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MAGICA NEAT  作者: 孤独
第22話『決戦!因心界VSキャスティーノ団!その1!』
59/267

Aパート

ガリッガリッ



強者達は感じ取っている。

それほどの緊迫感、見えない圧力。


「……明日だ」


キャスティーノ団本部の周辺に、因心界の奴等が集まり始めているのは伝わっている。

先陣を切って"十妖"の粉雪と白岩、蒼山がおり、先んじて逃げようとする奴を捕えるだろう。

だが、頭鴉の指揮力のおかげとSAF協会との利害の一致で得ていた、ジャネモングッズなどの武器で応戦できる戦力がある。誰一人として逃げていない。


『録路、死なないでよ』

「死ぬわけねぇだろ、マルカ。お前を妖精の国に帰してやるからよ」


2度目の経験で録路の緊張感は良い。本番に全力を出せるベストな状態。

ここにいるキャスティーノ団の中では最大戦力。


「…………」

『……負けるよね?』


だからこそ、マルカにはよく分かっている。録路はそれでも全力を出せるほどの、キレ者であり、自分のパートナーとしてはもったいないほどの良い人であった。

しかし、思わぬ言葉が録路から出てきた。


「さぁな。案外、良い勝負をするかもな」

『そ、それだけ録路が危険を冒すの!?』

「違う。俺の後ろにいる奴だ」


因心界にいる内通者。そして、黒幕の正体。

永らく捜し続けていた存在に、ついこないだ辿り着いていた録路。どーやって動くかによっては、キャスティーノ団が勝ちうるパターンがある。

近藤と沼川、その他馬鹿共とは違い。勝利の構図が見えていての、動き。


『連絡、とれてないんでしょ?ギリギリまで待ってたのに……』

「だな。ま、初っ端は様子見。俺は佐鯨を始末してから待つさ」


……俺が佐鯨を潰さねぇと、向こうもダンマリだろうけどな。

どっちにつくかはそこで決まる。

とは言いたいがな。本音。


「ともかく、マルカ。お前のご指名だ」


自分の妖精を優しく拭いてあげながら、


「バーニを超える妖精だって事を証明してやるよ。良いもん持って、帰れる支度をしろ」

『ま、まだ先だよ。それに……あたしには、きっと無理……かも』


大量のアイスを食いながらマルカを励ます録路であった。

彼女を拾った日を少し思い出す。

生まれる前から家で飼っていた犬が死んだ次の日だ。ペットショップの向かいのリサイクルショップから、奇妙な鳴き声が聞こえて、その主が2000円で売られていたマルカだった。

俺以外には声が聴こえないらしい。俺も俺で、ペット感覚でこいつを……


強奪したな。

初の妖人化だったな。


毎日のように泣き喚くわ、心配しすぎたりと……。とにかく大変だったが


「悪くなかったな」



◇      ◇



「取り逃がした?佐鯨、お前が?」


時間は少し前となるが……。

祭の終わりが近づいた頃、アセアセの襲撃を受けた因心界であったが。ブレイブマイハート達の活躍によって、ジャネモンを無事に討伐。そして、逃亡を図ったアセアセを追走していったのだが


「す、すまねぇ。なんか分からんが、途中で誰かと入れ替わったみたいでな」

「奴の能力かもしれないな。自ら、変身能力があると言っていた」


ブレイブマイハートがまさかのミス。

謎の入れ替わりがあって、アセアセを取り逃がしてしまった因心界。だが、新たな敵の正体が掴めたのは確かな収穫。


「気にするな。今はSAF協会の相手なんぞしてられん。私と粉雪が戦意を出さなかったのも、それだ」


シットリやルミルミならばともかく。構成員の1人や2人に付き合うつもりがない、キッス。

決戦前に戦力を削りたくないのが本音。


「会議は現地でやる予定だ。私とヒイロはいないが、粉雪の指示に従って行動してくれ。佐鯨」

「おいっす!」


切り替えろって事を言わずとも、伝えてくれる。

猪突猛進でいる自分のままでいろってのが、キッスの言葉にはある。自分のやることをやる。全力でやる。


報告を済ませた後、自分のミスが消えたわけではないが。次にいける覚悟はできていた。

夜も遅くなり、本部にある自室で寝ようとしていたところ。


「ん?」

「……追走失敗して、怒られないなんて。随分、認められてるわね」

「報告はちゃんとした。なんだよ、北野川」


門番のように部屋の前で待ち構えていたのは北野川だった。

なにかと人のミスには五月蝿い。正直、付き合いたくなかったのだが


「シャワー浴びて休んでなさい」

「あ?」

「いいから!」


いつもなら罵倒するだろうと思っていた。北野川にも気遣いというのができるのかと、意外と思った。確かに飯は食べたが、風呂と歯磨きを忘れちゃいけない。

まぁ、風呂を作るほどの時間もないから、言葉通りにシャワーを浴びる佐鯨。今回の件に関して言えば、防衛という面では成功している。それ以降の責任はないに等しくもあ……


ガチャッ


「佐鯨。まだシャワーを浴びてなさいよ」

「あ!おい!?」


風呂場の向こう側。中折れ戸の扉のガラス部分に、背中をつけて北野川は話しかけている。佐鯨には似つかわしくない北野川であり、言葉は確かに北野川だって分かった。


「お礼は?」

「は?」

「オ・レ・イ。忘れてないでしょーね?私がいたから、冷蔵庫から出られたんでしょ」

「ああ……って。テニスの時、言ったじゃねぇか。俺は」

にぶい奴!」


たった1回で許されるものか。これほど難しいものだろうか。シャワーの音と湯煙の、ゆっくりと北野川も緊張した手で準備していく。


「佐鯨さ。私のこれからを教えるわ」

「んだよ」

「私さ、キャスティーノ団の件が終わったら、因心界を辞めるつもりなの」


んなこと初めて聞いた。噂の1つも出てきやしないこと。

佐鯨はシャンプーで頭を洗いながら、シャンプーが目に入らないよう両目閉じながら、言葉を返す。


「それで、どこに行くんだよ?」

「あんた、私を許さない?」


キィッ


「……そりゃあ、北野川は危険因子だった。でも、お前を悪人なんてちっとも思えねぇよ。こうして、一緒にいて、背中を任せられる仲間になれた」



キュッ



「あ?」

「そんなこと聞いてないわよーー!バーーカ鯨」



急過ぎることだった。熱々のシャワーをいきなり止められたかと思ったら、目の前に水着の北野川がいて、顔面に張り手をかましてきやがった。

風呂場の中に転げ落ち、タオルを投げ込まれる。


「バカ」

「な、何度も言うな。んだよ!いきなり、入ってきやがって……」


めっちゃ痛かった。頭を抑えつつ、大事な部分も投げてもらったタオルで隠し、風呂からアザラシのように顔を出す佐鯨。一方で北野川は風呂場に足をかけ、水着姿で見下ろすようにしながらもお願いをかました。


佐鯨さくじら貫太郎かんたろうと一緒に行く」

「??」

「あたしと付き合え!!だから、因心界は辞める!!文句ある!?」


こんな言葉、誰にも伝えたくない秘密だろう。自分自身、この時が無かったらないって思ったくらいで、今言った。そりゃあ


「俺、因心界にいるぞ」

「鈍いわね」

「付き合えってのは、言葉通り……」

「友達や仲間よりも上って事よ」


改めて言われて、確認しつつ。

本人の整理が落ち着く前に


「いつの間にか、あたしはあんたの事を気にかけてた。理由はそれでいい」


自分の気持ちと差し伸べる左手。OKなら掴んで欲しいって、北野川は甘えた顔を見せた。

まだなにがなんだか、分からないけれど。俺についていくとはこれからも一緒に宜しくって事。さよならする事じゃないのは伝えられた。

友情のような力強さじゃなく、まだ仲間だという優しさで北野川の手を握って


「また、よろしくって事だよな」

「……うん……」


北野川の方から佐鯨へ、ソッと、ギュッと、小さな声を佐鯨の耳元で囁いた。


「心からありがと、佐鯨」


◇      ◇



それぞれの夜を経て、決戦の朝を迎える。


「ヒイロ、明日は私達。離れ離れだね」

「……そうだな。大丈夫、印の事はどこからでも信じていられるからな」

「んんー……ありがとう。久しぶりにヒイロの隣で寝れたんだもん」

「今度はゆっくりとした、平和な時にでもね」


各々、自分達のやり方で時を過ごす。


「キャスティーノ団と通じている人なんかいないよ!それだけ!」

「そうだな。ただ、その事は最後まで黙っておけよ」

「大丈夫!!じゃ、おやすみ!」

「明日は早朝4:00だからな。叩き起こしてやる」


誰がなにを想い、なにを考え、なにを企み。この決戦に臨んでいるか。


「……私も、来いという事ですか。網本党首」

「ええ。補佐をやって欲しいし、突入役としても南空には来てもらいたい」

「私は因心界と関係はありません。万が一、私の力不足があなたの足を引っ張りかねないかと」

「そー言わないで。私に武術を仕込んだのはあなたでしょ?」

「それを昇華したのが、網本党首です」

「やってくれる?」

「…………承知致しました」



決着はつき、結末も出る。


「さて、明日。ここに黒幕は来るだろうかな?」

『来なかったら?』

「その時はその時だ、イスケ」


午前、6:00。

因心界の本部から指名を受けた妖人達が、指定のバスや車、その他の移動手段を用いて、現場の対策総本部に集結していく。合計62名の妖人、その補佐を務める人間が25名。数の上では不利をとるが、幹部クラスの数はこちらの方が多い。


「白岩が到着しました」

「はぁー、よかった。白岩が迷子になる可能性もあったから」


作戦の全容を知っているのは、立案者の粉雪とそれを正確に指示する野花の2人のみ。


「あれ?なんか因心界じゃない方がいるような」

「革新党の人達だ。粉雪さんの関係者」

「今回も彼等の選りすぐりが同行している。でも、直接的な戦闘に加わることはあまりないだろう」


表原と古野は飛島の案内でここに来た。ルルと蒼山は前日に入っている。

北野川と佐鯨も到着。白岩がまたビリ欠になったが、無事に到着し、すぐに戦略会議に入る。作戦実行というより、決戦実行は3時間後。

細かい概要も何も知らない者が多い。それが粉雪のやり方。


「……………」


おそらく、粉雪さんは信頼できる者以外には情報を流さなかった。あの人もこの中に内通者がいると判断しているんだろう。

直前なら迂闊に情報は流せない。だが、キャスティーノ団には迎え撃つ準備がされている。情報戦なら五分五分かな。

幹部や重要な役目を担う者達が集められる会議。その中心に立つのは網本粉雪であり、左に野花、右に南空。


「さて、みんなお集まりね」


白岩、佐鯨、北野川、飛島、蒼山、古野、……表原、ルル。

その他、革新党の面々が数人入った、本格的な幹部の戦略会議。


「3時間後に突入するけど、作戦は極めてシンプルよ」


資料の中にはキャスティーノ団のアジトの内部構造が入っていた。革新党も革新党でやっていたというわけだ。


「白岩。あなたはいつも通り、正面からね?」

「はい!」

「派手にやっていいわ。で、正面から逃げ出したりする奴等を野花と北野川。集めた妖人達を従えて捕えていきなさい。これなら白岩が存分に暴れられる」


特攻とか危険な任務過ぎるのに、真面目な顔で了承する白岩に驚く表原。いつもの雰囲気とまったく違う。


「正面から逃げようとする奴より、裏から抜ける奴を対処するべきって事で。別働隊として、私と南空、佐鯨、表原ちゃんの4人で突入する」

「ええっ!?私、そんな役目なんですか!?」

「そーよ。でも、サポートメインでいいから。戦わせるつもりはないわ。佐鯨、あんたが予定通り、録路」

「おう!!」

「私と南空が……例の"奴"をやる」


まだ正体がハッキリとしていないため、呼び方を伏せた言い方だった。

しかし、そいつを相手に2人掛かりとは粉雪の慎重さもある。


「古野さんは負傷者の治療を優先。相手の負傷者の事もよろしく。飛島は周囲の保護を」

「ああ」

「分かっています」

「蒼山は逃げている奴の位置情報を出して、野花と北野川に伝える役目。誰一人逃がさないでよ」

「うん」


平々凡々な戦略。それぞれの役割をこなしてくれという、確認しかない。


「この会議っているの?レゼン……」

「余計な事をするなっていう最終確認だ。単純なことだがとても大切なんだぞ」


とはいえ、表原の言葉については半々、同じ気持ちがあったレゼン。

十中八九。表原以外は予想していた者はいるんじゃないかと思う。いや、もう1人。


「…………」


険しそうな顔で作戦を聞いている、あの南空という粉雪の秘書。この人物はキッス様のことを含め、因心界を嫌っていた。別の勢力であるのは分かるが、今回の任務では表原と自分と同じく、突入という重要役。

粉雪さんが選ぶって事は、妖人じゃないにしろ。頼れる存在なのだろう。


レゼンが嫌疑をかけている目を南空に向けていると、それに気づいた南空が動いた。


「網本党首。私が突入役というのは」

「ダーメ。あなたが必要なの。分かってくれるでしょ?」

「……しからば、今は席だけ外させていただきたい。先にお待ちしております」


なにやらそそくさと、作戦会議から抜け出す南空。

それを粉雪はOKし、佐鯨と表原、レゼンを集め。一方で野花が北野川達を集めて、ミーティング。

少人数での話し合いは他の人達と関わらない距離、


「別の部屋まで行きましょうか」


粉雪の視線から警戒しているのは北野川だろうか。彼女の力なら作戦に隠されたことも知れそうだ。そして、北野川も野花と粉雪を一瞥しており、信頼関係というものを見せない。難しい派閥のやり取りだ。


ガチャッ


「南空がいないけど、あいつは私とペアで行く予定」


別室に移動するや否や、その事を断言する粉雪。やっぱりというか


「相当、南空っていう爺さんを信頼してるんですね」

「もちろんよ。とっても強いのよ、あの人……。ただ、融通が利かなくてね」


少々、自分達の事で熱くなってしまった粉雪は溜め息をついて、冷ます……。

2人がそう組むという事は佐鯨とのコンビ。同じ班でもあったし、多少の事は分かり合えるかと思ったが、粉雪の作戦はちょっと想像していたのとは違った。待ち構えての作戦かと思ったら


「私達は地下から行く。白岩が正攻法なら相手は逃げ出すのが分かってるからね」


三強の1人として、白岩の実力を認めている言葉。

彼女の正攻法と純粋過ぎる強さは傑物の中でも傑物の類い。


「典型的な挟み撃ちをするのは私と南空がやる。後続で佐鯨と表原ちゃんが入ってくる」

「え、同時じゃなく?」

「出口は1つとはいえ、地下からその出口への逃げ道はいくつかあるからね。待ち構えるのは佐鯨と表原ちゃん」


これからやるであろう、白岩の超特攻を含め。

アジトの本部の正面、後方、左右は因心界の妖人達が囲っており、下からの逃げ道を塞ぐのは粉雪達だ。

襲撃のとき、必ず一目散に逃げ出す奴と、順次逃げ出す奴がいる。


「録路はまず後者。出口を張ってれば奴は現れる。その他の奴もね」

「なっほど。粉雪さんがおびき寄せてくれるわけか。派手にいくんだろ?」

「ええ。ま、徒手で静かにやるけど……」


それでも怖いっての。

地下での戦闘では、本来の持ち味が活かせない為、南空に補佐としてのお願い。


「録路とそれに通ずる奴等は間違いなく、様子を見てから逃げれる可能性が高いところから逃げる。馬鹿か自信過剰は正面。臆病者の黒幕は私と南空がとっ捕まえる」


随分と大雑把な説明になってしまったと思いつつ。まとめに入った粉雪。


「表原ちゃんとレゼンくんの役割は、ルートから外れた奴の捕獲。妖精を集めていたようだし、代勿みたいな妖人がいても不思議じゃない。あなたならその役割を担える」

「けど、それって黒幕が持っていても不思議じゃない能力だよな」

「それはそれね。でも、逆にその手の使い手の戦闘能力は乏しいから、私を呼びなさい」


妖人という特殊な連中を相手にするからといって、基本を崩さない粉雪だった。

戦う相手より逃げる相手を想定する。その手段は100通りはあるだろうか。


「突入って言ったけど、佐鯨は出口付近。表原ちゃん達は外での待機よ」

「な、中に入っちゃダメなんですか?」

「危険じゃない。佐鯨は護るより戦う方が向いているしね」

「気遣ってくれてるんですね」


突入役と言われたが、おおよそ待機でいいんだと表原はホッとする。とにかく、特殊な奴がいなければ粉雪と佐鯨が相手をしてくれる。そう願いたい表原、やっぱり怖いものがある。


「って、佐鯨さんや粉雪さんが突破されたら……」

「なくはないけど、まぁ相当数を相手にしてもらうわね」

「俺はやられねぇぞ!」

「で、で、ですよね~?」


万が一、大勢の敵が突破された場合。粉雪が撤退を含めての信号を野花に送る手筈になっている。突入戦から撤退戦となれば、それは突入組が殿しんがりを務めることとなる。


そして、それぞれが所定の場所に向かう。表原達は車を使って1キロ先の地下から侵入するルートのある場所へ。自分達の突入よりも先に白岩が単身で乗り込む予定となっている。

大勢の妖人、その他の人間で囲んでいながらも、たった一人での突入という無茶苦茶。粉雪が白岩側でもそうしたように、因心界の三強が本気でやるときはそーいう事だ。



午前、9:00を回る。



◇      ◇


キャスティーノ団の本部。その建物はかつて自動車工場であり、通常の7階建て相当の高さ、地下3階、空いた土地に不良共やハグレ者を住まわせるには勿体ないほどの広さ。改装なども自分達でしている辺り、彼等なりに大切に扱っている事が分かる穴場の施設である。

施設に入るには正面からいくか。火災や災害時の備えとして、地下から川の方へと繋がる地下通路が地下2階にある。地下の方は通路が狭いものの、建物の内部はかなり広く、一部は駐車場としても使われている。



【午前9:00に因心界が突入してくる。白岩と粉雪が二手に別れてくる】



録路がその情報を得たのは昨日。相手側はこちら側に通じている因心界からの者。

黒い封筒に入れられた手紙からの情報。


【君の武運を祈る】


「……もうすぐだな」


送られている相手が録路であり、彼が近藤達にそれを伝えているかどうか。それはNOであった。わずかでも自分だけに優位があるようにするため、近藤達を捨て駒にする。

いちお、因心界が彼等の周囲を囲っている情報はすでに知れ渡っている……。というより、近藤達も録路とは別ルートで情報を得ていた。

違いがあるとすれば、誰がどのように入ってくるかという事だ。



8:54。



漠然とそいつはやってきた。正面を見張っている者達からすれば、正気を疑う。80人以上は敵としているところになんら注意すらなく、彼女が来た。

そして、因心界は彼女に全てを託しており、キャスティーノ団本部から700mは離れて囲っている。初手だけは情報が伝わっていた。


「白岩」


ああ、彼女が来た。

近藤など、かつてエンジェル・デービズに在籍した者達にとっては憶えのある光景。何をしてくるか。通信アイテムを取り出し、


「愛してる」


彼女を止める手立てがあるとすれば、妖人化される前に叩くことであろう。それ以外で彼女と渡り合うのは厳しい。そーなった彼女は恐ろしく強い。もっとも、その対策もヒイロがいる場合はより難しい。彼は白岩を抜きにしてもかなりの戦闘力を持ち、妖人化するまでの時間稼ぎは確実にこなす。


「繋がる力に愛を込めよ!」


派手にやっていいという指示は、珍しく全力を出せということ。普段、セーブしているし、今回はヒイロが不在という事もあって能力の期待は薄い。それでもなお、特攻役を担えるだけの強さを持つ。佐鯨でも野花でもなく、彼女だからこそ選ばれている。


「みんなの愛を繋ぐ!"レンジラヴゥ"」


通信アイテムがハートマークの付いたステッキに変型していき、空の様相も変わっていく。

優しさ、慈悲を込めていても、破壊は無邪気に行なわれる。


「愛ある者達を護り、悪ある者を裁け!」


天空より愛を具現化したつるぎの雨が降り注ぐ。


「"ラブリー・スラッシュ"」


あのジャネモン戦で見せた、剣の雨がキャスティーノ団達の戦意の有無を確認せず、始めること。



ドゴオオオォォォッ


「うあああああぁぁぁっ」

「な、な、何事だーーー!?」


剣は生命体に反応し、それ以外の部分に降り注いでいた。攻撃の余波で多少のダメージはもらうものの、その大半はこの自動車工場だった、キャスティーノ団の本部のみ。

レンジラヴゥは大きな声で


「あのーーー!キャスティーノ団の皆様ーーー!!あと1分で9:00になるので、あたし自ら総攻撃しますけどーー!!」


いや、もうしてんじゃねぇかよ!って、レンジラヴゥ以外は総ツッコミ。これが彼女流の戦い方。

攻撃開始もあくまで武力を誇張し、降伏させようと狙っている。

多少、理にかなっている。


「早めに降伏しないとーー!死んじゃうからねーー!粉雪さんもいるので!あの人はホントに容赦しないから!私に倒されたほうが良い人は、正面に来てねーーー!何人でも、なんなら全員でも!相手するからーー!!」


どーいう声かけをしてんだ、この人。

デカイ声で言っているため、野花達にも聞こえている。彼女のマイペースぶりは因心界の中でも特異過ぎる。さらに続けて、情けにしては欠片もない言葉が叫ばれる。


「録路くーーん!あたし達にパフェ奢ってくれるなら!少しだけ手加減してあげるよーーー!!でも、捕まえちゃうけどね!」


舐め腐ってる。

キャスティーノ団を纏めている録路の名を出して、本人にその気はない挑発も繰り出される。


「9:00を過ぎたね、じゃあいっちゃうよ!!」


レンジラヴゥは特攻という任務でありながら、ゆっくりと歩いてキャスティーノ団の本部に入っていく。外から派手に攻撃してくるのかと思えば、それは一回きりの模様。

その様子を見ていた北野川は少し心配していた。


「建物丸ごと、レンジラヴゥがぶっ壊せば良かったんじゃない?」

「粉雪達も生き埋めになるかもしれないし、被害はできるだけ少なくしたいしね」


野花が言うのもあれだが、周辺の被害は極力抑えたいところ。最低でもキャスティーノ団の本部のみにしたい。

それに派手な攻撃は視界を曇らせる。


「1人1人、順番に消していけばいい。キャスティーノ団に在籍する人間達のリストはすでにレンジラヴゥに渡してる(全員じゃないけど)。私達は逃げ出してくる連中をしとめればいい」

「……ま、レンジラヴゥが負けるわけないもんね。ヒイロがいないのが心配だけど……佐鯨も入るし」


キャスティーノ団の様子はドヨドヨとした、動揺の声がチラホラと聴こえてくるが。レンジラヴゥの侵入を許しても、逃げ出す者はいなかった。

ピンチとはチャンスでもある。

世界を我が物にしようとする存在が集まる彼等にとって、敵として見ている網本粉雪と白岩印の両名がここに来ている。それに加えて、ほぼ総戦力。勝つ事ができればそれがソックリそのまま自分達のものになる。

その時まで彼等は蓄えをし、知恵を絞っていた。



「うひゃ~~、1,2,3,4、……だいたい、40人くらい?」



本部のスペースは車の整備、製造をしていた1階は車がなければ非常に広く、それでいて身を隠せるような壁や柱が散見されていた。障害物多し。そして、入り口からノコノコと入って来たレンジラヴゥを素早く囲んでしまうキャスティーノ団の面々。その中には妖人もおり、またはジャネモンを生み出すグッズを手にしている者達もいる。先ほどの攻撃に動揺はほぼほぼないという姿勢。



「さっきのは降伏しろって事か?」

「それは囲まれたお前がするべき事だぜ」



単純な武器と言える、銃やスタンガン。どっから用意してきたんだと、言いたげになるモノまで持ち出して来ている。多勢に無勢と言ったところであるが、


「7,8割がこっちかな」


余裕を崩さず、戦況を確認するレンジラヴゥ。ヒイロがいなくても、彼と共に戦ってきた歴史はある。単独で大勢と戦う場合、常に状況を把握するべし。特に相手の数は相手の可能性に繋がる。個の強さを持ってしても、数の多さで屈する歴史も多い。そーいうのが歴史から学べること。

逆に、だからこそ。


「録路くんはいないんだ。残念だなぁ」


個の強さとは歴史に残るものなのである。

レンジラヴゥが戦闘をおっ始めようとする瞬間、この周囲の人間達を指揮する人物が前に出てきた。


「おーーーっ、ようこそ。俺の本拠地によく足を入れてくれたもんだ、因心界。レンジラヴゥ」

「!あなたがここにいる人達を纏めてる人?……近藤って人かな?」

近藤こんどう頭鴉どんからすだ。憶えておけ」


頭鴉がレンジラヴゥを3階付近の渡り廊下から見下ろして声をかけてきた。

彼が特攻服を着ながら、今特攻されている状況に笑った方がいいのかなと、暢気な事を思っているレンジラヴゥに対し、自身満々で頭鴉は見下ろす。


「手に入れたこの俺の強さを示すには、因心界の最強って言われるお前が来てくれたのが嬉しいぜ」

「録路くんでもあたしにそんな事は言わないよ?」

「ふんっ、あんな豚野郎はとうに超えた。俺がキャスティーノ団の最強だ。まー、ともかく。レンジラヴゥ、強ぇんだよな?」

「んー……言葉からすると、あたしの実力をまだまだ知りたいって事?君の自信にはちゃんと裏がとれてそうだね」


楽しくはないんだが、どうにも頭鴉から感じるのは異能を手に入れた時にあるあるな全能感の1つでもあり、自分と違ってちゃんと頭の良さを感じさせる自信。

確かに強そうだとレンジラヴゥの直感は、確信としてとらえて


「こっちも予定通り、周りから倒しちゃうね。頭鴉くんは最後でもいいや……あ、逃げないでよね?男が女の子に喧嘩を吹っ掛けたんだから」



レンジラヴゥVS近藤頭鴉+40名以上の構成員



屋内で空間的には広いものの、障害物の多いステージでの戦闘が第一戦目となる。

個の強さをみせるか、数が押し切り、用意周到な罠で倒してみせるか。頭鴉の自信のほどは一体なんだろうか。



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