Aパート
因心界 VS 萬
その戦闘と勝敗がこちら。
北野川話法 VS 小宮山初理
飛島華+蒼山ラナ VS コココン(セッティ)
野花桜 VS 代勿弁刃
北野川話法 VS イムスティニア・江藤
佐鯨貫太郎+飛島華 VS 茂原伸
色々な事はあったが、因心界の全勝!!
「途中、SAF協会のちょっかいがあったけどね」
「結果だけを見れば、最大の功績は北野川だな」
パチンッ
茂原の起こした事件から1日経った。幸いな事に彼による死者は出ていないが、やはり茂原の思惑通り、住民達の生活に対しての不安が当然あった。
そこの対応となると、因心界の一組織では足りず、政治的な対策も必要。気分転換も兼ねて、今後の方針などを粉雪と話し合っている。
「でも、一番は表原ちゃんじゃない?ほぼ全部の戦いに出てるじゃない。よくサポートしてくれたわ」
「ああ、私や粉雪の代わりを真っ当してくれた。レゼンくんのサポートもあってだがな」
キッスと粉雪はキッスの私室で、女らしからぬ趣味であろう将棋をしながら、今回の件について話していた。
パチッ
「私やキッス、白岩とヒイロが出れば、こいつ等は一瞬なんだけどね」
「……そうもいかん。ルミルミとシットリの強さを知っているだろう?現にシットリは白岩とヒイロのペアに当たった。偶然ではあったがな」
「まーね、戦力的にSAF協会はヤバイからね。キッスが警戒するの、分かってるよ。特にルミルミでしょ」
「強さだけなら、サザン様と同等だ。つまり、私の両親が全盛期だったレベルだ」
「じゃ、キッスがマジで相手をしなよ。キッスの能力は私も知らないんだけど」
パチッ
「粉雪こそ。まだ底が見えないと思うぞ」
「いやぁ、もっと底が分からないのもいるじゃない」
パチッ
「「ねぇ、ヒイロ!!」」
キッスと粉雪が同時に視線を向けた先に、ヒイロが審判役として。お互いの持ち時間を交互に計ってくれている。
「2人共、陣形整えたら攻めてください。キッスは穴熊、粉雪は矢倉。どちらが上なのか」
パチッ
以前にも行なわれたトップ3での会談。今回はサザン様抜きで行なわれている。"萬"を全員倒した事で、ついにキャスティーノ団の本部を強襲する作戦が立てられる。
その前の全体的な作戦と日取り、状況などの打ち合わせも兼ねている。キッスは今回、キャスティーノ団の壊滅の総指揮を網本粉雪に託している。その指揮に当たり、どれだけの戦力でいけるか。それについての調整をここで聞く。
パチッ
「戦力は精鋭部隊を中心に配備する。"十妖"である、私とヒイロはSAF協会の動きを警戒するため、本部に。粉雪と白岩、そして他の"十妖"6名をキャスティーノ団の本部、壊滅に当たらせる。他の妖人は50名ほどを予定」
「古野と蒼山、飛島も?あいつ等は病院か本部の方がいいんじゃない?」
「いや、さすがに録路も抵抗するだろう。迎え撃つ準備もあると情報が出ている。萬は捨て駒だったろうし。戦闘が終わった後、速やかな治療には古野や蒼山がいてくれないと間に合わない可能性がある。飛島には、ルルと一緒に2人の護衛を頼みたい」
「飛島があれだけの怪我をしてるからね。この戦力としては、厳しいわね。でも、働かせるなんて鬼」
パチッ
「キャスティーノ団の黒幕は以前、言ったとおりだ。粉雪がやっていい」
「了解。だったら、総指揮は私が責任者としてやるけど。周囲の指揮は野花に託していいよね?突入役をやるからさ」
「構わない。ただ、事前に野花と打ち合わせしてくれ。数を割いている分、取り逃がす奴等も出てくるはずだ」
「派手にやっていいわよね?敵の本部なんだし」
「……仲間をあまり巻き込むな」
「それくらいの節度はあるわよ」
パチッ
「他にはあるか?」
「そうね。配置するその他の妖人は、調査能力を持つ奴を重視して欲しいかな。本部を壊したとして、隠れてる奴とか逃げる奴とかを速やかに狩りたいからね」
「戦力になる奴はあまりいらないか?」
「だって、私が戦うんでしょ?多少、分かってる戦力の録路には警戒するけど……その他が集まっても、私に白岩、佐鯨がいれば十分に倒せるわ。心配ごとは、黒幕ちゃんが本部の中にいてくれるかどうか。そいつの強さも分からないところかな」
パチッ
「ふむ。少し、将棋に戻ろうか……」
将棋の戦局は4:6で、キッスがやや不利な形勢であった。
飛車と角は自軍にあるが、銀を1つ奪われた。桂馬とではつりあわない。
「詰め将棋の腕なら、私の方が上手いんだがな」
「戦局は全体を見る必要があるものよ」
「穴熊は守り重視な反面、攻めの基本は飛車と銀が要ですからね。桂馬をとっても、穴熊に対しては守りの面では活かし辛い」
パチッ
「……草案で構わないが、本部を倒すのにどれだけの人数で行く?突入にだ」
「うーん。私と白岩、佐鯨は確定ね。飛島が無理なのが、残念。……蒼山じゃ、代わりにならないし。北野川も役目が違うし……悪いけど、表原ちゃんかな。他の連中で、飛島くらいの信頼をおけるのは無理ね」
「人数はありますが、妖人を専属で育て上げるというのは大変な事だと思います。人生に関わることですから」
粉雪や野花、蒼山、古野がそうであるように、専属として因心界に務めているわけじゃない。
どうしても戦闘になると、その差が出てしまう。キッスの悩みどころである。
「妖精にも色々あるしな。もし、そのような事をすれば、妖人とは死ぬまで戦いをする不幸な人間と……"涙一族"のようなものになる」
「現当主は"こんなの"なんだけどね……」
「その"こんなの"で、良かったじゃないか。私は平和主義者だよ」
パチッ
「おっ」
思わず声を出すヒイロ。この盤面の様子が変わった。キッスの一手で、攻守において大切だった粉雪の角の動きを止め、粉雪の銀を殺せる桂馬打ちになった。銀をどかせば、歩を突き出して角も逃げる他ない。その空いたところにと金ができる。
「……終わった後の話しは、終わった後にしようか」
「うむ」
まだ少し粉雪が優勢に見える。
しかし、と金作りで穴熊の守りが上手く行けば、手堅い攻めができるだろう。
粉雪の持ち時間もキッスの持ち時間もあるが。粉雪は目を瞑って、キッスにソッポを向き。
「ったく、……投了ね。時間なし。キッスさー、長引かせて、時間稼ぎするつもり~?」
「そーいう戦い。"戦わないための、戦い"。野花が聞いたら怒るかな」
「怒りはしないわ。そーやって、生きている子だから」
「………では、3日後に"十妖"と表原ちゃんを集めて、総会議としましょう」
「ええ」
1つだけ、……とても大切な事は、誰も語らなかった。
◇ ◇
ギイイィィッ
【投獄室】
本部にある一室の、とても重たい扉が開いた。妖人は、人間と妖精のセットであるため、お互いを離すことで簡単な無力化ができるが、こいつのはそういかないため。この特注の部屋に入れさせた。
万が一に備え、佐鯨が後ろで見張っており、今入って来た人物もかなりの大物。
「!涙キッスだな……おー、色っぽい若女将ってのは間違いないな」
厳重な部屋に加えて、檻の中で相当頑丈な手錠を嵌められていたのは、此処野神月。
そして、鉄パイプを3本ほど持って入って来た人物は、涙キッスであった。
「治療された気分はどうだ?」
「また殺しにいきたいな。そーだな、ルルちゃんを殺しに行こうか?」
「だろうな。ホントにお前は反省しないし、怖いからな。しばらくは私とヒイロで持ち回って、監視する。それにしても、寂しい奴だな」
「あ?」
「シットリ達はお前を見捨てるようだ」
「そーいう条件でSAF協会にいるからな。北野川でも呼んで、秘密でも探ればいいんじゃねぇか?」
「いずれするが、お前が捕まることを見越していると、私は推測している。ダイソンとか、寝手食太郎の姿とか知らんだろ」
「ダイソンは箒の奴だろ。寝手とかいうのは、知らねぇな」
此処野の戦闘能力を買っての事だが、奴等の今現在の目的はそう教えてくれそうにない。
シットリがそこのところをやっているのはすぐに分かった。
「ところでその鉄パイプ、俺を撲殺する予定だな?」
「ん?ああ、殺すつもりで使うが、撲殺じゃないぞ」
なんだこの会話……。
「ちなみにここに来たのは、私の自由時間でだ」
「自由時間?」
「以前、私のルルをやってくれたな。ヒイロが助けてくれたから良かったが、私自身の不甲斐なさが招いたこと。こうしたところでルルが喜んでくれるか、分からないんだが」
キッスは鉄パイプを振り上げるのではなく、フェンシングの突きのように構える。それも此処野の横に立ち、そこから放つ感じだった。狙いは両肘だろうか。
ドスゥゥッ
「私の中では少し、胸がスッとする。お前のような"人間卒業"と褒められるゴミを、捕えることができるからな」
「!!て、テメェ……」
「そんな手錠も生温くて悪かったよ。次の鉄パイプで外してやる」
ドスゥゥッ
続けて、此処野の両膝に向かって、鉄パイプを差し込んでいくように綺麗に通す。
そんな綺麗な言葉とは裏腹に、此処野の表情は苦悶の1つだった。
「ぎぃっ……」
「手錠の鍵、上手くはいらんだろう。仰向けになってくれ。両手足に手錠をやっているんだから」
なんつーことをしながら、冷静でいられる。複数の手錠を外してもらった。だが、これからさらに特大の錠がキッスから付けられる。そいつは鉄パイプで
ドスゥゥッ
「うごげげっ!?」
仰向けになった此処野の腹を鉄パイプで貫き、地面に固定した。
つまり、両肘、両膝、腹部に鉄パイプをブッ刺しての完全な捕縛。むしろ、拷問。それでもキッスは此処野の強さを信頼しており
「飯を食べられれば生きていけるだろ」
「ぐぅっ、が……」
「そんなわけでお前のこれからの飯も、私が作っておいた。私が男に食べ物を作ってあげるなんて、初めてでドキドキもあったんだ」
「はぁっ、はぁっ……飯だと?……寿司でも、食わせてくれるのか?」
「惜しいな。"涙一族"特製のクギを食わせてやる」
それ料理じゃねぇ!!全然惜しくないし、美味しくもねぇ!!
「修行の一環で使われているんだ」
此処野はそれを聞いた時、連想したのはご飯の中に画鋲が入っている。とんでもねぇ悪戯だと思ったが、キッスが用意したその皿には、99%。金属音と匂いしか感じない。
「はい」
「く、く、クギだけじゃねぇかーーー!?」
クギだけしか、皿には積もっていない。
「そう見えるだろ。だが、2本だけ私の作ったチョコレートなんだ。ドッキリクギチョコ」
キッスはそう言いながら、1本とって噛んであげる。すると、中身は
「チョコレートだろ?あ、1本食べちゃったな。すまない」
「テ、テメェ……」
「それに私にかかれば」
今度は不正のないようにか、無作為に3本のクギをとって、自分の口の中に放ってあげる。
そして、金属が潰れる音。にしては、食感がとっても悪いクッキーを食ってる音、そういう表現が此処野には伝わった。金属を噛み切って砕いている。
ゴックンッ
「しっかり食べないと、喉に刺さるから気をつけるんだよ」
「ど、どーいう食生活してんだ、この女ぁぁぁっ!!」
1本目はチョコだったが、今度は金属のクギだった。3本纏めて喰い、噛み砕いて、胃に流しやがった。汚くねぇのかよ!?つーか、……。
「じゃ、食べるといい。鉄分は豊富だよ」
「テメェ」
「それ、食わせてやる。暴れられないんだから、おとなしく口を空けたまえ。1日3食はこのクギなんだ。暴れると鼻の穴からでも入れるぞ」
ゴボボボボボボ
「ぅっ、ぅっ」
舌が、歯が、喉が、首が……ぐ、ぐるじぃぃっ。こ、このクソ女ぁぁっ。
殺すっ殺すっ。今度は!!妹もぶっ殺す!!このクソ女にも復讐してやるぅぅっぅ。
「うごがあああぁぁぁっっ」
ギイイィィッバタンッ
そして、涙キッスは【投獄室】から出てきた。
「な、何があったんすか……中で」
「佐鯨。お前はここのところ連戦だった。もう休んでいい。こいつの見張りは私がやる」
「分かりましたけど、此処野に何したんすか?鉄パイプで殴ったんすか?」
「蒲焼にした」
「は?」
「さっきの悲鳴は、私の手料理があまりにも美味しくて、興奮しているんだ」
そう言われても、納得できる声ではなかった。むしろ、
「いや、キッスさんの手料理が不味かったんじゃないですか?」
「失礼な!結構繊細なチョコレートだったんだぞ!味は美味しい!!ビターだ!」
そこまで必死にアピールするキッスであった。
◇ ◇
一方で、お馴染みの因心界が運営している病院の、とある一室にて
「うぅーっ……」
表原は、時折出てくる風邪のような症状に苦しんでいた。
グテーッとした、だるさもあった。
これはもしや、寿命の期日であるおよそ1ヶ月が間近に迫っているからか。ここのところの頑張りから来た反動か。それはきっと
「両方だろう」
「むぅー。漫画を読みとか、色んなサイトを視るとか、する気分じゃなくなったよ……」
ベットの中に潜りこんで、そこからレゼンが妙な空間を使って、2人だけの話しができる場所を作った。
「あー、相変わらず。ここ狭い……」
「うるさい」
「でも、ここだとちょっとだけ楽なんだよね」
「そうか」
茂原と此処野の捕縛後、1日の休養をとった。レゼンも酷く消耗していたため、動く事ができなかった。なんだかんだで相当な戦いではあった。飛島も違う病室であるが、入院している。
「私、……乗り越えられるかな」
「あと1週間は切った、6日だ」
「えええーーっ!?もう!なんか夏休みみたいな感じだよ!」
「お前との縁もこれまでだな、ちょっとは楽しかったぞ………っと言ってもいいが、俺は死ぬ気がない。表原は?」
「………死にそうなったら、レゼンが助けてくれると思う。その時、考える」
もうすぐ、こいつと組んで1ヶ月。出会った頃は最悪ではあったが、色々と知って、そうでもない奴なんだなって気付き始めたころ。やっぱり自分も妖精としての宿命に立ち向かいたいんだろう。
「そうだな」
「私さ、やっぱり死んじゃう気がするけど。その前に、できるんだったら。因心界にいるその……内通者っていうのが、いない事を証明したいよ!それって大事な事だし、今の私にできるというか、するべき事だと思う」
死ぬ前にやってみたいことが、課せられた極秘任務って答える辺り。因心界にはかなりの思い入れができたようだ。好きな男とかいたわけでもないし、色んなサイトを閲覧したり、漫画を読んだりするのは、その行為が好きなだけで大切な1冊とかはないようだ。
大切に感じた因心界だからこそ、これだけは見つけて、寿命が来るまでに決めたい。
「キャスティーノ団への本部強襲は、今週には行なうと思う。その時に黒幕を見つけたり、内通者を捕らえないとな」
「う、うん……。それでなんだけど」
「誰も疑いたくないんだろ」
「うん」
そりゃそうだ。たぶん、蒼山以外は誰一人そんな人ではないと、表原は感じているんだろう。
せめて、レゼンも心が苦しまないように調査や誘導をしたいところ。
「黒幕と内通者、それからキャスティーノ団の録路との関係は分からないけど、色んな情報は今日だけでもかなり仕入れられた」
「え!?私と一緒で、病院内にいたのに!?いつの間に!」
調査に関して良かったことは、飛島がここに入院しに来た事だった。本部の情報より生の情報というのも必要だった。意外とアッサリとその時の状況を教えてもらったのも良かった。
「キッス様や粉雪さんによれば、キャスティーノ団の前の組織。エンジェル・デービズもその黒幕が握っていたと言っていた。その当時、録路とあの此処野は幹部をやっていたらしい」
「ふんふん」
「端折るが、エンジェル・デービズは今のキャスティーノ団よりも相当大きな集団だったそうだ。全面戦争をやった時、両陣営の被害は甚大だった。総勢285人の妖人が亡くなっている」
「そ、そんなに!?因心界と合わせてだけど、……そんなに妖人がいたのかー。いや、勝ったって言えるの?」
「戦争ってのはそんなもんだ」
飛島視点ではあったが、当時のその組織はホントに大きく。因心界が国から認められるようになったのも、この戦争に結果として勝利した事もあった。
「当時のボスを白岩さんが倒し、他の幹部の大半も軒並み、彼女とヒイロさんに倒された。というより、死亡だな」
「そ、そこまで強かったんですか。あの人達……」
「ヒイロさんはすでに幹部だったが、白岩さんはこの戦いで幹部に昇格された一人だ」
「他にいるんだ」
「佐鯨、飛島、蒼山の3人が昇格した。古野さんはまだ加入してないし、北野川はこの時はまだ、捕まっていたそうだ。ああ、飛島さんの感想であったが、戦争で欠員が出たから、飛島と蒼山の2人に関しては臨時のようなものだったって」
「あ、……そっか。そりゃ出ちゃうよね」
キッスがあの会議の時、全員無事で戻るような言葉や配慮をしたのを思い出す表原だった。
戦争に勝っても、戻らぬ人がいるのも当然だった。
「その戦争に出ていて、"十妖"としているのと、いたのは……」
当時の幹部:
網本粉雪、太田ヒイロ
当時の構成員:
白岩印、佐鯨貫太郎、飛島華、蒼山ラナ
「野花さんとキッスさんはいなかったんですか」
「本部で待機していたそうだ。SAF協会はこの時からいたから、漁夫の利をしてもおかしくないしな。それにみんながいる前で、野花さんが戦うとは思えないだろ」
「凄い説得力です!!……じゃあ、粉雪さんはこの時、何を」
「現場の総指揮だったそうだ。と言っても、エンジェル・デービズに仕込ませたスパイを使って、中から崩壊させたとかな。彼女も、敵の本部の中に入っていったそうだ」
「へーーっ。具体的な事は分からないんですか」
「ああ。佐鯨も飛島も、エンジェル・デービズの本部に突入していたから、そこで会った時には驚いたとか。総指揮だから普通、外で戦況を見なきゃいけないのにな」
「でも、そーいうのは必要だね。誰がやってたの?」
「それでも粉雪さんがやっていたそうだ。一度会ったろ、爺さん。南空って言ったっけ」
「あー。あの堅苦しい人。秘書って言ってたね」
「その人が随時、粉雪さんに情報を送って、中から粉雪さんが周りに指令を出していたとか」
「メチャクチャな人だなぁ……」
激しそうな戦闘をイメージするだけでも、少し身体が震えそうだった。
しかし、粉雪の行動を見て
「あ!もしかして、粉雪さんって。今の私と同じ、黒幕を捜してたんじゃない!?どう?」
「まぁ、そうだろうな」
「でも、見つけられなくて失敗しちゃったわけかー!」
「……………」
「………あれ……」
少し考えると。言葉だけ、とっただけだが……。
恐る恐る、レゼンに確認する表原。
「も、もしかして。粉雪さん。自分が黒幕で、その証拠を消すために本部に入ったんじゃ……?」
「そう考えても不思議じゃないが、可能性としてはあるな。総指揮だから、自分で作戦を全部決められるわけだし。抜け駆けするのも変じゃない。けど、憶測でしかないよ」
「……だよね。はははは」
「だが、憶測ではあるが。ほとんどのエンジェル・デービズは死んだとされるが、録路や此処野のような人物も取り逃がしている。黒幕も含めると、突入した因心界の中にすでに内通者がいて、その人を経由に黒幕は逃げ遂せたんじゃないかなってな。たぶん、その中には録路はいたんじゃないか?」
「!!」
すでに過去の話しではあるが、その過去からもうすぐ始まる決戦の参考になるものはできる。
「こっからは録路に聞かなきゃ分からないが、あの男がキャスティーノ団を仕切っている理由の1つには、黒幕の存在だと思っている。だから、組織内で溝もできている話しも出てくる」
「恩のある人とない人じゃ、態度は変わるものだよね。でも、録路くんも黒幕が誰なのか知らないって言ってた。あれも嘘じゃないと思う」
「たぶん、その時はそうだったかもしれない。だが、一昨日遭遇した時。あいつは指令をもらったって言ってた。その時、初めて会ったんじゃないか?」
「うーん……でもさ、因心界に内通者がいるとしたら、その人から黒幕の指令だって、言われるかもよ。ほら、内通者がいるって事はその人は黒幕を知ってて、きっと録路くんも誰だか知ってるんじゃない?」
…………つまり、内通者を捕らえたら、黒幕が分かる。いや、そうだったけど。
振り出しとなるが、録路よりも捕えるべき相手だ。
「黒幕は外部の可能性が高いが、内通者は絶対にいる事になるぞ」
「…………うん」
「因心界が掴んでいるだけでも、録路の情報とその時の"十妖"メンバーの動き。アリバイって奴を調べてみよう」
「連絡手段は電話とかメールじゃない?」
「いや、手紙の方が信用は得られると思う。テキトーな暗号を決めたり、特別な封筒に入れて指令だと分かるようにし、読まれた後は破けば良い。筆跡とかを考慮すれば、伝達ミスや罠に嵌められる事を録路達は嫌うはずだ。もっと言えば、知らない間に誰かに知られるのを恐れるってところか」
長い事協力し、一度も会ったことがないって事実だとすれば。用心深い連絡手段はとると思う。
だが、やっぱり読めないのは黒幕の目的だ。
過去の話しをすると、俺は粉雪さん以外にもキッス様が怪しくもある。
因心界が国から大きく認められたのは、エンジェル・デービズをほぼ壊滅に追い込めたからだ。知名度なりを得るには、相応の悪役というのは必要なもの。
でも、それはバレちまった時、信用を根こそぎ失う。サザン様とどーいうやり取りかは分からないが、俺達に捜して欲しいと言っていた。その線もなさそうだ。
人間界に妖精が不正に降りてくる事。黒幕にはまだ何人かの協力者か、完璧な統率を持つグループがいてもおかしくないぞ。SAF協会並みのデカさを、これまで因心界の情報網に掛からず、できることか?
証拠も見つけないといけないし。
「…………あ……」
「どした」
「いや、一昨日さ。録路くん、なんか私達に対して、変な事を言ってなかった。なんだっけ……」
「変な事?結構やばかった状況だったが……」
表原の気付きにレゼンも、あの時の事を思い出す。
黒幕の指令の事ばかり気になっていたが、表原が今言ったように。なにかがおかしかった。
しかし、此処野と戦う羽目になったと考えれば、特に違和感はなかったように思える。彼は自分達を殺しに来ていたんだ。2人共思い出せず、結局のところ
「…………でも、録路くんから聞き出した方がいいのかな。たぶん、彼なら確信に近いところまで知ってるんじゃないかな?」
「そうだろうけど、それを分からない状態で戦争を迎えるのは危険だぜ」
「じゃあじゃあ、調べればいいんだよ!そしたら、なにか出てくるかも」
できれば何も出て来ないで欲しいと、願っている表原だった。




