Cパート
パシャパシャ
これほど眩しいフラッシュが飛び交ったところに、こうして居たのは初めてだった。
「す、すみません!1枚いいですか!?」
「は、は、はひっ!」
緊張のあまり、声が裏返ってしまう。まさか自分が撮られる側に回るとは想いもしなかった。
自分以外にも女性妖人さんの多くが参加しており、撮影や時には妖人化をして、なんちゃってハロウィンのような仮想祭りを因心界の本部でやっている。
緊張しながら、因心界のファンっぽい人から1枚撮影をお願いされる表原。
鏡を見て思ったが、今日の自分は今まで一番輝いている……。むしろ、最後かってくらいの輝き。
「1枚いいですか!」
「はい!どーぞ!」
鼻息を荒くし、お願いされる男の声に同調するように。表原も応えたいわけだが、そいつが……
「なにローアングルで撮ろうとしてるんですかーーー!!」
「ぎゃあああぁぁっ」
顔も撮るが、パンツも撮ろうという姿勢を見せる蒼山だったため、拒否する。足蹴にしても
「せっかく可愛くなってるのに……」
「そーいうところは可愛くても、撮るな!!普通のだったらいいけど……」
蒼山、めげない。こいつは出禁にしてくれないでしょうか。
「キッス様と白岩の水着姿撮れただけじゃ、満足できないんだけどな」
「北野川さん達はダメだったんだ」
「ううん、粉雪さんと野花さんはOK出してくれた。普通の写真だったら良いって。北野川は絶対に撮らせんって怒るんだもん。あいつは4人との差を埋めるための、パンツが必要だと思うんだけどな」
「それ本人に言ったら、生きながら死んでる事にされるよ」
こうして会話をするが、レゼンもいない状況。蒼山のカメラは妖精のフォトだ。なにかしてくる可能性は十分にあるので、早々と離れる。とりあえず、野花さんといれば安心できそうだ。安心できそうじゃないが……。
「あーっ!表原ちゃん、待ってよーー!」
なんかこの後、別の企画に参加させられる事になっていた。
北野川さん達、粉雪さん達はそれぞれの女性グループというか。仲の良い友達と話しに行ったという。
こーいう時、レゼンがいてくれたらと節に思う。
まだ日が浅いのもあるからか。
パシャパシャ
「おおーー、キッスさんの水着すげぇーー」
「グラビアアイドル顔負け!水着エロ!」
「お姉ちゃん。ノリノリ過ぎ……」
逃げてる途中にキッス様の撮影場を通った。ルルちゃんも丁度いて、姉の行動に手を妬いている様子。
普段、こーいう衣装は着ないし、公に見せたこともないという。ポーズもとって、セクシーさをアピール。なんかこの人も変わっていると思うし、
「キッス様!こっちもお願いします!できれば、開脚するエロいポーズでお願いします!!」
「拘りあるな。ま、今日くらいはいいだろう、蒼山」
「ええー、お姉ちゃん。この人、悪用するかもしれませんよ!!ダメですよ!」
あの蒼山に対して、誰よりも優しく対応する辺り凄い。おかげで引き離れる事に成功。
あれがめっちゃど変態なのに……お気に入りとも言っていたが、そのまさかがあるとか……
「ないないない、ありえない」
「き、北野川さん」
「ちっ。キッスの奴。ムカつく乳を自慢してやがって……まー、蒼山の奴はねー。キッスが初めてスカウトした妖人だから、本人が気に入っているのよ。腕の立つ奴ではあるし」
「へーっ、そうなんですか。あれ?キッスさんが因心界を作ったんじゃ?」
「違う違う。それはキッスの両親……っていうか、涙一族っていう一派。それと革新党の協力があっての誕生。まー、よーするにキッスが因心界のトップに就いて、初めてスカウトしたのが蒼山。即戦力って事で、異例の幹部入り。周りの多くは大反対だったわよ」
「それが普通ですよね。あんな犯罪者を組織に入れるだけでも問題ありなのに……」
蒼山と入れ替わるように北野川と出会う。
「そういえば、北野川さんにも結構仲間がいるんですね」
「蒼山と一緒にすんなよ」
性格が悪い事を自覚しているが、因心界の中で嫌われ者とされていても仲間ぐらいはいる。白岩経由で知り合った仲が多いが、友達と呼べる連中はここでも作れた。伊達に、かつては因心界と敵対していた組織のボス。人脈作りには自信有りだし、それが合って組織を生み出せたというものだ。
「テニス仲間とかいるし、合唱とギター、ピアノとかね。そーいう仲間がいるもん」
「見た目ギャルっぽいのにお嬢様らしいところあるんですね」
「ギターは違うでしょ。まぁ、楽器全般は結構好きで得意なのよ」
お嬢様って育ちではないが、なんやかんやで多芸である北野川。その上でキッスのやり方には不満もある模様。家系で支えられているというアドバンテージはズル過ぎる。組織としては……だ。
ただ、こーいう息抜きは部下という位置なら楽しめる。気を緩めるのは良い事だ。トップまでやっているのが、気に喰わないとこ。
「それにしても、人混み凄いですね。暑くて、ちょっと酔いそう」
「初めてじゃ緊張とかもあるんでしょ」
「確かに。っていうか、カメラマン多かったり。私にはないですけど、なんか。モデルとかファッション雑誌の関係者とか来てません?可愛い方とか、カッコイイ男子に声かけられてるとこ、何回も目にしてます」
「そりゃあ、私もここで誘われたからね。広告塔として、目立つし、強いし、可愛いとくればね。一部を除いてだけど……」
情報封鎖にしろ、メディアの協力も必要不可欠。単純に、自分を見てもらいたいという承認意欲を持つ人間も少なくない。
「ちっ……」
「どうしたんです」
「嫌な奴等も来てる。大人の話しよ」
金儲けしか能のない奴。モデル関係に少し足を踏み入れれば、ほぼほぼ使い捨てとされる業界はいくつもある。
モデルになれるだの、来て欲しい人材など。色々交渉しておいて、用が済めば捨てる。
妖人の平均年齢は若く、未熟が多い。世間知らずを良い事に、悪い大人が彼等を使うのは珍しい事じゃない。こちらとしても、ヒイロや粉雪などを初めとした人間社会に対する講義などを行なっているが、個人個人の事となると足りないところがある。
それに、キッスがそーいうところに意識が疎いところもある。個人の自由という意見もあるが、自由の範囲は周りが制御してやるべきこと。
妖人という特別な力よりも、その扱い方を問われるものだ。
キャスティーノ団のような、悪質行為を平然と許すことを北野川には首を縦には降れない。
「あー、今回はキッスで大盛り上がりねぇ。ま、あの水着は反則ね」
「網本党首はあのような破廉恥な衣装など着るべきではございません。とはいえあんなのを用意した、野花の馬鹿親子には私から小言を言っておきましょう」
一方で、粉雪の撮影会もやっているわけだが。いつも通りと言えば、いつも通りの客は来ている感じ。
冬コーデで露出は少なめであるが、クールスノーという戦士名もあって、クールビューティーな彼女の姿は人気である。大人の魅力ってのが合う。
だが、こんな撮影会など。革新党の秘書を務める南空としては不愉快ではあった。
「我々、政治のポスターは人々のための顔であります。しかし、今のそれは下種い男共をたぶらかすためにあるようにしか見えませんよ。あなたはただの傀儡ではない」
「堅いわね~。あんたもしっかり、私の事を写真で撮るくせに……」
「あなたの成長記録はまた別です」
養父関係でもあるため、それを理由に写真を撮れるというのはズルイと思う。
毎回、この爺さんが邪魔してくる事で定評のある、粉雪の撮影会である。こいつがいなきゃもっと注目を浴びれるだろう。男からしたら……一方で、女性受けはいい。
「あ、あ、握手をいいですか」
「いいわよ。女性なら何人でもね」
妖人の最上位、政治団体を抱えるなど。かなりの多忙であり、とっつきにくい背景があるものの。粉雪自身の柔和な雰囲気は女性達にとっては魅力であり、憧れの像。白岩の天然ぶりは子供向き、北野川は人を選ぶ感じ。キッスはあまり表に出ないし、どちらかというと男性からの人気が高い。
戦闘時は異常な殺意と狂気を見せつけるが、プライベートではしっかりとしていて、クール過ぎるお姉さん。人間誰しも持つ、憧れってものを感じさせる立派な女。
美容も、服も、仕事も、ぜーんぶパーフェクトにやるなんて、女だけでなく人間の憧れそのもの。
一方で、
「せーーいっ!」
ぼよんぼよんっと……
「やーーっ!」
目隠しをされながら独特な掛け声と共に、木刀とそのダイナマイト過ぎる胸を振るわせる。それがフリル水着との相性宜しく、華麗に踊って舞う。
愛嬌のあるポーズや無垢で純真過ぎる姿に、男子やおっさん達。一方で女性陣からはその胸への妬みの視線と……。明らかに男女での人気差がモロに出ている白岩印。天然過ぎる彼女だからこそ、子供人気は非常に高く。粉雪とは別の意味で憧れを感じさせる妖人。
「スイカ割りって楽しいね!」
白岩が木刀で割ったスイカよりも、そのデカイ胸に釘付けであった。
「それじゃあ、ちゃーんっと用意したスイカをみんなで食べよーー!カキ氷もあるよーー!スイート同好会が作ったお菓子もあるからねー。みんなで試食してねー!」
撮影だけでなく、試食会もやってしまう白岩の献身さ。個人的に使っている粉雪と、楽しんでやっているキッス。来てくれた人のみならず、ここにいる人達のためにもやっている白岩。
「あ。そうだった!これから、私!キッス様や粉雪さんと戦う企画があるんで、ぜひ見に来てくださいね!」
「えーーーっ!?なんですかそれーー!?」
「白岩ちゃんが一番だよー!」
「どんなバトルなの!?応援するよー!」
「ただのバラエティ企画ですよ~!」
祭というだけあって、多くの妖人がイベントに参加、企画している。
野花の企画であったが、この特別な衣装を渡された5名が参加するとんでも企画。時間に迫ったので、白岩もそこへ向かう。
ちょっと大きめのスペースを使い、黒幕も張って、えっちらほっちらと……
「ぼ、僕のためぇ~~。みんなのためぇ~」
「ほらほら。さっさと舞台を作り上げなさいよ、スカートライン」
「おー。君もなかなか役に立つんだな」
スカートラインの転送能力の応用で、急ピッチかつ丁寧に舞台を運び込んでいく。野花親子の指示の下、ちょっとしたバラエティをやるようなステージが完成する。そこに呼ばれた5人。
「5人参加の対戦企画は初めてね」
「そ、そ、その1人に私を選ぶとかどーなんですか!?」
「しょうがないわね。ま、私が一番だけどね」
「お色気対決なら、私は負けんぞ。この白ビキニに懸けてな」
「気に入ったんですね、キッスさん。凄く似合ってますよー!」
表原麻縫、網本粉雪、北野川話法、白岩印、涙キッス。その5名が回答者のような形となって、並んで構え。司会進行には野花桜が立ち、アシスタントに蒼山と野花育。
完成したステージに開幕のドラが鳴る。そして、それを待ち望んでいたかのように、お客様は集まっていて拍手で迎えていた。
「さぁ、始まりますよーー!因心界!!最高良識人決定戦!!誰がこの中でまともな人物かを決める、サバイバルバトルーーー!!」
「おおおおおおおおーーーー」
「みんな、愛してるよーーー!」
野花の司会で盛り上がった会場ではあるが、聞き逃せないところ。
「全然嬉しくない紹介かつバトルーー!!」
「私達がまともじゃないって紹介されてるのと同義じゃない!!」
「おおっと、早くも初出場の表原ちゃんと、北野川の好ツッコミです!!皆様のハートを掴みに来ました!」
"因心界!!最高良識人決定戦!!"
ルールは、粉雪達にはこれから5つのお題を挑戦していただき、それを見た皆様が推したいという方に票を入れてもらい、最終的に票数が1位になった人を優勝とします。
「ようは人気投票ってわけね」
「ならば、今の見た目で私と白岩が有利だな。もう投票を打ち切ってくれ」
「それじゃあ、ゲームにならないじゃないですかー。よーし!私、一番目指しちゃおー!」
因心界の三強が揃い、それらがこーいう企画で戦うのは新鮮である。
住民達と身近に触れ合える機会は、この祭以外にはない。参加型というのもあって、こーいうやり取りを好んでいる人もいる。
「それでは第1戦!!」
助手の育がみんなにミニホワイトボードとペンを用意する。その間に1戦目の説明を行なう野花
「まずは良識的な人には、知識が必要不可欠です。1戦目は皆様の知識を見て行きましょう!!」
「えぇ~、常識問題にしてくださいね、野花さん」
「そーですよ!私と白岩さん、学生なんですから!!」
「ご安心ください!今回は小学生入試問題をご用意いたしました」
やばい、解ける気がしない。
そう思った表原と白岩。だが、学生の方が知識を得る機会は多いと思っている、粉雪とキッス。
「全部で5問出題し、皆様の心を掴むような回答をお願いします」
「ん?それって正しい答えより、皆様が喜ぶ答えの方がいいわけ?」
「正解していれば、良識人として皆様の心を掴むでしょう。万が一間違えていても、萌えポイントを稼げますよ。粉雪」
「なるほど、そのルールだったら有利不利はないな。元々、人気投票勝負」
「私達は真面目に考えて、白岩達はウケを狙えって事ね」
「ええ~、恥ずかしい回答したくないよー!!」
「それでは問題!会場の皆様も、ご一緒にお考えください!第一問!」
『四字熟語で"一"の漢字が2つ付く四字熟語を、5つ答えよ!』
「ノリがクイズ番組じゃないですかーー!でも、これなら、1つは分かる!!習字でやったし!」
「あ、ズルイ!!私、漢字が分からないのにー」
「騒ぐな、二人共……」
知的さを込めて、キッスと粉雪の2名はあまり知られていない四字熟語を書いていく。
一方で知ってるのだけを書いていく北野川。ちょっと、5つは自信なし。
大慌てで漢字を手当たり次第に書いていく、表原と白岩。しかし、白岩は漢字が分かっていない。ひらがなに変更。
3分の回答時間に
「そこまでーー!さぁ、皆様!ホワイトボードをオープン」
余裕のキッスと粉雪は、スルッと回答。
"一虚一盈"、"一宿一飯"、"一夫一婦"、"一得一失"、"一国一城"、などなど……。
「沢山あるな」
「そうね」
余裕で10個くらい書いてるし、張り合ってるし……。
「周りが聞いた事もない言葉を使って、イキってんじゃないわよ。簡単なの5つ答えればいいだけ」
北野川はその言葉通り、分かりやすいのだけ。漢字が書きやすく憶えやすいの。
張り合うよりベストを尽くすという印象だ。
"一言一句"、"一長一短"、"一喜一憂"、"一問一答"、"一利一害"
「あー、そーいうのも有りなんだ!!自信あるのしか、書かなかったーー!」
表原は小学時代、習字で書いた。
"一期一会"
を一番に書いたが、そのあとはペンが止まりかけた。出たのは3つ。
"一長一短"、"一朝一夕"
「やったー!ごめんね、表原!私は5つ答えたからねー」
「え!?」
最後に白岩。年下に勝ち誇っているアホ娘の回答は、
"いちもんいっとう"、"いちげんいっく"、"いちごいちえ"、"いっちょういったん"、"いっきいちゆう"
「漢字で書きなさーーい!!読みづらいでしょうがーー!」
「ええーっ!答えるだけでいいじゃん!!」
「"一"ぐらいは書け」
評価:
1位、網本粉雪
1位、涙キッス
3位、北野川話法
4位、表原麻縫
失格、白岩印
◇ ◇
「道案内までしてもらって、ありがとうねぇー」
クイズ番組のような企画をやる少し前の時間。1人の車椅子で来られたお客様を連れて入場したのは、妖精のアセアセだった。
「どー致しまして」
車椅子で入場してきた女性。たまたま助けただけであったが、彼女を使って怪しまれずに因心界の本部に潜入したアセアセ。一般客に対しても公開されているが、不正な妖精と気付かれたらヤバイものだ。
アイーガも同様に、なんらかの手段でこの本部に潜入しているだろう。あちらの方が潜入には向いている。
「娘がこちらに来てるらしくてねー。でも、私。こーいうところまで来るの、ちょっと迷惑だと思ってて」
「へーっ、娘さんを見にきたんですか。大丈夫ですよ。娘さんも、お母様が来てくれたら喜びますよ」
「ありがとう。娘には苦労ばかりかけてたから、……」
ウチにはもっと情けない奴が家にいるので、このような母親には感情移入をしてしまうアセアセだった。
人間とは敵という関係ではあるが、家族を大切に思う気持ちというのはどこでも変わらないはずだ。
こんなこと言うとアレではあるが……
「娘さんを応援してください」
「ありがとうねー。娘にもあなたのようなところがあればと、思いたいわ」
こうして、2人は別れた。
娘に会いに来たという車椅子の方と、
「せめて、部屋から出られるようになってくれないかしら」
ひきこもりかつ、ぐーたらな適合者のお願いで来た自分との差。心が軋むのも当然。
"可愛い女性妖人の写真を撮ってきて欲しい。ついでにグッズも買って来てね。僕、因心界の大ファンだから"
などと言い。
"あと、蒼山の同人誌も忘れないでね。敵状視察は大切なんだ"
私の少ないお給料でなに買わせるのよ。蒼山もあんたも18禁本を描いてるんじゃないわよ。働きもせず、家からも出ず、ネット注文できる物でもないから、母親代わりに18禁の同人誌買って来いとか、どーいう神経をしているのよあいつ。
母親のような立ち位置で彼と接しているから、内心で毒を吐きつつも彼の世話に尽くしている。
愛しているだの、自分の子だの。そーいう過去から来た大切なもんなどなく、今はその現状が少しでも変わればと思い、ついていっているだけ。
アセアセは振り回されているが、本人は世話好きであり、そーいう困った人間ではあるが改善の余地があるべき人だと思って接する。まずは晴れの日に外に出るように……っと。同人誌を外のポストに入れて取りに来させる練習をさせようか。
目当ての企画が始まるまでの間、彼が目を付けていた女性妖人達の衣装、売り子、写真撮影などに参加していくアセアセ。人助けも許容範囲内として、順々にかつ効率良く回る。アセアセが女性の姿であるからこそ、キモイ男性の写真撮影よりも親近感のある絵が撮れて、効率及良質であるのは正しい。もっとも、そんな理由で送られているわけではない。
パシャパシャ
「ありがとうございましたー」
「これ私達が作ってる帽子なんですけれど、よろしければどうですか?」
因心界は様々な活動を行なっており、ファッションデザイン科は野花の援助もあって、大盛況。モデル科のコラボと一緒に、自分達の名を広める機会。また見に来てくれたお客様達に、自分達が作った商品を買ってもらえるのもいい。
文科系のイベントが主になっているのも、しょうがないか。
本部とやや離れた第二会場からの声が聞こえる。
「せーいっ!!」
別館で行なわれているが、体育会系の盛り上がりである。
佐鯨による男の100人勝負。腕立ち、力自慢の男達と真剣なスポーツ空手勝負が人気。また、体験ということでフットサルやバスケットなどの、キッズ向けコーナーもやっている。
物騒な組織かもしれないが、庶民達との関わりを作っている因心界の精力ぶりは珍しいと言えるし、素晴らしいものである。
「はーっ、買った買った!いっぱい買えたわー。可愛い服がお安く買えるなんて、家計を助けてくれるわ」
まだ敵に知られていないからこそ、堂々とやっている。しかし、馴染み過ぎているのはどうだろうか?アイーガはキッチリ任務についているというのに
「残りはキッス達の企画の撮影会だけね。あー、まだ楽しめるなんて良い日だわー」
おーいおい、シットリの任務そっちのけかい。ぶーぶー言いながらも、因心界の祭を楽しんでいるアセアセであった。SAF協会に所属しているのは、因心界に入れないからである理由がそれになっているんだろう。人間に対する恨みというのは、ほとんどない。
強い勢力に入れば潰されず、強い妖人と適合すれば絶対安心……。後者だけは少し後悔もあるけれど。
そして、アセアセがひょっこりと表原達がやっている対戦企画のコーナーに顔を出す。
「ちょっとーー!なによそれーー!」
お題は2つ目に入っていた。
北野川が怒るも、周囲は微笑んでいること。直球過ぎるお題に、北野川が圧倒的な大敗をしたからだ。
「色気のなさでは北野川が一番だよ」
「あんたにはもう成長性がないじゃない」
キッスと粉雪にダブルアタックされる不運。
「ズルイですよ!そのお題!」
表原もプンスカである。
お客様投票とは別に、自分達の中で自分以外の誰が可愛いOR綺麗かという、リスペクトお題。
その集計に入る前に
「北野川。あんたAカップなんだから、ビリに決まってるじゃない」
「だ、黙れぇぇっ!野花、あんた!こんなお題出すんじゃないわよ!!」
「いいじゃーん。この前の借りって事で……」
なぜだか、バストサイズ討論となり、5人の出した答えは
「あっ!私が一番!?えへへへへ、ありがとー」
北野川、キッス、粉雪の3票を獲得した、白岩が1位であった。いがみ合いながら、3人共同じ人間に投票してる結果に。考え方がある意味、大人びている。
「2位は私と粉雪か」
「なーんだ。ま、いいか」
一方で、表原は粉雪に。白岩はキッスに投票。両者同率の2位。
評価:
1位、白岩印
2位、網本粉雪
2位、涙キッス
4位、北野川話法
4位、表原麻縫
「えーっと、皆様のアンケート結果では……あ。みんなと意見が違いますね。これはちょっと、皆様にご紹介するのはまた今度にしましょう!」
「ちょっと待ったーー!教えなさいよーー!」
参加しているお客様達は、一体誰に投票しているんだろうか。
「あれ?」
「…………」
そんな折、アセアセが見つけたのは。入場の時、道案内をしてあげたあの車椅子の女性であった。
娘さんと無事に会えたのだろうか。近くにいたため、興味本位で声をかける。
「あの」
「!あ、あなたは先ほどの。いっぱいお買い物してますね」
「ええ、生活のため!可愛い衣類も欲しいし!ところで、娘さんにはお会いできたんですか?」
「そ、そうね。会えたわ。凄く楽しそうな顔をしていて、家でも見た事ないくらいの顔で……。ここには友達もいるみたいで、凄く嬉しかったわ」
その言葉と裏腹に、声が少し。悔いを感じさせるものであった。
答えは
「家に縛り過ぎちゃったのが、悪かったのかしら」
自分の適合者とは、なんか対となる娘さんだなぁって、アセアセは感じてしまった。
こっちは家から解き放ちたいものだ。
「親子の関係は難しいものね」
「!……そうですね。子供の気持ち、難しいですよね」
あいつはもう20ぐらいなんだけどなぁ。一体どんな娘なんだろうか。ぜひとも、ウチのアホと会って貰いたい。子供が親に後悔してれば、親も子供に後悔するときがあるのか。
難しいものだなぁって、本当の親子と出会ってアセアセは考えさせられる。
「それではお先に失礼致します」
「あ、もう帰っちゃうんですか」
「娘に会う事はできましたし、私が皆様と同じようにご帰宅するのはご迷惑なお話です。このような場所に来られただけでも、感謝しています」
「む、娘さんとは帰らないんですか?この祭に参加してるんだったら、一緒に帰ってあげればいいんじゃ」
「……まだ少し、娘の好きにさせてみます。夫はまだ、娘の事を理解しておりませんので」
そういって、車椅子の人は因心界の本部から出て行ってしまう。良い人に感じたのでアセアセとしては、これからの事に巻き込まなくて済むのにホッとしていた。
やはり、やるんだったらクソ共だけを巻き込みたい。
「それでは第3のお題!私達妖人はモデル、あるいはアイドルのような。皆様に応援されている存在でもあります。このように来ている皆様に!そこで、皆様の歌唱力についてランキングを決めましょう!」
「歌唱力までの降り関係なくない?」
「むーっ」
司会の野花に振り回されるようなトークで、場を盛り上げていく。現在、ビリっけつの採点が出て、凹み中の表原。これはなんですか?皆様の引き立て役扱いですかと、自信無くし気味。
そんな彼女に
「元気出しなさいよ」
「粉雪さん」
「自分のベストを尽くす。落ち込んだら、それよ」
できる人らしい、できる考えであった。
「それで順番は……キッス!表原ちゃん!!白岩!粉雪!北野川と行きましょうか!」
「どーしてそんな順番なんだ……」
「なんとなく!皆様、選択した曲のサビの部分だけ!マイクを持って歌ってもらいましょー!得意な曲があったら、リクエストに応えます!」
「……ふむ、じゃあ演歌の、あの曲だ」
トップバッターのキッスは、今の派手な白の水着姿とはまったく合っていない。だが、普段着ている着物姿に合う、演歌で勝負!演歌の良さが分かる年代が、この客席に何人いるか分からないが、音程と声量共に良く。
手振りも添え、力強く歌ってあげる涙キッス。
ジャジャン
「……ふぅ」
一曲を歌い終わって息をもらせば。
パチパチパチ
「上手いわけでもないけど、下手でもない!」
「みんなの前で一曲歌うのは勇気がいるものだな」
曲のジャンルはともかく、無難な一曲を披露。観客の拍手にも頷ける。
「お、表原!頑張ります!!その……あの……」
「なに?」
表原は恥ずかしがって、野花に耳打ちする形で曲名を選択。流れたらバレるじゃんって思ってしまう事だが、声出して言うと。やっぱり恥ずかしい。
ラーラーラー ラーラーラー
「表原、いきます!」
2番手表原。選んだ曲が流れ始め、震える手で握ったマイクに力を込めた声を送って歌う。小声にしたかったのは、良い曲だけどやっぱり。その。女の子が好きで悪いか!って言いたくもなるからか。音程はややズレているが、選んだ曲はアニソン。一生懸命にやっている顔とこの場の客層にマッチもしており。キッスの歌よりも高評価。拍手の多さが分かりやすい。
ラーラーラー ラーラーラー
曲が終わり、少しへたってしまう表原。
「ふーっ……」
家の中、そーいう漫画が好きで置いてあるんです。ってこと。バレそうだったが、
パチパチパチパチパチパチ
「あ、あ、」
初めて歌ったものが、こんな拍手を呼んだのにはビックリ。
照れた顔も高評価に繫がる。
「よーし!表原がアニソンなら、私も!」
次の白岩はそう言いながら、選んだのは。表原のアニソンよりも、さらに下の層向け。幼児向けに作られたソングであり、自分自身のメタなモデルを重ねるようだった。
トゥントゥトゥン
曲が始まると同時にノリノリで歌い始める白岩。ライブ感を出すように体全身を使った表現も含めれば、表原よりも印象はよく。特に男達が絶大な拍手をもらったわけだが……っていうか、揺れ動く胸見すぎ。
そんな男達の視線に、嫉妬がないと言ったら嘘となる女性達は
「怖い人達に怒られませんか?」
「上手かったんだが、白岩のことを考えて、素直に評価できないんだが」
「えぇ~?なんでですか~」
女性陣はびみょーな反応。なんていうか、それをチョイスしますか?って感じである。白岩だから余計である。演歌にアニソン2つ。マイナー層ではないが、一般層とは良い難い。
トゥントゥトゥン
「ひゃっほーー!!イェース!!パーフェクトォ!」
声優歌手のノリのように、笑顔で歌いきった白岩。楽しんでましたーって顔に
「まったく、あんた達は子供ねぇ~。みんなが知っている曲を歌いなさい。流行の歌とか名曲とかね」
「粉雪にしては良い意見じゃない。白岩、さすがにその曲はマズイわよ」
「え?北野川まで~……」
粉雪はマイクを持ち、自分の好きな曲をチョイス。クールスノーというだけあって、超有名女性歌手で紙ふぶきの降るMVの名曲とこれしかない。その名曲が誕生したより後に生まれた人達でも、聴いたことがあるであろう冬の名曲。曲が流れた瞬間に、誰もがこれは名曲と察知するほどである。
表原だって、この曲が誕生した時は生まれていない。
だけど、知っているほどの名曲。それを粉雪は歌う。
その第一声
「エヴィーー」
「げっ!!!」
聞く者全てに与える、地獄の冷気を呼び込む悲鳴としか聴こえない。
「うげええぇっ!」
「なんだこの歌声!?」
「元アイドルの歌声じゃねぇぇぇっ!」
全てにおける名曲をぶち壊すほどの音痴が炸裂!
この名曲を聴いている者達が、粉雪の音痴の度が過ぎる歌声が重なっただけで失禁しかける。
「名曲ブレイカー過ぎるでしょーがーー!!音痴かーー!」
順番待ちしていた北野川が後ろから、壊れたステレオを物理的に壊すが如く。力強いハエ叩きが粉雪の頭上に直撃する。表原は両耳を塞ぎ、白岩とキッスは苦笑いしながら片耳を塞ぎ。野花の親子と南空に至っては、あらかじめ耳栓を装着して準備万端にしていた。
「え?」
「なんだその自信満々で歌ってたのに……みたいな顔!!」
「凄く良い曲じゃない!」
「お前が全てを台無しにしてんのよ!!どんだけ音痴なのよ!?」
「一曲丸ごとくらい歌わせなさいよ。それから評価しなさい!」
「7分もお前のど下手クソな音痴に付き合う気ないわよ!!あんたの歌唱力は3秒で分かったから!!あんた、失格!!聞いてる野花!!」
「言ってること分かってるから、大丈夫」
歌い切ってないのに、こうも容易く失格の烙印を押されることに不満顔の粉雪。自分の好きな曲であったのに。
「なによ、まったく。偉そうに……」
「いや、さすがに下手すぎるぞ。粉雪」
「両耳が痺れるほどの歌声なんですけど……」
「もうちょっと、簡単な曲というか。自分で聴いてから始めましょうよ」
会場も、あの粉雪がこれほど音痴だったとは思わず、お葬式のような冷えぶり。ラスを務めることになった北野川には、この葬式ムードを変える大役になってしまった。粉雪のせいであるが、自分がマイクを握った以上。
熱い曲で盛り上げる。
「ふんっ」
歌手ってのは、そのステージで最も高慢でなければならない。野花にお願いし、サビではなく、丸々、一曲。文字での表現ではもったいないくらいの美声で、
「AH-♪」
盛り上がる曲、派手な曲。そーいうのを歌いそうだった北野川が、バラードを選択。落ち込んだ空気に、聴き入ってしまう名曲の披露に、観客達の多くがゆっくりと元気を取り戻し始めた。
歌手じゃないがもったいない歌声に、即興の振り付けもかなり決まっており、音楽ライブに来ていたのかと錯覚するほど北野川が上手い。
一曲歌い切ると同時に、粉雪の音痴などすっかり忘れて大歓声の連呼。
「おおおおぉぉぉーーー!」
「すごいすごい!すごっく、上手いーー!!綺麗だったーー!!」
「もう一曲!もう一曲ーー!」
「ステキーーー!」
観客だけでなく、表原達も。
「すっごー……あんなに歌が上手い人いるんだー……」
「北野川やるねー!」
「うむ、素晴らしい曲だった」
「ちっ。なによ、チヤホヤされて……」
北野川の一曲に酔いしれた。こんな特技があるとは思わなかったというより、これほど出来るんかいってレベルの驚きに包まれていた。
評価。
1位、北野川話法
2位、白岩印
2位、涙キッス
2位、表原麻縫
論外、網本粉雪
「ちょっと、論外ってなによ。どーいう意味!野花!」
「それだけ酷いって事よ。さぁー、この盛り上がったところで!!4つ目のお題!!妖人たるもの敵と戦い、住民の生活を守ります!そこでその生活にかかせない事といえば、家事!!女性の魅力と言えば、家事!!皆さんの家事スキルを検証していきましょう!!」
4つ目のお題は家事。それを知った瞬間、マズイ顔をしたのは白岩だった。
「うーっ。料理とか洗濯ってこと?」
おっちょこちょいかつ、ほとんどヒイロに家事を任せているため、自信なし。自分を知れている意味で
「私、降りるねー」
「いや参加しなくても分かってる」
「うん、意外性がない」
「みんなして言わないでよーー!」
白岩は棄権。この子にはできる事とできない事がハッキリしすぎている。
そんなわけで4人の家事勝負となる。
「とはいえ、時間もそこまでありませんが、なんとこの勝負!すでに終わっております!皆様にこれからお配りするのは、この戦いが始まる前に作っていただいた、各々のクッキーです!皆様、試食し!評価をお願いします!白岩のはありません!」
「そ、それは言わなくていいんじゃないですか!?野花さん!!」
家事勝負と言いながら、お菓子勝負となる。
4名のお菓子がみんな配られるわけだが、誰のお菓子かは秘密のまま。
「……………」
クッキーの形を見るに、手裏剣や撒き微視のような鋭利な和風デザインの形を見た粉雪はすぐに、
「これキッスが作ったでしょ」
「なぜ分かった?」
「あなたの一族はこーいう危ないことするじゃん」
「味、びみょーですね……」
「形も変だし。ちょっと、料理のセンスないんじゃない?」
「ちょ、直球で言われると心が痛いな」
食えなくはないけど、見た目は別の意味で宜しくないし、味もビミョー。観客の皆様も一口食べれば、すぐに分かった味。
勝負は3人のデッドヒートの模様。
「どれも美味しいわね」
「あ、このクッキー。中にとろっとした、チョコが……」
どいつもこいつも普通のチョコ。人手間加えるほど、クッキー作りをしたわけではなかった。そのちょっとした事ができるクッキーを作る奴がいた。そいつは
「表原ちゃんのクッキーが一番美味しい!」
「うむ、美味だ」
意外や意外。表原麻縫が作ったチョコクッキーであった。
「こ、こんなチョコ。あんた作れたの?」
「え?クッキー作りは初めてでしたけど」
天才肌かよ。北野川は自分が下手だった記憶を思い出し、相当お菓子作りには熱を入れていた事を思い出す。なんだかんだで、青春していた女の1人であったからこそ。表原の意外過ぎる才能には驚いた。
一方で粉雪には、このクッキーの味で気付けた事があった。
「表原ちゃんって、家で多忙なの?料理に人手間添えるのは、ただやってる人にはできないものよ」
「え。まぁ……その。家族には色々あるじゃないですか。料理を始めとした事は、ちっちゃい頃からやらされていたから」
はぐらかしもあったが、意外や意外。表原にはそーいったお母さん要素を持ち合わせていた。褒められるわけだが、当人はあまり喜んでいる顔になっていなかった。
評価。
1位、表原麻縫
2位、網本粉雪
2位、北野川話法
4位、涙キッス
棄権、白岩印
そして、最後のお題に入る。




