと、心のやり取りができるようになるんですか!?」
頭痛とは違った、虫唾の走る違和感。体が触れることすら拒否したいのに、心が通い合うという超非常事態。
立ち止まって、ゲロを吐き出すなど。とにもかくにも強烈な気持ち悪さがマジカニートゥに襲い掛かった。事情を察知できないレゼンは
「お、おい。誰と通信できたんだ!?」
「超キモイ人。輪廻転生無限回やって死んでほしい変態と会話ができるんですよ……レゼン。この能力、あたし超キライ」
マジカニートゥがめっちゃ泣いてる。
学校の楽しい席替えで、隣の席にクラスで一番気持ち悪い男子がやってきましたというレベルの5億8千倍のおぞましさ。自分の座る椅子が、その人物が四つん這いになって椅子に見立てて迎えるような気色悪さ。
名前は出されなくても、繋がった相手が誰なのか分かって同情してやる。
『そ、そんな事。君から言わないで』
「あーーーっ!喋るなぁーー!あなたの思考まで読めるんです!悪いんですけど!野花さんか、飛島さん!あたしの方へ応援要請を出してくださーーい!敵を5人、逃しちゃったんですぅぅ!!」
喋らなくても念じるだけで伝わるんだよって事。
『キモイキモイキモイキモイキモイ』
好きとか嫌いとか抜きに。
誰かに誰かが罵倒されているのは気分が悪いというものだ。
『……表原ちゃんの罵倒は小学生並だ。北野川と粉雪さん、ついでに飛島を見習って欲しい。まったくゾクゾクしない。Mも素面だよ……』
「オエーッ……そんなお説教、すんな」
「が、頑張れ!マジカニートゥ!」
そんなに嫌いな奴と喋るのは嫌か……。
まぁ、誰だって嫌だからな。好きになるわけないよな。だが、それもしてこそ戦士であり、大人というものだ。
そーいう意味を込めて、レゼンは励ましではなく。数字や実用性を見ての言葉をマジカニートゥに送った。
「だが、蒼山なのはラッキーかもしれない!あいつの転送能力があれば、複数の追跡ができる!」
「それとこれとは別!この人は別ぅぅっ!!」
「我慢しろ!まったくよぉっ!」
「自分がそうじゃないからって!そーいう言い方はないと思いますよ!」
「分かった分かった!」
あの野花がそれでも戦うとは思えないし、飛島は負傷をしたままここに来ている。北野川はこの手の追跡は不向き。どっちにしろ連絡して来るとすれば、蒼山だろうし。その蒼山と通信手段がとれているのは時間短縮にもなる。レゼンの思い描いた作戦は、マジカニートゥの本気のイメージと合致しているんだろう。
不本意とはいえ、最適な仲間を呼んでいる。
『と、とにかく表原ちゃん!今から僕が部下を率いてそっちに向かうから!どこで合流すればいい?』
「マジカニートゥ!蒼山に光が見えるか確認しろ!オレンジ色の糸は俺達が追うから!紫、緑、黄緑、水色の4色の先を追わせるんだ!」
『あ、蒼山さん!確認ですけど、小豆色の糸が見えてますか?』
『ああ、見えるよ。みんなに視えている!』
『じゃあ、今から言う色が見える光の先を追ってください!紫、緑、黄緑、水色!この先にいるのが、取り逃がしちゃった敵です!あたしはオレンジ色の光を追いかけます!』
『わ、分かった!ところでこれ、君の能力だよね?』
『そうですけど』
『分かった!死なないでよ!君の縞パンの下着をまだ盗んでないからさ!』
「わーーーーーーっ!!」
電話を切るように左手を隠すマジカニートゥ。
何を言われたのか、想像だけで済ませるが。レゼンは優しさでマジカニートゥの左手の小指に切った布を被せてあげた。
そして、左手を覆って戦闘態勢を整える。
右手の全ての指から輝く光も晒して万全。とはいかない、
「うっ……レゼン。ちょっと、頭がクラクラする……」
5人だけでもその思考を供給し合うのに、かなりの力を要するのか。
先ほど、一気に全員と意思疎通ができた時ほどではないにしろ。少々、動きに影響が出てくる。
「無理すんな。ゆっくり、近づけばいい!」
「うん。でも、1時間しか持たないし……体力も削られてる感じだから」
能力の加減も不明なところが多い。
あらゆる面での対応ができても、次への対応には不向きか。
マジカニートゥ達の集団戦。
追撃を絡めた戦いの行方は、これから26分後に決まる。
その前にケリが着いた、どデカイ戦闘。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
地下からの激しい揺れ。遠くから、外の様子を見ている野花達にも感じられるほどだ。
ぶつかっているのは両者の熱き拳のみ。
想定通り、予想通り、そうであるべきってところ。
「ふーーーーぅっ」
「はぁーーーーーっ」
録路空梧のナックルカシーと、佐鯨貫太郎のブレイブマイハート。
互いのバトルであった。




